データドリブンな経営判断・ビジネス推進を実現し、いかに競争力を高めるか。これは現代の企業にとって、重要なテーマの1つだといえるだろう。その実現に向けて様々なデータをクラウドに集約し、生成 AI などの最新テクノロジーを使って分析・活用しようとする企業も増えている。しかし、大きな成果を上げているケースはそれほど多くない。そこには最新テクノロジーを導入するだけでは、解決できない課題が横たわっているからだ。その原因と解決策について、クラウドインテグレーターであるアイレットとグーグル・クラウド・ジャパンのキーパーソンに話を聞いた。
生成 AI/データを実装した企業が勝機を掴む
日本企業の DX は遅れている――。こういわれて久しい。その要因は企業によって様々だ。経済産業省が DX レポートで指摘する、レガシーな企業文化やシステムはもちろん、デジタル人材や予算の不足、ビジョンやリーダーシップの欠如などはその代表例だといえるだろう。
そうした状況の中、新たな起爆剤として急速に注目を集めているのが生成 AI だ。人間を凌駕する圧倒的なスピードでデータを解析し、ユーザーの意図を推測し情報を的確に提示することが期待される。多くの企業において、生成 AI を自社のビジネスや業務に組み込むことが新たな経営課題になりつつある。
「DX に求めていたものが、そのまま生成 AI に置き換わったという印象を持っています。多くのお客様が、ビジネスや業務変革といった自分たちの課題を解決する具体的な手段として生成 AI をとらえています。生成 AI はもはやバズワードではありません」とアイレットの岩永 充正氏は語る。
アイレット株式会社
代表取締役社長
岩永 充正氏
世界の先進企業は既に先を行っている。「技術調査やベンチマークといった段階を超え、ビジネスへの実装が進んでいます。例えば、米ファストフードチェーンのウェンディーズはドライブスルーでの注文受付に生成 AI を導入しています。同社のメニューの組み合わせは数十億と膨大なうえ、周囲の騒音に音声が紛れてしまうため、これまで受付の自動化は難しいとされてきました。この課題解決に向け、Google Cloud の生成 AI 技術を活用しています」とグーグル・クラウド・ジャパンの石積 尚幸氏は述べる。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
上級執行役員
パートナー事業本部
石積 尚幸氏
日本企業も停滞しがちだったデータ活用のフェーズをさらに上げていく必要がある。対応が遅れた企業は、競争を勝ち抜くことが難しくなるからだ。
「データ活用については、多くの企業が確信を持てず、悩まれてきたはずです。『自社にあるデータをどう活用すればよいのか』、『データを使ってはいるがその使い方が正しいのか』、『データの持ち方はこれで良いのか』といったことはその一例です。しかし生成 AI を賢く活用すれば、そうした悩みやハードルを乗り越え、ビジネスや業務にイノベーションをもたらす可能性が広がります」(岩永氏)
生成 AI のトレンドを先取りする Google Cloud
こうした生成 AI/データ活用を含めた DX の推進に向け、注目を集めるプラットフォームの1つが、クラウドサービス「Google Cloud」だ。
その理由について、グーグル・クラウド・ジャパンの和泉 綾志氏は次のように述べる。
「Google Cloud は、現在のように AI が大きな潮流となる以前からデータの重要性に着目し、機械学習やデータウエアハウス、ストレージサービスなどデータを分析・活用するためのサービスの開発・提供に力を入れてきました。先端技術で機能・性能の向上にも努めています。注目の高まっている生成 AI もその1つです」
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
Google Cloud 法人営業本部
兼 パブリックセクター営業本部 本部長
和泉 綾志氏
Google Cloud の生成 AI は著名な市場調査でリーダーとしての評価(※1)と、Vertex AI Agent Builder(情報検索/回答生成のアプリケーションを効率的に構築できるサービス)をはじめとした実用的なサービス群が揃っている。
データ分析基盤としての優位性も高い。Google Cloud のインフラはもともと検索サービス「Google」の基盤として構築されたものがベースとなっている。インターネット全体の膨大な情報を蓄積・分析し、スピーディに的確な検索結果を表示する。スケーラビリティ、安定性・信頼性の高い基盤である。Google Cloud 単独ではなく、パートナーとのエコシステムで生成 AI の精度・性能の向上を継続的に図っているという。
