セッション情報

  • セッション名: What’s new in Google Cloud’s agent platform
  • 登壇者: Aman Khan 氏(Group Product Manager, Google Cloud)/ Lavi Nigam 氏(Developer Relations Engineer, Google Cloud)/ Gauthier Debuiche 氏(Lead AI Engineer, L’Oréal)/ Thomas Menard 氏(Head of Agentic Platform, L’Oréal)

先に30秒でまとめ

  • 発表されたもの: Gemini Enterprise Agent Platform。Vertex AI を統合刷新したエージェント開発の新基盤
  • 何が変わったか:
    • 単体サービスとしての Vertex AI が Gemini Enterprise Agent Platform に統合され、今後の Vertex AI 機能とロードマップはすべてこの新プラットフォーム経由で提供される(既存 API・既存エージェントは後方互換で動作)
    • エージェントを統制するガバナンス層(Gateway / Registry / Identity)が揃った
    • 本番運用後の継続改善を担う Optimize スイートが新設
    • ADK が大型更新、Runtime は最大7日間の長時間実行に対応
  • 具体的に何が嬉しいか: 構築・運用・統制・改善が1つのプラットフォームに集約され、これまで継ぎ接ぎだった基盤を置き換えられる
  • 一番強い主張 / 目玉機能: 統一ガバナンス層によって、Shadow AI から Managed AI へ移行できる
  • 印象的だった事例: L’Oréal の Agentic Platform。週次4万人が利用し、ノーコードエージェントは3万。「自社開発から GCP 活用へ」という戦略転換の裏側が共有された

特に注目したい3つの新機能

Agent Gateway + Agent Registry(Govern の統一ガバナンス層)

Agent Registry(Preview)は、社内で動いているエージェントやツール、MCP サーバの中央カタログです。どのエージェントがどのツールに依存しているかが一望できます。「このエージェントは本番で使っていいのか」「似たツールを別々に作っていないか」といった判断を一箇所で片付けられます。

Agent Gateway(Private Preview)は、エージェント同士、そしてエージェントとツールの間で行き来する全ての通信を束ねる単一統制点で、enterprise agents のコントロールプレーンに当たります。複雑なネットワーク構成を意図ベースの抽象化に置き換え、GCP IAM との統合とプロトコル解析でポリシーを集中適用できます。Model Armor とも連携するので、プロンプトインジェクションやデータ漏洩を手前で止められます。

そこに Agent Identity(GA)が加わり、エージェントごとに SPIFFE ID が自動付与されます。最小権限の徹底と、一つひとつのアクションの監査証跡を、人間のユーザーと同じ感覚で扱えるようになります。

この3つが揃うことで、エージェントを IT 資産として棚卸しし、統制し、監査できる土台が一気に整います。

Optimize スイート(Evaluation + Observability + Optimizer、Preview)

Evaluation・Observability・Optimizer が1つのスイートにまとまりました。中身は次の3つです。

  • Multi-turn autoraters による online/offline 評価
  • Multi-Agent topology graph を含む Observability
  • 失敗をクラスタリングして改善指示まで自動生成する Agent Optimizer

ベースには DeepMind の eval 研究成果がそのまま入っていて、研究者チームを社内に抱えなくても同水準の評価が使えます。Build から本番運用、改善提案までを1つのプラットフォームで回せるので、継続的フィードバックループが最初から組み込まれています。

ADK core updates(Build、Beta)

ADK には4つの新機能が入りました。

  • Graph-based workflows(Python): 決定論的なワークフローを細かく制御
  • Collaborative agents(Python): コーディネータと複数サブエージェントで協調構成
  • Dynamic workflows(Python): コードロジックで反復ループや分岐を記述
  • Agent Skills(Python / Go / TS): ドメイン固有スキルを動的に発見・有効化・実行

加えて、言語サポートが Java と Go まで広がりました。

関連機能の Agents CLI in Agent Platform(Alpha)では、Gemini CLI / Claude Code / Codex などのコーディングアシスタントに ADK の 7 Skills を注入できます。

Gemini Enterprise Agent Platform の全体像

今回の発表の中心は、Vertex AI を Gemini Enterprise Agent Platform として統合刷新したことです。Build(構築)・Scale(本番運用)・Govern(統制)・Optimize(継続改善)の4ライフサイクルが1つの環境に揃い、これまで手作りでつなぎ合わせていた部分をプラットフォーム側が引き受けます。Gemini 3.1 Pro をはじめ 200以上のモデルが Model Garden から使えます。

