こんにちは!KDDIアイレットの渡邉です。

AWS Summit Japan 2026、Day 2。
初日で「エージェント AI は本当に来ているんだ!」という実感が湧きました。
2 日目は、その AI をわが社でどう実装するのか、どう運用するのか、という現実的な課題に向き合う重要な時間になったのです。

朝から Serverworks の実装戦略、東洋紡の製造現場での具体例、そして Anthropic による最新ロードマップまで。
3つのセッションを回る中で、「これが本当のエージェント AI 導入の全貌なんだ!」という確信が、どんどん強まっていきました!

PRT231-S:「【実践】事例に学ぶ Amazon Bedrock での Claude 活用術」(Serverworks)

講師:村上 博誠(株式会社サーバーワークス クロスインダストリー第2本部 AI推進課 課長)

「段階」を理解すれば、次の課題が見える!

村上さんの開口一番は、生成 AI 導入にはきちんとした段階があるんですよ、というお話でした。
重要なのは、各段階において企業が直面する課題が明確に異なっているということです。
現在の段階を正確に認識できていれば、「今この段階にいるから、次はこの課題が必ず襲いかかってくる」ということを事前に予測できるようになるのです。
これは、お客様との打ち合わせの中で相談対応をする際に、極めて実用的な視点だと感じました。

具体的には、最初の段階(探索期)では「生成 AI のデータを一体どう使うのか?」「社内のどの部門が実際に使えるのか?」といった、極めて基本的な問いが出てきます。
次のステップ(関心期)に進むと「セキュリティ対策は本当に大丈夫なのか?」「従業員教育はいかに進めるべきか?」という、より運用面での実装懸念が浮上してくるのです。
そして企業が本気で生成 AI を使い込み始める段階(実践期)に至ると「毎月の推論コスト、いかにして最適化するのか?」「生成 AI の回答品質管理、いかにして継続的に維持するのか?」という、より戦略的で経営的な課題へと進化していくわけです。

この分類は、一見シンプルに見えるかもしれません。
しかし実装支援の最前線でお客様からのご相談に対応するときには、この段階ごとの課題認識が非常に有効なフレームワークとなるのです。
顧客がどの段階にいるのか理解することで、その企業が次に何に困るのか、どのような支援が必要なのかが格段に明確になってくるのですね。

「質の高いデータ」を Claude に与えて初めて、質の高い答えが返ってくる!

村上さんが「これは避けて通れません」と強調していたのが、データの準備についての課題です。
Claude であれ、どのような生成 AI であれ、AI に対して質問を投げかけたときに返ってくる答えの品質というのは、結局のところ入力データの品質に大きく左右されるという真理を述べられていました。
いくら優秀な AI エンジンを用意しても、そこに投入されるデータが低品質であれば、当然のことながら出力される答えの品質も低くなってしまうのです。

Serverworks が実装経験から導き出した、データ準備の際に必ず押さえるべき 3 つの基本原則がこちらです。

  • DISTILL(ノイズを消す) ― PDF をテキスト化するときに発生する OCR 認識ミス、重複して入ってしまった行、余分な空白文字。
    こうした「データノイズ」を徹底的に除去するステップです。
    このステップを怠ると、AI に混乱した情報を与えることになり、結果として的外れな回答が返されることになります。
  • PRESERVE(意味を持たせる) ― 単なるテキスト文字列ではなくて、「この情報は何年のデータなのか」「どこが出典なのか」「どのカテゴリに属する情報なのか」といった文脈情報やメタデータを付与するステップです。
    このメタデータがあれば、AI はデータの信頼性や関連性を正確に判断できるようになります。
  • STRUCTURE(構造化) ― 情報をテーブル形式に整理したり、適切なタグやラベルを付けたりするステップです。
    こうした構造化を施すことで、AI が検索・フィルタリング・集計といった様々な処理を確実かつ効率的に実行できるようになり、より精密な回答を生成することが可能になるのです。

Serverworks が実装経験から導き出した、生成 AI 本番運用の基盤

実例が語る:ハルメクホールディングスの月数万件音声処理パイプライン

Serverworks が実装支援している具体的な導入事例がこちらです。
ハルメクホールディングスというお客様では、毎月数万件に上る音声データを分析する必要があるというビジネス要件がありました。

その要件に応えるため、Serverworks が設計・運用しているのが、以下のようなパイプライン構成です。

このパイプラインは、初期段階(探索期)の課題である「いかにしてスケーラブルに生成 AI を運用するか」という問題に対する、実践的で優れたソリューションを示しています。

