アイレットは、生成 AI の活用を全社的に推進しており、2025年9月には従業員1,300人超に「Gemini Enterprise※」を全社導入しました。この取り組みは単なる最新技術の導入ではなく、生成 AI の活用が各部門の働き方そのものを変革する DX 戦略の一環です。

※Google Agentspace は 米国時間10月9日に「Gemini Enterprise」に名称が変更されました。

本記事は、多くの企業が課題とする間接部門の業務効率化に挑んだ、法務部門の事例にフォーカスします。

契約書レビューの半年間での対応数が400件から700件へ急増。どう対応するのか。

アイレットの法務部門は、Google の AI ノートツール「NotebookLM」を活用し、数時間かかっていた契約書レビューを30分以内に短縮することに成功しました。
これは単なる効率化ではなく、「有事への備え」という法務の本質的な価値を実現するための戦略です。

今回、法務での NotebookLM 活用を推進し、「契約書レビューは30分以内で終わらせます」と断言する法務・コンプライアンスグループ・リーダー 山内 雅典と、その取り組みを戦略的に後押しする取締役副社長 平野 弘紀の対談を実施しました。

現代の法務部門に求められる役割と、生成 AI を活用した業務効率化の先に目指す「有事への備え」について語り合いました。

アイレット株式会社
取締役副社長 平野 弘紀

 

法務・コンプライアンスグループ
グループリーダー 山内 雅典

 

契約書レビューが前年上期比で約1.7倍に増加。AI 導入は「必須」の選択だった

生成 AI の活用を全社的に推進する中で、間接部門での活用はまだまだ進んでいないのが現実です。そんな中、アイレットの法務部門では NotebookLM を活用し、契約書レビューの大幅な時間短縮を実現しました。今回は NotebookLM の活用を中心に生成 AI による業務効率化、DXを推進した山内さんと、生成 AI の活用から考える法務業務のあり方について話したいと思います。


よろしくお願いします。法務の業務の中でも特に時間がかかっていたのが、契約書のレビューです。70項目以上ある自社のチェックリストと照らし合わせながら、修正箇所を人力で探していました。早いものでも1時間、条文が多いものだと1時間以上かかるものもあります。
実際、半年間での契約書のレビュー対応数が約400件から次の年には700件に増えたため、同じ人数で業務を回すためには、AI を活用する以外の選択肢はありませんでした。


ビジネスの成長は止められませんからね。その負荷を現場の努力だけで回そうとするのは、経営として適切ではない。これが、アイレットが全社的に生成 AI の活用を推進している理由の一つです。会社として元々 Google Workspace を導入していたため、Google の生成 AI である Gemini や NotebookLM をあらゆる業務で活用できるよう推進してきました。


会社として推進してくれたおかげで、特にハードルを感じることなく生成 AI の導入に取り組めました。僕自身も人力での契約書レビューに危機感を感じていたので、まず自分自身で NotebookLM で契約書レビューを実施できるノートブックを作成しました。準備と言っても、既存のチェックリストを PDF 化して NotebookLM に投入しただけです。

土台ができたので、あとは契約書を PDF 化して NotebookLM にアップロードすると、自動的に修正すべきピンポイントの条項を検知してくれるようになりました。結果として、人間は AI が示した修正案の妥当性だけを確認すれば良いため、大幅に時間が短縮されました。さらに、担当者によってスピードが違うといった問題もある程度標準化されました。


具体的には、どのくらい時間短縮ができていますか?


業務委託契約については着手から30分以内にはレビューを返せるようになりました。元々数時間かかっていたので大幅な時間短縮ですね。比較的に契約書レビューに時間がかからない NDA(秘密保持契約書)に関しては、着手から15分以内で返せるようになりました。

ただし、短縮される時間は法務レビューの経験の長さに左右され、個人差が生じます。アイレットでは、経験年数の違いによる時間のバラつきを解消するため、AI の出力形式を工夫しました。具体的には、上部に修正すべき条番号と内容の要約を提示し、その後に詳細な修正案を配置しています。
経験豊富なユーザーは要約だけを確認して自ら修正案を検討する方が早いケースがあるため、このようなチームや利用者の習熟度に応じた出力形式を検討し、それを AI への指示書に反映させています。


グループ全体で活用するために工夫した点はありますか?


