シダックス株式会社様
「誰もが迷わず使える AI チャット」を全社の入り口に。社内に散らばる情報をつなぐ AI エージェント基盤の構築プロジェクト
社会課題解決理念のもと、車両運行サービス、自治体 BPO、IP ビジネス、外食・観光サービスなどを幅広く展開する持株会社、シダックス株式会社様(以下、シダックス様)。多角的な事業展開に伴い、社内用語やマニュアル、各種フローといった情報は、それぞれの業務に適したツールで管理されてきました。一方で、全社的な AI 活用を進める上では、こうした社内に散在する情報を横断的に活用できる環境の整備が求められていました。そこで同社は AI 戦略室を新設し、全社での AI 活用に向けた取り組みを本格化させています。
そのテーマは、「IT ツールへの慣れに関わらず、誰もが迷わず使える AI の入り口をつくる」。
本プロジェクトで KDDIアイレットは、自社ソリューション「Google Cloud かんたん AI パック」をベースに、特定の業務に限定せず、さまざまな用途で活用できる AI エージェント基盤の設計・開発を担当。UI/UX 設計とデザイン、外部ツール連携の実装、そして次フェーズに向けたロードマップ策定までを一貫して支援しました。
プロジェクトのポイント Project Highlights
-
POINT
01
デジタルツールの利用頻度が異なる社員でも、迷わず操作できるシンプルなチャット画面を実現
-
POINT
02
会話を止めずに AI が使う外部ツールを切り替えられる、拡張性のある基盤を構築
-
POINT
03
UI/UX 設計から開発・デザイン、次フェーズのロードマップ策定まで一貫して支援
内製での挑戦を土台に、「一つの入り口」へ広げる
シダックス様では、全社的な AI 活用を本格化させる以前から、社内でチャットボットを内製するなど、AI を業務に取り入れるための試行を重ねていました。実際に社内で利用できる環境を自ら構築する中で、AI を活用して必要な情報にアクセスするための土台づくりも進められていました。
社内情報の検索ができるようになった次の段階として、代わりに検索してくれるだけの AI から、一緒に業務を進められる AI エージェントへ。ここが次のテーマとなっていました。
こうした背景のもと、同社は AI 戦略室を新設。特定の業務に依存せず多様なデータソースと連携できる汎用 AI エージェント基盤を構築し、将来的にはあらゆる業務を AI エージェントと協働で進められる体制の確立を目指すプロジェクトが立ち上がりました。KDDIアイレットは、「Google Cloud かんたん AI パック」をベースとした AI プラットフォームの設計・開発を担当しています。
開発 PM
ご一緒していて印象的だったのは、AI 戦略室の責任者の方がご自身でも AI やツール連携を積極的に試されている方だったことです。業務アプリと MCP を連携させて使われていて、AI やツール連携の導入について非常にポジティブでした。
だからこそ、「システムを高度化すればこんなことができる」という解像度が高い。今回の基盤づくりは、その構想を全社が使えるかたちに広げていく取り組みでした。
機能を足すのではなく、絞る。使い方で「迷わせない」ための引き算
今回の設計で最優先に置いたのは、デジタルツールに日常的に触れる方もそうでない方も、等しく迷わず使えることでした。シダックス様には車両運行事業の現場をはじめ、パソコンに向かう時間が長いとは限らないスタッフが数多く在籍しています。
そこで、ログイン認証は Google アカウントに一本化し、画面には「ログイン」ボタンを1つだけ表示。チャット機能も、事実に基づいた回答を返すグラウンディング機能付きの Google 検索へ統合し、「新しいチャットを始める」ボタン1つのシンプルな画面設計に集約しました。サイドバー上部には検索窓を常設し、過去のやり取りから特定のキーワードを含むスレッドを素早く見つけられるようにしています。
開発 PM
既存の画面を拝見したのですが、決して使いづらいものではありませんでした。ボトルネックになっていたのは、外部システムとの連携といった機能面のほうだったと思います。
その上で今回こだわったのは、足すことより、絞ることでした。既存の「通常チャット」は削除して、グラウンディング機能付きの Google 検索に統合しています。入り口が複数あると、初めて触る方は選ぶところから迷ってしまいますよね。だったら1つで良い、と。
AI モデルの表記も同じ考え方です。型番のような技術的な名前ではなく、「高速モード」・「思考モード」のように利用者が選びやすい表現に置き換えました。
逆に、外部ツールの登録・管理は管理者限定の機能としています。セキュリティリスクにつながりうる外部接続情報の追加を制御するためで、エンドユーザーのチャット画面からは見えないようにしました。
会話を止めずに、AI が使うツールを切り替える
本基盤には MCP(AI が外部システムと連携するための共通規格)を実装し、AI が外部ツールを自律的に呼び出して動作する仕組みを確立しました。
特徴的なのが、チャットごとにツールのオン・オフを切り替えられる機能です。管理者はエージェント単位で使えるツールをあらかじめ設定でき、利用者は会話の中でその都度必要なツールだけを有効にできます。エージェント自体もノードベースのフロー構造で作成でき、サブエージェント同士の連携にも対応した拡張性のある設計としました。画像やファイルを添付したマルチモーダルなメッセージ送信にも対応しています。
開発 PM
