この記事について
先日開催された AI Agent Summit ’25 Fall にて弊社の西田 駿史(DX開発事業部)が登壇しました。本記事では、そのセッション内容をレポートします。
タイトル:第一興商様のカラオケ楽曲情報収集を自動化!AI エージェント開発で実現する業務効率化
登壇:アイレット株式会社 DX開発事業部 モダンエンジニアリングセクション セクションリーダー 西田 駿史
セッション概要
AI エージェントはルーティンワークや従来の RPA ではできなかったような業務を自動化、効率化することを可能にします。優れた AI エージェントを開発するためには、技術選定と業務への深い理解が必要です。アイレットと第一興商様は Agent Development Kit を活用し、カラオケ楽曲情報収集の自動化を実現。時間と労力がかかっていた業務を、AI エージェントを活用することにより、いかに効率化を成し遂げたかをご紹介します。
生成AIにおける進化の歴史

2022年
2022年はLLMがチャット形式のアプリケーションとして爆発的に普及した年でした。
しかし、ハルシネーションや学習データに含まれない最新情報に対応できないという課題もありました。
2023年
2023年にはLLMの課題を克服したRAGが登場しました。
LLMに外部の情報を参照させることで、LLMの知識不足を補えるようになりました。
しかし、RAGにも「単一ステップでの精度限界」「複数のデータソースの組み合わせが難しい(取得する情報が増えるほど精度が落ちてしまう)」「最終的なゴールまで複数のステップを踏んだタスクを実行できない」といった課題がありました。
2024年
2024年末、RAGの課題を克服し、より複雑なタスクを自律的に実行する 「AIエージェント」 が流行り始めました。
これにより、ユーザーの意図を深く理解し、適切な解決策が提供できるようになりました。
2025年
そして現在では、AIエージェントを「どう開発するか」「どう実行・運用するか」「どう連携させるか」というより実践的なフェーズへと移行しています。
ADKの特徴

AIエージェント開発手法の一つとしてAgent Development Kit(ADK)の説明がありました。本セッションで紹介された特徴は以下の3つです。
1. 開発・導入の柔軟性
- オープンソースとして公開されているため、誰でもソースを読むことができ、リファレンスも充実している
- Cloud Run, GKE, Dockerなど、多様な環境へのデプロイが可能
- CLI、Web API、SDK、組み込みUIなど、さまざまな実行方法をサポート
2. 拡張性・統合
- 複数のエージェントを階層的に組み合わせ、別の環境で作成されたエージェント同士が通信(A2A)する複雑なシステムを構築できる
- Googleのモデルだけでなく、サードパーティ製のLLMも利用可能
- Google検索やGoogle Cloudネイティブのツールに加え、OpenAPIなど外部ツールとの連携も柔軟に行える
- 「エージェント」「モデル」「ツール」呼び出しの前後にコールバック関数を組み込めるため、柔軟な処理の組み込みも可能
3. 運用・評価
- ステップ単位のテストフレームワークが組み込まれているため、作成したエージェントの品質チェックが可能
- セッションごとの状態保持、セッション間のメモリ機能により、複雑なタスクが遂行可能
- エージェントの実行過程で生成した成果物を管理・追跡する
AIエージェントで業務を効率化するためには

- 既存業務を深く理解・分析し
- エージェントが「どんな実行環境で」「どこの、どんな情報にアクセスするのか」「どのようにタスクを遂行すべきか」設計/最適化する
導入が目的ではなく、導入し、そこからどう活用するかを考えることがとても大切なのだと思いました。
お客様の課題

カラオケにユーザーが求めるものは「楽曲の多さ」と「曲揃えの充実」というデータがあります。
第一興商様では、毎週約200曲もの新曲を配信していますが、ここには業務負荷が発生していました。

新曲を配信する際、ユーザーが検索しやすいように「キーワード」や「タグ」といったメタ情報(例:略称、ファンからの愛称、年代、ジャンル、タイアップ情報など)を付与する必要があります。また下記のような課題も見受けられました。
- 外部からのデータ購入、インターネットでの情報収集
- 収集したデータが正しいか人の目でファクトチェック
- 情報をDAMの配信楽曲データベースと照合
- 作業ごとの個人差を平均化するためのダブルチェック
これらの課題は外注コストや社員の人的コストを増加させてしまうというさらなる課題を招きました。
ADKを活用した解決策
これらの課題を解決するためにADKを活用した「マルチエージェントシステム」を構築しました。

- ルートエージェント
- ユーザーが入力したタイトルや歌手名、選挙区番号からどのような楽曲を調査すべきか決定し、楽曲情報収集サブエージェントに処理を委任します。
- 楽曲情報収集サブエージェント
- Google検索ツールを活用し、インターネットから楽曲の情報を収集します。
- 情報深掘りサブエージェント
- 一度の情報収集では必要な情報を全て取得できないパターンがあったため、深掘りする観点を与え、さらに推論とインターネット検索をさせます。
- DAM楽曲検索サブエージェント
- Vertex AI Searchを使い、DAMのDBを紹介できるエージェント
- 突き合わせのための楽曲番号を取得し、最終的にはYouTube動画などの情報情報も検索しつつ、所定のフォーマットのアウトプットに取りまとめ、結果を返却します。
AIエージェント導入により得られた効果

課題で挙げていたポイントを解消、利用者は調べたい楽曲を検索するだけで、
「AIエージェントが楽曲情報の調査、配信楽曲との突き合わせ、YouTube動画やファクトチェック情報の表示、登録用のCSVデータの提示」までを全自動で可能になりました。
その結果、作業工数が削減され、調査データの品質のムラが無くなりました。
それにより、コストを下げながら本来必要な業務に使える時間を増やすことに成功しました。
事例から分かること

- Google Cloudは、AIエージェントを構築するための最適なプラットフォームであること。
- 成功の鍵は、業務を分析し、シナリオ化し、適切なマルチエージェントとツールに役割を分解すること。
- まずは「小さく試す」ことから始め、徐々にチャレンジの幅を広げていくことが可能性を広げること。
- AIエージェントがアクセスできる社内情報の多さが、エージェントのできることの幅に直結する。
そして、人にアクセスさせるだけでなく、AIにアクセスさせるための情報整備を考えていかなければならないということが重要です。
最後に
属人化に困っていませんか?
「生産年齢人口の急減」という社会課題。

そして、63.5%の企業が「指導する人材が不足」、51.6%が「育成のための時間がない」と感じているとのこと。
このような状況下で、業務の「属人化」は組織の成長を鈍化させる大きな要因となります。

現在、生成AIを導入している日本企業の多くは、その活用が「情報収集」までに留まっているというデータがあります。
AIエージェントは、こうした「情報収集だけ」のAI活用から脱却し、業務の非効率性や属人性を劇的に解消するソリューションとなる可能性を秘めています。

AIエージェントを活用し、まさに企業の『できない』を『できる』に変える時が来たのではないでしょうか、とセッションは締め括られました。