チェックリスト付きのマニュアルを作成しました。マニュアルに関しても Gemini に「この業務分掌を基に全ての業務で AI を活用したいです。マニュアルの骨子を作ってください」と指示をして、提案された骨組みを人が修正するという形で作成しました。マニュアルは、Gemini と相談しながら「考えなくても進められる」ように改善していったため、グループメンバーがしっかり活用できるようになるまでに時間はかかりませんでした。

現在は、契約書の種類によって何日以内というSLA(サービスレベルアグリーメント)は設けつつ、それ以上に理論値最速を目指して早い時は数分で返すことの意識付けは図っており、法務の行動指針にも定めています。社内サービスとして迅速に対応することを意識しています。

セキュリティも安心!外部 SaaS ではなく「Google Workspace」にこだわる理由

なぜ外部の契約書レビュー SaaS ではなく、NotebookLM を選んだのか。ここが一番重要なポイントですよね。


NotebookLM を導入する前は外部の SaaS を使っていたのですが、自社のチェック項目を登録する作業が大変でした。レビュー結果の精度はそこそこありましたが、完ぺきでなく、加えて PDF をアップロードすると体裁が崩れるなどの問題もあり、結果的に誰も使わなったことで、費用対効果も疑問が残りました。


まさにそこがポイントだと考えています。外部のレビュー SaaS はワークフロー機能などで差別化していますが、結局、レビューの精度自体は NotebookLM や Gemini の方が高いという実態がある。外部 SaaS を導入すると、アカウント管理やログイン(SSO)などで必ず遠回りが発生し、法務チェックだけ外部ツールにした場合はワークフロー機能も活かせず、結果的に費用対効果が悪いという結果になることもあります。


アイレットは Google Workspace を導入しているので、そこに統一されているからこその親和性の高さは大きなメリットですね。また、外部の SaaS だと出力の仕方はある程度決まった形でカスタマイズができませんが、NotebookLM だと自由に指示できるのと、自社基準の登録も細かく指示をしなくてもソースから賢く読み取って勝手に理解してくれるところが強みだと思います。


セキュリティ面でも、NotebookLM は弊社情シスが管理の上で共有ポリシーの設定しているため組織外に不用意に共有されない点も、外部 SaaS のセキュリティを細かく調べて細かく設定するよりも効率的で、安心して利用できます。


組織内で共有範囲が設定できるのも便利です。

属人化の完全解消と「忙しい」を評価しない文化

レビュー時間の短縮以外に、どのような効果がありましたか?


見落としが減りました。特に英文契約やパートナー契約といった難易度の高い契約書で効果が出ています。また、属人化の完全な解消も大きなメリットだと思っています。


これまでは、特定の契約内容の専門性が個人の能力に依存し、それが部門のリスクになっていました。NotebookLM という仕組みを活用することで、法務の採用基準を満たした人材であれば、誰でも同等の品質を担保できるようになります。


その通りです。以前は私が担当していたパートナー契約も、今では他のメンバーに任せられるようになりました。


私が考えるに、リスクの分散だけでなく、労力稼働の集中も解消されるのではないでしょうか。誰が休みになってもボトルネックになることがない。仮にリソース拡充が必要になり、新しく入社した社員にも即戦力になってもらえる環境が用意でき、将来的には、契約社員などの一時的なリソースでも、同等の品質で契約書レビューを提供できるようになると考えています。これが AI がもたらす最大のメリットだと感じています。

そして最も伝えたいのが、契約書のレビューは法務の重要な業務ですが、それがメインではないということです。本当に重要なのは、法務リスクが発生した際に、現場を迅速にサポートし、弁護士と連携するためのリソースに常に余裕をもっている状態が理想であると考えています。


