はじめに
こんにちは、アジャイル事業部のヤマダ(北野)です。
本記事は「Introducing Kiro powers: AI agent specialization on demand (DVT228)」のセッションレポートです。
KiroのSr. ManagerであるNikhil Swaminathan氏らが、AIエージェントの新しい拡張機能「Kiro powers」について紹介されました。
概要
Excited about the launch of Kiro powers? Join this breakout session to learn how AI agents turn into experts instantly by dynamically loading powers to accelerate full-stack development and deployment. Hear from our expert and partners and see demos of powers in action.
Kiro powersの発表セッションに続く実践的な内容であり、AIエージェントが専門能力を即座に獲得し、開発・デプロイのプロセス全体をどのように効率化するかをデモを通じて具体的に学ぶためのセッションです。
Kiro powersの目的

従来のAIエージェントは、一般的なタスク(コード補完、レビューなど)は得意な「ゼネラリスト」ですが、最新のSDKや専門的なAPI連携、データベース操作といった分野では、「最新情報の不足」や「ツールの適切な使い方(オンボーディング手順)の欠如」という課題に直面していました。
Kiro powersは、この課題を解決し、エージェントを「スペシャリスト」に変えるための拡張機能です。
AIエージェントが万能ではないという前提から入っている点が現実的です。特に「ツールは知っているが、ベストプラクティスが分からない」という課題は、プロンプトエンジニアリングの限界を示しており、それをシステム側で解決しようというアプローチに説得力がありますね。
Kiro powersの仕組み:MCPとステアリングの統合
Kiro powersの核心は、既存のMCP(Model Context Protocol)と、タスクの指示やオンボーディング情報を含むステアリングファイルを統合した点にあります。
MCPだけでは不十分な理由
多くのエージェントは外部APIと連携するためにMCPを利用していますがNikhil氏は以下の問題を指摘しました。
- コンテキストロット(Context Rot):ツール(MCP)が増えるほどエージェントに与える情報が過多になり、出力品質が低下する。
- ガイダンス情報の不足:ツールがあっても、それをどう使うべきかの手順(ガイダンス)がなければ、エージェントは適切な手順を踏めない。
powersの構成

powerは、以下の要素で構成されるバンドルです。
- power MDファイル(必須):powerの核となるファイルでオンボーディング手順やワークフローを定義します。
- MCPツール(オプション):実際のAPI連携ツール。
重要なのはpowerを追加してもエージェントがコンテキスト過多にならないことです。エージェントは必要なときにだけ詳細な情報を取得するため、パフォーマンスが維持されます。
Kiro powersが「ステアリング(指示)とMCP(ツール)を組み合わせた唯一のソリューション」だという点は大きな差別化ポイントです。ツールの使い方を教えるマニュアル(power MD)とツール本体(MCP)をセットにすることで、エージェントは「何をすべきか」と「どうやるか」の両方を理解できるようになります。
パートナー統合とワンクリックインストール

Kiroは主要な開発ツールと連携し、すぐに使える「Curated powers」(キュレーションされたpower)を提供しています。
- 連携パートナー:Figma(UI/デザイン),Postman(API開発/テスト),Supabase(バックエンド/DB),Stripe(決済処理)など。
- シンプルなUX:KiroのIDEインターフェースから、これらのpowerをワンクリックでインストールできます。
1. Figma powerデモの要点
Figma powerをインストールすると、以下の設定が自動で実行されました。
- Design System Rulesの自動生成:Figmaのデザイン情報に基づいて、CSSスタイルやデザイントークンなどを生成。
- Steering Fileの自動作成:生成されたデザインルールが、エージェントのコンテキストとして常に参照されるように設定。
- デザイン実装の自動化:ユーザーが「このデザインを実装して」と指示するだけで、エージェントがFigmaのデザインを参照し、コンポーネントコードを生成。
2. Postman powerデモの要点
Postman powerの導入により、API開発とテストの自動化が大幅に向上します。
- コレクションの自動作成:コードを分析し、レポート用のエンドポイントなどに基づいてPostmanのAPIコレクションを自動生成。
- Mock環境とテストの自動化:Mockサーバーと環境変数を自動で設定し、ソースコード保存時に自動的にAPIテストが実行されるクローズドループシステムを構築。
3. Supabase powerデモの要点

Supabase powerは、データベースの専門知識がなくても、バックエンドのベストプラクティスを適用します。
- オンボーディングの自動化:Docker実行確認、CLI初期化、環境変数設定などを自動実行。
- ベストプラクティス適用:「必要なテーブルを作成して」という指示に対し、テーブル作成だけでなく、セキュリティ対策も自動適用。
- 自律的な開発:TypeScript環境を認識すると、指示なしにTypeScript型の自動生成やクライアントライブラリのインストールを実施。
- デバッグと修復:認証機能の追加時に失敗すると、Kiroが自力でDev Serverの再起動やSeedデータの再ロードを実行して修正し、アプリを完成させました。
特にSupabaseのデモはAIエージェントが「単なるコード生成機」から「知識を持った自律的な開発者」へと進化していることを示していました。ベストプラクティスを自動適用してエラーを自力で修復する能力は、今後の開発において最も大きな効率化を生むでしょう。
エコシステムと今後の展望

Kiro powersは、特定のツールに閉じない設計思想を持っています。
- 互換性:powers自体がMCPサーバーとして動作するため、将来的にはKiro以外のツール(Cursor,Cloud Codeなど)でも利用可能になる予定です。これにより、パートナーは一つのpowerファイルを維持するだけで、複数のプラットフォームに対応できます。
- コミュニティによる拡張:powerは誰でも作成可能であり、コミュニティ全体で様々なpowerが生まれることが期待されています。
- 組織向け管理機能:チームでコーディング規約をpower化し、一括で配布・管理するガバナンス機能も追加予定です。
- 自動発見機能:将来的には、エージェントがユーザーのタスクを理解し、解決に最適なpowerを自動で提案してくれるようになる見込みです。
Kiro powersのマルチプラットフォーム対応方針は開発者にとって大きなメリットです。ツールの標準化はエコシステムの拡大を促し、より多くの専門的なpowerが生まれる土壌を作ります。AIエージェントがタスクを解決するpowerを自ら探してくる未来は非常に楽しみです。
Kiro powersは今すぐ利用可能です。ヤマダはこの後速攻でFigma powerを試してきます!!