はじめに
DX開発事業部の鹿嶋です。
8/5(火)に行われた「Gemini 導入の裏側:年間 200 時間削減の秘訣を大公開」のセッションレポートとなります。
セッション情報
セッション概要(※公式ページより引用)
日本最大の美容医療グループ「湘南美容クリニック」をはじめ、250を超える医療機関に経営支援を行う SBCメディカルグループは、Google Workspace と Gemini を活用し、業務効率を飛躍的に向上させました。スタッフ 1 人あたり年間 200 時間にもおよぶ工数削減を実現できた、その成功の秘訣とは。 本セッションでは、明日からすぐに実践できる Gemini の具体的な活用法から、成果につながるシステム全体像までを余すところなくご紹介します。
登壇者
- 中川 帝人 氏(SBCメディカルグループ株式会社)
セッション内容
1. Google Workspace with Gemini 導入経緯
SBCメディカルグループ様は、医療法人をはじめとするフランチャイジーに対し、病院経営、専門医療、美容医療、商品開発、保険診療から自由診療までの医療サービスに関するマーケティング、商品企画、人材派遣、他トータル経営コンサルティングを提供されています。
このような多角的な事業展開を行う中で、「生成AIをどう活用していくか」という課題に直面されており、当初は AI が文章や画像しか生成できない、生成された内容もハルシネーション(事実に基づかない内容)が多く含まれることや、機密情報を扱う医療業界において安全性をどのように担保すべきか、といった懸念を持たれていました。
しかしながら、あくまで現時点での評価は低いものの、進化の速度を見るといずれ活用するタイミングが必ずやってくる、という考え方の下、データの蓄積を最優先として、まずは、データが学習に利用されない Gemini を300ライセンス導入し、リスクを抑えながらその有用性を検証を行われました。
この戦略は、「Fast Mover VS Fast Follower」という考え方に基づいています。先行して市場に参入する「Fast Mover」が先行者利益を狙う一方、SBCメディカルグループ様が選択したのは、他社の成功や失敗を見てから参入する「Fast Follower(二番手)」戦略でした。
IT がコモディティ化する時代においては、先行投資を抑え、他社の事例を活かすことで、高い費用対効果と低リスクで最新技術を使いこなすことが可能になると、セッションで強調されていました。この根底には、IT への投資は差別化ではなく「最適化」と捉え、投入するデータをいかに整備・最適化するかが重要であるという明確な考えがありました。
そして、その考えを実行に移すため、データ活用基盤の構築に着手されました。具体的には、クリニックの現場で日々使用されるGoogle Workspace(Gmail、Google docs、Google Spreadsheet など)のデータを、Google Cloud のデータウェアハウスである BigQuery へと集約。これまで個別に管理されていた様々なデータを一元的に統合し、Google Analytics や基幹システムといった外部システムとも連携できる状態を実現しました。
いざ Gemini を導入し、その成果を出すためには、具体的なユースケースが必要となります。そこで、社内で生成 AI を利用するにあたってのヒアリングを実施されました。
ところがこのヒアリングでは、「複数の社内マニュアルを参照して、個々の患者様の施術内容に安全性で問題がないかをチェックしてほしい」といった回答など、生成 AI に対する期待値が非常に高い要望が多く寄せられたとのことです。
当時の AI では、社内の全文書を正確に参照する機能がないことや、人間の命を預かる医療の現場においては不向きなケースが想定されるため、この期待値のままでは実現が難しいという課題に直面されました。
そこで、まずは現実的な成果を出すため、ユーザの期待値を適切に調整し、コンテンツやマーケティング業務の「工数削減」という明確な目標に焦点を当てる方針で進められました。
2. マーケティング工数の削減
SBCメディカルグループ様では、CPP(Clinic Promotion Planner)と呼ばれるマーケティング担当部門が生成 AI の導入を主導しました。実際の効果検証にあたっては、利用率上位4名の方にヒアリングを実施し、その結果から工数削減の効果などを詳しく調査されました
また、一部の先行ユーザに着目、Gemini をどのように利用しているか実際のユースケースを調査し、導入のヒントの一つとして横展開をされました。
結果として、利用率上位4名のユーザの削減時間を平均して211時間の工数削減が達成されました。また、ユースケースも多岐に渡り、幅広いマーケティングタスクに対して Gemini が活用可能であることが同時に証明されました。
この中で効果を実感した活用事例として、以下の3点をご説明いただきました。
① データ分析と意思決定の高速化
- Google Analytics からエクスポートした PDF レポートを分析し、課題のインサイトを即時抽出する
- 分析結果からアクションプランの策定までの業務をシームレスに支援する
② コンテンツ企画と制作の自動化
- 企画書・SNS 投稿・メールなどのドキュメント作成を支援
- SEO を考慮した特集ページの構成から HTML の生成までを対応
③ 日常業務の効率化とサポート
- 競合調査やトレンド、最新のマーケティング概念のリサーチ
- コンテンツ配信スケジュールの最適化
3. Gemini の進化とユースケースの拡大
2025年1月に、Google Workspace は生成 AI 機能を全エディションに標準搭載することを発表しました。これにより、SBCメディカルグループ様での利用ユーザが300人から3,500人へと一気に拡大。「試す」から「創る」のフェーズにノーコストで移行することが可能になりました。加えて、Deep Research や Google Search Grounding といった機能の拡充が、マーケティング業務のさらなる工数削減に大きく貢献しています。
現在は Gemini による患者プロファイリングや、NotebookLM を活用した社内コラボレーションの加速など、先進的な取り組みが進められています。
おわりに
SBCメディカルグループ様の事例は、生成 AI の導入において「完璧を求めず、現実的な成果から始める」ことの重要性を示しています。
特に印象的だったのは、Fast Follower 戦略による低リスクでの導入アプローチと、ユーザの期待値を適切に調整しながら具体的な工数削減に焦点を当てた点でした。211時間という大幅な工数削減を実現できたのは、データ基盤の整備と明確な目標設定があったからこそと言えると感じました。
また、Gemini for Google Workspace の標準搭載により、利用ユーザが300人から3,500人へと拡大したことは、生成 AI が「特別なツール」から「日常業務の一部」という身近な存在へと変化していることを表しています。
生成 AI の導入を検討されている企業の皆様にとって、非常に参考になる事例だったのではないでしょうか。具体的な数値と実践的なノウハウを惜しみなく共有いただき、大変勉強になるセッションでした!