「クラウドが主流の今、IPA資格って本当に必要?」
「AWSやGoogle Cloudの資格さえ持っていれば、日々の運用業務は回るんじゃない?」

こんにちは。私はアイレットで、日々AWS(Amazon Web Services)や Google Cloudを活用したシステムの運用保守に携わっています。

私の主な業務は、構築されたシステムが安定稼働し続けるように見守り、万が一の障害に対応すること。
そのために、New RelicやDatadogといったオブザーバビリティ(監視)ツールとにらめっこする毎日です。

もちろん、AWSやGoogle Cloudの各種ベンダー資格も複数保有しています。
その一方で、私は「基本情報技術者」「応用情報技術者」、そして「情報処理安全確保支援士」といったIPAの資格も取得しています。

一見、クラウドの実務とは距離があるように見えるIPA資格ですが、運用保守の現場から見て、本当に「とる意味」はあるのでしょうか?

結論から申し上げますと、「日々の運用保守と障害対応の『質』を上げるために、絶対にあった方が良い」というのが私の答えです。

この記事では、なぜクラウド運用保守においてIPA資格が役立つのか、その具体的な理由を私の実体験を交えて解説します。

IPA資格(基本・応用)は「障害切り分け」を支えるITの基礎体力

AWSやGoogle Cloudの資格は、いわば「特定の乗り物(例:最新のスポーツカー)の運転技術」を学ぶものです。どう操作すれば動くか(How)を素早く習得できます。

対して、IPAの基本情報や応用情報で問われるのは、「なぜ車は動くのか(エンジンやタイヤの仕組み)」や「交通ルール(ネットワークやセキュリティの決まり事)」といった、IT技術の「原理原則」です。

この「原理原則」が、日々の運用保守、特に障害対応(トラブルシューティング)の場面で効果を発揮します。

1. 障害対応(トラブルシューティング)の「切り分け力」が劇的に上がる

運用保守の現場では、予期せぬ障害やアラート(例えばDatadogやNew Relicからの通知)への対応が日常茶飯事です。

「Webサイトが表示されない!」というアラートが飛んできた時、あなたならどこから調査しますか?

クラウドサービスは非常に便利ですが、多くがブラックボックス化されています。
そんな時、「どこで問題が起きているのか?」を論理的に切り分ける能力が非常に重要です。

IPA資格の勉強は、この「切り分け力」の土台を体系的に作ってくれます。

  • 「これはDNS(名前解決)の問題か?」(ネットワーク)
  • 「TCPの接続(3ウェイハンドシェイク)は確立しているか?」(ネットワーク)
  • 「EC2インスタンスのCPUやメモリは枯渇していないか?」(OS)
  • 「RDS(データベース)の応答が遅いのか?」(データベース)
  • 「ALB(ロードバランサー)の設定ミスか?」(クラウドサービス)

この思考プロセスは、まさに基本情報や応用情報で学ぶ「IT技術の全体像」そのものです。
根本的な仕組みを理解しているからこそ、闇雲にコンソールを触るのではなく、「まずここを調べよう」と論理的に原因を絞り込むことができます。

2. 設定変更の影響範囲を考えられる

運用保守の業務には、作業手順書の作成や、他のメンバーが変更する設定のレビューも含まれます。

例えば、VPCのルーティングテーブル変更や、RDSのパラメータグループ変更といった作業。
IPAでネットワークやデータベースの基礎を学んでいれば、「この変更が他のどの部分に影響を及ぼすか」という影響範囲を深く考察できます。

「なんとなく動いている」から、「なぜこの設定が必要なのか」を説明できる運用エンジニアになれるのです。

なぜ「情報処理安全確保支援士」まで取得したのか?