Build — エージェントをどう作るか

Build の主役は ADK(Agent Development Kit)です。

ADK core updates(Beta)では、Graph-based workflows、Collaborative agents、Dynamic workflows、Agent Skills の4つが追加されました。役割は注目機能の章でまとめたとおりで、決定論的ワークフロー、協調構成、コードロジックでの反復・分岐、動的なスキル実行の4方向に拡張された格好です。ADK は Gemini モデルで月6兆トークン以上を処理する主力フレームワークで、今回の更新はその土台をさらに広げます。

Agents CLI in Agent Platform(Alpha)は、ADK のライフサイクル管理に必要な7つの Skills をバンドルした CLI+Skills パッケージです。Gemini CLI や Claude Code、Codex といった普段使いのコーディングアシスタントに組み込むと、エージェントの雛形生成から評価、デプロイまでを ADK のベストプラクティスに沿って進めてくれます。狙いは、MCP・ADK・gcloud の間で発生していた行き来の手間を減らすことです。さらに Gemini Enterprise app と連携させれば、出来上がったエージェントをそのままビジネスユーザーに届けられます。

機能 ステータス
ADK core updates Beta
Agents CLI in Agent Platform Alpha

Scale — エージェントをどう本番に乗せるか

Scale は Agent Runtime と、その周辺のコンテキスト機能、サンドボックス機能の3点セットです。

Runtime enhancements(GA at Next ’26)では、1秒未満のコールドスタート、BYOC(Bring Your Own Container)、Long-running agents の最大7日間実行、双方向ストリーミング、リソースレベルの IAM 紐付けが GA に揃いました。対応言語は Python / Java / TypeScript / Go の4つで、プロジェクトあたり 3,000 エージェントまでスケールします。LRO の7日間対応は、バックグラウンドで長時間動き続けるエージェントを念頭に置いた拡張です。

Context enhancementsは、セッションを跨いで文脈を保つための機能群です。中核となる Agent Memory Bank(GA)は、会話から長期記憶を動的に生成・更新し、セッションを跨いだユーザーの好みや履歴をエージェントが呼び戻せるようにします。今回新設された Memory Profiles(Preview)では、構造化スキーマで定義した情報を低レイテンシで取り出せます。あわせて Custom Session IDs(Preview)、History-enabled memory generation(GA)、IngestEvents API(Preview)が追加され、セッションやメモリ、履歴の扱いをきめ細かく制御できます。

Sandbox enhancementsは、エージェントがコードやブラウザを操作する部分の強化です。Code Execution が GA になり、BYOC custom browser tools/containers、Computer Use Sandbox、長時間ワークフロー向けの Snapshot API が Preview で追加されました。

機能 ステータス
Runtime enhancements GA(at Next ’26)
Agent Memory Bank GA
Custom Session IDs Preview
Memory Profiles Preview
History-enabled memory generation GA
IngestEvents API Preview
Code Execution GA
BYOC custom browser tools/containers Preview
Computer Use Sandbox Preview
Snapshot API for long-running workflows Preview

Govern — エージェントをどう統制するか

今回の発表でいちばん踏み込んできた章です。

Identity enhancements(GA)は、Agent IDs に SPIFFE ID を自動付与します。エージェント1つひとつに固有の ID を振る運用は、これまで簡単には実現できませんでした。業界標準の SPIFFE を採用したことで、最小権限の徹底と、エージェントの行動ごとの監査ログが標準で取れるようになります。

Registry enhancements(Preview)では、Agent Registry がエージェント、MCP サーバ、エンドポイントの中央カタログを提供します。どのエージェントがどのツールをどれくらい使っているかまで見えるので、開発者は承認済みコンポーネントをそのまま再利用できます。「作った本人しか知らないエージェント」が組織の中に生えていくのを防ぎます。

Security enhancements(Preview)には、Agent Threat Detections と Vulnerability Scanning、Overprivileged Agents Findings、AI asset lineage discovery、Shadow AI Discovery、そして Agent Anomaly Detection(Experimental)が並びます。未把握のエージェントの棚卸しから、権限過多や振る舞い異常の検知まで一通りカバーします。セキュリティチームが既存の監視基盤の延長で扱えるよう設計されています。

Agent Gateway(Private Preview)は、エージェント同士の通信と、エージェントからツールへの呼び出しの両方を束ねる単一統制点です。複雑なネットワーク構成を意図ベースの抽象化に置き換え、GCP IAM と統合したポリシーを集中適用できます。自動ログと Trace ID で全体を可観測にするので、「どのエージェントが、どのツールを、どの権限で、どう呼んだか」を後から辿れます。

