こんにちは、アイレットデザイン事業部Webディレクターの杉原と申します。
デザイン事業部では「inside UI/UX」をテーマに各メンバーの知見や学びを記事にしています。
今回は「HCD導入」について解説します。

私は2024年4月に、特定非営利活動法人人間中心設計推進機構が定める認定制度、「HCDスペシャリスト」という資格を取得しています。

まずHCD(人間中心設計)についてですが、過去の記事にて詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。

コンピタンス

特定非営利活動法人人間中心設計推進機構が定める認定制度である「HCDスペシャリスト」「HCD専門家」では、それぞれ以下のコンピタンスのスキルセットがあることを審査書類で証明する必要があります。
コンピタンスには「基本コンピタンス」「プロジェクトマネジメントコンピタンス」「導入推進コンピタンス」の3カテゴリあります。

HCDスペシャリスト

  • プロジェクト数3〜5プロジェクト
  • A.基本コンピタンスを6項目以上

HCD専門家

  • プロジェクト数3〜5プロジェクト
  • A.基本コンピタンスを7項目以上
  • B.プロジェクトマネジメントコンピタンスで1項目以上
  • C.導入推進コンピタンスを1項目以上
  • B.C.群合わせて3項目以上

が必要となります。
※あくまでも私が受けた2023年度の応募要領になります。毎年変更される可能性があります。最新の応募要領はHCD-Netでご確認ください。

今回は、「HCD専門家」に関する
C.導入推進コンピタンスについて解説します。

プロジェクトへHCDを導入する時の問題

HCD(人間中心設計)をプロジェクトに導入する際、様々な問題点が生じることがあります。主な課題を以下に挙げます。

組織文化・理解の欠如

HCDへの誤解

HCDが単なる「デザイン」や「ユーザーテスト」と誤解され、その本質的な価値(ビジネス目標達成への貢献)が理解されていない。

トップ層のコミットメント不足

経営層や意思決定者がHCDの重要性を認識しておらず、リソースや時間の確保に協力が得られない。

部門間のサイロ化

開発、マーケティング、営業など各部門がHCDの目的やプロセスを共有せず、連携が不足する。

リソースの不足

時間・予算の制約: HCDプロセス(ユーザー調査、プロトタイピング、テストなど)に十分な時間や予算が割り当てられない。

ユーザー理解の困難さ

ユーザーへのアクセス困難

実際のユーザーと接触する機会が得られにくい、または協力が得られにくい。

バイアスの影響

開発者の思い込みや既存の成功体験が、ユーザー理解の妨げとなる。

プロセスの導入・運用の課題

成果の可視化の難しさ

HCDの活動が短期的な売上や利益に直結しにくい場合があり、その投資対効果を経営層や関係者に説明しにくい。

開発フェーズとの連携不足

HCDの成果物(ペルソナ、シナリオ、ワイヤーフレームなど)が開発チームに適切に共有されず、実装時に乖離が生じる。

コミュニケーションと調整の難しさ

多様なステークホルダーとの調整

プロジェクトには様々な立場や意見を持つステークホルダーが存在し、彼らのHCDへの理解と協力関係を築くのが難しい。

期待値のズレ

HCDによって何がどこまで実現できるのか、関係者間の期待値にズレがある。

このように、ステークホルダー全員に理解を促すことで導入の有用性を証明することが必要となります。

自組織内での理解

自組織内での理解がないとクライアントに進めることもできないですし、自社サービス運用でも自組織内での協力体制が無いとHCDが成立しません。

そこで必要となってくるのが
C.導入推進コンピタンスになります。

導入推進コンピタンスには以下の4つの項目があります。

  • C1.HCD適用・導入設計能力
  • C2.教育プログラム開発能力
  • C3.人材育成能力
  • C4.手法・方法論開発能力

今アイレットのデザイン事業部で
組織内でやっていることで
比較的に入社歴の浅いメンバーに向けて
研修を行っています。

それが、以前の記事で紹介した
日常生活でも使えるHCDになります。

こちらの講習では、ビジネス的な内容よりも
より私生活に近い内容でやることで
とっつきやすい講習となっています。

そこでは、以下のコンピタンスを満たすことができます。

C2.教育プログラム開発能力

人間中心設計(HCD)に関する教育プログラムを開発できる能力のこと
アウトプットの例:HCDに関する教育・研修プログラム、HCDに関する学習教材

C3.人材育成能力

人間中心設計(HCD)に関する教育や訓練をおこなう機会を設けたり、みずから組織・メンバー・関係者のHCDに関するスキルを向上できる能力のこと
アウトプットの例:講師やファシリテーターを行った研修や研修プログラムの概要(実施日時、参加人数、場所、実施概要)

デザイナー職以外の方にHCDの有用性を説明だけで理解させるのは非常に難しいかと思います。
ただ、組織内での勉強会や新人研修という形で、実際のHCDで行われるワークショップの一部をすることで、体系的に理解をすることができ、プロジェクトを進める上で、組織で一丸となって取り組むことができます。

まとめ

私自身プロジェクトへのHCDの導入で苦慮することが多くあり、有用性をアピールすることができずに導入を断念する、もしくは導入したが、プロジェクト内でうまく活かせなかったという経験が多々ありました。
HCD導入は非常に時間もかかりコストもその分かかるので、ステークホルダーの理解が必須となります。
特にクライアントへの理解を得るためには組織一丸となっての説得が必須となります。
そのために入口となるワークショップを経験してもらうことで、少しでもその有用性の理解が進めば、スムーズな導入につながるのではないかと思います。

事例

HCD導入に関する事例を以下で公開していますので、こちらもぜひ併せててご確認ください。
https://cloudpack.jp/casestudy/interview-25-bandainamcoent.html