私が基本・応用にとどまらず、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)まで取得したのには、前職の経験が大きく影響しています。

1. きっかけは社内SE時代のマルウェア感染インシデントです。

前職で私は、社内SEのような仕事をしていました。サーバー管理からネットワーク、社員のPCサポートまで幅広く担当する、いわゆる「何でも屋」です。

ある日、社員のPCがマルウェアに感染するというインシデントが発生しました。
幸い、被害が広がる前に食い止めることはできましたが、「感染がサーバーにまで広がっていたら」と思うとゾッとした記憶があります。

セキュリティに関する知識があれば、こうした脅威から身を守ることもできると痛感し、セキュリティの専門知識が欲しいと強く思うようになりました。
これが、セキュリティ分野に興味を持った直接のきっかけです。

2. 得意な「ネットワーク知識」を活かしてステップアップ

もともと前職でネットワーク周り(ルーターやファイアウォール)も担当しており、TCP/IPや通信経路の知識は得意分野でした。

情報処理安全確保支援士試験では、ネットワーク周りの知識は大きく必要になります。

自分の得意なネットワーク知識を武器にして、さらに上の専門領域であるセキュリティにステップアップするために、情報処理安全確保支援士の取得は最適な目標でした。

3. 現職(運用保守)でのログ監視の解像度が上がる

現在のクラウド運用保守の業務では、「WAFのルールを作成する」「不審なアクセスがあった際にアクセスログを確認する」といった作業が日常的に発生します。

支援士の知識は、この「ログを見る目」を根本から変えてくれます。

知識がないと、膨大なログはただの「意味のない文字列」です。しかし、支援士の勉強で様々な攻撃手法(SQLインジェクション、OSコマンドインジェクション、不審なユーザーエージェントなど)を知っていると…


  • 「このIP、普段アクセスがない国からだな」(=不正アクセスの試み?)

  • 「URLのパラメータに 不審な文字列がある」(=SQLインジェクションの試行?)

  • 「短時間で大量の404エラーが特定のIPから記録されている」(=脆弱性を探るスキャン?)

このように、膨大なログの中から「異常の兆候」を拾い上げる解像度が格段に上がります。

社内SE時代のマルウェア(PC)も、現在のクラウドサーバー(EC2/GKE)も、攻撃者にとっては「侵入対象」です。その痕跡を見逃さないための知識として、支援士の学びは今も非常に役立っています。

AWS/Google Cloud資格とIPA資格の「最適な使い分け」【運用保守編】

運用保守エンジニアとして、私はこの2つの資格を以下のように使い分けています。

資格の種類 役割 得られるスキル 運用保守での活用例
AWS/Google Cloud資格

(ベンダー資格)

「How」

(どう使うか)

・特定サービスに関する深い知識

・即戦力となる実装・操作スキル

・EC2を構築し外部と疎通できるようにする設定手順

・「CloudWatch」でのメトリクス確認方法

・「RDS」のフェイルオーバー手順

IPA資格

(国家資格)

「What / Why」

(それは何か/なぜ必要か)

・IT全般の体系的な基礎知識

・普遍的な原理原則

・アラートの「根本原因」の推測

・障害切り分けの思考プロセス

・セキュリティインシデントの判断

ベンダー資格で「点のスキル(操作)」を深め、IPA資格で「面の知識(原理原則)」を広げる。

運用保守の現場では、この両輪が揃って初めて、迅速かつ的確な対応が可能になります。

まとめ:運用保守エンジニアこそIPA資格で「差」をつけよう

クラウド全盛の時代だからこそ、「AWSが使える」「Google Cloudが使える」というだけでは、すぐに他のエンジニアに追いつかれてしまいます。

特に運用保守の現場では、単に手順書通りに作業をこなす「オペレーター」と、システム全体を理解し障害の根本原因に迫れる「エンジニア」とで、大きな差が生まれます。

その「差」を生み出すのが、IPA資格で培われる「IT技術の普遍的な基礎体力」「システム全体を守るセキュリティの視点」です。

「日々の運用業務で手一杯だ」と感じている方こそ、ぜひ一度、自分の技術の「土台固め」として挑戦してみてください。障害対応のスピードと質が変わり、あなたの市場価値を確実に高めてくれるはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が、あなたのキャリアの参考になれば幸いです。