日本テレビ放送網株式会社様(以下、日本テレビ様)は全社的な DX 推進に注力し、データやテクノロジーを積極的に活用することで業務の効率化・高度化、新たな価値創出に取り組んでいます。

多岐にわたる DX 推進活動の一環として同社がチャレンジしたのが、生成 AI のプラットフォーム化です。その初期段階として、社内ドキュメントが検索できる生成 AI チャットボットを作成しました。アイレットは生成 AI チャットボットの API 開発とデザインを支援させていただきました。

本プロジェクトの背景にあった課題や狙い、取り組みの成果について、日本テレビ様とアイレットの担当者へインタビューを行ないました。


生成 AI を浸透させるために、社内ニーズの高いマニュアル検索等の効率化に着目

— はじめに、どのような経緯で今回のプロジェクトが生まれたのかを教えていただけますか?


当社ではこれまでも DX 推進の一環としてテクノロジーやデータ活用に取り組んでいましたが、生成 AI の社会的なインパクトが徐々に大きくなってくるタイミングで、我々としても業務への活用を視野に入れるべきだと考えました。そこで、当社が培ってきたデータ基盤と BI、Web アプリケーションに生成 AI を組み合わせることで、新しい働き方を提案し新しい価値の創造につなげる「DX プラットフォーム構想」というものを立ち上げました。今回の取り組みは、その構想に基づいた活動となります。


— 生成 AI 導入の候補となる業務課題は多岐にわたると思いますが、その中でも社内マニュアルの検索等に着目した理由はありますか?


当社では世の中のトレンドや新しい技術などを学ぶ「ランチタイム勉強会」を定期的に開催しており、そこで生成 AI を取り上げたことがありました。それをきっかけに複数部門の方にヒアリングを行なうと、「社内ドキュメントが膨大で欲しい情報にリーチするのに時間がかかる」「サイロ化されて検索も難しい」といった声が多く挙がったんです。生成 AI を社内に浸透させるためには、なるべく多くの社員に共通するニーズに応えることが重要だと思っていたので、まずはマニュアル検索等の効率化に生成 AI を活用できないかと考えました。


— どのような経緯でアイレットにご依頼いただいたのでしょうか?


今回は複数のパートナーさんにお声がけしてコンペ形式で検討させていただきました。もともと Google Cloud さんとお付き合いがあったことからアイレットさんのことは存じ上げていたのですが、実際にご提案いただいた内容からやりたいことのイメージが湧いたことや、新しい技術に対して前向きにチャレンジする姿勢を感じられたことが印象に残っています。


そうですね、私たちも新しい技術に挑戦したいという思いがあったので、ぜひ一緒にやらせていただきたいと思いました。最初は両社の認識が噛み合わない部分もあったのですが、事前に電話や Web 会議で内容を擦り合わせる機会をいただけたのは有り難かったです。


そうでしたね、こちらの理想と現実の落としどころを細かく擦り合わせましたよね(笑)。その対応を丁寧にしていただけたことも決め手になったと思います。


— アイレットにはどのような役割を期待していましたか?


生成 AI は毎週 API の仕様が変わるんじゃないかと思うほどアップデートが盛んなドメインなので、刻一刻と変わる Google Cloud のプロダクトにしっかりと追随しながら、ローンチまで完遂する技術力を期待していました。それから、ただの受託開発ではなく私たちと一緒に新しい技術を開拓していく提案力、当社や他のパートナーも含めてコミュニケーションを取りながらプロジェクトを推進していくチーム力も求めていたポイントです。

度重なる開発基盤の仕様変更に苦戦するも、ワンチームで壁を乗り越え生成 AI 導入を実現

— 生成 AI を活用した開発でうまくいった点や苦労した点はありますか?


