はじめに

この記事では2025年10月3日開催のTiDB User Day 2025に参加レポートです。
基調講演について書きました。

参考:TiDB User Day 2025

なお、英語話者からの講演になります。聞き間違いや単語の和訳ミスなどがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

※アイレットはスポンサーとして紹介されています。

講演者情報

PingCAP (US), Inc. 共同創業者 兼 CEO Max Liu氏(以下、Max氏と記載)

TiDB User Day 2025 基調講演レポート:スケールとAIが交わる次世代データベース

1. 開発パラダイムの変化とTiDBの役割

PingCAP CEOのMax氏は、イベントの冒頭で、自身の開発者としての視点から、WebコーディングやAIエージェントの出現が「アイデアから製品化までの時間」を劇的に変えている現状を指摘しました。従来の製品開発は「多角的な試行錯誤(ステージ1)」と「大規模採用(ステージ2)」という二つのステージに分かれますが、ステージ1のボトルネックはリソース不足です。

Max氏は、このボトルネックを解消するために、オートメーションを次のレベルへ引き上げ、開発プロセスを10倍、100倍に加速する必要があると提唱しました。そして、コード管理におけるGitのように、データやコンテキスト、エージェントのメモリに対してもバージョン管理のような仕組みを持つことで、成功率を大幅に向上できるとしています。

この二つのステージ全体を通して、データベースは常に「バックボーン」として機能しており、TiDBはこれらの制限を取り除くことで、開発者がより速く動き、より多くの可能性を探求できるよう支援する、というビジョンが示されました。

2. AI時代のワークロードに対応するTiDBの進化

TiDBは、従来の分散SQLデータベースの枠を超え、AIワークロードに完全に適応する「ワークロード適応型データベース」へと進化しています。

※さまざまなAI Integrationについての紹介

驚異的なスケーラビリティの実現

最新のTiDBは、単一クラスターでペタバイト級のデータ数十億のQPS/TBRSを処理するだけでなく、数百万のテーブルまたはスキーマを処理できるという点で、他を圧倒する性能を誇ります。これは特に、テナントごとに個別のデータベースを必要とするSaaSやマルチテナント環境において、極めて重要な優位性となります。

さらに、TiDBは以下の機能を通じて、大規模な運用負荷を軽減します。

  • 高速なバッチ処理とバックアップ/リストア: オンライントランザクションに影響を与えることなく、数テラバイトのデータを毎晩インポート可能であり、ペタバイト級のデータバックアップを数秒以内で完了できます。
  • 多様なデータ型の一元管理: リレーショナルデータに加え、JSONなどの半構造化データ、そしてベクトルデータ全文検索までを単一のTiDB内で統合的に処理します。
  • 数百万クラスターの管理: 生成AIワークロードで一般的な、膨大な数のクラスターをTiDB Cloudで容易に管理可能です。

導入事例:DifyとAtlassian

これらのスケーラビリティは、実際の顧客事例によって裏付けられました。

1.Dify(生成AI SaaSプラットフォーム)

  • 以前は複数のデータベースに分散していたグラフデータ、非構造化データ、ドキュメントデータを単一のTiDBに統合。
  • 結果、データベース関連のコストを60%削減し、新機能の市場投入速度を4.6倍に加速。AI時代における迅速な競争優位性を確立しました。

2.Atlassian(Jira/Confluence提供元)

  • テナントごとにデータベースを割り当てる高コストな運用を解消するため、300万テーブルの統合をTiDBに求めました。
  • TiDBは、この要件を満たすために最適化され、現在300万以上のテーブルを処理する能力を持ち、そのプラットフォームは既にオンラインで稼働

3. 新しいカーネル設計とTiDB Cloudの戦略

※Kernel(カーネル)とは書いていますが、根っことなるアーキテクチャの話

TiDBの性能を支えるのは、「オブジェクトストレージ(S3)を新しいネットワーク」と見なす革新的なカーネル設計です。

この設計により、既存のストレージノードからデータをコピーすることなくS3から直接データを取得するため、クラスターのスケールアウトが超高速になります。また、軽量なトランザクション処理と重いバッチ処理のコンピューティングを分離することで、リソースの競合を避け、コスト効率を大幅に改善しています。

講演の最後に、PingCAPはすべての開発者に無料のデータベースを提供するという長年の夢を実現するため、新しいTiDB Cloudファミリーを発表しました。

  • TiDB Starter: すべての開発者に無料で提供。
  • TiDB Cloud Essential: エンタープライズ機能、スケーラビリティ、セキュリティを費用対効果高く提供。
  • TiDB Cloud Premium: 無制限のスケーリングを含むすべてのエンタープライズ機能を提供。

特に、TiDB Cloud Essential10月14日にパブリックプレビューとなることが発表され、開発者コミュニティへの貢献とフィードバックの促進が期待されます。

※料金: https://pingcap.co.jp/pricing/

まとめ

TiDB User Day 2025の基調講演は、TiDBが単なる分散データベースではなく、AI時代の急速な開発サイクルとペタバイト級のデータ要求の両方に対応できる、唯一無二のプラットフォームであることを示しました。「スケールとAIが出会うとき、物事はエキサイティングになる」というメッセージは、今後の技術革新のバックボーンとしてTiDBが担う役割の大きさを象徴しています。

感想

データベースの強化だけでなく、AIに適合したSDKについても説明があり、AI Integrationが強調された印象がありました。
毎年参加しているので去年の違いについても述べると「より具体的な事例が増えてきた」というところがあります。
去年あるいはそれよりまえではTiDBの仕組みについての解説がメインでしたが、活用事例を中心にTiDBのスペックに語られているところが印象的でした。