こんにちは。アイレットデザイン事業部のディレクターの川又です。アイレットデザイン事業部ではINSIDE UI/UXと題して、所属メンバーがデザイン・SEO・アクセシビリティ・UI/UXなどそれぞれスペシャリティのある領域に対する知見を幅広く発信しています。
今回のテーマは、「人間中心設計(HCD)」です。サービスやプロダクトを開発していくなかで、UXやデザインという言葉を目にすることもあるかと思います。ものづくりにおいて「使いやすさ」や「UX(ユーザー体験)」を考慮することはとても重要です。ユーザー視点で良いUXを生み出すために利用できる思考法のひとつが「人間中心設計」です。
人間中心設計とは何なのか、どう取り組んでいけばよいのか、UXやデザイン思考との違いなど、基本的なところを紹介したいと思います。

目次

人間中心設計(HCD)とは
ユーザビリティ・UX・デザイン思考との関係
人間中心設計の6つの原則
人間中心設計の4つの基本プロセス
人間中心設計から人間中心デザインへ
まとめ

人間中心設計(HCD)とは

人間中心設計(HCD=Human Centered Design)」とは、かんたんに言うと「ユーザー視点で、ユーザーにとって使いやすいモノ作りをする」という考え方で、国際規格「ISO9241-210:2010」でも定義されています。「ユーザー視点でストレスなく使いやすいデザインを追求する」という点は、UXデザインと似ています。

アメリカの認知科学者のノーマン(Donald Norman)は、「HCDとは哲学と進め方であり、インダストリアルデザイン、インタラクションデザイン、エクスペリエンスデザインの3つのデザイン分野が注目する領域のことである。HCDの哲学と進め方は、製品やサービスが何であれ、主な注力点がどこであれ、デザインプロセスに人間のニーズについての深い考慮と検討を付け加えるものである」と説明しています。

人間中心設計」は、ユーザビリティや満足度を高めるだけでなく、商品やサービスが使いやすくなることによりサポートコストが軽減されるなど、企業にとってもメリットがある考え方です。

人間中心設計(HCD)のイメージ

人間中心設計とユーザビリティ・UX・デザイン思考の関係

人間中心設計(HCD)を混同されやすい言葉に、「UX(ユーザー体験)」「ユーザビリティ」「デザイン思考」があります。

用語 説明
UX(ユーザー体験) あらゆるサービスやプロダクトなどを利用した際に生じる、使いやすい、使いにくい、心地よい、不快などの体験すべてを指しています。
UXデザイン」は、使いやすさや分かりやすさ、機能の良さだけでなく、ユーザーにとって価値のある「UX(ユーザー体験)」を設計することです。
ユーザビリティ 「使い勝手」や「使いやすさ」を意味し、UXの中に含まれる要素の一つです。JIS規格「JISZ8521」(2020改訂版)では「効果・効率・満足度」の3つの尺度で定義されています。
デザイン思考 デザイナーが業務で使う思考プロセスやツールを活用して、創造的なアイデアを生み出すイノベーションのための考え方です。

人間中心設計とデザイン思考は共通点の多い考え方ですが、人間中心設計は「ユーザーが使いやすいプロダクト」を目的としているのに対し、デザイン思考は「イノベーティブなアイデア創造」を目指す点が異なります。人間中心設計とデザイン思考は、UXデザインを向上させる手法の1つで、良いUXを実現するための哲学と進め方です。

UXについては、以下の記事もご覧ください
いまさら聞けないUXのキホン

人間中心設計とユーザビリティ・UX・デザイン思考の関係

人間中心設計の6つの原則

人間中心設計の原則として、国際規格「ISO 9241-210」では、以下の6つの原則があり、人間中心設計の考え方の基本になっています。

  1. ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
  2. デザインと開発全体へのユーザー参加
  3. ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
  4. プロセスの繰り返し
  5. ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
  6. 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

人間中心設計の6つの原則のイメージ

1. ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン

ユーザーについて明確に理解して、デザインすることを指します。
・ユーザー:サービスを利用するユーザーはどんな人か
・タスク:ユーザーがサービスを利用する目的
・環境:ユーザーがサービスを利用している状況
サービスを利用している人の目的や状況に合わせたデザインを行う必要があります。