さらに Google が地図サービス「Googleマップ」、動画共有プラットフォーム「YouTube」、グループウエア「Google Workspace」などを、コンシューマからビジネスユースまで幅広く提供している点も重要なポイントだといえるだろう。
「世界中のユーザーを支えるインフラを構築・運用し、安定的なサービスを提供しています。Google Cloud には実サービスで培った技術力とノウハウが生かされています」と和泉氏は語る。
※1 出典:The Forrester Wave™: AI Foundation Models for Language, Q2 2024 のリーダーに選出
https://cloud.google.com/resources/forrester-wave-ai-foundation-models
クラウド移行から価値創出まで伴走支援
とはいえ Google Cloud を生成 AI に向けて効果的に活用するには、まず、データの準備が必要だ。多くの日本企業は事業/組織ごとにシステムや業務が縦割りで、データもこれに伴って分断されていることが多く、データの粒度もまちまちで、すぐに活用するのは容易ではないからだ。SaaS 活用やオンプレミスを含めたマルチクラウド化が進んでいるため、クラウド間の連携も必要となる。この状態で生成 AI/データ分析基盤を実現しても、大きな成果は見込めない。仮に PoC が成功したとしても、その後の展開において大きなハードルとなってしまう。
こうした課題と向き合い、生成 AI/データ分析基盤の構築とその活用を強力に支援しているのが、アイレットだ。
同社はクラウド事業をいち早く展開。2010年にはクラウドの設計・構築・運用保守からシステム構築、デザイン、セキュリティーまでを提供するフルマネージドサービス「cloudpack」を提供し、多くの企業の DX 推進を支えてきた。特に近年は、AI/データ活用の基盤として Google Cloud に着目。2019年には「Google Cloud プレミアパートナー認定(※2)」を取得し、Google Cloud の導入、オンプレミスからの移行、さらに Google Cloud を活用したソリューションの開発から、導入後の運用、システムの社内利用の定着化までワンストップで支援を行っている(図)。
※2 Sell および Service エンゲージメントモデルの認定
同社が行う支援の最大の特長――。それは、ビジネスゴールを見据えた上で、深く、長いレンジで顧客企業に伴走し続ける点だ。
「生成 AI/データ活用のプロジェクトで陥りがちなのが、近視眼的な視野となり、ツールや技術の導入が目的化してしまうこと。それでは社内に浸透せず、使われないシステムとなる可能性が高まります。それに対し当社では、必ず『ビジネスをどうドライブさせるのか』、『業務をどう改革するのか』という立脚点から提案します。その際も『最新技術だから導入を勧める』のではなく、お客様の目的に対して『何が本当に最適なツールや技術なのか』を徹底的に吟味した上で、生成 AI/データ分析基盤を構築していきます」とアイレットの平野 弘紀氏は語る。
プロジェクトを進める際も、顧客のトップに話を聞くのはもちろん、現場とも丁寧に対話し、その全体像を一緒になって描いていくという。
アイレット株式会社
取締役副社長
平野 弘紀氏
ゴールの共有だけでなく、実用化に向けたイメージの共有に向け、様々な手法を取り入れる。例えば、プロジェクトにはアジャイル開発手法を取り入れ、小さいプロジェクト単位で実装と評価を繰り返す。スモールスタートで課題解決や新たな分野にチャレンジできるため、リスクが少なく成果も実感しやすいからだ。
「お客様に成功体験を積んでいただくとともに、どのような段階になればどのようなデータ分析ができるのかを具体的に提示していきます。必要であれば数日で簡単なアプリケーションや画面を作成し、見ていただくことも少なくありません」(平野氏)
システムを導入した後も「それで終わり」ではない。実際の現場での使い方や定着化までを支援するという。「社内のプロセスとして組み込むための業務プロセス変革やデータドリブンな文化の醸成など、ビジネスで結果を出すまでお客様に寄り添います」と平野氏は語る。
なぜこのようにきめ細かな支援が展開できるのか。それは長年にわたるクラウドインテグレーションを通し、顧客課題解決を起点にした技術・ノウハウを培うとともに、多彩な人材を育成してきたからだ。
