アイレットは、全社的に生成 AI の活用を推進しており、2025年9月に従業員1,300人超に「Gemini Enterprise」を全社導入しました。この取り組みは単なる最新技術の導入ではなく、生成 AI の活用が各部門の働き方そのものを変革する DX 戦略の一環です。

前回の法務 DX のインタビュー「【法務 DX の成功事例】契約書レビューを数時間→30分に短縮した NotebookLM 活用法」では、Google の AI ノートツール「NotebookLM」を活用し、数時間かかっていた契約書レビューを30分以内に短縮した法務部門の成功事例を紹介しました。

今回は、「Gemini Enterprise」の全社導入からわずか2週間で、法務部門の日常的な問い合わせ対応や、複雑なドキュメント作成の効率化を実現した事例について、前回に引き続き法務・コンプライアンスグループのリーダー 山内 雅典と、この取り組みを戦略的に推進する取締役副社長 平野 弘紀の対談をお届けします。

アイレット株式会社
取締役副社長 平野 弘紀

 

法務・コンプライアンスグループ
グループリーダー 山内 雅典

スタートダッシュを切れた理由は「Google ドライブへのデータ集約」

アイレットではナレッジのサイロ化を解消する目的で全社的に「Gemini Enterprise」を導入しました。そこで早速、法務部門が Gemini Enterprise を使って社内のナレッジベースを構築し、法務業務を効率化するプロジェクトを立ち上げました。


Gemini Enterprise の実用化プロジェクトは、アイレットにとって非常に有利なスタートだったんです。元々 Google Workspace を全社導入していて、法務関連のドキュメントも Google ドライブに集約していたので、スタートを切る上での課題は一切なかったです。


そこが重要なポイントだね。Gemini Enterprise の真価は、Google ドライブ内の情報をセキュアに横断検索できる点にあります。もしデータが各所に散らばっていたら、まず「データを集めること」から始めなければならず、検証開始まで数ヶ月かかっていたかもしれません。


おっしゃる通りで、「Google Workspace × Gemini Enterprise」の親和性は抜群でした。データが Google Drive にあるだけで、すぐに連携して回答を引き出せる環境が整っていたため、導入初日からスムーズに検証に入ることができました。

「概ね合っている」では許されない。試行錯誤の末に導き出した正確な回答を引き出す方法

ただ、すぐに壁にぶつかりました。NDA(秘密保持契約)の確認フローで初期テストを実施したところ、個人の Gmail 情報が混入したり、存在しない「二次レビュー」のプロセスを勝手に推測して回答したりと、精度に深刻な課題が見つかりました。


法務は企業の守りの最前線ですから、「概ね合っている」では困ります。正確性と根拠の提示が求められる領域です。


平野さんからも厳しいフィードバックがあり、そこから毎日、仮説検証を繰り返しました。原因は「AI への検索範囲と優先順位の指示が曖昧なこと」にあると仮説を立て、プロンプト(指示書)の抜本的な改善に着手しました。


具体的にはどのようなルールを作ったのですか?


「3段階の優先順位」を明確に定義しました。

【最優先】総合案内ドキュメント(法務グループが作成したマスターデータ)
【第2順位】Google ドライブ(指定した法務フォルダのみ)
【第3順位】Slack(過去のログ ※上位と矛盾する場合は無視する)


この順位付けを厳格に指示して、かなり広範囲にテストをしたよね。


はい。「EU データ法」や「購入トラブル」など、具体的かつ複雑な法務相談を次々と投げかけましたが、いずれも期待以上の結果でした。また、関連するツールやドキュメントへのハイパーリンクを回答に含めるようプロンプトで明示的に指示を調整したことで、関連資料 URL リンクの埋め込みにも成功し、実用性が一気に高まりました。


私もすぐに確認しましたが、「これなら実務でいける」と即決しました。導入からわずか2週間での実用化となりました。

問い合わせ対応は1時間から数分へ。検索工数を大幅削減

正確な情報が返ってくるようになり、日常的な社内問い合わせ対応にはどのような変化がありましたか?


以前は、例えば「損害賠償」に関する複雑な質問が4つ来た場合、調査して回答案を作成するまでに1時間以上かかっていました。しかし現在は、Gemini Enterprise が生成したレポートの内容を確認し、そのまま展開するだけで済むため、わずか数分で対応が完了しています。


1時間が数分になるのは、現場としては非常に大きいですね。


はい。契約交渉の文言修正案などを探す際も、以前は15分〜20分かかっていたリサーチが5分程度に短縮されました。これらが積み重なることで、大幅な工数削減に繋がっています。

契約書ドラフト作成も3時間から10分へ。ベテランの知見を AI が再現

もう一つの大きな業務である「契約書ドラフト作成」についても大きく効率化したんですよね!


そうなんです。例えば、再販事業に関する「覚書」のドラフト作成を行なった際に、英文契約や Gemini による議事録や提案書など、複数の複雑な情報を Gemini Enterprise に読み込ませたところ、わずか10分〜15分でドラフトが完成しました。


通常ならどれくらいかかるの?


