平成28年に公布・施行された「官民データ活用推進基本法」により、国および地方公共団体はオープンデータに取り組むことが義務付けられ、各自治体でオープンデータの整備が進んでいます。

そのような中で、沖縄県庁様は一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター様(以下、ISCO 様)を代表とするコンソーシアムと委託契約を結び、沖縄県内の自治体や民間事業者が整備するオープンデータを公開する総合データプラットフォーム「沖縄オープンデータプラットフォーム(以下、沖縄 DPF )」を2023年3月にリリース。サイト構築に関わる要件定義・設計・支援業務をアイレットが支援させていただきました。

導入事例:沖縄県のオープンデータ利活用を促進!データカタログサイト BODIK ODCS 内データの自動取得と分かりやすい BI を構築

本プロジェクトの背景にあった課題や狙い、取組の成果について、沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課の野原 快太様と下地 広道様、ISCO の村井 豊一様、アイレット クラウドインテグレーション事業部の橘 弘樹にインタビューを行ないました。

沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課
野原 快太様

沖縄県 商工労働部 ITイノベーション推進課
下地 広道様

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO) データドリブンセクション
村井 豊一様

アイレット株式会社 クラウドインテグレーション事業部
橘 弘樹

産業 DX 推進の“エンジン”となる、オープンデータ利活用の推進を目指す

— 本日はよろしくお願いいたします。はじめに、沖縄県庁様がオープンデータ活用を推進した背景にある狙いや課題意識を教えてください。


沖縄県は2022年に、沖縄の将来像・あるべき姿を描き、その実現に向けた計画を示す「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画(沖縄振興計画)」を策定しました。その中で豊かな未来を作るために必要な取組として、産業 DX を大きな柱の一つにしています。

私たちは民間事業者とコラボレーションしながら県内の産業振興を図っていくことを目指しているのですが、やはり DX の過程においては企業のデータ活用を推進することが欠かせません。そのような大きな潮流の中で、今回のデータ活用プラットフォーム構築事業が立ち上がりました。


さらに大きな視点で申し上げると、「官民データ活用推進基本法」が公布・施行され、国および地方公共団体はオープンデータに取り組むことが義務化されました。しかし、当時の沖縄県は都道府県別の市町村オープンデータ取組率が低く、企業のデータ活用促進に課題を抱えていました。

だからこそ、データを集めて公開することはもちろん、それだけでなくデータを使うことのメリットやデータの使い方を具体的にイメージできるようなコンタクトサイトが必要だと考えたのです。そのような狙いのもと、委託先の ISCO さんと連携しながら、オープンデータを公開する総合データプラットフォーム「沖縄 DPF」の構想を固めていきました。


ISCO はデータとデジタル技術の活用を通じて、県内産業界の課題解決と新たな価値創造を促進することをミッションに掲げている産業支援機関です。今後の産業振興、事業者の売上拡大・雇用促進を実現するためには、データドリブン経営のさらなる認知向上を図っていかなければならないという課題意識を持っていたので、データプラットフォーム構想はまさに私たちが目指す世界と通じるものがありました。

使いやすい UI/UX を追求し、具体的な事例を掲載することでデータ活用のハードルを下げる

— 今回リリースした沖縄 DPF の特徴を教えてください。


いわゆるカタログサイトと呼ばれるオープンデータ公開の機能に加えて、民間事業者がオープンデータをビジネス活用した事例を紹介しています。カタログサイトについては、ただ単にデータセットを置くのではなく、データをグラフで可視化し、誰でも理解しやすく使いやすい UI/UX を実現しています。また、オープンデータ公開は基本的に各市町村で個別に取り組む形になっているため、市町村ごとにページが別々に作られていることも少なくありません。

しかし、それでは活用がしにくいことから、沖縄 DPF はオープンデータに取り組んでいる各自治体のデータを集約して掲載しています。さらに現在も拡充中ではありますが、民間事業者にもデータ公開を働きかけ、公開可能なデータを提供していただくことで、官民問わずさまざまなデータを集めている点も特徴です。


事例に関しては、2022年に宿泊業、小売業、観光業の合計5社の支援事例を掲載しています。具体的には自社の POS データとオープンデータを掛け合わせて販売戦略に役立てたケースや、人口統計データを分析してマーケティング施策を立案したケースなどがあります。今年度も引き続き事例数を増やしていく予定です。


オープンデータの活用事例をカタログサイトに掲載するケースは、他の地方自治体ではあまり見られない取組ですよね。


そうですね。民間事業者が自社の具体的なデータ活用方法をカタログサイトで公開することは、従来であればなかなかハードルが高いのではないかと思います。そこで私たちは、事業者に直接訪問して事業の目的をご説明し、共感していただいた上で支援させていただくという段取りで進めました。そもそも、県や市町村が民間事業者に対してデータ活用を支援しているケースが珍しいかもしれませんね。事業者の皆様の協力なくして成り立たない活動なので、そういう意味では非常にチャレンジングな取組だったと思います。


— 今回のプロジェクトで、アイレットにはポータルサイト構築に関わる要件定義・設計・支援業務をご依頼いただきました。アイレットにどのようなことを期待していましたか?