  • 自動音声認識でテキスト化 ― Amazon EventBridge により定期実行されるこのステップでは、Amazon SageMaker を用いて大量の音声データを自動的に認識し、テキストに変換します。
    このプロセスにより、毎月数万件という大量の音声ファイルを、人手を介さずに自動処理できるようになるのです。
  • Claude で構造化・要約処理を実行 ― Amazon Bedrock のサービスを経由して Claude を呼び出し、テキスト化されたデータに対して構造化と要約処理を実行します。
    大量の冗長なテキストから、ビジネスとして必要な要点だけを JSON 形式で確実に抽出し、後続のシステムで活用しやすい形に整えるのです。
  • プロンプトキャッシュによる劇的なコスト削減を実現 ― このステップは一見すると地味に見えるかもしれませんが、実装の現場では極めて重要な工夫です。
    Amazon Bedrock で提供されるプロンプトキャッシュ機能を活用すると、Claude への推論リクエストのコストを約 80% も削減することができます。
    月に数万件というスケールでこのパイプラインが毎月実行される場合、このコスト削減効果は経営層にも報告すべき規模の効果を生み出すことになるわけです。

本番環境での Claude 活用において、スケーラビリティとコスト効率を両立させるアプローチ

所感

村上さんの講演で強く感じたのは、「生成 AI 導入の段階ごとに、必ず課題が変わる」という明確なフレームワークの存在です。
多くの企業は「今、AI を導入しなければ」という焦燥感で動いていますが、実装支援の現場では「今この企業はどの段階にいるのか」を正確に診断することが、その後の提案の精度を左右します。

Serverworks の事例は「実装したら終わり」ではなく、「月数万件のパイプラインを本番運用する中で、プロンプトキャッシュで約 80% コスト削減」という、実装後の運用最適化まで見据えた設計思想が印象的でした。
お客様の段階診断と、その段階に合わせた「今必要な支援は何か」という優先順位付けが、提案の鍵になることが明確になりました。

AIM336:「Agentic RAG が切り開く製造現場語理解の新たな可能性」(東洋紡)

講師:坂倉 広弥(東洋紡株式会社 TX・業務革新総括部 AI エンジニア)

製造現場の深刻な課題:「ベテランの知識、一体どこにあるんですか?」

坂倉さんの講演は、東洋紡の製造現場が抱えている実際の課題から始まりました。

製造現場では、ベテラン従業員が保有している貴重な知識というものが、結局のところその本人の頭の中に留まっているだけという状況が常態化しているのです。
新人従業員が「このような場合は、一体どのように対応すればよいのですか?」という質問を持ってベテランの元に来たとしても、日々の業務に追われているため、丁寧に時間をかけて教える余裕がないというのが現実です。
その結果、同じミスが何度も何度も組織内で繰り返されるという負の連鎖が生じてしまっているわけです。

これが多くの製造現場が抱える共通の課題なのです。

  • 探せない ― そもそも過去に起こった失敗事例や、逆に成功した事例が、組織のどこに保管されているのか分からない状態が続いているのです。
    日々の業務に追われ、納期に追われている環境では、過去の知識を探す時間そのものが存在しません。
  • 伝わらない ― 「このポイントは製品品質を左右する極めて重要な指標ですよ」というような知見やノウハウが、その人の頭の中だけに留まったままです。
    文書化されていないため、その知識は個人の資産であり続けるのです。
  • 複雑性の増大 ― 時代とともに製品自体の複雑度も急速に増していますし、生産設備の組み合わせのパターンも急速に拡大しています。
    製品 × 製造条件 × 生産設備 × 製造工程という多次元の組み合わせは、もはや膨大なレベルに達しているのです。
    いかに優秀なベテランであっても、こうした多次元の組み合わせのすべてを脳に記憶し続けることは、現実的には不可能に近いのです。

シンプルな RAG では、現場は納得しませんでした

当初の取り組みでは、Amazon Bedrock Knowledge Bases を活用した、いわば業界標準的な RAG(検索拡張生成)システムを構築しました。

しかし、システムの精度を測定してみると、約 50% 程度という低い精度に留まっていたのです。
現場から「このシステムでは実務的に使用することができません」という率直な、かつ当然の声が上がることになりました。
坂倉さんと彼のチームは、現場に足を運んで何度も何度も丹念にヒアリングを重ねる地道な作業に取り組みました。
その結果として見えてきたのが、現場が本当に必要としていた要件は、従来のシンプルな RAG の概念をはるかに超えたものだったのです。

  • 普段の呼び方で通じてほしい ― 確かに用語辞書のようなものがあったとしても、製造現場の作業員たちが日常で使っている「俗称」や「現場言葉」と、正式なドキュメントに記載されている「正式名称」が大きく異なることがよくあるのです。
    この呼び方の違いが噛み合わないと、AI の回答は現場の質問とズレてしまい、結果として的外れな情報が返されることになってしまいます。
  • 一度教えてくれたことを、次に活かしてほしい ― 「ああ、それは〇〇という工程の別名ですね」というように現場の方が丁寧に教えてくれたその情報や気づきを、AI システムが次の回答に確実に活かし、フィードバックループを形成してほしいというご要望です。
  • 使っているうちに AI が成長してほしい ― 「このシステム、毎日使い続けていたら、段々と精度が上がって賢くなっていく」という実感が、システムの継続的な利用を促進する上で極めて重要なのです。
  • 似た事例を絞り込んで提示してほしい ― 今現在発生している製造上の問題に対して「こういった似た状況がこれまでの事例で発生していました」と、AI が的確に関連情報を抽出して提示してくれることが必要不可欠なのです。

「エージェントプラグ」で知識循環のループを回す!