まさに、「有事のためのリソース確保」ですね。経験上、トラブルに発展する背景は、契約書レビューの不十分さよりも業務フローの欠陥や仕組みの不全などが多いです。そのため、コンプライアンス体制の改善(同じミスを繰り返さない仕組みづくり等)に時間を使うことが重要かもしれません。


いざという時のための法務であり、その「有事への備え」のために時間を確保しておくことが重要です。契約書レビューに時間がかかっている、毎日忙しいという状況の法務メンバーを、経営者としては高く評価しません。AI で効率化を進め、「余裕があります」と言える状態こそが、現代のプロフェッショナルな法務のあり方ではないかと私は考えています。

AI エージェントによる自動応答と人事評価への反映

今後は、全社導入した Gemini Enterprise の活用が目標です。アイレットではドキュメントを Google Drive に集約しているので、NotebookLM で構造化した情報を活用し、AI エージェントとして機能させることで、さらなる業務の効率化を目指していきます。


Gemini Enterprise が Slack と連携できるので、過去に法務が回答した事例を学習してもらい、自動で回答を生成してくれると、大幅に業務が効率化されると考えています。


現場のメンバーが「この件はどうしたら良いですか?」とエージェントに質問すれば、過去の回答事例やマニュアルを参照して即座に回答する、最初の窓口となる法務のサポートを目指しています。法務は業務のパートナーとして AI エージェントと協働する未来がすぐそこに来ています。

さらにこのスピードを定着させるために、今後はシステムと同様に社内の依頼対応についても SLA を徹底する予定です。現在アイレットが利用している Backlog などのタスク管理ツールからデータを取得、法務のレスポンス時間を集計し、組織、個人それぞれの評価に反映させる仕組みを私が中心となって構築を進めています。


レスポンスの速さが評価軸になるのは、指導もしやすいですし、モチベーションにも繋がりますね。


「忙しいは評価しない」は厳しく聞こえるかもしれませんが、アイレットの法務部門はサービス提供者として、このレスポンスの速さを強みに、より積極的な法務を実践していきます。しっかり評価するので、法務部門のメンバーにも「これだけ速くレスポンスしています!」ということを経営者にどんどんアピールして欲しいですね。


NotebookLM の活用で、どこよりも契約書レビューのスピードが速い自信があります。AI 導入を検討されている企業様は、まず「やらない理由はない」という意識を持っていただきたいです。そして業務効率化の先に何を目指すのか、「契約書ばかり見ているのが法務の仕事ではない」という本質的な目的を考えてみてはいかがでしょうか。

編集後記

今回は、法務部門の NotebookLM 活用事例を紹介しました。
数時間かかっていた契約書レビュー業務が30分以内で完了するようになったというスピードアップだけでなく、難易度の高い契約における見落としが減り、属人化が完全に解消されたという実績は素晴らしい成果です。

また、今回の対談において印象的だったのは、副社長の平野が語る「契約書レビューは法務のメイン業務ではない」という視点です。

アイレットの法務部門は、AI 活用によって契約書レビューにかかる工数を削減しました。その結果、平野の語る「有事のためのリソース確保」という、法務の本来の役割と価値を問い直す戦略的な活動に注力できるようになっています。これは、多くの企業法務部門にとって、今後目指すべき理想像を示すメッセージとなるでしょう。

さらに、一見厳しく聞こえる平野の「忙しいは評価しない」という言葉。その裏には、AI を活用して社員がより重要度の高い創造的な業務に集中できる環境を、経営層が主体的に構築していくというアイレットの DX に対する決意がありました。そして、創業時から変わらない「社員の働きやすさを第一に考える」というアイレットらしさも感じました。

NotebookLM は私が所属する事業推進本部でも、パートナー契約書やプログラム情報の検索・活用に強力に利用され、業務効率化に貢献しています。

次回はこちらの事例を紹介します!

それでは最後までお読みいただきありがとうございました!


アイレットは Google Cloud や Google Workspace の知見を活かし、間接部門を含む全社的な DX を強力に推進しています。Gemini Enterprise の導入についても、ぜひお気軽にご相談ください。
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