はじめに

現在、IT業界では生成AIの活用が急速に進んでおり、エンジニアの働き方が大きく変わろうとしています。

私自身、最近よく考えているのが、
「もともとスキルを持った人がAIを使うことで、ものすごいレバレッジが効くのではないか」
ということです。

IT業界で経験を積んだ人間がAIを使うことで、大きな成果を短時間で上げることができ、その効果は経験が浅い人に比べて桁違いになる気がします。

今回は、この 「IT経験者 × AI」 で生まれるレバレッジ効果について、自分なりに整理して解説していきたいと思います。

構造は「足し算」ではなく「掛け算」

多くの人がAIの効果を「個人の能力 + AIの能力」という「足し算」で捉えがちですが、実際には「掛け算」に近いのではないかと考えています。

この構造を理解しやすいように、「料理人」と「超高性能な調理ロボット」に例えてみます。

・調理ロボット(AI)
   どんな料理でも一瞬で作れるが、「具体的な指示」がないと動けない。
   味の良し悪しは判断できない。
・人間
   ロボットに指示を出す役割。

【ケースA】料理の初心者が使う場合

初心者はレシピを知らないため、ロボットに「なんか美味しいもの作って」としか言えません。
ロボットは困って一般的なカレーを出しますが、それが本当に美味しいのか、初心者は判断できません。
(スキル 1 × AI 100 = 成果 100)

【ケースB】熟練シェフが使う場合

シェフは「玉ねぎを飴色になるまで炒めて、スパイスはクミンを多めに、隠し味にコーヒーを少し入れて」と具体的かつ的確な指示が出せます。
さらに、出来上がったものを見て「もう少し塩を足そう」と修正もできます。
(スキル 100 × AI 100 = 成果 10,000)

このように、基礎スキルが高いほど、AIという増幅装置の効果を最大化できることになります。

なぜ経験者ほどレバレッジが効くのか?

では、具体的に「経験者」の何がこの違いを生んでいるのでしょうか?
大きく分けて以下の3つのポイントがあると考えています。

  • 言語化能力(問いの質)
  • 目利き力(レビュー力)
  • 抽象化能力(統合力)

これらを、経験が少ない人(初心者)と充分な経験を持った人(熟練者)で比較してみます。

初心者と熟練者のレバレッジ比較

項目 経験が少ない人(初心者) 充分な経験を持った人(熟練者)
指示の出し方
(言語化能力)
「いい感じのコード書いて」
→ AIは無難で汎用的な回答しか返せない
「Reactの〇〇パターンを使って、再レンダリングを防ぎつつ実装して」
→ 文脈(コンテキスト)を伝え、高品質な回答を引き出す
品質の判断
(目利き力)
AIが出した答えが正しいかわからない
→ バグが含まれていてもそのまま採用してしまう
コードを一目見て「使える・使えない」を即座に判断できる
→ レビュー速度が圧倒的に速く、手戻りがない
全体設計
(抽象化能力)
部品を作っても、どう繋げればいいかわからない
→ 結局動かない
システム全体の設計図が頭にある
→ AIに作らせたバラバラの部品を一つの機能として組み合わせることができる

役割の変化

熟練者がAIを使うとき、その役割は「手を動かす作業者」から「指示を出す指揮官」へと変化します。

今まで → 自分でレンガを一つ一つ積んでいた。
これから → 設計図を引き、「あそこにレンガを積んで」とロボットたちに指示を出す。

経験者は、AIという「優秀だが指示待ちの部下」を大量に抱えているような状態になります。
的確な指示さえ出せれば、一人でチーム単位の成果を出すことも不可能ではないということです。

まとめ

AIは仕事を奪う脅威として語られることもありますが、スキルを持ったプロフェッショナルにとっては、自身の専門性を物理的な時間の制約から解放してくれる最強のパートナーとなります。

AIの効果は「掛け算」。元のスキルが高いほど成果は爆発的に伸びる。
「言語化」「目利き」「抽象化」の3つの能力がレバレッジの鍵。
経験者は「作業者」から、AIを操る「指揮官」へと進化する。

これからも、AIに使われる側ではなく、AIを「知的なレバレッジツール」として使いこなす側になれるように、基礎的な技術力を磨いていきたいと思います。