Global Solutions事業部の緒方です。
AWS Summit Japan 2025のオンラインセッションを視聴しました。
AWS Summit Japanとは
日本最大の “AWS を学ぶイベント” AWS Summit Japan が 6 月 25 日(水)、26 日(木)の二日間で開催されます。 AWS Summit は、共に未来を描くビルダーが一堂に会して、アマゾン ウェブ サービス (AWS) に関して学習し、ベストプラクティスの共有や情報交換ができる、クラウドでイノベーションを起こすことに興味がある全ての皆様のためのイベントです。
https://aws.amazon.com/jp/summits/japan/
概要
非エンジニアが実現! 3000 人規模の介護×生成 AI 革命
IT 知識ゼロの 6 名のチームが、たった 2 週間で生成 AI アプリを開発し、3 ヶ月で 3000 人の介護現場に展開。「全員プロンプトエンジニア」という独自文化。現場スタッフのプロンプトが共有・改良され、業務に還元される仕組みを構築。介護記録や会議議事録の効率化だけでなく、要介護者様の微細な変化まで捉えた高度なパーソナライズケアを実現しました。限られた人材と予算の中で、生成 AI をどう活用し「最期まで自宅で」という願いを支える体制を作り上げたのか。その戦略と実践方法をお伝えいたします。
セッションスピーカー
香取 幹 氏
株式会社やさしい手 本社管理本部 役員室 代表取締役社長
セッション
このセッションは、介護業界が直面する課題に対し、いかに生成AIが革新的なソリューションをもたらしうるかを示唆するものでした。介護という社会インフラを支える現場でのDXは、エンジニアとしても大いに注目すべきテーマだと感じました。
株式会社やさしい手様は、「住み慣れた家で最期まで生きたい」という利用者の想いを支える在宅介護の会社です。売上約220億円、従業員6,042名(2024年6月時点)という規模から、そのサービスがどれだけ多くの人々に必要とされているかが伺えます。
介護現場が抱える「情報の壁」とAIによる突破口
やさしい手様が目指すのは、介護記録や活動に纏わる情報の「量」をデータとして蓄積しつつ、その「質」も可視化・精緻化していくこと、とのことです。これまでの介護現場では、記録の負担、情報共有の複雑さ、経験に依存した意思決定といった課題があったと言います。特に、介護職員の業務時間の約30%が文書作成に費やされているという数字は、自動化の余地が大いにあると感じるところですね。
この「情報の壁」を打ち破るために、彼らが着目したのが生成AIでした。サービス提供記録の要約に時間がかかる、ご家族やケアマネージャーへの情報伝達が難しい、といった現場の課題感に対して、「そうだ!生成AIで解決できるんじゃない!」という発想に至ったとのことです。
生成AI「むすぼな AI」の誕生とその効果
やさしい手様は、ビジネス効果と開発しやすさの観点から、自社情報の「量」に付加価値を引き出す生成AIソリューションとしてAmazon Bedrockに着目したそうです。そして、わずか数ヶ月という短期間で「むすぼなAI」という独自の生成AIシステムを開発・導入し、全社展開を進めているとのことでした。2024年3月にAmazon Bedrockの調査を開始し、同年6月には早くも業務実装、10月には全社3,000人利用拡大というスピード感は、すごいものを感じました。
「むすぼなAI」は、介護業務に纏わる膨大な文書処理を自動化し、よりパーソナライズされたサービス提供と高いアカウンタビリティ(説明責任)を実現するとのことです。例えば、訪問看護の報告書作成において、サービス利用者には専門用語を使わず分かりやすい言葉で要約し、ご家族には想いに寄り添ったアウトプットを提供するといった事例が紹介されていました。このきめ細やかな対応は、現場の声が強く反映された結果のようです。
導入効果は目覚ましく、以下のような具体的な数字が発表されました。
- 記録業務時間 83%削減(月間約800時間の創出)
- 計画書作成時間 75%削減
- 報告資料作成時間 93%削減
- 直接ケア時間 25%増加(利用者との関わりが増加)
- 離職率 15%改善
これらの数字は、コスト削減だけでなく、利用者への付加価値向上と従業員のエンゲージメント向上という、まさに「コスト削減と価値向上の両立」を実現していることを示しています。特に、直接ケア時間の増加や離職率の改善は、技術が単なる効率化ツールに留まらず、介護という人間中心のサービスにおいて、より「人」にフォーカスできる職場環境を作り出しているなと感じました。
AIが拓く介護の未来、そして社会貢献
やさしい手様は、生成AIの活用を通じて「利用者付加価値向上」と「従業員の生産性向上」の二軸で価値を追求していくとのことです。将来的には、Amazon Bedrockを活用したクラウド×生成AIを軸に、SaaS展開、IoT×生成AI(センサーデータ活用・予測ケア)、ケアアシスト(AIによる介護業務効率化)、そして自立型総合介護窓口(Amazon Bedrock Agents利用)といった多様な展開を計画されているそうです。
さらにその先には、ロボタクシー、配送ロボット、AIスピーカーとAI・地域包括ケアシステムを連携させることで、要介護高齢者の地域居住を推進していくという壮大な展望も語られました。これは、技術が単なる便利さを超え、社会構造そのものにポジティブな変革をもたらす可能性を示唆しています。超高齢社会を迎える日本において、AIがこのように社会貢献に直結する事例は、私たちエンジニアにとっても大きなモチベーションとなると思いました。
最後に
今回のセッションは、介護業界の課題に対し、生成AIが非常に効果的な解決策となりうることを示してくれました。特に「非エンジニアが主体となって実現した」という点は、テクノロジーを使いこなすための専門知識のハードルが下がり、現場のニーズが直接ソリューションに反映されるという、生成AI時代の新しい開発スタイルを象徴していますね。
スピード感は、Amazon Bedrockなどのマネージドサービスが提供する手軽さと強力な基盤モデルが、PoCから本番導入までのスピードを大幅に短縮した大きな要因だと思います。介護現場の複雑なドキュメントを、専門用語と平易な言葉で適切に要約・変換する能力は、まさに大規模言語モデル(LLM)の得意技ですよね。
またこのような取り組みは社会貢献のインパクトは計り知れないと感じました。人手不足が深刻化する介護業界において、職員の負担を軽減し、より人間にしかできない直接的なケアに時間を割けるようになることは、サービスの質向上だけでなく、介護従事者のQOL向上にも繋がると感じました。
介護とテクノロジーの融合が、さまざまな介護にまつわる問題解決の一助となることをこれからも期待しています。