この機能で意識したのは、ツールを切り替えても会話が止まらないことです。一度使ったツールを会話の途中でオフにしても、AI が自然にフォールバックして別の方法で回答を試みる設計にしました。エラーで会話が終わってしまうと、使う側は困ってしまいますよね。
単純にツールを有効・無効にするのではなく、会話の状態を保ったままツール構成だけを動的に変えられる。ここが今回の設計のポイントだと思っています。
管理者側の操作もシンプルにしました。エージェントの設定画面には「使用するツール」のセクションがあり、複雑な設定をしなくても、トグルやチェックボックスの操作だけで運用できます。
運用面では、MCP サーバーとのセッション状態を Firestore に永続化しました。Cloud Run のマルチインスタンス構成では、どのインスタンスにリクエストが振られるか分かりません。会話の途中で状態が失われないよう、セッションをアプリケーションの外側に持たせています。
ブランドカラーの赤を、どこまで使うか
デザイン面では、シダックス様のブランドカラーである鮮やかな赤を画面の主要部分に配置し、同社に最適化されたサービスであることを視覚的に伝えられるようにしました。MCP の一覧・登録・編集画面の UI デザインも刷新し、全体の配色をシダックス様のカラーに合わせています。
また、本番リリースを待たずに、経営層への社内プレゼンテーション用として「動くデザインモック」を作成。完成イメージを早い段階から共有できる状態を整えました。
開発 PM
配色で気をつけたのが、赤という色の扱いです。ブランドカラーの赤は、エラーや警告を示すセマンティックカラーの赤と似ています。そのまま多用すると、本当に注意してほしい警告が埋もれてしまう。そこで赤を使う割合は最低限に抑え、エラーや警告の認識しやすさを担保しました。
もう一つ大事にしたのが、操作に対するシステムの反応です。AI がチャットを生成している最中や、音声入力を受け付けている最中に、いま何が起きているのかがユーザーに明確に伝わるようインタラクションを設計しました。
動くモックについては、シダックス様の広報のご担当者も加わってご意見をいただきました。外に出すときのロゴをどうするか、サービス名とシダックス様のブランドにどう統一感を持たせるか。コンセプトとロゴを含めたブランディングを考えてくださっていたのが印象に残っています。
つくりながら見せる。出てきた「これも欲しい」を形にする
開発の進め方としては、早い段階でデモ環境をシダックス様に展開し、いただいたフィードバックを同じフェーズの中で反映していくアジャイル的なアプローチを採用しました。
動くものをご覧いただく中では、当初のスコープには入っていなかった要望も出てきます。それらを整理できたことが、次のフェーズへの布石になりました。第1フェーズの終盤には、シダックス様が実現したいことや将来の展望を改めて丁寧にヒアリングする場を設定。今後の方向性についてお互いの認識を合わせた上で、次フェーズでは OAuth 認証への対応や社内用語対応、Google Workspace・kintone との連携といった具体的なテーマを定め、優先順位付けとロードマップ策定へ空白期間を設けることなくスムーズに移行しています。
開発 PM
デモ環境に開発したものを随時反映していたことで、当初のスコープには入っていなかった要件が見つかりました。実際に動くものを確認いただくと、「ここはこうしたい」という新たなアイデアが具体的に出てくるんですよね。
次のフェーズでは、やりたいことを一覧にしたシートをシダックス様と共有して、お互いが書き込めるようにしています。優先度と、それぞれにかかる工数をお伝えした上で、「今月はどれをやっていきますか」と話し合いながら1つずつ決めていくという進め方です。
フェーズの終わりには、振り返りと今後の見通しをまとめた資料もお渡ししました。
次は、現場のスタッフが手元の端末で使える状態へ
今回のフェーズで整えたのは、社内のあらゆるシステムが AI で有機的につながるシステム群「STELLA」の構想における『顔』となる土台です。ヒアリングの場で共有いただいた、この先の構想の中には、認証方式の拡張、社内用語への対応、業務システムとの連携といった課題が控えています。事業部ごとにアクセスできる情報を分ける権限設計についても、順次進めていく予定です。
さらに、今回構築した利用状況の可視化基盤を活かし、どの部署がどのように活用しているかを分析していく構想もあります。将来的には、シダックス様のあらゆる業務を AI エージェントと協働で進められる体制の確立を目指しています。
開発 PM
ロードマップとして描いているのは、現場で働くスタッフの方にも使っていただける状態です。今はパソコンからの利用が前提ですが、将来的にはスマートフォンからも使えるようにしたい。そうなるとログインの方法も見直す必要が出てきます。
分析についても、どの部署がどれくらい活用しているのかを調べて、より良い活用につながるレポートを出せるようにしていきたいと考えています。
KDDIアイレットでは、「Google Cloud かんたん AI パック」をベースに、お客様の業務環境に合わせた AI プラットフォームの設計・構築を支援しています。社内に散らばる情報の活用や、AI 活用の内製化に向けた第一歩をどう踏み出すか。まだ構想段階という方も、ぜひお気軽にご相談ください。
本プロジェクトの技術的な取り組みについては、以下の関連記事も併せてご確認ください。
部署ごとに散在する社内情報を一元活用!チャットボットでは不十分だった拡張性を AI エージェント基盤で解決
また、本プロジェクトの全体像や導入の背景については、以下の事例でご紹介しています。
社内に散らばる情報を AI エージェントでつなぐ。Google Cloud を活用した汎用 AI 基盤の構築プロジェクト