昨年の仕事納めも目前というタイミングで行われたアイレット代表の齋藤将平とのミーティングの中で、年始の予定を確認している途中でした。

「年始だけどさ、CESには行かないことになったんだよね」
「マヂデスカ。ワタシCESイキタイデス。イロイロヨテイアリマスガ…」
「予定あるんなら無理しなくていいよ」
「CESイキタイデス」
「…」
「CESイキタイデス!」
「…行けばいいじゃんかw」

そんなやりとりがあって、唐突に年始のCES2018視察の予定が決まりました。

実は手元には年始に観に行く予定だった劇団☆新感線『髑髏城の七人・下弦の月』のチケットがありました。天秤にかけたらCES2018の方がエキサイティングなのは間違いないだろうと、髑髏城のチケットを手放すことになったのでした。そして代わりに手に入れたのはシアトル経由ラスベガス行きのチケットです。

ラスベガスを訪れるのはこれが2度目です。最も関係が深いはずのAWS re:Inventにすら参加させてもらえなかったというのに、なんということでしょう!

CES2018とは

米国ネバダ州ラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市が『CES(Consumer Electronics Show)』です。家電という名のとおり、かつてはテレビなどの家電製品が主役でしたが、ここ数年は家電メーカーに加え、自動車・IT・セミコン業界からも約4,000社ほどが出展して、次世代技術を披露しあうイベントになっています。

広大かつ分散した会場で、規模は文字通り世界最大級で、全日程を使い倒してもすべてのブースを巡るのは不可能なほど。筆者も毎日のように20,000歩超えで、足がクタクタになるまで会場を巡りましたが、見終えるよりも身体が先に悲鳴をあげていました。

モビリティやネットワークが社会を変革

CESを主催する『CEA(Consumer Electronics Association)』が名称を『CTA(Consumer Technology Association)』に変更したのが2年前。クラウドやモビリティなどのテクノロジーの登場により私たちの生活が変化していく中で、家電業界そのもののカタチが変わってしまっているというのがその背景にあります。多様な技術をネットワークでつなぎ、膨大な量の情報を使って社会全体の効率を最大化しようというのが、ここ数年のCESのフォーカスになっています。

特にCES2018は、高速・高容量・低遅延を前提にした『5G時代』を見据えて、スマートシティに欠かせない『モビリティ』分野を含めた、ネットワーク化された社会の構築がテーマになっています。

『モビリティ』と言えば自動車メーカーの出番ですが、インテル・クァルコム・NVIDIAなどのテクノロジー企業が気を吐いているのはCESならではでしょう。自動車メーカーも家電メーカーもテクノロジー企業も、一体となって移動体での変革を目指しているようです。

家電はどこへ行こうとしている?

かつてのCESと言えば、日本の家電メーカーが主役だったそうです。家電の多様性とPCの汎用性がせめぎあっていた時代はとっくに過ぎ去り、もはやPCの影も薄く、スマホに至ってもレガシーの位置付けは否めず、スマホ本体よりも周辺ビジネスが中心。むしろ自動運転やIT技術など『自動車』が主役なのかと思うほどでした。

家電自体にイノベーションがさほど起きていないというのもあり、例えば韓国の大手家電メーカーなどは、既存の家電ジャンルに流行りのボイスコンピューティングやAI機能を追加して「やってます」感を演出している印象が強かったです。

パナソニックは、家電系の展示などは見当たらず、B2Bソリューションに完全フォーカス。GoogleやAmazonと協業するなど、自動運転時代のコックピットを提案していました。今の時代、家電メーカーがプラットフォームを作ることは難しく、他社と組むことで自らの価値を発揮し、他社が作ったプラットフォームの一部に入り込むことを画策しているかのようでした。

SONYは、車載向けのイメージセンサーの協業パートナー(トヨタ・日産・現代・KIA・デンソー・BOSCHなど)を発表している一方で、SONYらしく『デバイス』にも注力している様子が伺えました。クラウドやIoTがどれだけ発達しようとも、最後は私たちの手元にある『デバイス』が勝負どころだと言わんばかりです。

多くの日本の家電メーカーがCESから姿を消す中で、こうした代表的な家電メーカーは、デバイスに注力する企業とプラットフォームを構成しようとする企業とで、方向転回しながらそれぞれの生き方を見つけたようです。ただ、それはいずれも「家電メーカー」の姿からは程遠く、モノづくり屋としてのプライドをかけた鬼気迫る様を感じました。