坂倉さんと彼のチームが実行した再設計は、「製造現場における知識が自然と循環していく」というビジョンを実現するための実装モデルです。

従来のシステムのように AI が単なる情報提供の回答機に徹するのではなく、むしろ AI が製造現場と一体となって、お互いに学び成長していくような継続的なフィードバックループを組織的に構築したのです。
単に機械学習の自動化だけではなく、人間と AI の協働による知識進化のメカニズムを組み込んだのです。

Agentic RAG 導入 1 ヶ月の段階。 ユーザー数 4 人から関心層の拡大が始まった。

驚異的な成長率!ユーザー 4 人 → 120~150 人への拡大と定着

導入直後のパイロット段階では、わずか 4 人しかいなかった関心を持つユーザー層が、現在では 120~150 人の規模にまで急速に拡大しているというのが現実です。
システムの利用率は 80% 以上を達成し、継続利用ユーザーの割合も 60% を超えているという極めて高い水準を保っています。

坂倉さんは「この爆発的なユーザー数の成長というのは、わたしたちが採用したエージェント RAG の設計アプローチが、製造現場の実際のニーズにピンポイントで合致したことの何よりの証拠です」と確信を持って述べていました。

さらに注目すべきは、ユーザー数の拡大だけではなく、定性的な変化も極めて大きく起きているという点です。
製造現場の各従業員たちが「あ、データを正確に記録・保存することは、本当に企業にとって大事なんだ」と気づき始めたのです。

そして「データの表記を統一させることで、AI の回答品質が目に見えて向上する」という直感的な因果関係が、作業者たちの中で見える化されるようになったわけです。
この気づきは、組織全体のデータリテラシーを向上させる上で、極めて重要な心理的変化なのです。

そして最も象徴的なのが、運用の自律的な成長が本当に始まっているという点です。
毎月 10 件以上という継続的なペースで、新しい用語や製造ノウハウが現場から自発的に登録され続けているのです。
つまり、現場の従業員たちが AI システムを『自分たちで成長させていくべき共有財産』として主体的に認識し始めたということです。
これは単なるシステム導入の成功ではなく、組織文化そのものが前向きに変わり始めたことを意味しており、本当に素晴らしいことだと感じます。

エージェントが現場知識の循環を変え、ユーザーが増え続ける好循環

所感

坂倉さんの講演で最も印象的だったのは、「初期の精度 50% の失敗から学び、現場にヒアリングを重ねた結果、ユーザー 4 人が 120~150 人に拡大した」という成長曲線です。
単なるシステム導入の成功ではなく、エージェント RAG が「現場と一緒に成長する仕組み」として設計されたことが、この爆発的な拡大につながったのです。

月 10 件以上のペースで新しい用語や知識が自発的に登録され、現場が「AI を成長させるもの」として認識し始めた姿勢は、エージェント時代の組織文化の変革を象徴しています。
cloudpack としても、実装後の「現場とのフィードバックループ」をいかに構築するかが、AI 導入の成功を左右することが明確になりました。

PRT136-S :「使う」から「共に働く」へ  – Claude 最新動向 –

講師:津谷 由里(Anthropic Japan 合同会社 パートナーアライアンスディレクター)

「エージェント」の本質を、シンプルに言い切る!

Anthropic Japan の津谷さんのスライドの中で最も印象的だったのが、「エージェント」という概念そのものの定義についての説明です。

「エージェント」という言葉を聞くと、多くの人が「極めて高度で高機能な AI」というイメージを抱きがちです。

しかし津谷さんが強調したのは、全く異なる視点です。
正確には「エージェント」というのは「与えられたビジネス上のゴールに向かって、自分自身で行動方針を考え、その行動を実行するシステム」というのが、正確で本質的な定義なのです。

このモデルにおいて、人間の役割は「最終的なゴール」「ビジネス上の目的」を明確に伝えることに限定されます。
その目的を達成するための具体的な手順の選択判断や、実際の行動実行のステップは、すべてシステムが自律的に行うのです。
これこそが「エージェント」の本質なのです。

AI の進化は、「相談相手」から「信頼できる同僚」へと段階的に進化している!