2. デザインと開発全体へのユーザー参加

人間中心設計では、ユーザーに協力してもらいながら、サービス全体のデザインと開発を進めます。ユーザーテストを行いフィードバックをもらいながら実際の利用者の声を聞きアップデートしていくことが大切です。

3. ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練

ユーザー中心の評価をもとにデザインの作成と改善を行います。「デザインの洗練」では、サービスを利用したユーザーの意見・評価に基づいてPDCAを実施することが重要です。

4. プロセスの繰り返し

PDCAサイクルを繰り返し行い、改善を繰り返し何度もユーザーから評価を得ることでユーザー満足度の高いサービスを目指します。

5. ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン

人間中心設計の目的とは、良いUXを生み出すことです。UX全体を考慮するということは、より複合的な視点が必要です。ユーザーの使うデバイスが何か、どんな状況で使うのかなど、ユーザーがサービスを利用するときのあらゆる体験を想定することが必要です。

6. 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

エンジニア・デザイナー・ディレクターなど、より高レベルなスキル・視点を持つメンバーで、チームを構成する必要があります。できる限りユーザー中心の視点で開発を進められるチーム作りを意識することが重要です。

人間中心設計の4つの基本プロセス

人間中心設計は、調査 → 分析 → 設計 → 評価の4つを基本プロセスとしています。4つのサイクルを繰り返すことで、より使いやすく、より魅力的なサービスやプロダクトの開発を継続的に向上させていくことができます。

人間中心設計の4つの基本プロセス

HCDプロセス

要素 説明
人間中心設計プロセスの計画 予備的な活動として、人間中心設計を活用したプロセスの計画をします。具体的には、プロジェクトの目標を考慮して、HCDサイクルを開発プロセスのどの段階に、どのように導入するのかを計画します。
【調査】
利用状況の把握と明示
様々な調査やインタビューにより、利用者の行動とその背景や要因を理解することが重要となります。
【分析】
ユーザーの要求事項の明確化
調査で得られた情報を分析して、ユーザーが求めていることを定義し明らかにすることです。
【設計】
ユーザーの要求事項を満足させる設計による解決策の作成
ユーザーの要求事項に基づいて洗い出したユーザーが求めていることを実現できる解決策を設計します。具体的な解決策まで明示することがポイントです。
【評価】
要求事項に対する設計の評価
ユーザーが求めていることに対する解決策が妥当なものであるかを、ユーザーに評価してもらいます。「評価→調査→分析→再設計」のサイクルを何度も繰り返し、プロダクトの精度を高めていくことが大切です。

人間中心設計から人間中心デザインへ

ユーザー視点のものづくりの思想を、これまで「人間中心設計」とあらわしてきましたが、時代の変化にあわせて「人間中心デザイン」と変化し、新たな広がりをあらわしています。
人間中心デザイン」とは、モノ・コトに対して、「利用者視点」と「共創」によって新しい価値を生み出すことであり、「問題の設定(発見)」と「解決策の探求(創造)」と「繰り返すこと」を中核とした「メソッド(プロセスと手法)」と「マインドセット(心構え・捉え方)」のことです。
共創」とは、製品やサービスの価値をサービスの開発者と利用者とのやりとりの中で創ることです。
人間中心デザイン」は、人間を中心として人間に焦点を当てていることが大きな特徴です。

人間中心設計から人間中心デザインへ

まとめ

ユーザー視点で、ものづくりをする人間中心設計は、サービスやプロダクトを成功に導くには欠かせない思考法です。より良いものづくりをするには、社内外の関係者やユーザーを巻き込み、サイクルを何度も繰り返し、継続して取り組んでいくことが重要です。

今後、案件に活用して、アイレットのサービスやプロダクトの価値をさらに向上していけるように、UXについて、もっと学び理解し、知見を共有し推進していきたいと思います。ユーザーを理解するための分析方法やフレームワークなど、UXデザインに関する記事を今後も配信していく予定です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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