はじめに
2025年11月15日(土)、滋賀県草津市のイタリアンレストラン「トラットリア デラ・メーラ」にて、GCPUG in Shiga 第4回が開催されました。秋晴れの気持ち良い気候の中、Google Cloudに関する2本のテーマセッションと4本のLTが行われ、AIエージェント技術からBigQuery活用、ロボティクス技術まで、幅広いトピックで盛り上がりました。

草津といっても群馬県の草津温泉ではなく、「温泉がない草津」として知られる滋賀県草津市での開催です。前職で繋がりのあったオーガナイザーの広瀬さんとのご縁で参加してきました。
冒頭の運営メンバー紹介では、今回から新たに学生2名が運営に参加されたとのことで、GCPUG滋賀の今後の発展が期待されます。参加者のうち実際にGoogle Cloudを扱っている方は約半数で、このイベントをきっかけに Google Cloudへの取り組みを始めてもらいたいとの思いが語られました。
当日のタイムスケジュールは以下のように、ADKからBigQuery、Gemini Robotics、Grafana Alloyと幅広いテーマで実施されました。

当日、発表で使用された資料は以下のページからダウンロード可能です。
https://gcpug-shiga.connpass.com/event/370187/
◾️テーマセッション1:AIエージェント技術 〜Google ADK〜の話
登壇者: Google Cloud AI Developer Advocate 佐藤氏(オンライン登壇)
タイトル: Building Agentic RAG with ADK + Vector Search
AIエージェントの発展
セッションはAIエージェントの基本概念からスタートしました。LLMから始まり、検索機能、Tool連携、Reasoning Loop(思考)が追加され、最新では複数のエージェントが協業するマルチエージェントシステムへと発展してきた流れを、具体例を交えて分かりやすく解説していただきました。
AIエージェントの内部機能
AIエージェントがユーザーのタスクに対して「Plan, Reason, and Execute」を実行するために必要な内部機能(セッション管理、メモリ、オーケストレーション、Tools)について説明があり、これらを実装する複雑さと作り込みの大変さが共有されました。
Agent Development Kit(ADK)の紹介
Googleがこの課題を解決するために開発・提供しているのが「Agent Dev Stack(ADK)」です。
ADKの特徴として以下の点が紹介されました。
- オープンソースとして公開
- Gemini以外のモデルも使用可能
- Live APIによる双方向ストリーミング処理
ベクトル検索とハイブリッド検索
ベクトル検索が注目される理由は、意味による検索(セマンティック検索)が可能な点です。通常のキーワード検索では見つけられない情報を発見できる一方で、ID検索など意味を持たないデータの検索には向かないというデメリットもあります。
そのため、全文検索とベクトル検索を組み合わせたハイブリッド検索機能が重要となります。
マルチモーダル検索のデモ
「踊っている人が描かれているコップ」といった自然言語での検索や、ハイブリッド検索によるID指定検索のデモが実施されました。
推薦モデルの重要性
現在ビッグテック企業で使われている検索システムは推薦モデルが中心です。意味検索だけでは適切な推薦ができず、ユーザーが本当に求めているものを提供できません。ユーザーの質問を正しく理解して推薦することが重要です。
RAG構築において、この考え方が非常に重要であり、検索エンジン側でしっかりと作り込むことが失敗しないRAG構築につながるとのことでした。ユーザーとRAGの間にLLMを配置し、適切に推薦することがポイントです。
マルチエージェントシステム
マルチエージェントシステムでは、最初のエージェントがGoogle検索で市場調査を行い、その情報をもとに複数キーワードでのRAGを並列実行し、最後にLLMがまとめ処理(検索結果からユーザーのリクエストに合致する可能性の高いものを選別)を行うことで、ユーザーが本当に求めているものを返すことができます。
これらの処理にはVertex AI Vector Searchが活用されています。
◾️テーマセッション2:データ分析エージェントでBigQueryを活用
登壇者: なかむら さとる氏
プロフィール: BigQuery歴10年以上のエキスパート
