終わらないAWS運用のカオス、あなたも心当たりはありませんか?
「クラウドのコストがなぜか高止まりしている」
「障害対応が後手後手で、まるでモグラ叩きのようだ」
「開発スピードを上げたいのに、ガバナンスやセキュリティの壁に阻まれる」
AWSを導入し、ビジネスを加速させようとした多くの企業が、いつしか「コスト」「運用」「ガバナンス」という3つのカオスに直面しています。これは決してあなただけの悩みではありません。日々の運用に追われ、本来目指すべきだった価値創造から遠ざかってしまっている――もし、この状況に少しでも心当たりがあるなら、この記事はあなたのためのものです。

私たちはこれまで、14回にわたる長大な技術連載を通じて、このカオスを乗り越えるための具体的な戦略と実践知を探求してきました。
本記事では、その連載の集大成として、そうした対症療法的なアプローチとは一線を画す、壮大なビジョンを提案します。
それは、個々の仕組みをバラバラに運用するのではなく、それらすべてを一つの生命体のように連携させ、価値を自律的に創造し続ける「自律的な価値創造サイクル」を構築するというアイデアです。これは、これからのクラウド運用を根本から問い直す、一つの集大成とも言えるビジョンです。本稿では、その核心となる考え方を解き明かします。
ポイント 1:壮大なビジョン — 「クラウド都市」を動かすOS と アプリ
私たちが提唱する未来のサービスマネジメント像は、この連載で一貫してお伝えしてきた「クラウド都市」というビジョンで説明できます。
堅牢で、豊かで、災害にも強い「クラウド都市」をどう構築し、運営していくか。その「都市運営の仕組み」の基本原理は、驚くほど、今や誰もが手にする「スマートフォン」と似ています。
良い都市(ビジネス価値)を実現するには、優れた「憲法(戦略)」に基づき、安定した「行政システム(OS)」の上で、便利な「市民サービス(アプリ)」が動く必要があります。

この構造は、以下の対応関係で成り立っています。
戦略 (憲法 / 設計図) = AWS Cloud Adoption Framework (CAF)
ビジネスとして何を成し遂げたいのかという根本的な問いに答え、経営と技術をつなぐ「戦略の設計図」です。
OS (行政システム / 実行基盤) = ITIL 4
戦略を実行するための、安定的かつ共通化されたプロセスを提供する「オペレーティング・システム」です。
アプリケーション (市民サービス / 価値を駆動) = SRE, FinOps, AIOpsOS
上で稼働し、信頼性、経済性、インテリジェンスといった具体的な価値を最大化する「アプリケーション群」です。
この考え方は、単なる思いつきや言葉遊びではありません。それは、これまで個別に語られがちだったCAF、ITIL、SREといった概念が、全体の中でどのような役割を担い、どう連携すべきかを示す「設計図」そのものなのです。この視点を持つことで、複雑なサービスマネジメントの全体像が、驚くほどクリアに見えてきます。
ポイント 2:ITILは古いルールブックではない。それは現代の「OS」だ
「ITIL」と聞くと、多くの人が時代遅れで重厚長大なルールブックというイメージを抱くかもしれません。「アジャイルやDevOpsのスピード感とは合わない」――その認識はもはや過去のものです。
現代のITIL 4は、アジャイルやDevOpsといった新しい潮流とシームレスに連携する、柔軟なフレームワークへと進化しています。その核となるのは「サービスバリューチェーン」という概念であり、厳格なプロセスではなく、価値創造の流れを最適化することに主眼が置かれています。
この文脈において、ITIL 4はまさに、私たちのビジョンにおける「OS(オペレーティング・システム)」として機能します。CAFという「設計図」で描かれたビジネス戦略を、安定的に実行するための共通言語とプロセスを提供し、その上で様々なアプリケーションが円滑に稼働するための、揺るぎない実行基盤となるのです。
ポイント 3:価値を最大化する3つの強力な「アプリケーション」
安定したITILというOSの上で、いよいよビジネス価値を直接的に駆動する、3つの強力な「アプリケーション」が稼働します。

