こんにちは。DX開発事業部の加谷です。
生成AIが急速に普及し、文章作成からコーディング、さらにはAIエージェントのような自律的なタスクの完遂まで、できる範囲が一気に広がってきています。しかし、なんでもこなせてしまう生成AIですが、その土台になっているのは機械学習や深層学習と呼ばれる、いわゆるトラディショナルな仕組みです。E資格とは、そんなAIの基礎を体系的に学べる資格となっています。
今回はそんなE資格について紹介したいと思います。具体的な勉強法や試験対策というよりも、これを取得することによってどのような恩恵が得られるか、といった内容を中心に記事を作成しました。
1. E資格(エンジニア資格)とは?

E資格とは、JDLA(日本ディープラーニング協会)が主催する、主にAI実装のエンジニアリングの実力を証明する資格です(参照: E資格とは | JDLA)。同じJDLAが主催する資格として、G検定(ジェネラリスト)というものも存在します。G検定はAI・ディープラーニングの事業活用を促進するジェネラリスト(ビジネスパーソン)向けの資格とされており、ここ最近では、日本の様々な企業で取得推奨が進んでいる資格としても有名です。
G検定はAIの歴史や活用方法、法的なリスクなど、ビジネス活用する際の知識を幅広く問われる試験となっています。一方のE資格は、AIの数学的背景から始まり、統計、理論、さらにはPyTorchやTensorFlowでのモデル実装までの、実装スキルを測る資格となっています。
試験科目は応用数学・機械学習・深層学習・開発環境の4つです。下記に、直近の試験概要を紹介します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験形式 | 120分の会場試験、104問 |
| 受験資格 | JDLA認定プログラムを試験日の過去2年以内に修了していること |
| 受験料 | 一般33,000円/学生22,000円/協会会員27,500円(いずれも税込) |
| 実施回数 | 年2回(2月・8月) |
2026年第1回(E資格2026 #1)の結果は、受験者1,317名に対して合格者911名、合格率は69.17%でした。累計合格者数は10,838名となっています。科目別の平均得点率は応用数学60.48%、機械学習59.91%、深層学習60.74%、開発環境79.46%で、数学と機械学習がやや低めに出ているのが個人的には納得感があります(参照: 「2026年 第1回 E資格」結果発表 | JDLA)。
合格率だけ見ると7割弱なので一見すると簡単そうに見えますが、そもそも認定プログラムを修了した人しか受験できない試験なので、母集団がすでに絞られている点は差し引いて考える必要があります。
※なお、2026年8月開催の「E資格2026 #2」からシラバスが改訂されます(参照: 「2025年 第2回 E資格」結果発表・シラバス改定のお知らせ | JDLA)。これから受験される方は、最新のシラバスを確認してください。
2. E資格の中身は「ネジを切り出す」ところから
E資格の中身としては、数学的背景として行列計算から始まります。カリキュラムでは行列計算を手計算で行うところから始まり、認定プログラムにもよりますが、行列計算をnumpyでスクラッチで書き、パーセプトロンと重みもスクラッチで作り、多層パーセプトロンからなるニューラルネットワークをフルスクラッチで構築するところまでやります。
たとえば、パーセプトロンでANDゲートを作るとこんな感じになります。
import numpy as np def AND(x1, x2): x = np.array([x1, x2]) w = np.array([0.4, 0.4]) # 重み b = -0.6 # バイアス return 1 if np.sum(w * x) + b > 0 else 0 print([AND(0, 0), AND(0, 1), AND(1, 0), AND(1, 1)]) # => [0, 0, 0, 1]
重みとバイアスの値を手で決めて、入力との積の和がしきい値を超えるかどうかで0か1を返す。これがニューラルネットワークの最小単位です。
これを層にして、活性化関数を挟んで順方向に流していくと、ニューラルネットワークの順伝播になります。
import numpy as np def sigmoid(a): return 1 / (1 + np.exp(-a)) x = np.array([0.8, 0.2]) # 入力 W1 = np.array([[0.2, 0.5, 0.1], # 1層目の重み [0.7, 0.3, 0.9]]) b1 = np.array([0.1, 0.1, 0.1]) W2 = np.array([[0.3, 0.6], # 2層目の重み [0.8, 0.2], [0.5, 0.4]]) b2 = np.array([0.2, 0.2]) z1 = sigmoid(np.dot(x, W1) + b1) # 行列積 → 活性化関数 y = sigmoid(np.dot(z1, W2) + b2) print(np.round(y, 4)) # => [0.7655 0.7155]
np.dotで行列積を計算して、バイアスを足して、活性化関数を通す。これを繰り返しているだけです。実際の学習ではここに誤差逆伝播法が加わって、重みを更新していくことになります。E資格のカリキュラムでは、このようなコード実装も行います。
例えるならば、生成AIがパソコンだとすると、フルスクラッチでニューラルネットワークをnumpyで作るというのは、パソコンに使われているネジを切り出すところを学んでいるイメージでしょうか。もちろん実業務ではまず使わない実装となります(笑)。
3. なぜ今、E資格の知識が重要なのか?