例えば、モバイルを含むアプリ開発、UI/UX デザイン、EC サイト構築などフロント系サービスの開発をカバーする一方、レガシーといわれる枯れた技術にも精通しており、システムのモダナイゼーションやリフト・アンド・シフトにも幅広く対応できる。
「課題に徹底的に向き合い、柔軟かつスピード感をもってお客様を導く姿勢、それを支える確かな技術力はお客様の評価も非常に高く、当社にとってもとても重要なパートナーです」と石積氏は話す。
こうした数々の取り組みや実績が評価され、アイレットは2024年4月に「Breakthrough Partner of the Year – Japan」を受賞した。これは Google Cloud の Global Award であり、世界基準から見てもアイレットが高い評価を得ていることを意味する。「今後も自らのケイパビリティ向上に努め、Google Cloud の No.1 パートナーを目指します」と平野氏は前を向く。
多くの企業がデータドリブンなビジネスを実現
両社のタッグにより、既に多くの企業がビジネス変革を実現している。オフィス家具・空間大手のイトーキはその1社だ。両社のサポートのもと、データ統合・分析プラットフォームを実現した。既に持っていたオフィス内での活動を見える化する「Workers Trail Powered by EXOffice」や組織サーベイ「Performance Trail」など働き方改革を支援する自社サービスをさらに活用し、オフィスの投資効果を見える化する自社のコンサルティングサービス「Data Trekking」を立ち上げるためだ。
アイレットはインフラ構築からアプリケーション開発、Web ページのデザインまでトータルで支援した。具体的には、オフィスレイアウトの図面データや従業員のバイタルデータ、活動データを Google Cloud 上で統合・可視化し、企業の生産性や従業員の Well-being の向上につながるワークスペースと働き方の分析を可能にしている。
このプラットフォームの実現により、イトーキは自社サービスの新たな価値提供が可能になった。さらに統合的なデータ分析環境のメリットを生かし、データドリブンなオフィス構築・運用のため、新たなデータを収集するアプリケーションの開発も進めているという。
業務用カラオケシステム「DAM」を開発・提供する第一興商は、市場に投入すべきコンテンツ(楽曲)検討において、表記揺れ補正を含む集計作業に Google Cloud の生成 AI を活用し、名寄せと集計作業の自動化 PoC を行なった。現在、商用に向けた本格的な検討を開始しているという。
DX を目指す企業ニーズはますます多様化し、適材適所のマルチ AI 化も進むだろう。より最適な生成 AI/データ分析基盤を提供するため、今後アイレットでは上流工程(ビジネス・業務視点)からのコンサルティングサービスをこれまで以上に強化していくという。
DX は企業だけでなく、国や地方自治体といった公共分野でも重要なテーマとなっている。実際、公共サービスの基盤として Google Cloud を採用するケースも増えている。経済産業省・NEDO が主導する「GENIACプロジェクト」という日本国内の基盤モデル開発力の向上を目的にしたプロジェクトにおいても、アイレットと Google Cloud の2社で計算資源の提供や各種技術支援を行っている(※3)。「アイレットは公共分野での提供実績も多い。そのノウハウと経験、これまでの実績を生かし、国や地方自治体の DX 化を共に支援していきたい」と和泉氏は展望を語る。
※3 出典:GENIAC
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/geniac/index.html
今後、生成 AI/データ活用のすそ野はさらに広がっていくはずだ。しかし生成 AI も魔法ではない。必要なデータを集約あるいは連携できなければ期待した結果は得られない。「生成 AI で結果を出すには、それを含めたエコシステム全体の整備が不可欠です。セキュリティーやガバナンスを担保しながら安全・安心に、どうデータを組み合わせて正しい答えを導いていくか。これは会社としてのフレームワークを再定義するのと同義といえるかもしれません」(石積氏)。
アイレットと Google Cloud は今後も強固な協力体制のもと、互いの強みを融合させた相乗効果で、お客様の持続的な成長を支えるイノベーションの創出を支援していく考えだ。
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