2026 年 10 月 20 日に開催された「Google Cloud Security Summit ’26」に、会場の Google 渋谷オフィスで参加してきました。
今年のテーマは「AI の進化を、最強の盾に。セキュリティの変革を今こそ」です。公式の案内文に「攻撃者が AI を悪用し、これまでにない規模とスピードで脅威が迫る今日」とあるとおり、攻撃側の変化と、それに守る側がどう追いつくかが中心のイベントでした。
この記事では、セッションを順番に紹介するのではなく、次の 2 つの視点でまとめます。
- 攻撃側で何が変わったか(基調講演)
- ユーザー企業はセキュリティ運用をどう変えたか(ユーザー事例とパネルディスカッション)
1. イベント概要
| イベント名 | Google Cloud Security Summit ’26 |
|---|---|
| 日時 | 2026 年 10 月 20 日(火)13:00〜17:00(会場限定の懇親会 17:00〜18:00) |
| 開催方法 | ハイブリッド(Google 渋谷オフィス / オンライン配信) |
| 公式ページ | https://cloudonair.withgoogle.com/events/jp-security-summit-26 |
本記事で取り上げるセッションは次のとおりです。なお、一部のセッションは割愛しています。
| セッション | 登壇者 |
|---|---|
| 基調講演 | Google Cloud セキュリティ営業本部 本部長 村山 逸文 氏 Google Threat Intelligence グループ チーフ アナリスト ジョン ハルトキスト 氏 Google Cloud Security & Mandiant JAPAC CTO スティーブ レザン 氏 |
| 高度化するサイバーリスクに対するセキュリティ強化の取組み | セイコーグループ株式会社 IT・DX 推進担当 専門役員 倉田 修 氏 |
| ソニーミュージックグループ におけるセキュリティ強化と Agentic SOC 実現への取り組み | 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルトラスト本部 インシデントレスポンス部 安藤 慧 氏 同 デジタルトラスト本部 クラウド推進室 荒川 海人 氏 |
| [パネルディスカッション] AI 時代のセキュリティ|スピードとリソースのジレンマを打破するための AI と人間の協調戦略を考える | 倉田 修 氏(セイコーグループ) 安藤 慧 氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント) 株式会社 LegalOn Technologies Security Section シニアセキュリティエンジニア 野村 敬太 氏 ファシリテーター:Google Cloud Security カスタマー エンジニア リーダー 谷村 透 氏 |
会場の様子
今回、Google のオフィスに行くのは初めてでした。会場の Google 渋谷オフィスは渋谷駅の近くにあり、おしゃれなオフィスでした。Google のオフィスは社員向けのカフェテリアがあることでも知られていますが、イベント会場にもドリンクやスナックが用意されていて、Google らしさを感じました。海外のオフィスのような開放的な雰囲気も印象的でした。
2. 攻撃側で何が変わったか
基調講演では、AI によってもたらされた攻撃の変化が「Scale(規模)」「Speed(スピード)」「Sophistication(高度化)」の「3 つの S」として整理されました。ここでは主に、ハルトキスト氏のセッション「最新脅威動向|AI を悪用する脅威、その実態から見えてくるものとは?」の内容を、この 3 つに沿って紹介します。
規模
規模の面では「いつでも、どこでも」というキーワードとともに、対応に追われる状況、進化した持続的な攻撃、シグネチャの回避が挙げられました。
攻撃者が AI を使うコストの話もありました。アンダーグラウンドではトークンが大幅に割引されて売られており、攻撃者は安価にアクセス権を得ているそうです。あわせて、決済詐欺、アカウントの乗っ取り、プールされたアカウント、LLM ジャッキングが挙げられました。
また、北朝鮮の IT ワーカーによる AI 活用の事例として、ペルソナの生成や面接の偽装が紹介されました。
スピード
スピードの面では「1-10-60 モデルが通用しない時代」として、対応までの時間が勝負になっているという話がありました。攻撃者がネットワークを迅速に横断するケースも増えるだろう、という見方が示されています。
筆者補足:1-10-60 モデルは、侵入を 1 分で検知し、10 分で調査し、60 分で封じ込めることを目安とする考え方です。
高度化
高度化の面では「あらゆる攻撃者の能力が向上」しているとされました。攻撃者にとっては、脆弱性の探索が強化され、ソーシャルエンジニアリングの絶好の機会になり、AI が専門家のアドバイザーとして機能する、という話です。
脆弱性探索の例としては、Google の LLM エージェント「Big Sleep」が SQLite で悪用可能なバグを発見した件と、犯罪目的のハッカーが AI を悪用して主要ソフトウェアの欠陥を発見したと Google が報告した件が紹介されました。
