※本記事はITmediaエンタープライズより許諾を得て掲載しています
転載元:ITmediaエンタープライズ
2020年6月10日掲載記事より転載

クラウド利用は既に先進的なIT戦略を持つ企業だけのものではなくなった。だが、既存システムのクラウド移行では移行の効果を明らかにしておきたい。事前準備の工夫次第では継続して成果を出し続ける道筋を作りやすくなるという。

IT基盤へのクラウド採用はもはや特殊なことではなく、ほとんどの企業にとっては当たり前の選択肢になっている。中でもAmazon Web Services(以下、AWS)はクラウド市場でのプレゼンスが高く、企業の採用実績も豊富なことから移行先として検討されやすいクラウドサービスの一つだ。だが、クラウドインテグレーターから見ると、導入したもののクラウドのメリットを十分に享受できていない企業もあるという。特にクラウド移行自体が目的化している場合、移行後の最適化の道筋を立てられず、移行プロジェクトそのものの評価を下げてしまっているケースがある。

こうした状況を受け、クラウド移行に不慣れな組織でも移行後のクラウド最適化の効果までを見越した計画を低コストで検討可能な支援サービスが登場した。インフラだけでなくアプリケーションを含むクラウド移行計画やクラウドネイティブ化へのロードマップを具体化できるという。

二極化の様相を呈する日本企業のクラウドリフト&シフト動向

AWSは2006年にメッセージキューイングサービスの「Amazon Simple Queue Service(SQS)」やストレージサービスの「Amazon Simple Storage Service(S3)」からサービスを開始した。当初は技術的に「とがった」企業での採用が目立っていたが、政府や金融機関さえクラウドをIT調達の前提とする状況になった今、一般企業でもシステム更改をきっかけにクラウドの利用を検討するケースが増えてきた。クラウド市場で大きなシェアを持つAWSは、こうした企業の第一の選択肢となりつつある。

早くからクラウドを採用した企業では、一部のWebアプリケーションだけでなく、コア業務に関わる重要システムをクラウドに乗せてシステム投資の軽量化や機動力強化を目指す傾向が強い。こうしたIT戦略に長けた企業は、リモートワークが必要となる状況においても柔軟にクラウドを活用し、短期間で仮想デスクトップ環境を構築したり、「Amazon Connect」などを利用してクラウド型のコールセンターを立ち上げて事業継続を実現したりするなど、大きな成果を挙げている。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンの諸岡賢司氏(パートナー技術本部 パートナーソリューションアーキテクト)は企業の直近のクラウド利用の状況についてAWSの新サービスと機能拡張のスピードを考慮すれば、まずは移行してしまった方が、ビッグデータ、AI/機械学習など、他のAWSのサービスと連携して活用できるようになり、将来得られる利益が大きいと判断されるようです」と説明する。

[アマゾン ウェブ サービス ジャパン 諸岡賢司氏]

 クラウド活用企業がクラウドならではの特徴を理解して次々とリリースされる新しい機能を使いこなし、生産性向上を果たしたり新たなビジネスを推進したりする一方で、これからクラウド移行を本格化する企業の場合は「クラウドならでは」のシステム構築のノウハウを持たない場合もある。

「これからクラウド利用を本格検討する企業が無駄なく効果的な移行を実現するには、経験豊富なシステムインテグレーターの伴走が必要です」(諸岡氏)

AWSはAWSパートナーネットワーク(APN)を通じてさまざまなシステムインテグレーターと連携し、企業のクラウド利用を支援する。その一貫としてパートナー企業を得意とするソリューションやインダストリーで認定する制度がある。APNのコンピテンシープログラムはその一つだ。AWSへの移行を高いレベルで支援できることを証明する「移行コンピテンシー」を保有する企業の1社が、APNの最上位パートナーティアであるプレミアコンサルティングパートナーとして「cloudpack」を展開するアイレットだ。多数のクラウド移行プロジェクトを手掛けてきた経験から「移行コンピテンシー」の認定を受け、2016年からはそのノウハウを「migrationpack」として体系化してきた。

なぜ移行プロジェクトの多くが“クラウドリフト止まり”になってしまうのか

数々の企業のクラウド移行を支援してきたアイレットにも課題はあった。顧客が移行を目的化してしまい、クラウド移行後のシステムを「塩漬け」にしてしまいがちだったのだ。

移行の最大の動機がコストダウンにあり、それを達成すると一息ついてしまうことに理由がある、とアイレットの小林弘典氏(クラウドインテグレーション事業部 事業部長)は語る。だが理由はそれだけではない。クラウドシフトの効果を簡単に可視化できなかったため、社内説得の材料を作るだけでも時間とコストの負担が掛かってしまうのだ。

[アイレット株式会社 小林弘典氏]

 「単にオンプレミスのシステムをクラウドに載せ替えただけではコスト削減も一部に留まり、クラウドの価値を十分に享受できません。クラウドを生かすようシステムの設計を見直す必要があります。ただ、これまではそれによってどのような効果が得られるかを定量的に評価することが難しく、顧客にうまく説明できませんでした」

顧客側においても事情は同じだった。IT戦略の実務を担う経営企画部門やシステム企画部門がさらにクラウド活用を推進しようにも、社内でその効果を説明して経営層から決裁を得るだけの裏付け材料を持てないでいた。こうした課題を解消し、クラウドの価値を最大限に生かすことができるのが、New Relicの「Cloud Journey for AWS」だ。

