はじめに

こんにちは、DX開発事業部の垂見です。

Google Cloud Next Tokyo 26 に参加してきました!

この記事では、「エンタープライズ システムへの AI 適用 ~ Agentic AI による企業変革の最前線」についてのレポートをお届けします。
生成AIの活用が「チャットで質問する」「個別タスクをRAGで支援する」といった段階から、業務プロセスそのものをAIエージェントが動かす段階へと移りつつある中、実際の大企業(製造業)の基幹業務でAIエージェントをどう設計し、どう定着させているのかが具体的なデモを交えて語られており、非常に学びの多いセッションでした。

セッション概要

  • タイトル:エンタープライズ システムへの AI 適用 ~ Agentic AI による企業変革の最前線
  • 登壇者
    • 藤田 一樹 氏(野村総合研究所 データイノベーション開発部・エキスパートデータサイエンティスト)
    • 清水 直樹 氏(野村総合研究所 産業ビジネス開発部・シニアシステムコンサルタント)
  • 日時・会場:Day 1(7 月 30 日)15:00 – 15:30 / Room 1(セッション ID:D1-DIA-04)
  • 紹介文(Google Cloud Next Tokyo 26 公式サイトより引用):
    2026 年、大規模業務システムにおける AI エージェントの導入による業務プロセス変革が本格化の時代を迎えました。本セッションでは、大量の社内データを集約・AI-Ready 化し、暗黙知の形式知化を実現する Gemini Enterprise を基盤とした「自律型 AI 活用(Autonomous Framework)」をご紹介します。製造業等における先進的な「Agentic Operations(自律型業務システム)」の事例を取り上げ、社会レジリエンスを支える次世代への業務変革アプローチをお伝えします。

AI活用は「個別最適」から「企業変革(AX)」へ

セッションはまず、企業におけるAI活用の現在地から始まりました。

NRIによれば、AI案件の件数は前年度比で約2倍、案件の総額は3倍超に拡大しているとのこと。
一方で、個人の判断でチャットAIを使う、単発のタスクをRAGで効率化するといった「個別最適」のフェーズにとどまっている企業も多く、
そこから一段上の「企業レベルでの活用・変革(AX:AI Transformation)」に進むには、超えなければならない「壁」があると説明されていました。

この壁を越えるには、ROIの証明や推進組織・人材の確保、AIガバナンスの整備、そしてなによりデータ整備が欠かせないという指摘は、開発現場での実感とも重なり、率直に腹落ちしました。

AIを「人手の代替」として捉えるだけでは人件費がAIコストに置き換わるだけで付加価値がむしろ減ってしまう、AIによって生まれた余力をコア業務に再配分してはじめて付加価値が向上する、というBad/Goodケースの対比も、AX(AI Transformation)を検討する上で刺さるポイントでした。

セッションでは、AIエージェント中心に業務を再設計した例として、フィールドサービス業のOrder to Cash(受注から入金まで)プロセスが紹介されました。

商談から契約、工事、請求に至る一連の業務フローに対して、オーケストレーターAIエージェントと、その配下で動く受注・工程管理・問合せ管理・請求管理などのタスク特化AIエージェントが連携し、人はBPM(Business Process Management)とAIでは処理しきれない例外対応(最小限のHuman-in-the-loop)に集中する、という設計思想です。

そして、このAIエージェントを正しく機能させるための土台として強調されていたのが「AI-Readyなデータ基盤」でした。
NRIでは、データカタログ(データの所在の目録化)→セマンティック(用語・指標の定義統一)→ナレッジグラフ(データ間の関係性の接続)→オントロジー(業務ルールの厳密化)という順で、段階的に「意味の層」を積み上げていくアプローチを取っているそうです。

いきなり完璧なオントロジーを作ろうとするのではなく、AIエージェントに任せたい業務範囲を見極めながら手前の段階から着実に積み上げる、という順序立ては、AI導入プロジェクトにありがちな「壮大な基盤構想が先行して手が動かない」状態を避ける上で参考になる考え方だと感じました。

事例1:AI-Readyなデータ基盤によるSCM・生産計画AX

ここからは、NRIが手掛けた製造業向けの具体的な事例が2つ紹介されました。

1つ目は、サプライチェーンマネジメント(SCM)・生産計画領域のAX事例です。
地政学リスクや為替変動、SNS発の需要変動など不確実性が増す中、関連部署の情報が揃うのを待っていては対応が遅れてしまうという課題に対し、全体最適AIエージェントの下に需要予測・計画策定などの専門家AIエージェント群を配置し、AI-Readyなデータ基盤を横断的に参照しながら意思決定を支援する構成が提案されていました。