ここ最近では、生成AIを使ったシステム開発は、GeminiなどのフロンティアモデルのAPIを活用した開発が主流となりました。その一方で、LLMが裏側でどう動いているか(Transformerの仕組みなど)を意識することは無くなりました。
しかし、LLMの歴史や中身のアーキテクチャ、どのような計算が行われているかが見えていると、新しい技術が出てきた時も、一から覚えるのではなく土台となるアーキテクチャの派生系という捉え方ができるので、慌てなくなります。
自然言語処理でいうと、seq2seq(2014年)からAttention、そしてTransformer(2017年)、そこからBERTやGPTへ、という流れです。BERTとGPTはどちらもTransformerを土台にしていて、エンコーダ側を使ったのがBERT、デコーダ側を使ったのがGPTという関係にあります。この系譜を知っていると、LLMに対する転移学習や蒸留といった話も、なぜLLMを動かすのに大量のGPUが必要なのかも、数式レベルで想像することができます。
もちろん全部のアーキテクチャを細かく理解できるわけではないのですが、「なんとなくのイメージができる状態」になります。たとえばLLMの挙動が安定しなかった場合に、temperatureやTop-Kといった概念もなんとなく「直感的に」感じ取ることができます。
4. 顧客への説明力につながる
クラウドを使った機械学習のパイプライン構築やマルチエージェントシステムの開発も、最近では自然言語でモデルを作ることが簡単になりました。Google CloudでいえばGemini Enterprise Agent Platform(旧称 Vertex AI)がありますし、BigQuery MLを使えばSQLで予測モデルをあっという間に作れてしまいます。
もちろんそれでもいいのですが、E資格を持っていると、それぞれのモデルの特徴や良し悪しを中身のアーキテクチャで大まかに把握できるので、技術のブラックボックス化を防いだり、顧客への技術的説得力(コンサルティング力)を高められる可能性があります。
たとえば、顧客の依頼で予測モデルを構築する際に、深層学習を使った方が精度は出るものの説明性に欠けて中身が不透明になる、という場面があります。そこで「今回は決定木ベースのモデルにして、SHAP値でどの特徴量がどれくらい効いているかを説明できる形にしましょうか」といった提案ができるようになります。精度と説明性のどちらを優先するかは業務要件次第なので、その判断材料を持っているかどうかは大きい差だと思っています。
5. AIの歴史を体系的に理解できる
副次的なメリットとして、AIの歴史を体系的に知ることによって、今使われているAI技術がどのように生まれてどのような変遷を辿ってきたかがわかります。
そうすると、最新のAIに対して「あ、キミ最近有名だけど、僕はキミのことまだ未熟な時から把握していますよ」という気分になれます。
ジェフリー・ヒントンから始まり、深層学習、CNN、強化学習、時系列、Transformer、GPTなどが全て連続のものとして捉えられるので、AI君がちっちゃいヨチヨチ歩きの時から知ってるよ! という気分で触れることができるようになります(これについては個人差があるかもしれませんが)。
ちなみにヒントンは、2018年にヨシュア・ベンジオ、ヤン・ルカンとともにチューリング賞を受賞し、2024年にはノーベル物理学賞も受賞しています。今の生成AIブームの源流にいる人物が現役で発言を続けているというのも、この分野の面白いところだと思います。
6. E資格の受験方法
E資格には受験資格というものが存在します。JDLAが認定する「認定プログラム」というものがあり、そちらを試験日の過去2年以内に修了している必要があります。市販の参考書だけでは受験資格が得られないという、少し特殊な資格です。