Anthropic という企業のビジョンの中に、AI 進化のロードマップが明確に示されています。
この進化の歩みを見ていくことで、今後のビジネス環境における AI の役割がどのように変わっていくのか、その方向性が極めて明確に見えてくるのです。

  • 2023 年:Chat AI の時代 ― ChatGPT や Claude の初期段階に相当するこの時期では、AI は「素晴らしい相談相手」「知識豊富なアドバイザー」という役割に限定されていました。

    実際のビジネス上の仕事、実行プロセス、意思決定は、あくまで人間ユーザーが担当しなければならなかったのです。

  • 2025 年:Claude Code による仕事の実行開始 ― ソフトウェア開発という特定の専門領域において、AI はついに「実際に仕事を実行する」という段階へと進化しました。
    開発者が要件を伝えると、AI はコードを実際に書き、それを実行し、動作を確認し、テストも実施してくれるようになったのです。
  • 2026 年:Claude for Work による全般的なビジネス業務への拡大 ― このソフトウェア開発領域で実証された「働く AI」というコンセプトが、一般的なオフィスワーカーの日常業務にまで急速に拡大しています。
    複数ステップから構成される複雑な仕事を、AI が最後まで自律的に完遂し、成果物をユーザーに提供できるようになったのです。

日本での Claude の使われ方は、実は独特で興味深いものなのです!

Anthropic が定期的に発表している Economic Index というデータセットを詳細に分析してみると、日本における Claude の利用指数は 1.81 倍という値を記録しています。

これは世界 116 カ国の中で 35 位という相対的位置付けになります。
これは相当に上位に位置しており、日本が Claude をはじめとする生成 AI の活用に極めて積極的であることを示しています。

しかし日本で特に顕著かつ興味深いのは、「業務プロセス・オペレーション」つまり一般的なビジネスプロセスやオペレーション業務が、Claude の最も活用される用途であるという点です。
すなわち、ソフトウェア開発というテクノロジー領域よりも、むしろ一般的なオフィスワークや事務処理という領域で、大きく活躍しているというわけです。

そして津谷さんが指摘した最も興味深い点が、実に 53% という多数派のユーザーが「人間の最終判断 + AI の実行」という協働的な使い方を採用しているということです。

言い換えれば、ビジネス上の重要な判断や意思決定は人間が責任を持って下して、その判断に基づいた具体的な実行・実装の作業部分を AI に手伝ってもらうという、バランスの取れたモデルを採用しているということなのです。

この慎重で責任感のある AI 活用スタイルは、日本的な思慮深さ、そして組織における責任分界点を明確にする日本的なアプローチを象徴しているように感じます。

ChatからCodeからCoworkへ。 AIエージェント進化の3段階を示すタイムライン図

所感

津谷さんの「Chat → Code → Work」という 3 段階の進化ロードマップは、単なるテクノロジーの歴史ではなく、企業の AI 活用の未来像を示しています。
2026 年の「Claude for Work」が、一般的なオフィスワーカーが実際に使える「同僚」レベルに達していることが、今回のサミットを通じて明確に見えたのです。

特に印象的だったのは、日本での Claude の使われ方が「業務プロセス・オペレーション」中心であり、53% のユーザーが「人間の判断 + AI の実行」という協働型を採用しているという事実です。

これは日本的な責任感の表れでもあり、AI を「魔法の道具」ではなく「信頼できるビジネスパートナー」として扱う姿勢を象徴しています。
こうした「責任分界点を明確にした AI 活用」のアドバイスが、日本市場での強みになることを認識しました。

Day 2 完了:見えてきた、エージェント AI 導入の全体像

初日の「エージェント AI は本当に到来している」という実感が、2 日目の 3 つのセッションを通じて、より明確で構造化された理解へと深化しました。

Serverworks は「データ品質が AI システム運用の絶対条件」と指摘。
東洋紡は「エージェント AI は現場と一緒に成長するもの」と示しました。
Anthropic は「AI が実際にビジネスを実行する段階に到達した」とアナウンス。

これら 3 つの視点——データ品質、知識循環、技術進化——が整合性を持ちながら、エージェント AI 時代の企業の次のステージを示しています。

2 日間を通じて見えてきたのは、「エージェント AI は来年の話ではなく、今この瞬間に企業が直面する現実である」ということです。

Day 1 で「プロダクト・実装・現場」という 3 つのレイヤーから、エージェント AI が実証フェーズに入ったことを確認し、Day 2 で「データ品質・知識循環・技術進化」という 3 つの視点から、その次のステージへの道筋を見ました。

本当に充実した 2 日間でした。
来年も機会があれば、また参加して、生成 AI 時代の進化と、その先を、一緒に追い続けたいと思います。