はじめに
現在、EC2インスタンスで多数のWebサイトを運用していませんか。
ドメインが増えるたびに設定が複雑化し、サーバー管理の手間も増大するという悩みを抱えている方は多いかもしれません。
この記事では、そうしたEC2運用の課題に対する有力な解決策として、AWS Fargateへの移行を前後編にわたってご紹介します。
前編の本記事では、まず、現状のEC2運用で多くの方が直面している可能性のある具体的な課題を整理します。
そしてEC2を分割する案と比較しながら、Fargate移行がなぜ有力なのか、そのメリットを詳しく解説します。
【後編】そのEC2運用、限界かも? Fargate移行がもたらす圧倒的なメリットとは:メリット検証編
EC2運用の課題
従来のオンプレミスを踏襲しているようなEC2運用には、いくつかの根深い課題が存在します。
- ドメイン過多・密結合:
- 単一あるいは少数のEC2インスタンスへ多数のドメインが集約されています。
- これにより、あるドメインの設定変更が他のドメインへ予期せぬ影響を与えるリスクが高まります。
- 障害発生時の影響範囲特定や切り分けも困難です。
- 各ドメインのリソース使用状況が異なるにも関わらずリソースが共有されるため、無駄が発生しやすい状態です。
- 設定・運用の複雑化:
- Webサーバー(ApacheやNginxなど)の設定ファイルは肥大化し、バージョン管理もされていないケースが見られます。
- ドメインごとのSSL/TLS証明書の管理は煩雑です。
- ログはサーバー内に散在し、調査や分析に時間がかかります。
- 保守リスクと工数:
- 仮想ホスト設定やリダイレクトルールが複雑に絡み合い、保守作業は困難を極めます。
- サーバーへ直接SSH接続し、
vi
エディタなどで設定ファイルを直接編集する作業は、タイプミス一つでサービス全体を停止させるリスクを常に伴います。変更前の状態に戻すのも一苦労です。 - OSのパッチ適用やミドルウェアのアップデート作業も、全ドメインへの影響を考慮する必要があり大きな負担です。
- リソース効率の悪化:
- 多くのドメインを捌くため、インスタンスはピーク時に合わせたオーバースペックになりがちです。
- 実際のCPU使用率が低いまま推移したり、メモリ使用率の変動が少なかったりする場合、リソースを持て余しコストの無駄が生じている可能性があります。
- 硬直性:
- 新しい技術スタックの導入やドメインの追加・削除は、既存環境への影響を考えると容易ではありません。
- インフラの変更に高いコストと時間がかかるため、ビジネスのスピードへの追従が難しくなります。
これらの課題は、結果的に運用コストの増大、サービス提供の遅延、セキュリティリスクの増加へと繋がります。
根本的な問題点
これらの課題の根底には、主に二つの問題が存在すると考えられます。
- ドメインの過度な集約: 本来分離すべきドメインや環境を、一つのサーバーへ集約してしまっていること。
- 手動による複雑な設定管理: 設定変更の履歴追跡や再現性の確保が難しい、手作業中心の運用であること。
解決策の検討
これらの課題を解決するため、どのようなアプローチがあるでしょうか。
ここでは、二つの案を比較検討します。
案1:EC2 分割 (1 EC2インスタンス ≒ 1ドメイン)
一つの方法は、ドメインごと、または関連性の高いドメイン群ごとにEC2インスタンスを分割するアプローチです。
メリット | デメリット |
---|---|
ドメイン間の論理的な分離性が向上する | サーバー管理対象の台数が増加する |
ドメインごとにリソースを最適化できる可能性がある | 依然としてOSパッチ適用やMW更新、監視設定などの運用負荷が台数分増加する可能性が高い |
各インスタンスのセキュリティ対策も個別に必要となる | |
結果的に、保守リスクや工数が別の形で増大する恐れがある |
この案はドメイン間の分離性を高めますが、サーバー管理の根本的な負担は解決されず、むしろ悪化させる可能性があります。
案2:ECS Fargate (コンテナ化とサーバーレス化)
もう一つの方法は、アプリケーションをコンテナ化し、AWS Fargate上で実行するアプローチです。
Fargateは、サーバーやクラスターの管理が不要なサーバーレスコンピューティングエンジンです。
メリット | デメリット |
---|---|
サーバー(OS)管理が不要になる | コンテナ技術(Dockerなど)の知識習得が必要となる |
負荷に応じた自動スケーリングが可能になる | 既存アプリケーションのコンテナ化適合性確認や修正が必要になる場合がある |
環境構築と設定ファイルをコード化(Dockerfile)、Git管理で再現性向上・ミス削減 | コンテンツ更新フローの見直しが必要になる場合がある(例: SFTPからの脱却) |