『動くモノ』+『AI』のカップリング

会期中に日本でも話題になっていたようですが、トヨタの『e-Palette』に象徴される自動車からモビリティへの流れ。シェアリングエコノミーが拡大して、かつてのように自動車が放っておいても売れる時代じゃないっていうこともありますが、5G時代を見据えたモビリティのネットワーク化とAI活用による『移動体サービス』に注目が集まりました。自動車単体ではなく『物流プラットフォーム』へのシフトとも言えるでしょう。

e-Paletteコンセプトは、自動運転技術を活用した『Mobility as a Service』という表現にピッタリで、2020年に向けてAmazonやピザハット、Uberなどと提携しながらサービス実証していくそうです。ブースに立ち寄ると、やっぱりモノとしての車両が目立ちますが、ここでもプラットフォームが本来の目指すところのはずです。

ホンダはコミュニケーションロボット『3E-A18』を紹介していました(この名前はどうも憶えられない)。こちらもAIが活用されています。人に近寄りながら感情を読み取り、人と共感して成長するロボティクスの在り方を示しているのだそうです。技術的には、Uni-CabやASIMOで培ったバランス制御を応用していて、移動しながら人にさまざまなサービスを提供してくれるのだとか。可愛らしい表情は、日本企業ならではというか、とても親しみやすい印象でした。

一方で、SONYの『aibo』のようなエンターテインメントAIもロボティクスと融合して進化をみせていますし、ロボティクスの分野においても今後、プラットフォーマーになるか、AIと接するデバイスメーカーになるかの選択が迫られている印象でした。

IoTはデバイスビジネスから脱却

スマホ→タブレット→ウェアラブル→AIと、毎年めまぐるしく注目領域が変わるCESですが、まだまだと思っていたIoTの分野も変化していました。

IoTと言えば、どのハードウェアをネットワーク化するかというのが主題になっていた時代はとっくに終わり、ハードウェアがどうつながって、どういうアプリを動かすかにシフトしていました。センサー+アプリをパッケージ化したり、サービス化したり、デバイスビジネスからの脱却が進んでいるようです。

例えば『スマートホーム』製品などは、もちろんハードウェアの展示もありましたが、ほぼ何かしらサービスやアプリなどと合わせて展示されていました。こちらでも『モノ単体で売る時代』ではないことが感じて取れます。

CES停電騒動

日本でも報道されたと耳にしていますが、CESの2日目にこのテの会場では大変珍しい『停電騒動』がありました。

ラスベガス到着から数日間、珍しく雨天が続きました。しかも結構激しく降っていました。

雨に対応する街ではないのでしょう、歩道には側溝なども見当たらず、行き場のない水たまりができていたり、なんとLVCC(Las Vegas Convention Center)のあちらこちらでは、エレクトロニクス製品が並ぶ建屋の天井からポタポタと雨漏りしているという有様でした。

2日目、道すがらセントラルホールの入口で、なぜか入場制限がかかっているではありませんか。混雑しすぎて制限かけているのなら別ホールからまわるかなーと思っていたら、「Shutdown! Power shutdown!」というセキュリティスタッフの声が聞こえました。自分の聞き間違い?と思いながら、しばらくしてセントラルホールに戻ったら真っ暗で、来場者がホールから締め出されている光景が目に入りました。

のちに前日までの大雨による送電設備のトラブルによる停電だったと知るわけですが、エレクトロニクスの展示会で送電が止まったら何もかもダメになるというのを目の当たりにしました。

そんな災難の中でハッシュタグ #CESblackoutを見つけ、ネット上ではちょっとしたお祭りになっていた様子。「今年のCESの最大の目玉は停電だ」というインテルの投稿や、野次馬のように中の様子をアップする人たちがいて、こういうときの謎の盛り上がりは世界共通なんだなと実感した次第です。

現代社会が抱える脆弱性と、どれだけテクノロジーが進化してもお金も書類もアナログは残しておかないと経済活動が成立しないって、まさかCESで思い知るとは想像していませんでした。

とにかく貴重な体験でした(笑)

次回のCES2018視察レポート#2は

cloudpackからCESに参加した3名が展示会場で発見した、気になった製品・サービスをまとめてお届けします。お楽しみに!

ちなみにこの記事を書いている当日はCESの最終日で実はまだラスベガスにおります。帰国のフライトを待ちながらの公開なのでした。