これら4つで、エージェントを IT 資産として扱う基盤が揃いました。統制はプロトタイプから本番まで一貫して効きます。Shadow AI 状態を可視化して Managed AI に移すために必要な部品が、ようやく出揃ったかたちです。

機能 ステータス
Identity enhancements(Agent Identity) GA
Registry enhancements(Agent Registry) Preview
Security enhancements Preview
Agent Anomaly Detection Experimental
Agent Gateway Private Preview

Optimize — エージェントをどう改善し続けるか

Optimize は、本番に出したあとのエージェントを良くしていく章です。

Observability enhancements(Preview)には、Trace、Dashboard、Multi-Agent topology graph が含まれます。マルチエージェント構成を可視化できるので、どのエージェントがボトルネックかを掴みやすくなります。

Evaluation enhancements(Preview)では、Online / offline evaluation、Multi-turn autoraters、Loss clustering、User and environment simulation が揃います。失敗をクラスタリングできるので、「この失敗パターンだけまとめて直したい」という粒度で改善のアクションがとれます。

Optimization enhancements(Preview)には、ADK optimization と Evaluation expert Skill が含まれます。後者はコーディングアシスタントに組み込めるかたちで提供される Skill で、普段のワークフローに評価ループを差し込めます。

DeepMind が長年磨いてきた eval 研究の成果が、そのまま製品に移植されているのがこの章の肝です。専門の研究チームを社内に抱えなくても、同等の評価基盤が使えます。Build から Govern までと組み合わせれば、継続的フィードバックループがプラットフォーム上で完結します。

機能 ステータス
Observability enhancements Preview
Evaluation enhancements Preview
Optimization enhancements Preview

L’Oréal の実装事例

セッション後半は、L’Oréal の Gauthier Debuiche と Thomas Menard が登壇して、自社の Agentic Platform の話をしてくれました。

From Make to Buy への方針転換

L’Oréal は2023年12月に L’OréalGPT(週間2,000名)を社内向けにリリースしました。2024年2月には再利用可能な GenAI サービス群へと発展させ、2025年9月に大きな戦略転換を行います。それまで自社でフルスクラッチ気味に作り込んでいた部分を、GCP ネイティブのサービスに置き換える「From Make to Buy」の方針です。

現時点で週間アクティブユーザは40,000、ノーコードで作られたエージェントが30,000、GenAI ユースケースは50を超える規模で動いています。グループ全体が95,000名なので、ざっくり見て従業員の4割以上が週次で触っている計算になります。

Agentic Platform を支える5本柱

L’Oréal の Agentic Platform は、「技術基盤(Agentic Toolkit + The Gateway)」と「組織基盤(Center of Excellence + Governance Task Force + Community & Learning)」の5本柱で構成されています。

セッションで特に印象的だった3つの発言を抜き出しておきます。

1 “The platform evolves without us”(Google Cloud を選んだ理由)
ADK は隔週でリリースされ、最新モデルにはすぐアクセスでき、ドキュメントや codelabs も Google 側が継続的に整備してくれます。だから L’Oréal は自社保守をクリティカルパスに置かなくていい、という主張でした。クラウドネイティブを選ぶことのメリットを端的に表しています。

2 “We went from building services for everyone, to empowering everyone to build”(思想の転換)
中央の少人数チームが全員のためにサービスを作り込む形から、現場が自分で作れる環境を整える形へ。プラットフォームチームの役割を再定義する言い方で、Center of Excellence の立ち位置もこの方向に沿っています。

3 Webapp 自体が ADK エージェントで駆動されている
L’Oréal の Agentic Platform Webapp は、プラットフォーム利用者向けのポータルです。その Webapp そのものが ADK エージェントで動いています。プラットフォームを使ってエージェントを作るだけでなく、プラットフォームそのものがエージェントで動く。「AI is for everyone」を地で行く構成です。

おわりに

今回の発表を通しで聞いていちばん印象に残ったのは、エージェントを「作る」話より「管理する」話のほうがずっと多かったと感じます。
Vertex AI の時代は LLM をどう活かすかがテーマでしたが、Gemini Enterprise Agent Platform では、社内に増えていくエージェントをどう IT 資産として扱うかがテーマになっています。

エージェントが業務で本格的に使われるようになると、「誰がいつ作ったか分からない」「PoC のときの権限がそのまま残っている」みたいなエージェントが社内に必ず溜まっていきます。Identity・Registry・Gateway は、そういう状況に Google が先回りで用意した答え、と捉えるとしっくりきます。

L’Oréal の「自社で作るのをやめて GCP に乗せる」という判断も同じ方向を指していて、日本のエンプラでも、自前のAI基盤をどこまで持つべきかを見直す時期に来ているのかもしれませんね。

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