はじめに
2026年7月28日、パシフィコ横浜で ArgoCon Japan 2026 が開催されました。KubeCon + CloudNativeCon Japan 2026 の併設イベント(Co-located Event)で、日本での ArgoCon 開催は今回が初めてです。

メンテナー側とユーザー側の双方から、課題やその対応方法、設計意図などが語られ、OSS が積極的に改善されていくのがリアルに見えた会でした。
シングルトラックの半日開催で、当日のセッションは次の8つでした。
| セッション | 登壇者 |
|---|---|
| Welcome + Opening Remarks + ArgoCon Project Updates | Dan Garfield(Argo メンテナー/Octopus Deploy) |
| Configuring Argo CD is Messy: Here’s How We Can Fix It | Michael Crenshaw(Argo CD lead メンテナー/Intuit) |
| Introducing OCI Webhook Support in Argo CD: From Polling to Real-Time | Nitish Kumar(Akuity)、Surabhi Mishra(American Express) |
| Octopus Deploy: CI/CD is now AI/CD(Sponsored Keynote) | Mike Nguyen(Octopus Deploy) |
| Argo メンテナーパネル(現地で追加された枠) | Argo メンテナー3名 |
| When GitOps Becomes the Bottleneck: Scaling Argo CD for High-Churn Platforms | Sandeep Kanabar(Gen)、Vanshika Jain(Brudite Private Limited) |
| Migrating 1,300 Jenkins Jobs to Argo Workflows(LT) | Kenichi Takano(リクルート) |
| 10 Ways to Get Involved in Argo Project(LT) | Joanna Wyganowska(Octopus Deploy) |
会場の空気と当日の進行
Opening で登壇者から会場に挙手アンケートがありました。Argo CD を使っている人は多くいましたが、Argo Workflows と Rollouts はその半数以下、Argo Events はさらに少数という結果で、登壇者も「予想通り」とコメントしていました。Argo CD しか使っていない自分は場違いかもと思っていましたが、Argo CD から入って他はまだ、という参加者が多数派のようでした。
当日の進行は公式スケジュールから多少変更され、一部セッションの順番変更やスキップがあった代わりに、メンテナーパネルが追加されていました。
ユーザーサーベイと Argo CD 3.5
Opening で紹介されたユーザーサーベイの結果では、ApplicationSet の利用が App-of-Apps に次ぐ2番目のパターンまで伸びていること、AI/ML ワークロードを扱う組織の 80% が Argo CD でデプロイしていることが挙げられていました。課題の最大のものはスケールと性能で、Application が2000個を超える規模では半数がこれを上位3つに挙げたとあります。
あわせて Argo CD 3.5 の話もありました。CNCF の事前告知記事では “the biggest release since Argo CD 3.0” と表現され、特に ApplicationSet を第一級の機能として扱う方向と書かれています。その他に Opening で挙げられていたのは、mTLS 対応、Source Integrity、Helm 4 サポートといった機能です。なお 3.5 は本記事執筆時点でまだリリース候補(rc)段階で、rc3 が公開されたのは ArgoCon Japan の当日でした。
検証段階の設計をメンテナー本人が話す
「Configuring Argo CD is Messy」は、Argo CD の lead メンテナーによる設定 CRD のセッションでした。
Argo CD の設定は Application などの CRD と ConfigMap に分かれていて、ConfigMap 側のパラメータは260ほどあるとのことでした。そこから来る問題は次のようなものです。
- 変更したときに再起動が必要なパラメータと不要なパラメータの区別がメンテナーでも難しい
- パラメータの値に YAML が文字列として埋め込まれている場合があり、syntax error の原因になる
- 一部のパラメータは環境変数から読まれ、ドキュメント化されていないものもある
解決策として提案されていたのが ArgoCDConfiguration という新しい CRD です。ConfigMap 方式に対する利点が4つの軸で示されていました。

