DX開発事業部の前野佑宜です。
AWS re:Invent 2025の1日目に参加した、AI活用によって変遷を迎えるFinOpsに関するセッションについてレポートします。セッションタイトルや概要の通り、技術の詳細よりは、経営層や意思決定者向けの戦略的な内容が中心でした。
(※FinOps:クラウド利用におけるコストを管理・最適化し、ビジネス価値を最大化するための運用フレームワークと文化のこと。Finance × Operationsの造語。)
参考)セッション概要
The convergence of FinOps principles and generative AI is providing organizations new ways they better manage cloud spending and investment strategises. This session will discuss how organizations are successfully deploying generative AI to automate anomaly detection, enhance resource allocation, and convert complex cloud financial data into actionable insights. Attendees will learn practical strategies for implementing AI-driven FinOps practices, measuring ROI on generative AI investments, and developing a comprehensive roadmap for intelligent cloud cost management
※ざっくり要約すると以下
FinOpsの原則とAIの融合は、クラウド支出管理と投資戦略の新しい道を開きます。このセッションでは、組織がAIを活用して異常検知の自動化、リソース割り当ての最適化、そして複雑な財務データの実行可能な洞察への変換を成功させている事例を議論しました。参加者は、AI駆動型FinOpsの導入戦略、ROIの測定、およびインテリジェントなコスト管理のロードマップを学びます。
以下にセッションの内容をまとめます。
企業のAI FinOpsアプローチに“正解”はない
セッションではまず、AIを取り込むFinOpsへのアプローチは企業ごとに異なるが、いずれも有効たり得る、という前提が示されました。
- データ品質の担保を最優先
- 既存ツールの機能強化から始める
- 文化形成や小さな実験に重きを置く
- データ品質の担保を最優先に置く
- 既存ツールのAI活用から始める

ただし、どの道を選んでもデータ基盤の整備だけは避けられないとのことでした。
すべてはデータ品質から始まる
セッションの中で、以下のメッセージがしばしば使われていました。
“AIより先に、データ品質に投資せよ”

AI導入企業の成功例として語られたケースを見ても、タグ付けの徹底や、データのクレンジングなど、一見地味な作業にどれだけ真面目に取り組んだかが成果を左右していた、とのことでした。
実際の業務においても地道なデータ整備が、RAGの品質向上につながるケースがあったりなど、確かに重要な部分だと感じました。
AIは分析者を増やし、意思決定を民主化する
意思決定の民主化も重要とのことです。

従来は専門知識を持つ数名のアナリストしか扱えなかった高度なコスト分析が、AIによる自然言語インターフェースを導入したことで、4時間からわずか5分で実施できるようになりました。利用者は数十名から数百名規模へ、そしてROI(投資収益率)は3ヶ月で回収されたといいます。重要なのは、AIが分析そのものを“置き換えた”のではなく、金融機関の意思決定の裾野を広げたという点です。
誰でもデータにアクセスでき、コストの背景が説明できる…この文化変革こそが最大の成果だと感じました。
Slackを活用してFinOpsをより日常のワークフローに近づけた事例も紹介され、「使われる仕組み」に落とし込むことが説明されていました。


ROIは「数字」ではなく「価値」で捉える
セッションでは、AI導入の議論で必ず挙がるROIという指標に対して、これまでの常識が適用されないという指摘がありました。

例えば、AIの恩恵はコスト削減や稼働率改善といった直接的な指標だけでなく、
顧客体験の向上や意思決定速度、社員の満足度など間接的な要素に紐づくことが多い。そのため、「コストに対する成果率」だけで測ろうとする発想自体が相性が悪い。
AI活用の価値は、“目に見えない摩擦や無駄を取り除くことで生まれる成長余力”であり、
一定期間の数字だけでは測れない、との問題提起がありました。
実際にセッションでは、成果ベースのメトリクスやポートフォリオ観点での測定が提案されていました。

上記のように、ROIは、本来の意味である金額のみにとどまらず、“価値の発掘度”を測るものへと進化しているのだと感じました。
AI FinOpsの成熟は段階的に進む
AI FinOpsは「山登り」に例えられ、次の3つのフェーズで紹介されていました。

- Base Camp:データ品質やコスト構造の可視化
- The Climb:異常検知や推奨機能による高度化
- Summit:自動最適化や予測制御
AI活用についてはあくまでも地道な活動の結果、段階的に成熟していくものである、ということです。
実際、多くの企業はまだBase Campに立った段階であり、焦る必要もない、とも語られていました。
現場リーダーたちのリアルな学び
最後に紹介された、実践企業からの生々しい声(教訓)は印象的でした。

- 地味ではあるが重要なデータ整備を軽視して後悔している
- AIの言いなりになりすぎず、人間によってしっかりと妥当性を判断しておくべきだった(結果として莫大な投資が無駄になってしまった)
- 綺麗なダッシュボードを作ったが、誰にも使われなかった(企業が直面する根本的な問題から目を背けてしまっていた)
まとめ

Base Campは準備、Climbは成長、Summitは視界。しかし、どのフェーズにも立ち止まったままで辿り着く道はない。セッションの締めくくりで、改めて上記が強調されていました。
ここまでのご紹介した内容のように、生成AIはFinOpsの前提を揺さぶり、クラウドコスト管理を企業運営そのものの問いへと拡張させています。
私自身、今回のセッションを通じて、AI FinOpsとは単にコストを削るプロセスではなく、組織がどのように価値を生み、学習し続ける体制を築くかを問う概念だと再認識しました。
そのためにも、意思決定者だけではなく、私のような現場の開発業務に従事している一人ひとりが、既存システムの課題と向き合い、品質向上、ひいてはシステムの価値最大化のために何ができるかを考えていきたいと思っております。