はじめに

RDSの「マイナーバージョン自動アップグレード」機能は、サービスを常に最新かつ安定した状態に保つための便利な仕組みです。

一方で、その動作仕様を理解していないと、想定していないタイミングでバージョンアップが実施されてしまう場合があります。本記事では、実際に発生した事例を踏まえながら、RDSの「マイナーバージョン自動アップグレード」を正しく理解するためのポイントを整理してご紹介します。

自動アップグレードは「いつ」実施されるのか

マイナーバージョンの自動アップグレードは、どのようなタイミングで実施されるものかご存知でしょうか?
既存バージョンのサポート終了が近づいたときや、重大な脆弱性が見つかった場合に実行されるもの、という認識をされている方が多いのではないでしょうか。
こうした認識は誤りではありませんが、実際にはより広い観点でのアップグレード管理が行われているため、
運用側が想定していないタイミングでアップグレードが行われる可能性があります。
実際に発生した事象を例に、どのように自動アップグレードが動作したのかを見ていきます。

自動アップグレードが実行されたケース

2025年11月に本番環境で運用していたRDS for MySQL(8.0.40)が、メンテナンスウィンドウ中に8.0.42へ自動的にバージョンアップされました。
しかし、以下の状況であったため自動アップグレードが実施された原因が不明でした。
・事前にバージョンアップ設定はしていない
・8.0.40はサポート終了の対象バージョンではない
・重大な脆弱性情報の通知などはない
AWSサポートへ確認したところ、次の回答を得ました。
====================================================
今回の事象は、マイナーバージョン自動アップグレード機能によるものです。
AWS側で管理されている「自動アップグレード候補バージョン」のターゲットが8.0.42に更新されたことが要因で、AWSはどのバージョンが自動アップグレード対象となるかを内部的に管理しています。
これはサービス品質の維持やバグ修正など、AWS側の総合的な判断で設定されており、必ずしもサポート終了と連動しているわけではありません。
アップグレード対象のバージョンについては、以下CLIで確認可能です。
以下結果から、8.0.42が自動アップグレード対象(True)となっていることが判断できます。

## 東京リージョンのMySQLマイナーバージョン8.0.40における自動アップグレード対象の確認

~ $ aws rds describe-db-engine-versions \
  --engine mysql \
  --engine-version 8.0.40 \
  --region ap-northeast-1 \
  --query "DBEngineVersions[*].ValidUpgradeTarget[*].{AutoUpgrade:AutoUpgrade,EngineVersion:EngineVersion}" \
  --output text
False   8.0.41
True    8.0.42
False   8.0.43
False   8.0.44
False   8.4.3
False   8.4.4
False   8.4.5
False   8.4.6
False   8.4.7
~ $ 

参考ドキュメント:参照元:RDS for MySQL のマイナーバージョンの自動アップグレード

自動アップグレード候補の情報が更新された際に、Health Dashboard等での通知はありませんが、RDSイベント「RDS-EVENT-0155」 が発生します。

RDS event ID – RDS-EVENT-0155
Category – maintenance
Message – The DB instance has a DB engine minor version upgrade available.

このイベントが発生した場合、次回メンテナンスウィンドウでアップグレードが実行される可能性が高いです。
イベントの検知については、以下の方法を活用しメール通知などでの確認が可能です。

① RDSイベントサブスクリプションを利用
RDSのイベントサブスクリプションで「maintenance」カテゴリを選択することでイベント発生時に確認は可能です。ただし、RDSイベントサブスクリプションでは、”RDS-EVENT-0155″ 以外のmaintenanceイベントも通知対象となる点に注意です。

② EventBridgeを利用
EventIDが「RDS-EVENT-0155」だけをフィルタすることで、対象イベントのみの通知が可能です。

これらの方法でアップグレードのタイミングを事前に把握することは可能です。もしアップグレードタイミングをユーザ側で完全にコントロールしたい場合は、マイナーバージョン自動アップグレードを無効化し、都合の良いタイミングでの手動アップグレードを推奨します。

おわりに

自動マイナーバージョンアップ利用時に、押さえておくべきポイントは次のとおりです。
 ・自動アップグレード対象のバージョンはAWSが随時管理
   → 対象バージョンは「サポート終了バージョン」とは連動せず、Health Dashboard等での通知はなし。
 ・自動アップグレード候補が更新された時点で RDS-EVENT-0155 が発生
   → EventBridgeやSNS通知などで、アップグレードの事前把握は可能。
 ・アップグレードタイミングを完全に統制するには、自動アップグレードを無効化
   → 特に本番環境では推奨される運用パターン。

今回のケースを通じて改めて感じたのは、「自動マイナーバージョンアップの仕組みを正しく理解したうえで、環境に応じた設定を選択することの重要性」 です。AWSの仕様は、サービス品質や安定性を高めるために設計されています。そのメリットを最大限活かすためにも、運用側がその前提を理解し、必要に応じて適切に制御する運用設計が求められます。本記事が、同じように RDSを運用されているエンジニアの方々の参考になれば幸いです。