移行前から移行後までのシステム状況と性能を数値化する「Cloud Journey for AWS」

New Relicは「Application Performance Management」(APM)を軸に、モバイルやWebブラウザといったエンドユーザーの状態を取得する「New Relic Mobile」「New Relic Browser」、外形監視をになう「New Relic Synthetics」、インフラの状態を監視する「New Relic Infrastructure」、これら全ての情報を一元的に可視化するダッシュボードなどを提供し、あらゆるITシステム情報の収集、監視最適化を得意とするベンダーで、クラウドを積極的に活用する技術感度の高い企業から一定の支持を得ている。AWSへの移行計画、実施、運用、最適化を促進する「Cloud Journey for AWS」は、既に米国では金融機関をはじめとする幅広い顧客が導入を進める状況にある。

Cloud Journey for AWSはNew Relic製品群を使ってアプリケーションのパフォーマンスを計測し、「移行前(現行システム)の把握」「移行支援」「クラウド最適化」「コスト評価」「テクニカル/ビジネスKPI評価」という5つの柱で定量的にシステムを可視化する。

Cloud Journey for AWSの5つの柱(出典:アイレット)

「移行前」フェーズで利用する「Foundation」は、現行システムのアプリケーションやインフラの使用状況を見たり実際のパフォーマンスを数値として把握したりできる。

Foundationによる現行システムの可視化(出典:アイレット)

「移行支援」フェーズで利用する「Migration」は現行システムと新システム双方を計測することで、性能が落ちていないかどうか、エラーが増えていないかどうかなどをその都度確認できる。この機能を利用することで少ないリスクで安定的に移行を進められる。

 そしてここから先こそが「Cloud Journey for AWSの真価の発揮どころ」とNew Relic 株式会社 CTO(最高技術責任者)の松本大樹氏は語る。
[New Relic 株式会社 松本大樹氏]

 移行後のフェーズで利用するのが「Modernization」だ。リフト止まりになっているシステムをどうクラウドに最適化させるかを検討するのに利用できるという。

「AWSならではのマネージドサービスを使ったりサーバレス機能を生かしてコストダウンを図ったりできるケースが考えられます。単なるサーバ移行で『Amazon EC2』に置いたシステムのうち、サーバレスサービスの『AWS Lambda』や『AWS Fargate』、データベースサービスの『Amazon Aurora』などに移行できるものが幾つあるかといった情報を定量的な数字として把握できます。現状と改善後の予測性能値も明らかになるため、施策の結果として創出されるビジネス価値を描きやすくなります」(松本氏)

Modernizationによるシステムの定量的分析(出典:アイレット)

 同様に「Optimization」はコストの観点から、「Thriving Business」はビジネスKPIの観点からクラウドで運用するシステムの価値を評価できる。これらによって顧客は、「このクラウドで何を実現したいのか」を常に意識してコストとパフォーマンスを最適化できる。移行時のみならず「移行後も活用の場があるプラットフォーム」と松本氏は強調する。

「migrationpack for enterprise」でアセスメントを無償提供

アイレットは自社のAWS移行サービス「migrationpack」にCloud Journey for AWSを統合して「migrationpack for enterprise」として提供する。

migrationpackはオンプレミスシステムのAWS移行を支援するだけでなく、移行後に残ったハードウェア類の処分などの手配を丸ごと任せられる移行支援サービスだ。これにCloud Journey for AWSを加えた「migrationpack for enterprise」は移行前の計画から、移行後の運用や最適化も包括的にサポートできるようになった。

アイレットは、これらの移行支援に加え、移行前のアセスメントも無償で提供する。アセスメントでは、現行システムのネットワークやサーバ、アプリケーションの構成および実際の運用などの詳細情報を確認し、現状を可視化し、移行計画の立案や移行後の効果を算出する。

その理由について小林氏は次のように語る。

「これまでアセスメントは労働集約的で手間が掛かるため無償では提供できませんでした。特に古いシステムを対象とする場合は情報が残っていないことも多く、ログなどから全体像を類推しなければならない場合もあります。月単位の工数がかかる上にそれでも把握に抜け漏れが生じます。Cloud Journey for AWSを活用すれば現行システムの状況をそのまま正確に可視化でき、時間も大幅に短縮できます。システム規模にもよりますが、現状把握からシステム設計までを数カ月程度で実施可能とみています」

New RelicのAPMを導入しておけば常にシステムの状態を可視化できるため、アプリケーションの稼働状況を見てリザーブインスタンスを利用したり、AWSの機能に置き換えてサーバレス化したりといった改善策を検討可能になる。もちろん改善策の実行結果の評価もすぐに把握できる。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンのグレース・リー氏(パートナーマイグレーションリード )に よると、この2年で移行規模が比較的大きい複数の案件で、50%以上がコスト削減を動機としていたという。

[アマゾン ウェブ サービス ジャパン グレース・リー氏]

「コストを削減したいのに最初のアセスメントに費用がかかるため先へ進みにくいと考える企業も少なくありませんでした。移行コンピテンシーを持つアイレットがアセスメントを無償で提供することには大きな意味があります」(リー氏)

移行後にAWSのメリットを効率良く最大化

AWSとしても大きな期待を寄せている、と諸岡氏は語る。

「米国企業や国内先進企業は、コンテナやサーバレスなどの技術を活用してアプリケーション構造にメスを入れている段階です。この新サービスが日本のお客さまのクラウドステージを先に進める起爆剤になってくれるのでは、と今回のリリースをうれしく思っています。幸い、クラウド移行要望は当社だけで処理できないほど増えており、アセスメント無償ということなのでアイレットには最初の段階からどんどん案件に関わってもらおうと思っています」

クラウドリフトは過程であってゴールではない。リリースのスピードアップや顧客体験の品質向上など、コスト削減だけではないAWS移行の効果を体感するためにもmigrationpack for enterpriseのような支援をうまく活用し、移行後の効果を最大化する計画を検討してほしい。