「AI に書かせるなら、一文字たりとも自分で打ってはいけない」。

そんな挑戦的なルールのもとスタートした社内 AI 駆動開発イベント『iret Dojo mini』。
前回の記事では、運営メンバーの満村・佐藤・北野に企画の背景や狙いを伺いました。

あれから約3ヶ月。2026年3月6日、ついに最終成果発表会が開催されました!

約30名の参加者が全6チームに分かれ、AI と共に作り上げたアプリケーションの数々。業務改善から日常をちょっと面白くするものまで、バリエーション豊かな作品が揃いました。本記事では、最終成果発表会の模様をたっぷりお届けします!

発表会の概要

最終成果発表会はハイブリッド形式(虎ノ門本社+オンライン)で開催されました。ゲストとして AWS 名誉 AI 会長(※我々が勝手に呼んでいます)の尾崎さんにご参加いただき、各チームの発表を講評。審査は「アイディア」「難易度」「プレゼン」の3軸で行なわれ、尾崎さんが選ぶ「AWS 賞」、一般投票やドキュメント・ブログへの加点で決定する「アイレット賞」、さらに Amazon Bedrock を使って AI が優秀と判断したアプリに贈られる「生成 AI 賞」の計3つの賞が用意されました。

尾崎さんは冒頭の挨拶で、「今年は AI エージェントの時代。人間がいかに仕事を AI に任せ、余ったリソースで新しいことを実行するかが重要になる」と述べ、参加者たちの成果に大きな期待を寄せました。

発表順は北野が用意したくじ引きで決定。前半3チーム、休憩を挟んで後半3チームという構成で進行しました。

各チームの発表内容

A チーム「AGENTS.SMITH」

Tech-News-App 〜情報を取りに行く負担をなくす、AI ニュースアグリゲーター〜

トップバッターの A チームが発表したのは、技術ニュースの収集・管理を自動化するアプリ「Tech-News-App」。1時間に1回、自動で記事情報をクローリングし、AI による要約を提供します。

注目すべきは開発中に次々と追加された機能の数々。既読管理、次のおすすめ表示、興味のあるワードでの絞り込み、ブックマーク、フォロー機能など、実用性の高い機能が盛り込まれました。

技術的には AWS Amplify を中心とした SPA 構成で、認証に Amazon Cognito、バックエンドに Amazon DynamoDB と AWS Lambda、中間層に AWS AppSync を採用。開発経験の少ないチームが、限られた時間で環境構築を最小限にするため AWS Amplify を選定したとのことです。

工夫点として印象的だったのは、リポジトリ内に設計資料を置いて AI に参照させることでハルシネーションを抑制し、さらにドキュメント自体も AI が自動メンテナンスする体制を構築していたこと。AI 駆動開発ならではのナレッジ管理の形が見えました。


B チーム「Code βrewers」

Fridge Chemist 〜冷蔵庫の余り物から、科学的根拠に基づいたレシピを提案〜

B チームが発表した「Fridge Chemist」は、冷蔵庫の余り物から科学的に説明性のある美味しいレシピを提案するアプリ。食材ロスや献立のマンネリ化、レシピの科学的根拠が不明といった日常の課題を解決します。

使い方はシンプルで、スマートフォンから食材の画像をアップロードすると、Amazon Rekognition が食材を検出し、Amazon Bedrock 上の Claude が栄養学などの科学的根拠に基づいたオリジナルレシピを生成します。

アーキテクチャはモダンな AWS サーバーレス構成で、フロントエンドは React(Amazon S3)、バックエンドは Amazon API Gateway と AWS Lambda(Node.js)。レシピ生成にはコスト効率を考慮し Amazon Bedrock の Claude 3.5 Sonnet を使用しています。

驚くべきは、わずか2週間で基本機能を実装したというスピード感。AWS CodeCommit と Cursor を活用した AI 駆動開発に加え、プッシュ時にプルリクが自動作成され、AWS Lambda と Amazon Bedrock でレビューを行ない、 Slack に結果を通知する自動コードレビューの仕組みまで構築していました。