当社でも試行錯誤しながらアーキテクチャを構築していたのですが、やはり生成 AI 領域は仕様変更が頻繁に起きるので、これまで開発していたものが丸ごと使えなくなるというか、大々的に仕様を変えなければいけないケースがあったのはすごく大変でしたね。


そうですね。また、生成 AI の検索結果で望んでいる回答がなかなか出てこない時も苦労しました。アーキテクチャを変えるのか、パラメータをチューニングするのか、いろいろなアプローチをその都度アイレットさんにご相談できたのは心強かったです。


我々もプロンプトのつなぎ込みがうまくいかず解決策を模索している中、日本テレビ様と活発にコミュニケーションを取ることで解決につながったので、そのような距離感で一緒に取り組めたことが、開発を軌道に乗せることができた要因ではないかと思います。


今回は日本テレビ様とアイレット、他社パートナー様と3社でチームを作って対応していたのですが、組織の違いはあまり意識せずに内容に応じて必要な人にコミュニケーションを取れる体制だったのかなと思います。


そう思います。課題が発生した時に、すぐにパートナーさん同士で解決して完了報告だけをいただくこともあって、すごくチームがワークしている印象を持ちました。


— アイレット側で工夫したポイントはありますか?


今回は幅広いユーザーに利用してもらえるように「親しみやすいデザイン」を追求することがポイントでした。そのために日本テレビ様と何度も意見交換を行ない、複数のデザイン見本をご用意しながら「親しみやすいデザインとは何か?」を突き詰めていけたことが良かったです。


そうですね。単に業務システムの一つとして機能するだけでなく、いかに気軽に楽しく使ってもらえるかが重要だったので、社内でもコンセプトやチャットボットのキャラクター設定、ネーミングなども含めてかなり細部にわたって議論しました。それらのイメージをアイレットさんにはうまく汲み取っていただき、UI/UX に落とし込んでいただけたのではないかと思います。


結果的に従来の業務システムのトーンではなく、可愛らしいアイコンや柔らかいデザインにすることで、生成 AI の不確実性をうまくカバーできたと思っています。「たまにちゃんと答えてくれないけれど、可愛くて許せちゃう」という声もあって、ユーザーの期待値をうまくコントロールできたなと(笑)。

マニュアル検索にとどまらない生成 AI 活用の可能性を切り拓く

— プロジェクトを振り返ってみて、当初の目的や期待していた成果は実現できましたか?


当初想定していた要件を満たすことができたので、開発自体には満足しています。ただ、このシステムが社内で使われて皆さんの業務効率化に貢献できたかというと、まだ PoC 的にトライしてもらった段階なので、認知度の向上も含めてこれから我々が頑張らなければいけないポイントだと思っています。


そうですね、社員の誰もが気軽に生成 AI を活用できる環境を提供したいと思っていたので、まずは数千人規模の社員が使ってみてくれたこと自体、とても意義のあるプロジェクトでしたよね。そこから「もっとこういう機能が欲しい」というフィードバックも生まれていますし、生成 AI 活用の次のステップを検討するきっかけが作れたという意味でも良かったです。


同感です。「働き方を変える」という大きなミッション実現の第一歩になったのが今回のプロジェクトだと思います。今後、マニュアル検索を社内に浸透させることはもちろん、このプロジェクトから生まれた API を社内システムに活用することで、マニュアル検索にとどまらない生成 AI 活用の可能性が拓けるのではないかと考えています。


チャットボットはあくまでもタッチポイントの一つなので、他の業務システムや既存のシステムに組み込んでいくことは十分に考えられますよね。


— 最後に今後の展望を教えてください。


先ほど申し上げた API の活用を広げていくという部分に関しては、Gemini API など新しいモデルが次々と出てきているので、それぞれの特性を理解した上で、目的に応じて最適なものを使い分けていきたいと考えています。そして、テキストだけでなく画像や動画、音声などさまざまな領域に幅を広げていくことも想定しているので、その際はぜひまたアイレットさんの力をお借りできるとうれしいですね。


ありがとうございます。アイレットはお客様に寄り添い、一緒にビジネスを創り上げていく姿勢を大切にしているので、日本テレビ様と共創する機会をいただけたことをうれしく思っています。また生成 AI を活用した新しい価値創出にチャレンジできることを楽しみにしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします!