はじめに
Global Solutions事業部の緒方です。
AWS re:Invent 2024に現地で参加しています。
今回は[PRO204 | Swimming Australia and AWS power elite outcomes]に参加しましたので内容を紹介します。
AWS re:Invent 2024とは
AWSが主催する年次カンファレンスで、主にクラウドコンピューティングに関する最新情報を発表し、エンジニアに限らず様々なロールの人や様々な業種の企業が集う大規模イベントです。2024年は12月2日から12月6日にかけて、アメリカ・ラスベガスで開催されます。
セッション
セッション概要
PRO204 | Swimming Australia and AWS power elite outcomes
In this session, explore how Swimming Australia collaborated with AWS Professional Services to create training insights. Learn how using AWS Panorama helped them perform real-time computer vision (CV) inference at the edge. Discover how insights generated using AWS AI/ML services directly assist some of the world’s best swimmers in enhancing their training and competition performances.
このセッションでは、Swimming Australia が AWS プロフェッショナルサービスと連携してトレーニングに関する洞察を作成した方法を紹介します。AWS Panorama を使用することで、エッジでリアルタイムのコンピュータービジョン (CV) 推論を実行できた方法を学びます。AWS AI/ML サービスを使用して生成された洞察が、世界トップクラスの水泳選手のトレーニングと競技のパフォーマンスの向上にどのように直接役立つかをご覧ください。
Jess Corones, General Manager of Performance Support and Olympic Campaign, Swimming Australia
Paul Devlin, Global Sports BD, AWS
Annie Naveh, Senior Data Scientist, AWS
セッション内容
今年初めのパリオリンピックで、ジェス率いるオーストラリア水泳チームが金メダル 7 個を含む水泳で 18 個のメダルを獲得するなど、非常に成功した結果となったと言っていました。また、ライバルであるアメリカの水泳チームに金メダル 1 個及ばないという肉薄した結果だったと言っていました。
オーストラリア水泳連盟はが2018年から AWS と共同でテクノロジー戦略を展開しているそうで、水泳界では前例がなかったそうです。
機械学習、リアルタイム分析、予測分析を活用して、選手のパフォーマンス向上を図ったそうです。以下はそれぞれのポイントをまとめました。
機械学習:水泳選手の動きを検出・追跡するためにカスタム機械学習モデルを開発し、選手がターンを行う際に壁に触れる瞬間を正確に把握できるようになった。また、呼吸、キックなどの動作を検出するためのモデルも開発中。
リアルタイム分析:「Training Insights」システムでは、エッジデバイスを使用してビデオ映像をリアルタイムで処理し、距離、時間、速度などの重要な指標を計算し、すぐにフィードバックを提供できるようになった。
予測分析:選手のパフォーマンスに関するデータを解析し、パフォーマンス改善のための洞察を提供すること。
トレーニングプールの重要性とコーチからの即時フィードバックがアスリートに与える効果について、以下が紹介されていました。
トレーニングプールの重要性: オーストラリア水泳連盟にとって最も重要な成果はレース結果ではなく、トレーニングプールから得られるものだと述べました。
ここで、トレーニングプールを、F1チームが車を整備する「ガレージ」に例えられ、スイマーが毎日技術を磨く場所と紹介されていました。この例えは、re:Invent前月にF1グランプリがラスベガスで開催されたからでしょうね。わかりやすくするための例えで、詳しくない分野の例えが挙がったのは、現地参加の醍醐味と言えそうですね。
即時フィードバックの重要性: フィードバックのタイミングとその提供方法が、アスリートにとって非常に重要であることが強調されていました。アスリートは自分の直前の行動とフィードバックを関連付けやすくなります。息があがるような激しいスポーツをしていると、時間が経った後にアドバイスされてもどのプレーのことかわからないことってありますよね。FBはすぐにもらいたいものです。
フィードバックの感情的効果: 即時フィードバックは、批判的なフィードバックによる感情的な負担を減らし、より客観的に受け入れられる方法として有効らしいです。後で言われるよりすぐ言われたほうが、気分は落ちないんですね。なんとなくわかるような気がしました。
コーチがデータに基づいた効果的な指導を行うために、分析の重要性が話されていました。
データ提供の迅速化:トレーニング中のアスリートのパフォーマンスをリアルタイムで分析し、コーチに迅速に渡すこと
有意義なKPIの選定:すべての指標が有用ではないため、コーチの意見より選定する必要がある
トレーニングプールでのリアルタイム分析の実装時の課題が話されていました。
複数のスイマー:トレーニング中、1つのレーンに2~8人のアスリートがおり、個々のパフォーマンスを正確に把握できない
多様なトレーニング:自由形だけでなく、さまざまな練習方法や泳法が行われるため、データの取得が困難になる
不十分なインターネット環境:トレーニング施設ではインターネットの帯域幅が限られていて動画のリアルタイムでストリーミングが難しい
課題解決のために「Training Insights」というシステムを用意したそうです。使用方法が話されていました。
トレーニング準備
・コーチやスタッフは、アスリートの名前やレーン配置、水着の種類などのメタデータを手動で入力
・カメラのキャリブレーションを確認し、カメラが正しい位置にあるかを確認
トレーニング中
・アプリで「開始」ボタンを押すと、映像がパイプラインを通り処理され、ほぼリアルタイムでパフォーマンスデータが出る
・コーチは、アスリートのリアルタイムデータを見ながら、データに基づいた指導を行う
トレーニング後
・「停止」ボタンで処理を終了させ、計測されたメトリックやメタデータを確認し、必要に応じて手動で修正してからデータを保存
構成について話がありました。簡単に以下に記載します。
カメラ:プール上方に設置されたカメラでスイマーの鳥瞰映像を撮影。
エッジ処理:AWS Panoramaエッジデバイスで映像をローカル処理
機械学習パイプライン:スイマーの検出や動作追跡を行い、KPIを算出
アプリ:メトリックはAmazon SQS経由でApp Runnerに送信され、コーチがリアルタイムで確認
データストレージ:トレーニング後、データはAmazon S3に保存
シンプルで良い構成だと思いました。
エッジデバイスで映像を処理することでインターネット帯域の制限を解決したそうです。
トレーニングデータを、軽量なテキスト形式でエッジからクラウドに転送しているとのこと。データはAmazon SQS経由でアプリに送信され、コーチが使いやすい形にフォーマットされているそうです。
ターン時の壁の接触を検出する機械学習モデルがよくできていると強調されていました。従来のストップウォッチによる方法よりも優れているとの説明がありました。壁接触を0.08秒以内に特定することで、人間の反応時間を超える正確なデータ収集が可能になり、コーチがアスリートに対してより正確なフィードバックを提供できると述べました。
ストローク率や泳いだ距離など既存の指標に加え、呼吸のタイミングやキックの効率を検出するモデルを今後作っていくそうです。
さいごに
データ活用の有効な事例と用途によってはリアルタイムフィードバックが重要であることを再認識しました。AI導入に課題があっても今回のようにエッジデバイスや機械学習モデルを活用し解決した点が印象的でした。またスポーツの世界でテクノロジーがどのように進化を支えているのかを知る良い機会となりました。今後、日本でも、さらにこうした活用が普及するといいですね。