こんにちは!先進技術戦略室の中谷です!

2026年7月30日・31日に東京ビッグサイトで開催された Google Cloud Next Tokyo 26 に参加してきました。本記事では、初日に聴講した「Agentic Commerce とは ー AI エージェントが変える顧客体験と Google Cloud アーキテクチャ」のレポートをお届けします。

このセッションを選んだ理由は、AI エージェントが「作れるかどうか」ではなく「どんな体験を届けられるか」という段階に入ってきているという実感があり、その最前線がコマース領域だと考えたからです。実際に聴いてみると、想像していたよりもずっと具体的な部品が揃っていて、驚かされる内容でした。

セッション概要

項目 内容
セッションID D1-AIML-10
日時 2026年7月30日(木)17:00 – 17:30
会場 Room 2
登壇者 遠山 雄二 氏(Google Cloud カスタマーエンジニア)
レベル 中級者向け

公式セッションカタログでは、以下のように紹介されていました。

本セッションでは「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」の基本概念やビジネスにもたらす価値を把握したいビジネスサイドの方から、実装に向けた技術情報を整理したいエンジニアの皆様まで役立つ内容を紹介します。消費者の行動が「検索」から AI への「委任」へとシフトする中、次世代の顧客体験をどう構築すべきか。その時代背景と必要となるテクノロジーの全体像を紐解き、Google Cloud を活用したアーキテクチャの設計ポイントまでを体系的に解説します。

セッションは「Agentic Commerce とは」「アーキテクチャイメージ」「ソリューション」「まとめ」の4章構成で進行しました。

Agentic Commerce とは

購買体験を AI が自律的に支援する

デジタルコマースは重要な局面を迎えている、という話から始まりました。すでに Google 上では Shopping Advisors(買い物のアドバイス)、AR Beauty Looks(AR による化粧品の試着)、Virtual Try-On(バーチャル試着)といった機能が提供されており、AI が購買体験を変えはじめていると説明されていました。

Agentic Commerce では、AI エージェントが以下のような領域を自律的に支援します。

  • パーソナライズされた購買体験の支援
  • 自律的な購買と交渉
  • ダイナミックな価格設定とプロモーション
  • 在庫とサプライチェーン管理
  • 不正検出とリスク管理

ユーザー側の入力は自然言語や商品画像になり、バックエンドの処理そのものは従来の EC サイトと大きくは変わりません。ただし、エージェントが正しく振る舞えるようにするためにはバックエンドの標準化が必要になる、という点が強調されていました。

オンサーフェスとオフサーフェス

Agentic Commerce の実現パターンは、大きく2つに分かれると整理されていました。

パターン 舞台 概要
オンサーフェス 自社サイト(オウンドサイト) 自社が用意したチャットや検索の体験のなかで、エージェントが購買を支援する
オフサーフェス Google 検索・Gemini など 自社の外にある顧客接点から、自社の商品情報や購買機能に接続する

自社サイトに閉じるか、外部の顧客接点まで含めるかという違いです。この2つは対立するものではなく、どちらも取りにいく前提で語られていた点が印象的でした。

アーキテクチャイメージ

必要なものは「Agentic アプリケーション」と「データ」

実現に必要なものは、大きく Agentic アプリケーションとデータの2つであると説明されていました。

Agentic アプリケーションは、ユーザー、フロントエンド、バックエンドという構成自体は従来の Web アプリケーションと同じです。違いは、そこを流れる情報が構造化された検索条件ではなく、自然言語や画像になるという点にあります。

求められるデータの性質が変わる

個人的に、このセッションで最も納得感があったのがこの整理でした。

従来(属性ベース) Agentic Commerce(生成 AI ベース)
商品情報 商品名、サイズ、型番 商品コンセプト、利用したいシーン、画像
ユーザー情報 購買履歴、年齢、性別、住所 会話ログ、感情、文脈
捉え方 「この人は、この商品が欲しい」 「この人は今、こういう気分・状況だ」
出力 属性を元にした情報提供もしくは一括送信 その人のために生成された商品・文章・提案

従来のレコメンドは、購買履歴や年齢といった静的な属性から「似ている人が買ったもの」を出す仕組みでした。これに対して Agentic Commerce では、その瞬間の状態(モーメント)と、その人の趣味嗜好やこだわり(ニュアンス)を掛け合わせて提案を組み立てます。

つまり、これまで定量的な指標に落とし込んで扱っていたものを、曖昧なまま扱えるようになったということだと理解しました。データ設計の前提が変わるという意味で、ここは開発者側が一番意識を切り替えないといけない部分だと感じています。

