こんにちは、アイレットデザイン事業部Webディレクターの杉原と申します。
デザイン事業部では「inside UI/UX」をテーマに各メンバーの知見や学びを記事にしています。
今回は「HCDコンピタンス」について日常生活に例えて解説します。
私は今年の4月に、特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構が定める認定制度、「HCDスペシャリスト」という資格を取得しています。
まずHCD(人間中心設計)についてですが、過去の記事にて詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。
認定資格については、特定非営利活動法人人間中心設計推進機構によると
本認定制度は、人間中心設計推進機構が実施するHCDの専門家認定制度です。
HCDの専門家に必要とされる「コンピタンス」を明らかにして、そのような能力を満たしている人を認定します。
使いにくいプロダクトやサービスはまだまだ数多くあり、これらに対して、HCD的活動を推進するための「専門家」が必要です。HCD-Netはそうした活動を実践できるコンピタンスを備えた人物を専門家として認定し、HCD活動の活性化を目指しています。
引用元:認定制度 | HCD-Net
コンピタンス
コンピタンスには「基本コンピタンス」「プロジェクトマネジメントコンピタンス」「導入推進コンピタンス」の3カテゴリあります。
特定非営利活動法人人間中心設計推進機構が定める認定制度である「HCDスペシャリスト」「HCD専門家」では、それぞれ以下のコンピタンスのスキルセットがあることを審査書類で証明する必要があります。
HCDスペシャリスト
- プロジェクト数3〜5プロジェクト
- A.基本コンピタンスを6項目以上
HCD専門家
- プロジェクト数3〜5プロジェクト
- A.基本コンピタンスを7項目以上
- B.プロジェクトマネジメントコンピタンスで1項目以上
- C.導入推進コンピタンスを1項目以上
- B.C.群合わせて3項目以上
が必要となります。
※あくまでも私が受けた2023年度の応募要領になります。毎年変更される可能性があります。最新の応募要領はHCD-Netでご確認ください。
今回は、私が認定を受けた「HCDスペシャリスト」に関する
A.基本コンピタンスについて解説します。
基本コンピタンス
基本コンピタンスには以下の13項目があります。
- A1. 調査・評価設計能力
- A2. ユーザー調査実施能力
- A3. 定性・定量データの分析能力
- A4. 現状のモデル化能力
- A5. ユーザー体験の構想・提案能力
- A6. 新製品・新事業の企画提案力
- A7. ユーザー要求仕様作成能力
- A8. 製品・システム・サービスの要求仕様作成能力
- A9. 情報構造の設計能力
- A10.デザイン仕様作成能力
- A11. プロトタイピング能力
- A12. ユーザーによる評価実施能力
- A13. 専門知識に基づく評価実施能力
コンピタンスの取捨選択
1つのプロジェクトで全てのコンピタンスをやるのは難しかと思います。(HCDの理念から言うと理想ではありますが……)
プロジェクトの規模や予算感、スケジュールや企画内容で取捨選択する事になるかと思います。
BtoBなのかBtoCなのかでも変わりますし、新規プロジェクトなのか既存プロジェクトなのかでも変わってくるかと思います。もちろん取り扱っているサービス内容でも変わるかと思います。
以下でコンピタンスの取捨選択をするプロセスを説明しますが
コンピタンスの項目だけだと難しいところがあるかもしれません。
なので、コンピタンスを取捨選択する方法を婚活に例えて説明してみます。
告白で学ぶHCD
あなたは結婚を目指して婚活を始めました。婚活イベントで知り合った人と意気投合しました。どうしてもお付き合いしたいと思い告白することにしました……
となった場合、どのような選択になるでしょうか?
