はじめに:「AI導入」の次に来る、本当の課題
「生成AIを導入して、全社的な生産性をどう向上させるか?」 多くの企業で、この問いが経営課題となっているのではないでしょうか。ツールを導入するだけでは、本当の意味での「働き方改革」は実現しません。重要なのは、社員一人ひとりがAIをいかに「使いこなし」、自らの業務価値を高めていけるかという点です。
本記事では、非エンジニアである私自身が、日々の業務の中でAI活用の試行錯誤を続ける中で見えてきた、AIを単なる「作業ツール」から「思考を加速させるパートナー」へと変えるためのヒントを、具体的な実例を交えてご紹介します。
きっかけは、見過ごされがちな「考える」というコスト
今回、「社内向けトレーニング資料」を作成する機会があったので、これをAI活用の最初の試みとすることにしました。 私自身、資料作成には慣れていますが、そのプロセスには多くの「目に見えないコスト」が潜んでいます。ターゲットを分析し、構成を練り、言葉を紡ぎ出す…このゼロからイチを生み出す思考プロセスは、時間だけでなく、多大な精神的エネルギーを消費します。
この「思考のコスト」をAIで削減できれば、社員はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるのではないか。そんな仮説から、この取り組みが始まりました。
AIとの新しい関係性:「壁打ち」が生む価値
AI(Gemini)との資料作成は、単なる「指示と実行」の関係ではありませんでした。それは、まるで優秀なビジネスパートナーとの「壁打ち」のようでした。
鍵となったのは、AIに「何をすべきか(What)」だけでなく、「なぜそうするのか(Why)」という背景や目的まで共有することでした。
例えば、資料の骨子を作成する際、私たちはAIにこのような「対話」を投げかけました。
【AIへのプロンプト(指示)例】
私たちの情報システム部門(15名)向けに、Gemini活用のトレーニング資料を作成したいと思います。
対象者の状況:
- 全員にライセンスはあるが、セキュリティ懸念から実質的に利用禁止状態
- ITリテラシーは高いが、生成AI活用の具体的イメージが持てていない
ゴール:
- Geminiの基本機能理解から、実際の業務での活用方法までを伝える
- 60分のセッションで「明日から試してみたい」と思ってもらう
上記を踏まえ、効果的なトレーニング構成を提案してください。
これに対し、AIは参加者の課題意識を刺激する導入から、具体的な業務シーンを想定した実践的なワークまでを含む、まさに「対話」から生まれた構成案を提案してくれました。これは、人間が一人で悩む時間を大幅に短縮し、思考の質を高める上で非常に有効なアプローチです。
得られた最大の成果は「時間」ではなかった
結果として、資料作成にかかる時間は大幅に短縮されました。これまで丸一日かかっていた作業が、わずか約2時間で完了するようになったのです。
しかし、今回得られた最大の成果は、単純な時間短縮ではありません。それは、作業完了後の「精神的な余力」でした。
構成や表現に悩むプロセスをAIと分担することで、人間は「これは本当に伝わるか?」「もっと良い見せ方はないか?」といった、より本質的な「判断」や「意思決定」に集中できます。例えば、言葉選びに悩む時間が減り、その分「この表現で聞き手の心に響くだろうか?」と、より深く相手の視点に立って考える時間が増えたのです。この精神的負荷の軽減こそが、社員の創造性を引き出し、仕事の質を向上させる最も重要な要素だと考えています。
この働き方は、様々なビジネスシーンに応用できる
この「AIとの壁打ち」というアプローチは、資料作成に限りません。
- 企画書・提案書の草案作成: ゼロから考える時間を短縮し、より戦略的な部分に集中できます。
- 市場調査レポートの要約: 長文のレポートから、意思決定に必要なインサイトを素早く抽出します。
- 新人研修コンテンツの作成: 属人化しがちなナレッジを効率的にドキュメント化し、組織の財産に変えます。
- 広報・マーケティング文案の作成: 様々なパターンのキャッチコピーや記事を短時間で生成し、施策の選択肢を広げます。
AIとの対話を通じて思考の壁打ちを行うことで、あらゆるビジネスシーンの生産性と創造性を高めることができるのです。
結論:カルチャーこそが、AI活用の鍵
生成AIは、正しく使えば、業務効率を劇的に向上させる可能性を秘めています。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すのは、ツールの性能だけではありません。社員一人ひとりの好奇心や、それを支える組織のカルチャーこそが、AIという強力なエンジンを動かすための、本当の鍵だと私たちは信じています。
今回の話は、一個人の小さな試みにすぎません。しかし弊社には、例えばSlackで活用事例を共有しあったり、部署の垣根を越えて勉強会を開いたりと、社員一人ひとりの「やってみよう」という好奇心を組織の力に変えていくオープンな文化が根付いています。
この記事が、貴社の働き方改革を前に進める上での、何らかのヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。