図:The Solution: ArgoCDConfiguration CRD(「Configuring Argo CD is Messy: Here’s How We Can Fix It」のスライドより)
- Native Data Types — 文字列に詰め込むのではなく型で持つ
- Declarative Validation — CRD のスキーマで値を検証する
- Automated Docs —
kubectl explainでドキュメントを引ける - Hot-Reloading — 再起動なしで反映する
移行についても、フィールドをすべて nullable にして移行しなくても動くようにする、といった考慮が説明され、最後に ConfigMap から CRD に切り替えて Pod を起動するデモがありました。
この設計はまだ提案・検証の段階です。入るとしても Argo CD 3.6 か 3.7 になるかもしれない、という温度感でした。現時点では PR #28841 は Draft で、まだ検証中のようでした。
OCI レジストリを GitOps の取得元にする
Argo CD が OCI レジストリの更新を webhook で受け取れるようにする話です。このセッションについては、翌日以降の KubeCon 本編のセッションと合わせて別記事にまとめました。

AI でコードが速くなった分、CD が律速になる
Octopus Deploy の「CI/CD is now AI/CD」セッションの問題提起は、AI が大量にコードを作るようになったのに、CD が追いついていないというものでした。コードをパッケージに入れるところまでは AI に任せていても、本番へのデプロイはまだ任せていない、という話です。
そして、AI に対する制約には soft(やるなと言っておく)と solid(そもそも権限を与えない)の2種類があり、どちらにするかは変更の影響範囲(blast radius)で決める、という整理がされていました。影響範囲が小さければ自動テストで担保して soft、大きければ人間の承認を挟んで solid、という線引きでした。
現地で追加されたメンテナーパネル
参加者からの質問にメンテナーが答える形式でした。複数のリソースを含む既存 Application をグループごとに分けるにはどうするか、マージする前に変更内容を確認するにはどうするか(diff にも複数のレイヤがある)といった、実運用の質問が出ていました。
セッションごとに Application を作ると破綻する
「When GitOps Becomes the Bottleneck」は、学生向け AI ラボ基盤の事例です。AI ラボ環境の利用セッションごとに Argo CD の Application を1つ作る構成が破綻した経験から、何を Git に置いて何を置かないかを整理し直した話でした。
この構成だと、学生が1回ラボを使うたびに Git の commit と Application が1つずつ増え、Argo CD はそれを全部同期し続けることになります。利用者が増えるほど Argo CD の仕事が際限なく増えていく、というのが破綻の理由でした。
「Git は intent(意図)を置く場所であって instance(実体)を置く場所ではない」という整理と、それによって監査証跡の置き場が commit 履歴からルール+ラベル付きリソース+イベントログへ移るという話もありました。

図:Git owns intent. Platform owns execution.(「When GitOps Becomes the Bottleneck: Scaling Argo CD for High-Churn Platforms」のスライドより)
国内ユーザー事例と実運用からのフィードバックによる改善
リクルートによる Jenkins から Argo Workflows への移行事例の紹介がありました。
規模は 1,306 ジョブ、期間は約1年、5つのフェーズに分けて進め、90% 以上をスクリプトで自動変換したとのことです。元の構成は Jenkins が別の Kubernetes ジョブを呼び出して動かすもので、デバッグとアップグレードがつらい状態だったと説明されていました。
移行の中で発生した問題は、2本の Pull Request として Argo Workflows にフィードバックしたとのことでした。
Argo Project への入口は10通りある
最後のセッションは、「10 Ways to Get Involved in Argo Project」でした。挙げられていた10個はこうです。
- 使い始める
- ドキュメントに貢献する
- バグを報告する
- 機能要望を出す
- Pull Request をレビューする
- コミュニティの質問に答える(Slack、GitHub Issues など)
- 本を書く(既刊として Argo CD Up & Running などが紹介されていました)
- 経験を共有する(イベントに登壇提案を出す)
- 職場で Lunch & Learn を開く(録画されたセッションをチームで見る)
- メンテナーになる
1〜3 のように、使い始めた段階でも出せるものが並んでいます。翌日以降の KubeCon 本編でも、contribution を歓迎する呼びかけが繰り返し出てきました。
おわりに
初開催の ArgoCon Japan では、検証段階の設計をメンテナー本人から聞けたり、国内や海外の Argo 利用事例や改善事例を聞くことができました。ドキュメントやリリースノートを読むだけでは分からない設計の経緯や判断の理由まで聞けて、温度感も垣間見えるのは、リアルイベントならではだと思います。使う側として何ができるかを考えるきっかけにもなりました。
Argo CD や Argo Project の他の機能も活用し、アップデートを追いかけるとともに、フィードバックできる機会があればぜひフィードバックしていきたいと思います。