私なら以下を選びます
- A1. 調査・評価設計能力
- A2. ユーザー調査実施能力
- A3. 定性・定量データの分析能力
- A12. ユーザーによる評価実施能力
これを婚活に置き換えると
- A1.身辺調査準備/計画
- A2.身辺調査
- A3.身辺調査結果の分析
- A12.告白のリハーサル
になります。
それぞれのコンピタンスに関してやることは以下になります。
A1. 調査・評価設計能力→身辺調査準備/計画
プロジェクト内のある目的達成や課題解決のために、人間中心設計プロセスに基づく調査、評価の計画を企画立案できる能力
例)プロジェクト内でアンケート、インタビュー、行動観察、ユーザビリティテストなどを実施するタイミングやその結果の活用について計画・立案し、各調査・評価の設計を行う
まずは意中の相手の情報を集めるために何を聞くべきか、事前に準備しておきます。例えば「趣味は?」「休日の過ごし方は?」「好きな食べ物は?」等相手にアプローチすべき内容を精査します。もちろんそれらを切り出すタイミングなども綿密に計画します。
A2. ユーザー調査実施能力→身辺調査
ユーザーの利用状況や本質的要求などを把握するために、現場でユーザーの利用文脈調査を適切に実施できる能力のこと
例)各調査においてアンケートの設計・配信・収集担当、インタビュアー、調査員などを担当し実施に携わった
A1で用意した質問を実際に、意中の相手にぶつけます。そこで、得た情報は後ほど使うので、メモを取るか難しければ、頭の中に叩き込みます。用意してきた質問で話が広がりそうならば、深堀りしてみてもいいかもしれません。
例えば
「趣味は?」
「音楽鑑賞です!」
「どういった音楽が好きですか?」
「ロックが好きで○○○○というバンドが好きで、フェスやライブによく行きます」
「私もロック好きで○○○○も好きです!」
みたいな感じです。
A3. 定性・定量データの分析能力→身辺調査結果の分析
収集した定性的/定量的データを、目的に対して適切な手法を用いて分析しユーザーの特性を把握できる能力のこと
例)ユーザー調査によって収集されたデータを分析し、分類、特徴抽出などによりユーザーの特性を把握した
A2.で得た情報を元に相手を分析します。
- 「ロック」が好きと言っていたので、意外と情熱的な人かもしれない
- フェスやライブによく行くと言っていたので、今度誘って見よう
- 好きなバンドが一緒なので、もしかしたら価値観が合うかもしれない
A12. ユーザーによる評価実施能力→告白のリハーサル
製品・システム・サービスの企画や開発の初期段階、または途中段階でユーザーに評価対象を提示することにより、評価対象がユーザーに適しているかどうかを判断するためのテストを適切に実施でき、プロジェクトの目的に合わせ結果を適切に分析できる能力のこと
例)コンセプト受容性評価、αテスト、シナリオの受容性評価、製品・システム・サービスのユーザビリティテストなどの実施
A3.で得た情報を元にアプローチを考えました。ただいきなり告白するとなると難しいので、一度知り合いにリハーサルをしてみましょう。できれば、意中に相手の属性に近い人だと尚よいです。
- ロックが好きな人
- 同じバンドが好きな人
- フェスやライブに行き慣れている人
もちろんクリティカルに同じである必要はないですが、できれば近い方がいいです。
A12のリハーサルでフィードバックをもらい、本番の告白に自信を持てれば、チャンレジしてもいいでしょう。もし自信がなければ、A3の分析をし直したり、A1に戻り別の質問を用意して、もう一度A2の質問をし直してもいいでしょう。
HCDにはHCDサイクルと言う手法があります。HCDサイクルを回すと、手戻りが少なくなり、HCDの方法論が個人の主観でなく、人間の特性や理論で説明できます。
こうやってサイクルを回すことで、より成功へと近づける事が重要となります。
今回の例でいくと、あくまでも本来の目的は婚活であり、付き合うことがゴールではなく結婚することがゴールです。
結婚までにはあらゆる手順を踏む必要があります。
それまで、サイクルを回し続ける必要があります。
まとめ
今回は日常生活の一部である告白というところをテーマにしてHCDを解説しました。
HCDとは「うれしい経験」をできるだけ豊かにしようとする設計への取り組みと言われています。
今回は、告白をテーマにHCDを解説しましたが、これをビジネスに置き換えても同じことが言えます。
自分の行っているビジネスにおける顧客が、「苦い経験」をできるだけ少なくし、「うれしい経験」が増えることで満足度が上がり、ビジネスの成功へとより近づきます。