はじめに
多くのシステム運用現場では、監視対象の増加に伴いアラート通知数が増加し、対応負荷が増大するという課題があります。重要なアラートが他の通知に埋もれて見逃しがちになったり、対応に時間がかかったりするケースも少なくありません。
PagerDutyを利用していても、デフォルトの設定やグルーピング機能を使っていない場合、下記のように関連するインシデントが個別に複数起票されてしまうことがあります。これはまさにアラートがグループ化されていない状態で、インシデントリストが溢れ、全体像の把握や対応に追われてミスが発生する原因の一つと考えられます。
※アラートをグループ化しない場合、関連する事象が個別のインシデントとして複数起票されてしまう例(テスト環境)
こうした状況を改善する一つの方法として、PagerDutyの「Intelligent Alert Grouping」という機能があります。この機能は、まさに関連アラートを賢くグループ化してくれるものです。本記事では、この機能が具体的にどのようなもので、どんなメリットや活用上のポイントがあるのかを紹介します。
そもそもPagerDutyのアラートグルーピングとは?
まず基本情報ですが、PagerDutyのアラートグルーピングは、関連性の高い複数のアラートを自動的に一つのインシデントにまとめてくれる機能です。
先ほどの「グループ化しない場合」の例のように個別のインシデントが多数起票されるのではなく、関連アラートがまとめられることで、通知ノイズが減り、インシデントの全体像を把握しやすくなります。
PagerDutyにはいくつかグルーピングの方法がありますが、本記事では特に「Intelligent Alert Grouping」に焦点を当てます。
「Intelligent Alert Grouping」とは?
Intelligent Alert Groupingは、PagerDutyが持つ機械学習アルゴリズムを活用した高度なグルーピング方法です。この機能では、AIがインシデントの類似性と、過去の運用担当者による手動でのインシデントマージ/アンマージといったフィードバックを基に、アラートをグループ化するためのルールを継続的に学習・管理します。
具体的には、以下のような情報を分析し、アラート間の関連性を見つけ出して自動でグルーピングが行われます。
- アラートの内容: エラーメッセージの類似性など
- 発生タイミング: アラートが立て続けに発生しているか
- インフラ情報: 同じホストやサービスから発生しているか
- 過去のインシデントデータ: 過去に類似のアラートがどのようにグループ化されたか(手動操作含む)
手動で複雑なルールを細かく設定・維持しなくても、PagerDutyがある程度自動でグルーピングルールを最適化してくれる可能性がある点は、運用負荷軽減の観点から大きなメリットと言えるでしょう。
実際に、この機能を使うことで、冒頭で示した「グループ化しない場合」とは異なり、複数の関連アラートが発生した場合でも、下記のようにAIが関連性を判断し、1つのインシデントとして自動で集約されることが期待できます。
※Intelligent Alert Groupingによってアラートがグループ化された例(テスト環境)
ただし、AIはアラートの類似性に基づいて判断するため、導入初期やデータの少ない段階では、意図せずグループ化されたり、逆にグループ化されなかったりすることがあります。
そのため、フィードバックをAIに学習させ、グルーピングの精度を継続的に高めていくアプローチが必要になります。
参考までに、他のグルーピング方法についても触れておきます。
(参考)他のグルーピング方法
- Content-Based Alert Grouping: アラート内の特定の文字列が一致した場合にまとめるルールベースの方法。特定のパターンを確実にまとめたい場合に有効と考えられますが、ルールの設定・管理が必要です。
- Time-Based Alert Grouping: 一定時間内に発生したアラートを単純にまとめる方法。大量アラートの抑制には役立ちそうですが、関連性の低いものまでまとめてしまう可能性が考えられます。
Intelligent Alert Groupingを主軸に考えつつ、これらの方法と組み合わせて利用することも可能です。
Intelligent Alert Grouping導入で期待される効果
もしこの機能を導入した場合、以下のような効果が期待できると考えられます。
- ノイズ削減による集中力向上: 不要な通知(特に個別のインシデント通知)が減り、重要なインシデントへの集中が可能になる。
- 状況把握の迅速化: 関連アラートがまとまることで、インシデントの影響範囲や状況を素早く理解できる。
- 根本原因特定の支援: グループ化された情報から、問題の根本原因特定が容易になる可能性がある。
- インシデント解決時間の短縮: 対応の効率化により、サービス復旧までの時間短縮が期待される。
- 通知対応の負担軽減: インシデント数が適切に抑えられることで、担当者の運用負荷や精神的なストレス軽減につながる。
設定と、導入検討にあたって考慮したい点
基本的な設定自体は、サービス設定画面で機能をオンにするだけで比較的簡単なようです。しかし、導入を検討する上では、以下の点も考慮に入れる必要がありそうです。
- 学習期間と初期精度: 前述の通り、効果を発揮するには学習期間が必要です。導入初期の精度については、過度な期待はせず、評価期間を設ける必要がありそうです。
- 意図しないグルーピングの可能性: 機械学習の判断が、人間の意図と常に一致するとは限りません。関連性が低いアラートがまとめられたり、逆にまとまって欲しいものが別々になったりする可能性は考慮すべきです。
これらの点を踏まえると、導入後もグルーピング結果を定期的に確認し、評価・調整(フィードバック)していく運用が重要になると考えられます。
まとめ
今回紹介したPagerDutyの「Intelligent Alert Grouping」は、多くの運用現場が抱えるアラート対応の負荷増大という課題に対し、機械学習を用いてインシデントを集約することで、対応の効率化や運用負荷の軽減に貢献する可能性のある機能です。
一方で、その効果は学習データやフィードバックに依存する側面があり、意図しないグルーピングが発生する可能性も考慮に入れる必要があります。導入効果を最大化するためには、機能の特性を理解し、運用を通じたフィードバックによって精度を高めつつ、継続的な評価と調整を行うことが重要となります。