『オウンドメディアの先輩から学ぼう!』第2回では、第1回にお話を伺ったシックス・アパートの壽さんからのご紹介で、フリーランスとしてさまざまなオウンドメディアの編集者をされている『アミケン』さんこと鈴木健介さんをお訪ねしました。

アミケンさんは、かつてオールアバウトでディレクターやプロデューサーを経験され、その後、さくらインターネットに転身。広報やWebマーケティングに従事する中、オウンドメディア『さくらのナレッジ』の初代編集長を担当されました。現在は、フリーランスの編集者として、数々のWebメディアの運営や執筆に携わっていらっしゃいます。

複数のメディアの編集者を兼務されていて、多忙を極める鈴木さんから待ち合わせに指定された場所は、意外にも東京都文京区の『根津』。根津と言えば東京の下町風情が残る『谷根千エリア』の一角で、文化的な香りはするものの、あまりビジネス臭のしないエリアです。その日は折しも台風16号の影響によるしとしと雨で、風情の増す迷路のような路地を歩きました。辿り着いたのは住宅街のど真ん中に突如現れるホテル1Fにあるカフェでした。

フリーランスの編集者になった理由

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さっそくですが『フリーランスの編集者』というのは珍しいと思ったのですが…

そうかもしれませんね。名刺交換の際に相手の方に驚かれることはあります(笑)

これまでのキャリアの中で、広報やWeb担当さらに遡れば、編集者、プロデューサー、ネイティブアドのディレクションを担当したりする中で、一貫していたのは『企業が言いたいことを上手にユーザーに伝える』ということでした。仕事を通じて研究を重ね、ノウハウを学ぶことができました。

その中で、自らの企画でオウンドメディアとして立ち上げたのが、さくらインターネットの『さくらのナレッジ』でした。

主な読者は、ITエンジニアです。エンジニアが探している情報や知りたい情報を、 わかりやすい文章で適度な深さでお伝えする というのを追求していきました。

エンジニアではない編集者の立場で、エンジニアから技術情報を引き出してわかりやすくアウトプットするスキル、淡々としたエピソードを熱いストーリーに生まれ変わらせる。まさに編集者に必要とされるスキルが身についた時期でした。

オウンドメディア編集者として独立しようというきっかけは何だったのですか?

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オウンドメディア勉強会』を2014年から運営しているのですが、参加企業のお話を伺っていると、編集経験者を擁するオウンドメディアは、せいぜい1〜2割なんです。

編集経験者が社内にいなければ、経験者を雇うか、フリーランスを使うしかありません。しかし編集者がそもそも転職マーケットにいないので、後者が中心になるだろうと考えました。

実際、編集スキルは経験者が1年も伴走すれば吸収できますから、社内スタッフが編集長として育っていくというゴール設定で、フリーランスの編集者を組織に取り込んでノウハウを吸収したほうがスムーズだと考えています。

オウンドメディアは企業の情報発信のメインストリームになってくるでしょうから、私が持っているノウハウやナレッジをいろいろなクライアントの役に立てないかと考えました。フットワーク軽く活動がしたかったので、独立することにしたのです。

クライアントとはどういう関わり方を目指していますか?

一緒にやらせていただくからには、社員と同じぐらい目指す方向性にコミットしたいと考えています。

「オウンドメディアの編集部がうまく回るようになりました」「アクセスが伸びました」「では、さようなら!」ではなくて、クライアント企業の中でオウンドメディアの価値が浸透して、ブランディングへの貢献などが目に見えて現れてくるようになるまでお付き合いするつもりです。

確かにオウンドメディアは、経営者からすると効果がわかりにくい施策のひとつと言われます

ええ。マーケティングに取り組んでいる人以外には、なかなか理解されにくい施策ですね。

なので、他のマーケティング施策にはできないことをやっているんだ!という視点といいますか、きちんと社内で理解される道筋がどのオウンドメディアにも必要な要素だと言えますね。

『原石』になる情報を発見するスキル

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私がさくらインターネットにいた頃、外部からは「データセンターの会社って人がいない」なんて思われたりしていたんです(笑)

実際には、働いている仲間は大勢いました。社員の顔を見せたり、オフィス環境を紹介することで親近感を持っていただきたくて『さくらのナレッジ』は作られていきました。

あと、お客様の事例なども紹介しましたね。次第にお客様の方から「ウチの事例をさくらのナレッジに掲載してほしい」というオファーがあったりもしました。とても嬉しかった。

オウンドメディアって、自社内にある隠れた情報とか、サービス開発やカスタマー対応のために調べたり実験したりした活動の中で発見したナレッジがネタになるケースが多いんです。そういう情報を発見する力が編集者の腕の見せどころとも言えます。

編集スキルは高い方がいいのはもちろんですが、オウンドメディアなら多少は粗くても許されると思うんです。粗くても怒られることは、あまりないはずです。

むしろ社内にある『原石』を見つけて表に出すことに価値がある、と?

