はじめに
「Google Cloud Next Tokyo 26」に現地参加してきました。本記事では、DAY 1基調講演のレポートをお届けします。
約1時間半の基調講演で登壇者は多く、発表された新機能や導入事例もかなりのボリュームでしたので、網羅的なレポートではなく、個人的に印象に残った5つのパートに絞ってまとめます。
DAY 1基調講演
Google Cloud Japan 代表の三上 智子氏をはじめ、Google Cloudのプロダクト担当者と日本企業のリーダー計9名が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| 三上 智子 氏 | Google Cloud Japan 代表 |
| 西村 忠興 氏 | 株式会社NTTデータ 常務執行役員 テクノロジーセグメント長 Chief AI Officer |
| リリー マクニーラス 氏 | Google Cloud アウトバウンドプロダクトマネジメント ディレクター |
| 中島 正朝 氏 | SOMPOホールディングス株式会社 デジタル・データ戦略部長/損害保険ジャパン株式会社 執行役員 CDO DX推進部長 |
| 太田 雅尚 氏 | Sky株式会社 執行役員 |
| 荒牧 岳志 氏 | 株式会社スクウェア・エニックス AI&エンジン開発ディビジョン ジェネラル・マネージャー |
| ユリー クォン キム 氏 | Google Cloud Google Workspaceプロダクト担当 バイスプレジデント |
| 岡本 充洋 氏 | Google Cloud AI技術統括本部 アプライドAIエンジニア |
| 服部 淳 氏 | Google Cloud Google Workspace事業本部 カスタマーエンジニアリング本部 カスタマーエンジニア |

1. AIは「電気」の再来か
冒頭で示されたビジョンは「AIの力で共に創ろう、ワクワクする日本の未来を」でした。
ここで引き合いに出された電気の例えが分かりやすかったです。工場に電気が導入されてから生産性が急伸するまでには、30年かかったといいます。最初の30年で経営者たちがやったのは、中央の蒸気機関を大きな電気モーターに置き換えることだけ。シャフトもベルトも、工場のレイアウトも仕事のやり方もそのままだったそうです。生産性が跳ね上がったのは、機械1台1台に小さなモーターを載せ、電気という発明に合わせて工場そのものを再設計したときでした。
これをAIに当てはめると、中央に大きなチャットボットを1つ置くだけで爆発的な生産性向上が生まれるのか、という問いになります。エージェントという小さなモーターを現場の業務一つ一つに埋め込み、仕事の流れそのものを再設計してこそ、生産性は跳ね上がる、という例え話でした。チャットボットから自律的に動くAIエージェントへの転換期が来ているのだと、改めて感じました。
続いて、日本市場の調査結果が示されました。
仕事でAIを月1回以上使っている人のうち70%がAIエージェントを未活用、AI利用者の約半数にあたる49.8%が会社非公認の「シャドーAI」を利用しているという数字です。
興味深かったのは、シャドーAIの数字がネガティブに扱われなかった点です。現場の作業をもっと良くしたいという改善意欲の表れではないか、と整理されていました。


また、他社と比較した際に、Google Cloudの強みとして、AI変革に必要なフルスタックを業界で唯一すべて自社で開発・運用している点が挙げられていました。
AI Hypercomputer、Research & Frontier Models、Agentic Data Cloud、Agentic Defense、Agent Platform、Agents & Applicationsの6レイヤーが示されていました。防御層(Agentic Defense)がスタックの一部として積まれているのは、後半のセキュリティの話への伏線になっていました。

2. 「指示」から「委任」へ 〜Gemini Enterpriseの新機能〜
Gemini Enterpriseアプリ側の新機能パートで打ち出されていたキーワードは、AIエージェントに手順を1つずつ指示する状態から、ゴールを与えて委任する状態への移行でした。
その中心がGemini Sparkです。

箱から出してすぐ使える高機能アシスタントで、バックグラウンドで自律的にシステムを監視して異常を検知し、ServiceNowなどと連携すると説明されていました。Gemini EnterpriseとGoogle WorkspaceのGeminiアプリの両方に近日提供されるとのことです。
個人的に一番気になったのがコネクタとMCPサーバーです。

Jira、Confluence、Slack、Salesforce、Workdayといった外部アプリからデータを直接リアルタイムに参照するため、データ移行が不要になり、コスト削減とセキュリティを両立できるという整理でした。データを別の場所に集めてから見るのではなく、置いてある場所のまま見に行くという設計は、運用の文脈でもそのまま効いてくると感じます。
ノーコードでワークフローエージェントを作成・テスト・公開できるAgent Designerも紹介されていました。

スケジュールやイベントによるトリガー、決定論的なフローの中に非決定論的なノードを置く構成、Human-in-the-loopノードといった要素があり、どこまでを自動で処理してどこで人が判断を挟むかを設計する道具になっていることが分かります。
このほか、反復作業を組織で共有できる資産にする「スキル」やCanvas、モバイルアプリなども発表されました。
あわせて、エージェント基盤側ではGemini Enterprise Agent PlatformのGAと、ガバナンス機能群が追加費用なしで提供されることが発表されました。
ガバナンスは、固有のエージェントID、ユニバーサルな検出、エージェントポリシーの適用、堅牢なセキュリティという4つの観点で整理され、8つの機能が並んでいました。エージェントの数が増えていく前提で考えると、統制する側の道具が最初から揃っている点が印象的でした。

