DX開発事業部の前野佑宜です。
AWS re:Invent 2025の4日目にExpoにて開催されたセッション「Improve DevEx for GenAI Deployments: Dynatrace + Amazon Bedrock(sponsored by Dynatrace)」についてのセッションレポートです。

セッション概要

スピーカー: Sean Odell氏(Dynatrace DevExチームリード)、Simone氏(AWS Principal Solution Architect)

本セッションは、DynatraceのSean Odell氏とAWSのSimone氏が登壇し、Amazon Bedrock AgentCoreをはじめとする生成AI(GenAI)アプリケーションの導入において、開発者体験(DevEx)をいかに向上させるかに焦点を当てて解説しました。特に、PoCから本番環境へのスケールアップ時に発生する複雑な課題を、両社のパートナーシップとプロダクト連携でどのように解決できるかが紹介されました。

生成AIアプリケーション構築における課題とAmazon Bedrock AgentCore

生成AIアプリケーション構築における課題

生成AIエージェントのPoC(概念実証)は容易である一方、本番環境で大規模に展開する際には以下のような課題が発生すると指摘されました。

  • インフラストラクチャとランタイムの管理: 実行時間が予測不能なエージェントのための専用インフラストラクチャとランタイムの管理
  • メモリとセッション管理: ステートレスなLLMに対し、過去のやり取りを記憶するためのメモリ(セッション管理)機能の追加
  • アイデンティティ管理: 外部ツール(データベース、Google Driveなど)にアクセスする際のエージェントの認証・認可(アイデンティティ)の管理
  • ツールの発見と接続: 大量の外部ツールをエージェントが発見し、適切に接続・管理することの難しさ
  • 高度な機能の実行: ブラウザアクセスやコード実行など、より高度な機能の管理
  • エージェントのオブザーバビリティ: エージェントがどのようなステップを踏んでいるか、どこで問題が発生しているかを把握するための観測の必要性

上記の課題を解決するために、Amazon Bedrock AgentCoreは3つのカテゴリでサービスを提供しています。


エージェントのデプロイ周り

  • AgentCore Runtime: エージェントのコード(任意のフレームワーク、モデル)をサーバーレスでスケーラブルに実行する環境を提供。
  • AgentCore Identity: エージェントが外部サービスと認証・連携するためのアイデンティティとフェデレーション機能を提供。

エージェントの機能強化

  • AgentCore Gateway: エージェントが利用可能なツール(ターゲット:API、DB、外部SaaSなど)を一元管理する centralized API server。
  • AgentCore Memory: 短期記憶(セッション内)と長期記憶(過去のやり取りに基づくパーソナライゼーション)を提供。
  • Agent Core Browser/Code Interpreter: ウェブアプリケーションとのやり取りや、決定論的な計算のためのコード実行環境を提供。

エージェントのモニタリング

  • AgentCore Observability: エージェントの基本的なステータスとパフォーマンスを監視するダッシュボードを提供し、さらにメトリクス、ログ、スパン、トレース、セッションといった情報を外部に公開することで、Dynatraceなどの高度なオブザーバビリティプラットフォームとの連携を可能にする

DynatraceがもたらすDevExとオブザーバビリティ

エンドツーエンドのオブザーバビリティの実現




AWSが Bedrock Agent Coreを通じてエンドユーザー(開発者)に情報取得の主導権を与えていることを評価し、Dynatraceはそれをさらに補完し、DevExを向上させる役割を担う、とDynatraceのSean Odell氏から説明されました。

  • 情報取得の容易さ: 開発者が本当に知りたい情報(ログ、トレース、メトリクス)を、OpenTelemetryやOpen LLMetryといったオープンソースソリューションを通じて、Bedrock Agent Coreの範囲を超えて収集・分析します。
  • DevExの改善と複雑性の排除: 開発者はダッシュボードだけでなく、IDE内(VS Codeなど)やKiroとの連携を通じて、自然言語検索で情報を取得できる環境を重視。複雑な画面遷移をなくし、デバッグ・トラブルシューティングの迅速化を支援します。
  • マルチLLM/AIのサポート: 多くの組織がBedrock Agent Core以外にも、Nvidia、Anthropic、OpenAIなど多様なLLMやAI技術をテスト・活用している現状を踏まえ、Dynatraceはこれらの多様なAIエコシステム全体の可視化と理解を提供します。
  • インフラストラクチャとの関連付け: LLMやAI観測だけでなく、それらを支える基盤インフラストラクチャの情報もコンテキストと関連付けて提供することで、エンドツーエンドの包括的なオブザーバビリティを確立します。

「Day ゼロ」の会話への転換

統計によれば、95%のAI Pilot(試験導入)は失敗している、との言及がありました。
Dynatraceは、AIプロジェクトの失敗率を改善するため、オブザーバビリティを「Day 2」(運用後)の会話ではなく、「Day 0」(開発・実験段階)の会話として捉え、早い段階から適切な情報を提供することが成功につながると強調されました。

まとめ

本セッションは、Amazon Bedrock Agent Coreが生成AIエージェントの展開におけるランタイム、メモリ、アイデンティティといった基盤的な課題を解決し、Dynatraceがその上で、OpenTelemetryなどのオープンソース規格を活用しながら、マルチAI環境、インフラストラクチャとの関連付け、そしてIDE内での情報提供を通じて、開発者が最も効率的に問題を解決できる包括的なDevExとオブザーバビリティを提供することで、生成AIの導入を成功に導くという、両社の連携が説明されておりました。

開発者目線においては、オブザーバビリティはつい軽視されてしまいがちな概念ですが、「Day 0」として位置付ける、という話のようにPoCとして実施しているプロジェクトを実際に本番運用の段階まで進めていくことを見据えていく場合に、非常に重要な考えになってくるのではないかと思いました。