BigQueryは、Googleが提供する分析に特化したデータウェアハウス(DWH)です。
BigQueryから生成AIを使う
BigQueryには非構造化データを扱うための関数が用意されており、以下のような活用が可能です。
- BigQueryのクエリでGeminiを呼び出し、結果をテーブルに書き込む
- 画像、音声、動画などのマルチモーダルデータの処理
- Cloud Storageにファイルを配置し、パス指定で処理を実行
実際にマルチモーダルデータを扱うデモが実施されました。
生成AIからBigQueryを使う
ADK BigQuery Tool Setを使用することで、自然言語での質問をADKが理解し、適切なクエリを生成・実行し、結果をLLMで整理して返すことができます。
例:「2025年10月の売れた商品トップ10を教えて」
ただし、この機能を効果的に活用するためには、テーブルやカラムのDescriptionをしっかり記述しておく必要があります。データ整備が不十分だと、データをうまく活用できません。
まとめ
データ整備をしっかりと考えるには、経営層からのKPIの提示と組織全体への浸透が不可欠であると締めくくられました。
◾️LT1:Gemini CLIの便利な使い方
登壇者: 松ぼっくり氏
Gemini CLIは、GitHub CopilotやClaude Codeなどと比べて無料枠が多いため、学生にとって非常に重宝するツールです。Gemini CLIのおすすめ機能や便利な使い方を、他のプログラミング支援AIサービスと比較しながら分かりやすく説明していただきました。
他サービスに負けている部分についても率直に言及され、Gemini CLI愛溢れるLTとなりました。
◾️LT2:Googleのロボット技術紹介 – RT-1からGemini Robotics-ER 1.5まで
登壇者: natsuタン氏
ロボティクス分野における技術発展について、動画を交えながら解説されました。
- RT-1からRT-2、RT-Xへの進化
- 最新のGemini Roboticsの紹介
特にGemini Roboticsでは飛躍的な進化が見られ、固定型でない流動的な物体を正しく判断し、把持して袋詰めする様子が紹介されました。この動画には会場全体がどよめき、参加者の興味の高さが伺えました。
LLMを活用することで、常識を持った状態からの学習が可能になり、ロボティクス分野にもLLMが大きなインパクトを与えていることが分かりました。
◾️LT3:Dify × Geminiで簡単AIアプリ作成!!
登壇者: aska氏
Raspberry Pi内のDocker上でDifyとGemmaを動かし、専用のAIシステムを構築するという内容でした。DifyやGemmaの基本的な説明から始まり、実際の組み込み作業で苦労した点や工夫したポイントを、実体験に基づいて共有していただきました。
エンジニア魂を感じる熱いLTでした。
◾️LT4:Grafana Alloy
登壇者: maskoba氏
Grafana Alloyに関するLTで、こちらもRaspberry Piを活用したシステムについての内容でした。
Grafana AlloyはOSSのデータ収集ツールで、さまざまなシステムからログやトレースを効率的に収集できます。ソフトウェア面だけでなく、デバイスとソフトウェアの接続という観点からの知見も共有され、非常に有意義な内容でした。
今回のイベントには、ハードウェアやデバイス関連に興味のあるエンジニアの方も多く参加されており、aska氏もmaskoba氏も常にRaspberry Piをカバンに入れて持ち歩いているとのことで、会場が盛り上がりました。
◾️懇親会
イベント後には懇親会が開催され、登壇者や参加者との交流を深めることができました。Google Cloudに関する技術的な議論から、コミュニティの今後の展開まで、さまざまな話題で盛り上がった1日となりました。
◾️最後に
GCPUG in Shiga第4回では、AIエージェント開発の最新動向からBigQuery活用のベストプラクティス、ロボティクス技術、エッジデバイス活用まで、幅広いトピックに触れることができました。
特にADKやVertex AI Vector Searchといった最新のGoogle Cloud技術に加え、実践的な活用事例や課題解決のアプローチを学べたことは、今後の業務にも活かせる知見となりました。
次回はぜひ登壇者として参加し、Google Cloud技術の活用事例を共有できればと考えています。