3. Workspaceがエージェンティックになる
Google Workspaceのパートで語られた現状認識は、身に覚えがある指摘でした。いくらツールが優れていても仕事は断片化していて、人手でファイルを探し、複数のアプリからデータを引っ張ってくる作業に埋もれている。ビジネスのスピードが、人間が手作業で点をつなぐ速さに制限されているという指摘です。
人間はタスク処理ではなく、AIエージェントが処理したタスクの成果を管理する時代へ、というメッセージでした。その中核がWorkspace Intelligenceです。

Gmail、Chat、ドキュメント、Meet、スライド、スプレッドシート、ドライブ、カレンダーを統合セマンティックレイヤーに集約し、常に更新されるコンテキストとしてGeminiに接地させる構成です。単にファイルをリンクするのではなく、日々の業務の実態にGeminiを根付かせる、と説明されていました。
デモは「ある企業の1日」という形で進み、通勤中にGoogle Chatへ日次ブリーフが届く場面や、ファイル名も日付も覚えていない過去のファイルを自然言語で探し当てる場面が紹介されました。
特に印象的だったのが、Google Picsによる画像編集でした。「終業間際に上司から、取引先展開用のイベント紹介スライドを今すぐ作ってほしいと依頼が来る」という無茶振りに対して、写真のスパークリングワインをビールジョッキへ置き換え、バナーに残っていた前回の顧客名を差し替え、花火の背景を追加する、という3件の編集を数クリックで適用していました。
4. ゲームの中のAI 〜スクウェア・エニックス〜
スクウェア・エニックスの事例も興味深いものでした。
同社は10年以上にわたってAIの研究開発とゲームへの実装に取り組んでおり、用途はプレイヤーへの新しいゲーム体験の提供と、開発チームの支援の2方向だと説明されていました。注目しているのはマルチモーダルAIで、現場が本当に必要としているのはテキストベースのやりとりだけではなく、人間と同じようにゲームの音を聴き、複雑に変化するゲーム画面を見ることでした。だから「見る、考える、動く」ことに強みを持つGemini Enterprise Agent Platformを採用したとのことでした。

紹介された事例のひとつが、「ドラゴンクエストX」に実装された会話型AIバディの「チャットスライム」です。音声と画像を理解して人間のように会話し、ゲーム画面を見て状況を理解して自分から話しかけてくると紹介されていました。プレイヤーが今どういう状況にいるかを画面から読み取ってそのタイミングで話しかけてくるというのは、今までのゲームとは質的に違うものだと感じました。
もうひとつが開発側の話で、ゲームQAの自動化です。デモ映像では「船を見て」という指示を与えると、AIが自分で考えてマップを確認し、港町の北西にある港へ移動して船を画面内に捉えるまでのタスクを組み立てていました。画面右上にはAIが立てたタスクリストが並び、AIは画面を見ながらゲームコントローラーを自動制御してキャラクターを動かします。
これは人間のテスターと同じインターフェース(画面とコントローラー)を使い、目的から手順を自分で組み立てている点が興味深かったです。反復作業をAIが担うことでクリエイターは創造性の求められる仕事に集中でき、開発サイクルの短縮につながる、と締めくくられていました。

5. 便利さの裏側 〜悪用までの期間は1.6日〜
最後に語られたのは、セキュリティの話でした。

エージェントが便利になり、あらゆる業務が自動化されていく一方で、AIは攻撃側も使っています。示された数字が重く、脆弱性の発見から悪用までの期間が、わずか数年で1.3年から最短1.6日まで短縮されたと説明されていました。
人間が手作業で回している脆弱性対応のサイクルは、この速度に対して構造的に間に合わない。だからAIによる脅威はAIで自律的に防ぐしかない、という論理でした。
Google自身も月間延べ150億人以上が使うサービスを支え、毎月数万件の脅威レポートを扱っているため手作業では追いつかず、エージェントにプロセスを実行させることで脅威の緩和時間を90%以上短縮したと説明されていました。
そのGoogle自身が使っている手法を届けるソリューションが、AI Threat Defenseです。
脆弱性管理を「1. 準備」「2. スキャン」「3. 修復」「4. 監視」の4ステップで再定義するものでした。

そのスキャンと修復の中核を担うのがCodeMenderです。Google DeepMindが開発した、脆弱性を自動で検出・修正するAIエージェントで、パブリックプレビューとして提供が始まっています。日本ではNTTデータ、NEC、日立ソリューションズ、富士通をローンチパートナーとして展開し、あわせて年内限定で無償のセキュリティアセスメントが提供されるとのことでした。

講演の締めのメッセージは「AIはオープンであるべき」でした。フルスタックを提供しつつ、同時にオープンなAIプラットフォームでもありベンダーロックインは望まない、顧客が自分のニーズに最適な環境を自由に選べるようにしたい、と説明されていました。1章のフルスタックの話と対になっていて、囲い込みが目的ではないという立場を示されていました。
さいごに
DAY 1基調講演を通じて伝わってきたのは、AIエージェントに手順を1つずつ指示する段階から、ゴールを渡して委任する段階へ、話の前提が移ってきているということでした。そして委任する範囲が広がるほど、AIを何に使うかよりも、エージェントをどう組み込みどう統制するかが問われるようになる、という部分が印象的でした。
AIに委任できる範囲が広がり、それを統制する道具も揃い始めた一方で、組織が把握できていないAI利用は約半数にのぼり、攻撃側の速度はさらに上を行こうとしています。この可能性とリスクの両面が、AIエージェントの現在地なのだと感じた基調講演でした。