認定プログラムにもよると思いますが、基本的には座学と、PyTorchかTensorFlowどちらかでの実装演習、多層パーセプトロンからなるニューラルネットワークのモデル構築実装、修了テストなどがあります。これらを修了すると修了者ナンバーが発行され、E資格を受験できるという仕組みです。
認定プログラムは事業者によって内容も価格も幅がありますが、数十万円かかるものもあります。ここで知っておくとお得なのが、認定プログラムは厚生労働省の「教育訓練給付制度」の専門実践教育訓練に該当する場合があるという点です。条件を満たせば受講料の一定割合が支給されるため、受講を検討する際は対象講座かどうかを確認してみてください。
前提知識としては、数学とPythonが必須です。具体的には線形代数、微積分、確率統計の知識が必要になってきます。この辺りについては、JDLAが公開している推薦図書が参考になります。個人的には、オライリーの「ゼロから作るDeep Learning」シリーズ(いわゆるゼロつく)の1と2あたりを読んでみると、E資格で何をやるのかのイメージがつかめると思います。
7. E資格の学習で得られるもの
E資格で一番初めに出てくるのは、線形代数や微積分、確率統計です。マルチクラウドの案件をやっている身からすると、そんなの業務に使わないよ! と思うと思います。私も思いますし、現に業務で線形代数を使う機会は正直ありません。
しかし、この基礎知識を知っているだけでなく実装も行うと、そもそもなぜAI処理にGPUが必要なのかを身をもって体験できます。ニューラルネットワークの計算が巨大な行列積の繰り返しであることを一度手で書いていると、並列演算に強いハードウェアが必要になる理由が理屈でつながります。また確率統計の知識は、AIに限らずビジネスパーソンとして様々な場面で活用できます。
直接は役に立たないけれど、土台ができるので、意識しないところでなんとなく役立つイメージでしょうか。土台があると、たとえばarXiv(研究論文のプレプリントが公開されるサイト)にAIの新しい論文が上がってきて、そこに数式が載っていたとしても、完全には理解できなくても「おおよそ、こういうことを検索すれば理解できるのかな?」というあたりをつけることができるようになります。
そうしたファウンデーションを作れるところが、一番の魅力ではないでしょうか。
8. まとめ
今回はJDLAのE資格について紹介してみました。
この資格は、データサイエンティストでAIモデルをバリバリチューニングしているぜ! という人でなければ、正直ここで学んだことをすぐに業務で活かせることは少ない資格となっています。しかし、そんな生成AI時代だからこそ、AIのファウンデーションを知っていることが逆張り的なメリットになるかもしれません。
もし普段から生成AIを使っていて、その裏側の仕組みを知りたいと思ったならば、この資格はぴったりかと思います。
余談ですが、Google Cloudの認定資格であるProfessional Machine Learning Engineer(PMLE)を受験したときにも、E資格で学んだ機械学習・深層学習の知識が土台として効きました。PMLEはGoogle Cloud上で機械学習モデルを設計・構築・運用する能力を認定する資格で、試験範囲は生成AI関連のタスクを含む形に更新が進んでいます。受験を検討される場合は、公式の試験ガイドで最新の出題範囲を確認してください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。AIの土台を学び直したいと思っている方の参考になれば嬉しいです。