SRE (Site Reliability Engineering)
信頼性という「体験」の守護者 SREは、システムの「信頼性」という目に見えない顧客体験を守り抜く基幹アプリケーションです。サービスレベルを「エラーバジェット」という具体的な数値目標に落とし込み、エンジニアリングの力でその目標を達成することで、ユーザーに安定した価値を提供し続けます。
FinOps
価値という「経済」の舵取り FinOpsは、「1ドルあたりのビジネス価値」を最大化する経済アプリケーションです。クラウドのコストを単なる経費ではなく、ビジネス価値と連動する変動費と捉え、リアルタイムのデータ分析を通じて、コスト効率という「経済」の舵取り役を担います。
AIOps
自律性という「知性」の獲得 AIOpsは、システム全体に「知性」を与え、自律性を獲得させるためのAIアプリケーションです。膨大な運用データをAI/MLで分析し、障害を予兆したり、SREの自動復旧をトリガーしたり、FinOpsに非効率なリソースを警告したりすることで、SREとFinOpsをインテリジェントに結びつけます。
ポイント 4:すべてが繋がる「自律的な価値創造サイクル」の始動
これら3つのアプリケーション(SRE, FinOps, AIOps)は、ITILというOSの上で、それぞれが独立して動くのではありません。互いにデータを連携させ、一つの大きなサイクルを形成します。

SREが信頼性を維持するためにリソースを投入すると、FinOpsがそのコストインパクトを即座に分析し、ビジネス価値と照合します。その両者のデータをAIOpsが常に監視し、「コストを抑えつつ信頼性を高める」ための最適なアクションをAIが提案、あるいは自動実行します。この一連のアクションと結果は、ITILのプロセスを通じてレビューされ、最終的にはCAFで定めたビジネス戦略の達成度としてフィードバックされるのです。
この「自律的な価値創造サイクル」が回り始めると、人間の役割は劇的に変化します。
もはや、人間が個別のインシデントに振り回されたり、月末の請求書に驚いたりする時代は終わります。システムは自ら学び、自ら最適化し、自らビジネス価値を高めていく。エンジニアは、その「サイクルを設計・改善する」という、より創造的な仕事に集中できるようになるのです。
まとめ:未来の設計図は、あなたの手の中にある
本稿で提示してきたのは、単なる知識やツールの寄せ集めではありません。それは、ITサービスマネジメントを「コストセンター」から、ビジネス価値を能動的に生み出す「プロフィットセンター」へと変革するための、情熱的な呼びかけです。
AWSという強力なプラットフォーム、CAFという羅針盤、ITILというOS、そしてSRE/FinOps/AIOpsという強力なアプリケーション群。材料はすべて揃いました
この壮大なビジョンを、遠い未来の夢物語だと考える人もいるかもしれません。しかし、あらゆる偉大な変革は、たった一つのビジョンと、それを信じて踏み出した「最初の一歩」から始まりました。
未来の設計図は、すでにあなたの手の中にあります。
さあ、設計図を広げ、あなたの手で、自律的に価値を創造し続ける未来を、今日から構築し始めましょう。
過去の連載はこちら
これまでのバックナンバーを見逃した方は、こちらからご覧いただけます。
- 【連載第1回】AWSという都市は、なぜ「カオス」と化すのか?
- 【連載第2回】ITILはクラウド運用の「標準OS」。AWS公式が示す、その深い関係性
- 【連載第3回】あなたのMSPは「サポーター」? それとも「戦略的パートナー」? 未来を共創する関係性の見極め方
- 【連載第4回】ITILの心臓部「SVS」をAWSで動かす設計図
- 【連載第5回】なぜ障害対応は「モグラ叩き」で終わるのか? 災害に強い都市を造るITILインシデント管理術
- 【連載第6回】 「クラウド貧乏」を卒業。コストを価値に変えるFinOps文化
- 【連載第7回】 「アラート疲れ」に終止符を。AIOpsで障害を未然に防ぐ
- 【連載第8回】システムが自分で治す。AWSで実現する「自己修復アーキテクチャ」の作り方
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