こんにちは、デザイン事業部 ディレクターの金沢です。
みなさんは「ファシリテーション」という言葉を聞いて、どんな情景を思い浮かべますか?
ホワイトボードの前に立ち、テキパキと意見をまとめ、会議を時間通りに進行させる……。そんな「場をコントロールする」技術に憧れる一方で、「自分にはあんな高度な回しはできないな」と、少し遠い世界のことに感じていた方も多いのではないでしょうか。
つい最近の私がこれでした。
そもそも「ファシリテーション」とは何か、を調べている時に知った「メタファシリテーション(対話型ファシリテーション)」という手法を本日は紹介したいと思います。
メタファシリテーション(対話型ファシリテーション)とは
これは単なる会議術ではありません。
相手をコントロールしようとする手を離し、相手の内側にある「気づき」を丁寧に引き出す、きわめて誠実で戦略的なコミュニケーションの形なのです。
まずは、この手法が目指す「最高のゴール」についてお話しします。
メタファシリテーションの真髄:目指すのは「支援」ではなく「オーナーシップ」
メタファシリテーションとは、一言で言えば「聞き手が相手との信頼関係を築きながら、当事者自身が問題や解決策に気づくよう会話を組み立てる手法」です。
私たちが後輩や同僚の相談に乗る際、ついやってしまいがちなのが「答え」を教えてしまうこと。しかし、メタファシリテーションが目指す地点はもっと先にあります。それは、当事者が「自分たちが考えて自分たちでやった。だから自分たちが責任を持つ」と言い切れる状態、つまり「オーナーシップ(当事者意識)」の確立です。
「魚を与えるのではなく、釣り方を教えるのが本当の支援だ」という例え話がありますが、メタファシリテーションはさらにその先を目指します。「そもそも今、自分に魚が必要なのか、それとも別の何かなのかを、自分自身で判断できるようサポートする」という、第3の道です。本人が自分で判断し、自分の経験から答えを見つけるからこそ、行動に迷いがなくなるのです。
どうやってメタファシリテーションを実践するのか
では、具体的にどうやってその気づきを促すのか?その鍵は、私たちが普段何気なく使っている「質問の種類」にあります。
事実質問の積み重ねが信頼を生む
メタファシリテーションの核心は、「事実のみを質問する」というシンプルなルールにあります。
ここでいう事実とは、「誰が聞いても同じ解釈になり、客観的に確かめられる情報」のことです。なぜ事実を聞くことが大切なのでしょうか。
一つは、話し手の心理的安全性を守るためです。
そしてもう一つ、非常に重要なのが「聞き手(あなた)のメタ認知」を高めるためです。
事実だけに集中すると、「きっとこうだろう」という自分の思い込みやバイアスに気づきやすくなります。相手を自分の期待通りの回答へ誘導するのを防ぎ、フラットに状況を把握できるようになるのです。
ここで、タイトルの問いを考えてみましょう。
「お風呂の温度はいつも何度ですか?」
実はこれ、メタファシリテーションでは「事実質問」とは呼びません。
「いつも」という言葉は、無意識に相手に「一般化」や「推論」を求めてしまうからです。
事実を問うなら、こう聞きます。
「昨日の夜、お風呂の温度は何度に設定されていましたか?」
このように、具体的な一点を切り出すのがコツです。
事実質問として使える要素を整理しました。
- 4W1H(Whyを除く)
- 何(What):それはなんですか?
- いつ(When):それは何時何分頃のことですか?
- 誰(Who):その場にいたのは誰ですか?
- どこ(Where):場所はどこでしたか?
- いくら・幾つ(How much):数量や回数はどのくらいですか?
- Yes/Noで答えられる「事実の確認」
- 経験:〜したことがありますか?
- 知識:〜というルールを知っていますか?
- 存在:〜という道具を持っていますか?
事実を聞くことには、脳の働きに直接訴えかける驚きの効果があるんです。
衝撃のフレーズ:「考えさせるな、思い出させろ!」
メタファシリテーションを学ぶ上で、私がいちばん衝撃を受けた言葉があります。
考えさせるな、思い出させろ!
「なぜ(Why)失敗したと思う?」と聞かれると、私たちの脳には猛烈な負荷がかかります。必死に「もっともらしい理由」を分析し、時には自分を守るための言い訳を「考え」始めます。これが相手を追い詰め、心を閉ざさせてしまう原因です。
一方で、「その時、最初に何をした?」「誰が何と言った?」と「思い出して」もらう質問は、脳にとって非常に負担が少なく、安全です。
思い出された事実は、話し手の脳内で「リソース(経験資源)」として再構成されます。当時の状況をありありと思い出すうちに、話し手自身が「あ、そうか。あの時にこれを確認していなかったのが原因だ」と、自力で解決の糸口を発見するのです。この「自力で見つけた!」という感覚が、自己肯定感と次への意欲に直結します。
手法が分かっても、実はついやってしまいがちな「落とし穴」があるんです。
評価を捨て、水平な関係を築く:相槌の作法
相手が良い気づきを口にしたとき、私たちはつい「それは素晴らしい!」「いいですね!」と褒めてしまいがちです。しかし、実はこれ、要注意なんです。
「いいですね」という言葉は、裏を返せば「私があなたを評価・判断している」という宣言です。無意識のうちに「評価者(上)と被評価者(下)」という上下関係を固定化し、相手の主体性を奪ってしまうリスクがあります。
評価的な言葉を投げかける代わりに、次のような振る舞いを意識してみてください。
- 徹底したリピート(おうむ返し):「〇〇を確認した、ということですね」と、相手の言葉をそのまま返します。
- 「一緒に地図を眺める」スタンス:話し手と向き合って対峙するのではなく、隣に座って、テーブルの上に広げられた「事実の地図」を一緒に眺めているような感覚で接します。
- 評価せず検証する:「すごいですね」と言う代わりに、「それをした時、周りの反応はどうでしたか?」とさらに事実を掘り下げます。
大切なのは、相手をジャッジするのではなく、相手が自分の状態を客観視できるよう、静かに事実を積み上げていくサポートに徹することです。
おわりに:まずは身近な対話から変えてみる
メタファシリテーションは、もともとは途上国の開発援助の現場で、「村の人たちが自分たちの力で生活を改善していくにはどうすればいいか?」という問いから生まれた手法です。
「メタファシリテーション」を生み出した「ムラのミライ」サイト:https://muranomirai.org/
その本質は、現代のビジネス現場や、家族・友人との対話にも驚くほどフィットします。
この手法を学ぶことは、相手を変えるためのテクニックを磨くことではありません。自分自身の「こうあるべき」という固定観念を脇に置き、他者と対等な立場で、等身大の現実に目を向けるための練習です。
まずは「なぜ?」を封印して、「事実だけを聞いてみる」ことを意識してみようと思います。