はい。例えばcloudpackさんなら、エンジニアに「最近どんな失敗をしました?」とか聞いてみるといいですよ。

失敗って、何か新しいチャレンジやポジティブな仕掛けを試みた結果、失敗に終わっただけのことがほとんどです。ミスの原因やタイミングなどは、紐解くと元はポジティブな動機が見えてくるので、たいてい役にたつ良質な情報になります。

結果的に、ウチには『面白い原石』がこんなにあるんだゾ!乞うご期待!みたいな記事になるんじゃないでしょうかね。

編集者の心得となる『編集十訓』

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編集者の基本的な行動指針となる『心得』的なものとして、『編集十訓』を紹介しますね。


01:編集者は、当然に一流のビジネスマンでなければならない。社会を広くかつ深く理解し、自己研鑚と視野の拡大に務めよ。

02:社会のリーダーである読者の共感を得られてこそ真に価値あるコンテンツとなる。常に読者の立場に立つと同時に、その半歩先を行くことを心掛けよ。

03:編集者の使命は、読者から信頼されるコンテンツを提供することである。著作権の侵害はもとより、虚偽および事実の歪曲は絶対にこれ戒めよ。

04:コンテンツは、企画が生命である。常に時代の動向を読み、社会の現実に密着した読者ニーズの発掘に努めよ。

05:企画の実現は、編集者にとって絶対である。決定した企画は、万難を排して100%の実現に全力を尽くせ。

06:優れた企画にするかどうか、その成否は最適な著者の発掘にかかっている。著者のすぐれて得意な分野を引き出して企画の意図を全うせよ。

07:コンテンツは真理眼で創るものである。現実を正確に把握し、時流に惑わされることなく真理を見抜く眼を養え。

08:リリース計画の厳守は、編集者に不可欠の条件である。リリースの遅れが、諸悪の根源であることを銘記せよ。

09:コンテンツの真価を発揮させる最後の機会は校正にある。ミスはなくて当然、の考えになりきって校正に当たれ。

10:できあがったコンテンツが、編集者にとってはすべてである。一切の弁解や言訳は通用しないことを銘記せよ。


この『編集十訓』は、私が尊敬する超ベテラン書籍編集者の方から伝え聞いたものを、オウンドメディア向けにアレンジしたものです。

一見して当たり前のことのように読めますが、実際これらを実践するのはとても大変ですね。特に「進行」に関する厳しさが伺えます

オウンドメディアは、スケジュールで締め切りが甘くなったり、逆に記事の中身よりも掲載すること自体が目的になってしまいがちになります。そんな風にならないように、『編集十訓』をときどき読んで心に留めていただけるといいですね。

最後に『cloudpack.media』に何かアドバイスをいただけますか

周りからの協力を取り付けることを考えると、アクセス数はとても大事です。アクセス数が対外的にも、社内プレゼンス的にもメディアの存在価値を示しますので。

しかし一方で、アクセス数に一喜一憂せずに、いろんなトライをしてみたらいいと思います。

クラウドにテーマを絞らず、ぜんぜん別のカテゴリーとかテーマとか。トライしてみると、これまでのcloudpackとは違った顔を見せられる機会になるかもしれませんよ。それがcloudpackの魅力として映る読者も現れる可能性があります。

人気のある記事がでてきてパターン化されてしまうと、編集者はついそればかりやってしまう。なので、必ず全体ラインアップの1〜2割ぐらいは、遊び枠として面白さを目指した記事を載せたらいいと思います。

取材後記

『編集十訓』の話をされる中で、「オウンドメディアは業務の片手間でやっているとつい甘くなる。更新間隔が空いて、いつの間にか担当者も交代して、気がつけば幽霊メディアになってしまうんです」と鈴木さんは苦笑いしながらも、強い眼差しで私に言った。君のところはそうならないようにしろよ、とでも言いたげな表情だった。

何故オウンドメディアを始めることにしたのか? 最終目標は何なのか? 気をつけていないと他の業務に忙殺されて、確かに忘れてしまいそうなことだと感じた。

編集者には、ときには外部ライターを使ってでも記事をきちんと期日どおりに回していくことが求められると言う。

原稿を落とすということが何を意味するのか、何気なく日々手にする週刊誌などの、編集者の仕事を想像すると私にもわかる。ヒリヒリするような週刊誌の現場をくぐり抜けたことがない私でも想像するだけで胃が痛みだし、外部のフリーランスの編集者に寄り添ってもらえたら心強いと思う日もきっとあるだろう。

編集者として当たり前のことを徹底するためのフォローが期待できるに違いない。そう、きっと日々『編集十訓』を耳元で囁いてくれるのだ。

いや、それ自体が甘えですよ、とアミケンさんなら言うだろう。

cloudpack.mediaの編集メンバーのみなさん、さあ時間です。今週の編集会議やりましょうか。

聞き手:増田隆一(marketing communication, cloudpack)