ACM、ALB、CloudWatchなど他のAWSサービスとの連携が容易になる | 初期設計や移行作業に関するコストが発生する |
この案はコンテナ技術の習得や初期移行コストが必要ですが、サーバー管理の負担を大幅に削減し、多くのメリットを享受できる可能性があります。
EC2 分割 vs ECS Fargate 比較
両案を、課題解決の観点から比較してみましょう。
観点 | EC2 分割 | ECS Fargate | 備考 |
---|---|---|---|
サーバー管理 | 負担増(台数増加) | 大幅削減(AWSマネージド) | Fargateの大きな利点 |
保守性 | 低(各個対応) | 高(Dockerfile) | 安全な設定変更・ロールバック |
スケーリング | 別途Auto Scaling Groupを作成することで可能 | 自動(ECS Service Auto Scaling) | リソース効率、コスト最適化 |
リソース効率 | 部分的な最適化は可能だが限定的 | 高(タスク単位でのリソース指定、自動スケール) | 無駄なコストを削減 |
俊敏性 | 低(インフラ・設定変更が大変) | 高(コンテナ、コードによる構成管理) | ビジネス変化への対応力向上 |
AWS連携 | 個別に設定、必要に応じて追加開発 | 容易(初めから他のAWSサービスと密接に連携するように設計されている) | 証明書、ログ監視など効率化 |
移行難易度 | 中(サーバー構築、スクリプト修正など) | 高(コンテナ化、学習コスト、設計、アプリケーション改修の可能性) | 初期投資、スキルシフトが必要 |
コスト | 運用コスト増の可能性、サーバー費用は台数依存 | 実行時間やリソース量に応じた従量課金、スケールメリットで最適化可能 | 使い方次第でEC2より安価になる可能性もある |
比較するとEC2分割案は現状の課題を部分的にしか解決できず、むしろ運用負荷を増大させる懸念があります。
一方、ECS Fargateはサーバー管理からの解放、自動スケーリング、環境標準化といったメリットにより、現状の課題を根本的に解決できる可能性を秘めています!
Fargate 移行がもたらすメリット
Fargateへ移行することで、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。
- サーバー管理不要 → 運用負荷とリスクが激減!
- OSのパッチ適用やセキュリティアップデート、サーバーの障害対応といったインフラ管理作業から解放されます! AWSが責任を持って基盤を管理してくれます。これにより、エンジニアはアプリケーション開発や改善に集中できます。
- 自動スケーリング → リソースとコストを最適化
- CPU使用率やリクエスト数などのメトリクスに基づいて、コンテナ(タスク)の数を自動で増減できます。
- アクセスが少ない時間帯は最小限のリソースで稼働させ、ピーク時には自動でスケールアウトするため、リソースを無駄なく効率的に利用できコスト最適化に繋がります。
- 環境標準化 (Dockerfile) → 設定ミス削減と再現性向上
- Dockerfileというテキストファイルに、アプリケーションの実行環境構築手順をコードとして記述します。
- これにより、開発環境から本番環境まで一貫した環境を容易に再現でき、設定ミスによる問題を削減できます。「自分のPCでは動いたのにサーバーでは動かない」といった問題を防ぎやすくなります。
- DockerfileのCOPY命令を使えば、Apacheの httpd.conf やPHPの php.ini といった、従来はサーバー内で直接編集されがちだった設定ファイルも、Dockerfileと一緒にコードとして管理できます。また、関連する設定ファイルをGitリポジトリに集約でき、見通しが良くなります。
まとめ(前編)
本記事(前編)では、単一EC2で多数のドメインを運用する際に発生しがちな課題と、その根本原因について解説しました。
解決策としてEC2分割案とECS Fargate移行案を比較し、Fargateが持つ多くのメリットを示しました。特にサーバー管理負荷の軽減、自動スケーリング、環境標準化といった点で優位性があります。
しかし、これらのメリットは本当に享受できるのでしょうか。
後編では実際にFargate環境を構築し、各メリットが本当に実現できるのかを検証していきます。
【後編】そのEC2運用、限界かも? Fargate移行がもたらす圧倒的なメリットとは:メリット検証編
参考ドキュメント
AWS Fargate
https://aws.amazon.com/jp/fargate/
Amazon ECS
https://aws.amazon.com/jp/ecs/
Dockerfile reference
https://docs.docker.com/engine/reference/builder/