そもそもカタログサイト「BODIK ODCS」の基盤の上にサイトを構築するという実績がなかったので、前例のないチャレンジをしなければなりません。ただし、行政からリリースされるサービスなので、誰が見ても使いやすく、間違いのないものにする必要がありました。それらを踏まえて、アイレットさんには先進性と品質の確保を両立していただくことを期待していました。


ありがとうございます。私たちもオープンデータのプラットフォーム化は非常に社会的意義のあるプロジェクトだと感じたので、精一杯ご支援したいという強い思いでスタートしました。


— プロジェクトを進める中でどのような点に苦労しましたか?


何をどのように作るか?何が正しいのか?という企画の初期段階から参加させていただく中で、かなり濃密なディスカッションを繰り返しながら作るものを決めていった印象があります。最終的なアウトプットはシンプルな形に落ち着いているのですが、そこに辿り着くまでの議論の過程がこのプロジェクトで一番大変だったポイントであり、結果として価値のあることだったと思います。


そうですね。理想のイメージを共有した上で、何度も議論を繰り返して、実現可能な落としどころを見つけて、なおかつ使いやすいインターフェースを追求していく。その粘り強いプロセスを経たからこそ、最良のアウトプットに辿り着くことができたと思っています。


どう作るのか?どこまでやるべきなのか?という部分で意見が分かれることもありましたが、ISCO 様がうまく舵取りをしてくださったおかげで、最適解を導き出すことができました。BODIC ODCS でカスタマイズできることの精査や、今後拡張しても使えるようにするための仕様なども、ISCO 様と議論しながら整理していきました。


それからダッシュボードについては、実際に支援した事業者にヒアリングを行ない、「これは円グラフのほうが分かりやすい」「これは棒グラフがいいね」という現場サイドの意見をデザインに反映しています。


実務に沿った使いやすい UI/UX は、今回かなりこだわったポイントですよね。

受け身の姿勢ではない積極的な“共創”のスタンスが、プロジェクト成功のカギ

— 今回のプロジェクトを通して、アイレットに対してどのような印象をお持ちでしょうか?


開発や技術の知見・経験が豊富なので、そこは非常に安心して仕事をお願いすることができました。でも、今回特に良かったと思うのは、「言われたことをやる」という受け身のスタンスではなく、「一緒に作り上げるんだ」という共創のスタンスで積極的に関わってくださったことです。時には議論がヒートアップすることもあったのですが(笑)、同じゴールを目指していたからこそ、お互いに熱量が高い状態でプロジェクトを進めることができたのかなと思います。


そうですね、ISCO さんとアイレットさん、そして沖縄県が同じ方向を向いて積極的に連携しながら、一緒に作り上げることができましたよね。


最終的に使いやすいプラットフォームを作るという当初の目的を果たすことができたので、ご尽力いただいて感謝しています。


ありがとうございます。我々としてもただ作るのではなく、沖縄の事業者の皆様に使ってもらえるものを作りたい、課題解決につながる良いものを一緒に作りたいという思いがありました。熱が入りすぎてしまったこともありますが、中途半端なものは絶対に作らないようにしようと精一杯やらせていただいたので、そのスタンスに前向きなお言葉をいただけてとても嬉しいです。


— 最後に、今後の展望やプロジェクトに対する意気込みを教えてください。


より使いやすいポータルサイトを追求していきたいです。普段からさまざまな民間事業者を支援させていただいている中で、実務に則した貴重な意見をいただく機会がたくさんあります。今後、それをいかに具現化できるか、ここからが正念場だと思っています。


県民の方々にもっと使っていただくために、まだまだ県として取り組むべきことが多々あると考えています。ビジネスに使えるデータをもっと充実させることはもちろん、事業者の皆様がデータ活用に対して感じているハードルを下げる取組も必要です。たとえば、実務に近い事例を増やしたり、セミナーを開催したりなど、引き続き多様な施策を通して「このポータルサイトを見ればデータ活用の一歩を踏み出せる」という状態を目指したいと思います。


昨年からこの取組を継続していく中で、やはり活用できるデータを増やすことが非常に大切だと感じています。そのためには、より多くの行政のデータを公開することだけでなく、民間事業者が持っているデータを提供いただくことも必要になってきます。もちろん、自社が持っているデータを公開することに抵抗がある事業者もいると思いますが、多種多様な事業者がデータを共有し合うことで、これまでにない価値が生まれたり、より高度な課題解決にチャレンジできたりする可能性があります。

地域のためにデータを活用していただくことで、沖縄の産業がさらに活性化し、それが皆様の利益向上にもつながる。そのような地域連携の視点をご理解いただけるよう、私たちが率先して意識変革に取り組んでいかなければならないと思っています。


今回のプロジェクトはようやくスタート地点に立った段階だと思いますので、これからさらに民間事業者のデータ活用が進み、沖縄県の産業が盛り上がることを楽しみにしております。これからも新しい分析や予測などにチャレンジされていくと思いますので、またアイレットでご支援できる機会があれば非常に嬉しいです。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!