C チーム「AI駆動開発・仮免ライダー」

社内地図アプリ「社MAP」〜フリーアドレスオフィスでのコミュニケーションを活性化する社内地図アプリ〜

C チームが開発した社内地図アプリ「社MAP」は、オフィス体験を変える社内地図アプリ。新しいオフィスで全事業部が集約されたにもかかわらず、事業部間やチームをまたいだコミュニケーションが活発になっていないという課題感から生まれました。

コア機能は、ユーザーがオフィス内の様々な場所に関する情報をコメントとしてプロット・投稿し、発見を共有できるというもの。さらに、フリーアドレスのオフィス内で誰がどこにいるかを把握するための、現在ロケーション設定機能も備えています。

C チームはアプリケーション開発を本業としないメンバーが多かったものの、AI との協業により開発が可能に。上流工程の自動化、Figma Make によるデザイン生成、Cursor による修正体験の強化など、AI 駆動開発のプロセスをフル活用しました。

開発を通じて得られた学びとして挙げられたのは、トークン消費量などのリソース管理の重要性、モデル選定における効率性とコストのバランス、そして「AI は統計分析装置であるため、人間によるガードレールとサポートが不可欠」というチームワークの重要性でした。


チームE「E-jan」

カロリー管理する君〜 リモートワーカーの健康を守る、Slack 連携カロリー管理アプリ〜

後半戦のトップバッターは E チーム。フルリモートワークによる極端な運動不足と体重増加に着目し、「カロリー管理する君」を開発しました。定期的な運動を続けるのではなく、1日のカロリーを可視化・制御するアプローチが特徴です。

使い方はユニークで、Slack に料理の画像を投稿すると AI がカロリーを分析。ユーザー別の摂取カロリー記録と残り摂取可能カロリーの計算、さらにカロリー消費量に応じた運動プランまで提示してくれます。

技術構成は AWS Lambda(Python)、Amazon API Gateway、Amazon DynamoDB、そして画像分析に Amazon Bedrock 経由の Claude 3.5 Sonnet を使用。デモでは、ポテトチップスの画像から摂取カロリーと残りの摂取可能カロリーを推定し、トレーナーからのポジティブなコメント付きレポートを約5〜6秒で出力してみせました。

興味深いのは、E チームが学習目的であえてエージェンティックな AI ではなく基本的な Gemini のチャットのみを使用していた点。その結果、「出力を安定させるために多くの情報を AI に与え、丁寧なプロンプトを作成する」というプロンプトエンジニアリングの力が鍛えられたといいます。


F チーム「坂の上の社(やしろ)」

AI 会議アシスタント 〜会議ツールに依存しない、AI 議事録作成アプリ〜

F チームの嫁阪が発表したのは、ウェブ会議の議事録作成を自動化する「AI ミーティングレコーダー」。Zoom ではホストのみが録画・文字起こしを操作できること、録画データの保管場所が不明瞭であることなど、現場のリアルな課題から生まれたアプリです。

会議ツールに依存しない外部デスクトップアプリとして独立させることでホストの制約を解除し、AI を活用して長時間の会議の要点を抜粋して議事録化。作成された議事録は Slack と連携し、指定チャンネルへ自動投稿されます。

技術構成は Node.js 製のデスクトップアプリと AWS 上の Lambda、Transcribe、Bedrock で構成。AI モデルには高速な処理速度と低価格を理由に Claude 3 Haiku を選択しています!

コスト試算も印象的で、1時間の会議で Bedrock が約1.73円、Transcribe が約220円の合計約230円。生身の人間が議事録を作成する場合の4,500円〜6,000円と比較すると、その効率の差は歴然です。

開発で最も苦労した点として「AI に書かせたコードの修正を自分たちで行えないという制約」が挙げられ、まさに今回のイベントの核心に触れるコメントでした。


D チーム「KY Deploy」

Cloud Lens 〜AWS 構成図を AI がレビューし、提案資料まで自動生成〜

大トリを飾ったのは、D チーム。AWS 構成の AI レビューサービス「Cloud Lens」を発表しました。Well-Architected Framework に沿ったレビューを行ない、社内案件メンバーが顧客への提案資料を迅速に作成できるようにすることが目的です。チーム4名のうち開発経験者はわずか1名という構成でした。

