ベルサール渋谷ガーデンで開催された、AI Agent Summit ‘25 Spring に参加してきましたので、セッションを一部ご紹介いたします。
セッション概要
タイトル:現場発!店舗スタッフを全員マーケター化した、アンドエスティの STAFF VOICE の取り組み
スピーカー:株式会社アンドエスティ 上田 航大 氏
株式会社アダストリアの 100% 子会社である株式会社アンドエスティでは、アダストリアのブランドである「グローバルワーク」や「レプシィム」にて、これまで収集できなかった “お客様の声” を生成 AI で可視化する「STAFF VOICE」を開発し、新しい角度からの商品改善を進めています。
本セッションでは、STAFF VOICE 誕生の背景や、どのように現場を巻き込みソリューション化したか解説いたします。
アンドエスティの課題
お客様からの商品レビューを基に改善を進める中で、主に3つの課題がありました。
- 試着や接客後に商品を購入しなかったお客様の声を紙に記載する作業に時間がかかること
- 店長がお客様の声の集計・分析作業に時間がかかり、手作業による抜け漏れが発生し得ること
- 月1回の頻度で MD(商品の改善担当)にお客様の声を共有するため、改善が必要な時に必要なデータがないこと
これらの課題が解決されないままだと、商品改善のスピードや効果が頭打ちになり、最終的には顧客満足度や売上に悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、商品やサービスの改善活動をより効率的かつ網羅的に進めるために開発されたのが「STAFF VOICE」です。
現場の声を集める「STAFF VOICE」
STAFF VOICE を活用することで、以下の3つを実現できます。
- 店舗スタッフがお客様との会話内容や反応をアプリに録音できる
- Gemini を活用し、録音データをテキストデータに変換・分類することで、お客様の情報を整理できる
- Looker Studio を用いて、分類されたデータをダッシュボード上で可視化できる
これまで店長が手作業で行っていたお客様の声の集計・分析作業を Gemini が代替することにより、店長は本来の業務に集中できます。また、リアルタイムで可視化されたお客様の声に誰でもアクセスできるため、商品改善のスピードが飛躍的に向上します。つまり、お客様の声を的確に収集し、それを基に商品改善を進める「マーケター」としての役割を現場のスタッフ全員が担うことができます。
STAFF VOICE のインパクト
STAFF VOICE は、多くの店舗で活用され、商品改善に大きな貢献をしています。お客様の声を取り入れることで、市場トレンドや消費者ニーズをより深く理解し、それに基づいた商品開発・改善を進めることができます。特に、ユーザーの好みは時々刻々と変化するため、よりリアルタイムでのフィードバック収集が不可欠になり、迅速に商品へ反映させることが鍵になります。
EC サイトのパーソナライズ化
アンドエスティでは STAFF VOICE だけでなく、商品検索でも AI を活用しています。従来のパッケージ型検索エンジンでは、全てのユーザーに対して同じブランド・同じ商品が一律に表示されていました。しかし、各検索に Google Cloud の以下サービスを導入することで、検索結果を品番やカラーの単位でパーソナライズし、ユーザー毎に商品の並び順を最適化できます。さらに、誤字・脱字や全角・半角などのキーワード検索時の表記揺れが解消され、検索精度を向上させることができます。
- キーワード検索:Vertex AI Search for commerce
- カテゴリ検索:Recommendations AI
その結果、商品閲覧率は15%、コンバージョン率も20%向上し、ユーザーの購買意欲を高め、売上アップに寄与しています。
アパレル業界では、今回ご紹介したトレンド分析やパーソナライズされたレコメンドに加え、バーチャル試着や在庫管理など、様々な分野で AI が活用されています。これらの技術は、消費者体験を向上させ、企業の競争力を強化する重要な要素となっています。AI を効率的に活用し、迷わず進めていくためには「何のためにAIを使うか」の目的を明確にし、可視化することが重要だと思います。目的を明確にすることで、どの技術が最適でどのように活用するかの方向性が見え、その結果、AI の活用が一貫性を持ち、より大きな成果を生み出せるでしょう。
おわりに
本イベントでは、デモブースのスタッフを初めて経験させていただきました。会話型生成 AI の「AI子」をご紹介し、生成 AI を既に活用している企業から、これから導入を検討している企業まで、幅広いお客様にお立ち寄りいただきました。
生成 AI を既に活用している企業の方々とは、ユースケースや導入後の課題についてお話しすることが多く、特に回答の精度向上や会話ログの活用方法に課題を感じている方が多い印象を受けました。一方で、まだ導入されていない企業の方々には、他社の生成 AI 導入事例をご紹介し、RAG を活用したチャットボットに関心を持たれる方が多く見受けられました。また、新しくサービスを構築するのではなく、社内で普段使用している Slack 上で生成 AI を活用したいというニーズも高く、既存の業務プロセスに無理なく組み込める仕組みへの期待が高まっていました。
今回のブース対応を通じて、直接お客様の声を聞き、生成 AI の導入に対する意欲やリアルな反応を得られる貴重な機会となりました。生成 AI がただのツールではなく、企業の DX を加速させる戦略的な要素として位置づけられ、今後のビジネスの在り方に大きな影響を与えることを再認識しました。お客様の課題に対して最適なソリューションを選定するためにも、まずは自分自身が技術の最前線を理解する必要性を強く感じました。
AI エージェントによって今後の未来がどのように変わっていくか益々楽しみです!