デモでは、主力製品の需要急増をAIが検知すると、「無対策」「ラインの前倒し稼働」「代替サプライヤー認定とライン転用を組み合わせた複合案」など複数の対応策を自律的に立案・比較します。

数値の妥当性はもちろん人がレビューしますが、選択肢の洗い出しとインパクトの試算をAIが一気に行ってくれる点は、意思決定のスピードを大きく変えるだろうと感じます。
さらに、この提案は部門内で完結せず、調達・営業・経営企画など他部門の専門家AIエージェントとの議論・交渉を経て練り上げられ、最終的な対策案が経営承認を経て生産計画に反映される、という一連の流れがデモで示されていました。

アーキテクチャは、Google Cloud上のGemini Enterprise Agent Platformを中心に、MCP経由で接続されたシミュレーション・予測・最適化のツール群と、BigQuery上のナレッジグラフ・オントロジーによるAI-Readyなデータ基盤という構成でした。

基幹システムだけでなく議事録やマニュアルといった非構造化データまでナレッジグラフ化している点が、業務ドメインの複雑さをAIエージェントに理解させる上でのポイントだと感じました。

事例2:予知保全と技術継承による工場オペレーションAX

2つ目の事例は、製造現場における予知保全と技術継承のAXです。

製造業の生産現場では、設備のトラブルへの対応をはじめとした様々な業務が、熟練技術者の暗黙知に依存しています。
この課題に対し、熟練者の思考プロセスを実装したAIエージェントを構築し、「異常検知」から「要因分析」「対策提案」「ナレッジ作成」までを一気通貫でサポート、さらに形式知として蓄積させる取り組みが紹介されました。

デモでは、設備の異常をIoTセンサーが検知すると、予知保全エージェントが過去のトラブル事例を参照して原因の仮説と対応策を提示します。

コスト影響まで踏まえた初動対応プランが提案され、現場オペレーターの指摘を受けてコスト見積もりがその場で更新される様子も示されており、AIの提案を現場の人間が適宜ブラッシュアップしていく協業のプロセスが印象的でした。

もう一つのシーンでは、若手作業員が現場作業支援エージェントの手順ガイドとベテランとのビデオ通話の両方を受けながら作業を進め、完了後はその対話や気づきを「ナレッジ抽出エージェント」が形式知としてまとめ、ベテラン本人の承認を経てナレッジベースに蓄積されます。

一度ナレッジ化された対応事例は、次に似た異常が発生した際に予知保全エージェントが再び参照する、というフィードバックループになっている点が、この事例のもう一つの肝だと感じました。

アーキテクチャもSCM事例と同様、Google Cloud上のGemini Enterprise Agent Platformを基盤に、異常検知・根本原因分析・現場作業支援・ナレッジ抽出などの役割ごとのAIエージェントが、ナレッジグラフ/オントロジー化されたAI-Readyなデータ基盤を介して連携する構成になっていました。

まとめ

Agentic AIによるビジネス変革を実現するには、以下の3点が重要になります。

  1. AI-Readyなデータ基盤:現場を巻き込んで暗黙知を形式知化し、AIが自社の情報を正しく理解できるデータ基盤を整備すること
  2. 業務理解と技術選択:現場の業務プロセスを深く理解した上で、生成AI・予測AI・最適化AI・ルールベース処理を適材適所で組み合わせること
  3. 継続的な運用と改善:業務プロセスの中に自然な形でフィードバックループを組み込み、現場と共にAIを育て続けること

さいごに

今回のセッションを通じて印象に残ったのは、Agentic AIによる企業変革が「AIに業務を丸ごと任せる」話ではなく、AIエージェント・人・既存の基幹システムのそれぞれが得意な役割を担い直す「業務の再設計」だという点です。
SCM・生産計画の事例では複数部門をまたぐ意思決定のスピードを、工場オペレーションの事例では熟練者の暗黙知の継承を、それぞれAIエージェントとAI-Readyなデータ基盤の組み合わせで実現しようとしている様子がよくわかりました。

特に、AIエージェントの精度を高めるためのナレッジデータを地道に積み上げていく”現場の泥臭さ”には大いに共感しました。語彙のゆれを一つひとつ潰す、使われなくなった定義を剪定するといった泥臭い作業は、私が携わってきたAI活用プロジェクトでも最初の壁になりがちなポイントです。この地道な部分にこそきちんと向き合い、お客様のAX推進を支えられるよう取り組んでいきたいと思います!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!