クラウドレンズは、AWS 構成図をアップロードすると AI が Well-Architected Framework に沿ってレビューし、コスト見積もり、改善案、代替案の提案、そして提案資料を PDF で即座に出力する多機能なアプリケーションです。

デモでは、アップロードされた構成図から運用上の優位性、改善すべき点、推奨事項が表示され、Amazon S3 を用いた画像解析により使用されている AWS サービスやデータフローの分析結果が提示されました。井上可菜さんが説明したレビューのファクトチェック用参考ドキュメント機能では、海外の公式ドキュメントも日本語に翻訳して表示。代替構成の提案では Mermaid JS による AWS 構成図の自動生成機能まで実装されていました。

コスト試算機能では AWS Pricing API を使用して具体的な数字を算出し、AI が苦手とする算数的な処理を補完するなど、AI の得意・不得意を理解した設計が光りました。

フロントエンドは React、バックエンドは AWS AppSync、AWS Lambda、Amazon Bedrock(Claude 3.5 Sonnet)で構成。AppSync Gen2 によるフルマネージド化で全メンバーが AI 駆動開発に集中できる環境を実現していました。

審査結果発表

全6チームの熱い発表が終了し、いよいよ結果発表です。

AWS 賞:A チーム「AGENTS.SMITH」(Tech-News-App)

尾崎さんからは、RSS フィード管理における「執筆者で選べる」というアイデアが実用性に優れている点が高く評価されました。

アイレット賞:B チーム「Code βrewers」(Fridge Chemist)

一般投票とドキュメント・ブログへの加点により、B チームが受賞。冷蔵庫の食材から科学的根拠に基づくレシピを提案するという着眼点と、2週間で基本機能を実装したスピード感が評価されました。

生成 AI 賞:Aチーム「AGENTS.SMITH」(Tech News Up) & Bチーム「Code βrewers」(Fridge Chemist)

裏側で Amazon Bedrock が文字起こしや資料の読み込みを通じて「優秀」と判断した2チームに、55カレーが贈られました。

尾崎さんの総括

全体のフィードバックとして、尾崎さんより「AI 駆動開発の知識や経験を強調したプレゼンが素晴らしかった」との言葉をいただきました。

技術的な観点では、画像認識における Amazon Rekognition やマルチモーダル LLM の活用、コスト効率に優れた Amazon Titan Express Lite の利用など、別の技術的選択肢があった可能性に言及。また、Amazon Bedrock の構造化アウトプット(JSON 形式)を活用することで AI の出力をより確実に制御できた可能性についてもアドバイスがありました。

こうした AWS の最前線からのフィードバックは、参加者にとって今後の AI 活用に向けた大きなヒントになったのではないでしょうか。

編集後記

前回の記事で「3月の最終発表会、AI と人間の共作によってどんなアプリが誕生するのか今から目が離せません!」とお伝えしましたが、期待を大きく上回る成果発表会となりました。

ニュースアグリゲーター、レシピ提案、社内地図、カロリー管理、議事録自動化、AWS 構成レビュー。6チームのアプリはどれも「こんなの欲しかった!」と思わせるものばかり。そして何より、インフラエンジニアや開発未経験のメンバーが AI の力を借りて本格的なアプリケーションを完成させたという事実に、大きな可能性を感じました。

「人間によるコーディング禁止」という一見ハードルの高いルールが、むしろ参加者のプロンプトエンジニアリング力を鍛え、AI との対話の質を高めるきっかけとなったのではないでしょうか。参加メンバーのコメント「AI に書かせたコードの修正を自分たちで行えない難しさ」や、あえて基本的なチャット AI のみで挑んだ姿勢など、各チームが AI 駆動開発と真摯に向き合った3ヶ月間だったことが伝わってきました。

運営の北野が前回の記事で語っていた「2回、3回と続く文化にしていきたい」という想い。この素晴らしい第1回を見届けて、その未来がすぐそこまで来ていると確信しました。

参加者の皆さん、運営の皆さん、お疲れさまでした!そしてゲスト審査員の尾崎さん、ありがとうございました!