DX開発事業部の前野佑宜です。
AWS re:Invent 2025の1日目に開催された、AWS上でMCPおよびA2Aを活用したマイクロエージェントプラットフォームの構築に関するセッションに参加してまいりました。
2025年は「AIエージェント」の活用がより現実味を帯びてきた年でもあり、私自身も特に関心を寄せていたトピックでした。

本記事はそのセッションレポートです。

セッション概要

セッションでは、プルデンシャル生命保険株式会社(以下プルデンシャルと記載)において、用途別に分解されたマイクロエージェントを使った業務改善事例と、改善から学んだ教訓についての説明がありました。
同社がどのような課題を抱え、技術的にそれをどう乗り越えたか、そしてそこから何を教訓としたかについて以下で整理します。

課題

同社における課題


アドバイザーの役割は、「顧客エンゲージメントと関係構築」「ニーズアセスメントとソリューション設計」「商品教育とプレゼンテーション」「申請と引受サポート」「契約サービスとフォローアップ」など多岐にわたり、その特質上、さまざまな情報にアクセスする必要があります。ただ、顧客情報、商品説明資料、申請フォーム、データベースなどが別々に管理されているため、アドバイザーの方が複数システムを行き来しながら業務を進める、といった非効率が発生し、業務負担の増大を招いていました。

AIエージェント導入における課題



AIエージェントを導入し、全社的にスケーリングする際、同社として以下の懸念がありました。

  • AIエージェントは必ずしも全てのビジネス課題を解決するわけではない
  • 運用時、予測不可能な形でエージェントのパフォーマンスが低下してしまうこと
  • エージェントのコンテキスト管理が複雑になること

課題を技術的にどう乗り越えたのか?

この課題を、AWS GenAI Innovation Center (GenAIIC)との協業(※)で乗り越えました。

その上で、課題解決の鍵となったのは、「モジュラリティ(Modularity)」 と 「集中型プラットフォーム(Centralized platform)」でした。

マイクロエージェントアーキテクチャの採用


特定タスクに特化した複数のマイクロエージェントを連携させるアーキテクチャを採用しており、以下の特徴を持っています。

  • Intent-driven orchestration: ユーザーの意図(Intent)を認識し、その意図に基づいて複数の再利用可能なエージェントコンポーネントをオーケストレーションする
  • A2A (Agent-to-Agent): FormsAgentやProductAgentといった特化型エージェント(マイクロエージェント)が相互に連携し、複雑なビジネスプロセスを処理する
  • Modular Implementation: RAG(検索拡張生成)パイプライン、LLMモデル(Bedrock)、モニタリング&オブザーバビリティ、評価フレームワークといった要素をモジュラーに実装した(細かく部品単位で実装)Agentic Layerを核とする

Agentic AI Platformによる集中管理

  • 統合環境: 迅速な構築とデプロイのための統合環境を提供
  • セキュリティ・コスト効率: LLM Gatewayを介した安全かつコスト効率の良いモデルアクセス
  • 集中管理: パフォーマンス監視、評価、プロンプト管理を集中化
  • ガバナンス: PII、PHI、HIPAAデータの適切な処理と、GenAIソリューションのセキュアな登録と発見を提供
AWS GenAI Innovation Center (GenAIIC)との協業

AWSの専門チームであるGenAI Innovation Centerと協業し、実験段階から本番運用への迅速な移行を進めていたようです。
問題特定(Problem Identification)、GenAIの専門知識とベストプラクティスガイダンスの提供(GenAI Expertise & Best Practice Guidance)、エンドユーザーソリューションの構築とデプロイ(Build and Deploy End-User Solutions)、そして本番環境でのスケールと運用(Scale and Operate In Production)の4段階で実施されました。

成果と教訓

成果

再利用可能なAgentic AIフレームワークとプラットフォームアプローチの活用により、以下の成果が実現しました。

  • ターンアラウンドタイムとTime-to-value(顧客が価値を実感するまでの時間)の削減。
  • ソリューションの標準化:多様なビジネスユースケースをサポートするスケーリングにより、カスタムメイドのソリューションを削減し、技術的負債の削減に貢献。
  • ビジネスリスクの軽減:早期フィードバック収集により、正確性、順守、完全性を測定し、リスクを軽減。

教訓


アーキテクチャの選択と導入経験から、以下の3点が最も重要な教訓として強調されました。

  • モジュラリティ(Modularity)は長期的な成功の鍵であり、再利用性を高めることが重要
  • スケーリングの方法に明確な答えはないため、あくまでも最新の生成AIトレンドに上手く適応し、最適なパフォーマンスを維持することが重要。
  • 集中型プラットフォーム(Centralized platform)を採用し、サイロ化を防ぐ

まとめ

PoC(概念実証)でAIエージェントを「試す」段階で終わってしまうケースが多い中で、AIエージェント活用におけるリスクも考慮しながら、本番運用に進めていくための実践的な事例を学ぶことができ、非常に有意義なセッションでした。
特に、エージェントの機能分割を行い再利用性を高める考え方、そしてそれを支える集中管理プラットフォームの重要性については大変勉強になりました。AIエージェントを組み込んだシステム開発が増えていく中で、柔軟にスケールできる、強固なアーキテクチャ設計をしていく必要があるなと痛感しました。