オフサーフェスは規格に沿って構築する

オンサーフェスとオフサーフェスでは、構築の自由度が異なるという説明がありました。

オフサーフェスは Google 検索や Gemini という外部の接点に商品情報を届けるため、一定の規格に沿って構築する必要があります。一方でオンサーフェスは自社サイト内で完結するため、実装の戦略に選択の余地があります。本セッションでは、規格が定まっているオフサーフェス側を中心に解説が進みました。

オフサーフェスのアーキテクチャは、商品情報を Google Merchant Center(GMC)に集約し、購買機能を UCP という規格で接続する構成として示されていました。

ソリューション

Conversational Attribute で曖昧な表現を登録する

ここからは、実際に使う Google Cloud のサービスの紹介です。

まず商品情報の集約先となるのが Google Merchant Center です。そのうえで登場したのが Conversational Attribute という仕組みでした。

これは、人間が感覚的に持っている曖昧な表現を、自然言語のまま商品データとして登録できるようにするものです。従来であれば「サイズ」「素材」といった決められた項目に落とし込むしかなかった情報を、そのままの言葉で持たせられるようになります。

さらに、非構造化データを AI と連携させることでデータカタログに取り込めるようになるという話もありました。商品情報のエンリッチには BigQuery と Gemini を組み合わせる構成が紹介されており、既存の商品マスタから説明文や利用シーンを生成して補完していく流れになります。

「暖かそうなコート」「休日に着られる服」といった、これまでシステムが取りこぼしていた曖昧な表現をそのまま扱えるようになる。この部分が、今回のセッションで一番驚いた点でした。AI との連携によって、曖昧な言葉をくみとるアプリケーション開発が現実的な選択肢になってきていると実感できたからです。

UCP という共通言語

購買機能側を担うのが UCP(Universal Commerce Protocol)です。

UCP は、顧客接点・事業者・決済プロバイダーを横断する共通言語として策定が進んでいる標準規格です。Services、Capabilities、Extensions、Transports といった要素で構成されており、どの顧客接点から来たエージェントに対しても同じ作法で応答できるようにすることを狙っています。

ただし、2026年7月時点では提供される機能に制限があり、日本での開発はまだ準備段階であると説明されていました。実装ガイドはすでに公開されているため、まず読んでおくことはできます。

参考:Universal Commerce Protocol(Google for Developers)

規格が固まる前の段階で「こういう共通言語が来る」と知っておけるのは、設計判断のうえで大きいと思っています。バックエンドの標準化が必要だという冒頭の話が、ここで具体的な形になって回収された印象でした。

GECX と CX Agent Studio

エージェントそのものを作る基盤として紹介されていたのが、Gemini Enterprise for Customer Experience(GECX)です。

そのなかの CX Agent Studio は、Build(構築)、Evaluate(評価)、Deploy(デプロイ)、Monitor(監視)という4つのフェーズをカバーしています。GUI によるマネージドな開発と、ハイコードによるカスタマイズの両方に対応しているという点が説明されていました。

エージェント開発は作って終わりではなく、評価と監視を回し続ける前提の作業になります。その一連の流れが1つの基盤に収まっているという構成は、運用まで見据えた設計を考えるうえで参考になりました。

全体像

最後に、ここまでのソリューションを組み合わせた Agentic Commerce のアーキテクチャ全体が示されました。

なお、すべての機能が日本で使えるわけではない点は、セッション中で繰り返し補足されていました。検討する際は提供状況の確認が前提になります。

まとめ

セッションのまとめとして、以下の3点が挙げられていました。

  • Agentic Commerce は AI エージェントを用いた新しい顧客体験であり、オンサーフェスとオフサーフェスの2パターンがある
  • アーキテクチャのポイントは Agentic アプリケーションとデータの2つで、オフサーフェスは一定の規格に沿って構築する
  • Conversational Attribute、UCP、GECX などを組み合わせることで、その双方を実現できる

さいごに

30分という短いセッションでしたが、概念の整理から具体的なサービスの組み合わせまでが一本の線でつながる、密度の高い内容でした。

持ち帰りたいと思ったのは、消費者の行動が「検索」から「委任」へ移っていくという前提そのものです。ユーザーが自分で検索窓に言葉を入れて絞り込むのではなく、AI に任せて結果を受け取るようになる。そうなったとき、システムに求められるのは検索されやすい構造化データではなく、エージェントが解釈できる文脈を持ったデータになります。

これは EC に限った話ではないと考えています。ユーザーが何かを探して選ぶ機能を持つアプリケーションであれば、同じ変化が起きるはずです。自分が関わるプロダクトでも、いま持っているデータがエージェントに渡せる形になっているかという観点で、一度見直してみたいと思いました。

まずは UCP の実装ガイドに目を通し、規格として何が求められているのかを自分の手で確かめるところから始めます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。