経験豊富な社員でも、ゼロから作れば1時間半〜3時間はかかる業務です。それが10分で終わり、しかも修正がほとんど不要な高品質なレベルでした。経験の長さにより完成レベルに差が出てしまうことも課題だったため、属人化の解消という点でも大きな効果がありました。


それはすごい。ベテランと若手の間で生じていた「経験の差」という属人性を排除し、誰でも高品質なアウトプットが出せるようになった。非エンジニアである法務部門だけでここまでの効率化を実現できたのは、非常に大きな成果ですね。

「記憶機能」と「トリガー」で実現した最高の法務アシスタント

今回、Gemini Enterprise の実用化に向けて、ポイントとなった機能があるんですよね。


はい。Gemini Enterprise 独自の「記憶機能」を活用しました。 これは、ユーザーが一度設定した指示(プロンプト)を AI に記憶させ、次回以降のやり取りでその指示を自動的に適用させる機能です。


具体的にはどういうメリットがあるの?


大きく2つあります。1つは「入力の手間削減」です。毎回チャットの冒頭に高度な指示書を貼り付ける必要がなくなり、質問だけを投げれば済むようになります。

もう1つは「回答形式の標準化」です。法務として分かりやすさを担保するため、「①結論(要約)、②詳細な説明、③具体例」という流れを厳密に指定しているのですが、これを記憶させることで、誰がいつ聞いても同じ高品質な構造で回答が得られるようになりました。

ただ、単純に記憶させると、法務以外の質問や単純なデータ比較など、①結論(要約)、②詳細な説明、③具体例などの形式にとらわれたくない時にもその形式が適用されてしまう問題が発生しまして・・・。そこで考案したのが「トリガー」の仕組みです。


トリガーを設定することで、「法務の質問にはこう答えてくれる」という仕組みを作ったわけですね。


はい。「『法務の質問です。』という言葉から始まった場合のみ、指定したルールを適用する」という条件を Gemini Enterprise に記憶させました。これにより、普段は柔軟に、法務に関する質問の時には厳格に回答してくれる「最高のアシスタント」が完成しました。


それにしても、これだけの検証と改善を短期間でやるのは大変だったんじゃない?


いえ、それが実は楽しかったんです(笑)。 プロンプトを少し書き換えるだけで回答の精度が変わるのが面白くて、気づけば毎日没頭して改善を続けていました。楽しく取り組めたことが、結果的にスピードにも繋がったのだと思います。

法務専用 AI エージェントの実現と「成果」と「働きがい」の両立を目指す

第一弾での NotebookLM を活用し、法務担当へのパーソナライズ化、契約書レビュー業務の効率化、そして今回の Gemini Enterprise による社内問い合わせ対応、契約書作成業務の効率化と、アイレットの法務部門では着実に法務 DX を実現してきました。結果として私が目指している「残業時間ゼロ」に大幅に近づけたのではないかと感じています。


そうですね。生成 AI の活用で、手作業で行なっていた業務の大幅な時間短縮が実現できています。 今後は、Gemini Enterprise の機能を活用して「法務専用 AI エージェント」を構築し、さらなる自動化を進めます。
また、現在一番のボトルネックになっている「契約管理台帳への手入力(エビデンス管理)」の自動化にも着手する予定です。


そして最終的なゴールは、単なる時間短縮ではありません。AI 活用によって生まれた「時間」を、より先進的な形のフレックスタイム制度や有給取得などの「働きやすさ」や「従業員の幸福度」に還元し、モチベーションアップから付加価値の高い業務に専念し、さらに評価されるという好循環を実現していく。 法務 DX をロールモデルとして、アイレットは「成果」と「働きがい」の両立を目指していきます。

編集後記

ミスなく、大量の業務をこなす」。間接部門において、この従来モデルからの脱却は、長らく困難な課題とされてきました。

アイレットは、その常識を AI によって覆そうとしています。Gemini Enterprise の活用で定型業務を自動化し、そこで生まれた時間を「有事への備え」「高度な判断」「コミュニケーション」といった、人間にしか生み出せない付加価値への投資へと振り向けています。

山内は、「Gemini Enterprise は、情報検索や資料作成といった『作業』の属人化を解消してくれました。これからは、それをどう活かすかという判断力や行動力こそが、人間の新たな付加価値になるでしょう」と、AI との協働がもたらす変化を語りました。

アイレットでは、AI と人間がそれぞれの強みを持ち寄り、共に価値を創造する未来が、もう始まっています。

また、法務 DX として大きな成果を生み出している山内と平野のやりとりは、実はSlack での会話のみ。定例会議を行なわず、Slack 上のテキストコミュニケーションだけで高速に改善を回すスピード感。そして、失敗を恐れず「まずはやってみる」というカルチャーこそが、アイレットが DX の最前線を走り続けられる理由なのだと感じました。

山内の所属する法務・コンプライアンスグループではグループメンバー全員が AI を活用する行動指針を策定し、誰か1人が頑張るのではなく、全員で生成 AI を活用した業務効率化を進めています。

第三弾では、そんなグループメンバーの声も紹介できたらと思います。

それでは最後までお読みいただきありがとうございました!

■ 関連リンク

【法務 DX の成功事例】契約書レビューを数時間→30分に短縮した NotebookLM 活用法


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