攻撃者が Gemini に支援を求めた例としては、次の 4 つが紹介されました。
- Microsoft Outlook 向けプラグインの署名と、すべてのコンピューターへのサイレント展開
- Windows イベントログにリモートアクセスするためのコードの生成
- Active Directory への自己署名証明書の追加
- ドメインコントローラー上の管理者の IP アドレスの特定
筆者補足:ハルトキスト氏が所属する Google Threat Intelligence グループが 2025 年 1 月に公開したレポート「Adversarial Misuse of Generative AI」でも、中国政府の支援を受けた APT アクターが Gemini にこうした支援を求めていた事例として紹介されています。(日本語訳:https://cloud.google.com/blog/ja/topics/threat-intelligence/adversarial-misuse-generative-ai)
守る側への Google の答え:Agentic SOC
続くレザン氏のセッション「AI の進化を、最強の盾に。Google Cloud Security が実現する AI 時代のサイバー防御」では、守る側の取り組みが紹介されました。
AI 時代のセキュリティについては、セキュリティベンダーは「セキュリティ」、フロンティア AI ラボは「AI」に強みがあり、Google は両方に強みがある、という位置づけが示されました。Wiz などを傘下に置いてセキュリティを強化している、という話もありました。
筆者補足:Google による Wiz の買収は、2026 年 3 月に完了しています。
中心になっていたのが Agentic SOC です。AI エージェントの例として、Triage and Investigation Agent と Detection Engineering Agent の 2 つが挙げられました。このうち Triage and Investigation Agent は、人間に比べて 30 倍のスピードで、L1/L2 の SOC アナリストが行う作業を自律的にこなし、MTTR を大幅に短縮すると説明されました。
筆者補足:Google Cloud の Agentic SOC の紹介ページによると、Triage and Investigation Agent は、アラートを AI が自動で調査し、本当の攻撃か誤検知かを判定して、理由とあわせて示すエージェントで、「通常 30 分かかる手動分析を 60 秒へ短縮」するとされています。Detection Engineering Agent は、組織の脅威プロファイルを継続的に分析して、検出ルールを作成・テストし、カバレッジのギャップを埋めるエージェントとされています。(参考:https://cloud.google.com/solutions/agentic-soc?hl=ja)
あわせて、Mandiant のマネージド検知・対応である Mandiant Threat Defense も、差別化ポイントの 1 つとして挙げられました。
3. ユーザー企業はセキュリティ運用をどう変えたか
ここからは、セイコーグループとソニーミュージックグループの事例講演、そして両社に LegalOn Technologies を加えたパネルディスカッションの内容です。どれも、攻撃のスピードに対して SOC をどう回すかという話でした。
3-1. インシデントを経て「侵入前提」へ:セイコーグループ(倉田 修 氏)
セイコーグループは、2023 年に受けたランサムウェア攻撃からの復旧と、その後のセキュリティ強化について話しました。
コロナ禍が落ち着き、日常が戻りつつあった 2023 年夏、突然、不正アクセスによるランサムウェア攻撃を受け、約 6 万件の個人情報が漏えいしました。システムと業務の暫定復旧までには、約 2 か月かかったそうです。
初動では、即決で緊急対策本部での打ち合わせを定期的に行って影響を調査し、外部ネットワークの切り離しや、EDR による監視の強化を進めたとのことです。その後、システムと業務の復旧を経て、恒久対策に向けて第三者評価を実施しました。第三者評価の総括と指針としては、セキュリティ組織の在り方、情報資産に対する全社管理の在り方、統合管理の検討が挙げられました。
グループの IT インフラのセキュリティ対策は、従来の入口対策による防御から、侵入前提の即対応型の対策へ変革を進めているそうです。その一環として Google Managed Defense と Google SecOps を導入しており、Managed Defense の検討では、次のようなポイントが挙げられました。
- EDR からのアラートだけでなく、相関分析を実施する
- 24 時間 365 日、セキュリティ専門家が対応する SOC
- エンドポイント、ファイアウォール、ID など、個別の監視体制を統一する
- 構築しやすく、短期間で構築できる
3-2. 「作る」から「使いこなす」へ:ソニーミュージックグループ(安藤 慧 氏、荒川 海人 氏)
ソニーミュージックグループは、内製 SIEM の運用から Google SecOps へ移った経緯と、Agentic SOC への挑戦について話しました。
セキュリティに対する考え方として、エンタメは「未知のワクワク」、セキュリティは「未知のドキドキ」と対比されていました。エンタメが「未知のドキドキ」を意識すると、エンタメは熱狂を失う。そのため「セキュリティを意識させない」という考え方です。
一方で、守る範囲は年々広がり続けており、「集めて、使って、広げてきた」という 6 年間の歩みのなかで、次のような課題が出てきました。
- ログは集めているが、活かしきれていない
- 相関分析ができず、点になっている
- 検知ルールを増やせない
- 検知が後手に回る
- 急増に追いつかない基盤
根本的な原因は、内製 SIEM の機能開発・保守の限界でした。そこで SIEM 基盤を SaaS に移し、「自分たちで作る」から「使いこなす」へ切り替えたそうです。
検討開始から正式導入までは 13 か月かかりました。AI の進化が速すぎるため、精度と将来性を慎重に見極める必要があったとのことです。PoV(Proof of Value)では、2 つのログをつなぐ相関ルールと、インシデントの要約やトリアージエージェントといった AI 活用・自動化を重視しました。ログをそのまま取り込めるとは限らない、新しいクエリには学習が必要、といったつまずきもあったものの、考え方はそのまま生きるそうです。
講演では、次の 3 つのポイントも挙げられました。
- ログは集めているだけでは価値がない
- PoV は機能表ではなく、実運用で試す
- 内製とは、すべて自作することではない
今後は、検知・調査・対応・改善という SOC 業務全体を AI と分担する Agentic SOC を目指しています。AI に任せられる状態にするために「AI の目を広げる」「AI に手を渡す」「ノウハウを共有する」の 3 つを進め、人はノウハウを共有して判断する、という形です。
3-3. 24 時間 365 日と AI:どこまで任せるか(パネルディスカッション)
パネルディスカッションでは、セイコーグループの倉田氏、ソニー・ミュージックエンタテインメントの安藤氏、LegalOn Technologies の野村氏が、スピードとリソースのジレンマについて議論しました。ファシリテーターは Google Cloud の谷村氏です。
何が 24 時間・迅速な対応を邪魔しているのか
- セイコーグループ:以前は EDR の監視が平日 9〜17 時だけで、内製で 24 時間 365 日にするのは難しかった。Mandiant Threat Defense を取り入れて、24 時間 365 日の監視になった。
- LegalOn Technologies:深夜・休日帯の対応をどうするかに課題感がある。
- ソニー・ミュージックエンタテインメント:内製 SIEM の頃は、自分たちで要約し、大量のアラートをサービスごとに見ていて、1 件のアラートに時間がとられていた。
自前と外部のプロの境界線
- セイコーグループ:Mandiant が重要度(Severity 1〜3)順に優先して対応し、初期対応が速くなった。SOC までを Mandiant が担い、判断は自社で行う。
- LegalOn Technologies:深夜帯などは外部にも見てもらっている。Mandiant Threat Defense がトリアージし、ドキュメントを迅速に作成してくれるので、期待に沿っている。
- ソニー・ミュージックエンタテインメント:内製にこだわった。理由は、エンタメ特有の知見を自社で持つため。
AI とどう向き合うか
- LegalOn Technologies:AI で攻撃が速くなるなか、防御側が AI をどう使うかを考えないと負けてしまう。SIEM を活用し、ヒューマンインザループで進める。
- ソニー・ミュージックエンタテインメント:スピードも量も増えるので、フットワーク軽く触るべき。インシデントレスポンスで AI を禁止するのはもったいなく、シャドー AI のほうがまずいのでは。
- セイコーグループ:情報が漏れないようにすること、コスト、ゲートウェイや教育などによるガバナンスを効かせたうえで、どう活かすか。防御側の AI エージェント活用は待ったなしで、この時代は AI を使う必要がある。ただし、道具を使うのは人間。
4. おわりに
基調講演では、AI によって攻撃の規模・スピード・高度化が進んでいることが、具体例とともに紹介されました。ユーザー事例とパネルディスカッションでは、AI や外部の力を借りて対応のスピードを上げつつ、判断は人が行うという考え方が、複数の登壇者から語られていました。
私自身、AI が普及する前に SOC で働いていた経験があります。チケットの確認や関係者への連絡を人手で行っていたため、対応のスピードに課題がありました。また深夜帯は海外で見ていましたが、シフト勤務ならではの苦労もありました。体調不良などで急に欠員が出たり、ほかの人の休みと重なって長時間勤務になったりと、シフトに偏りが出て、担当者の負荷が高くなることもありました。人がすべてのチケットを完全な精度を保って対応し続けるのは、こうした時代には特に厳しいと思います。だからこそ、AI 時代のスピードに追いつくために、セキュリティと AI をどこまで組み合わせていくのか、ユーザー企業の現場の声も交えて考えさせられるイベントでした。