本記事のテーマは、AWSとVMwareが共同開発している『VMware Cloud on AWS』です。
AWSが用意するベアメタルにVMware環境を構築し、vSphereベースのハイブリッドクラウド環境として利用できるようになります。サービス開始は2017年半ばと発表されています。
筆者にとっては、AWSは現職(cloudpack)で、VMwareは前職(SIer)で、深く関連のある(あった)2社であり、どちらにも親しみを感じています。
そんな筆者の視点で、VMwareとAWS、そしてSIerのビジネス的観点で邪推したことを整理してみます。
VMwareの方針転換
仮想化の雄として君臨するVMwareですが、それはオンプレミスでの話。
パブリッククラウドとしてサービス提供されていた『vCloud Air』は、事実上の縮小をしています(日本では撤退)。
同社は、誰がどう見てもソフトウェアの会社であり、おそらくハードウェアの領域を運用するという経験が乏しかったはずです。vCloud Airでハードウェアの運用にチャレンジしてみたものの、vSphereから下のレイヤーを運用するノウハウや体力が自社にはなかったと判断したのでしょう。
しかしvCloud Airの縮小は、パブリッククラウドを利用したいという顧客ニーズが、イコールVMware離れに直結する状態でもあり、VMwareとしては、何かしらの方法でvCloud Airに代わるパブリッククラウド対策を行う必要があったと考えられます。
VMwareは、2012年あたりから、仮想化の次のビジョンとして、SDDC(Software-Defined Data Center)を掲げています。
SDDCを一言で表現すると、データセンターの構成要素全体を仮想化し、運用の自動化を進めるという「ビジョン」です。サーバーとネットワークとストレージを仮想化統合したオンプレミス環境とも言えますし、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドを統合する概念とも言えます。この延長で「クラウドネイティブアプリケーション(ハイブリッド型)」の開発にも力を入れています。
Hypervisorから下のレイヤーをすべて抽象化することがVMwareの狙いですから、いずれHypervisorがOSの役割に取って変われることを目指しているはずです。VMwareさえ選択してくれたら、オンプレミスでも、何処のクラウドを使うのもユーザーの自由ですよ!という世界です。
VMwareがSDDCを推進するには、パブリッククラウドベンダーとの提携は必須とも言えますので、IBM SoftLayer(最近名称が変わりましたね)やAWSとの提携したのもごく自然な流れです。水面下で、Microsoft AzureやGoogle Cloud Platformなどとも交渉した(現在もしている?)可能性は想像に難くありません。
vCloud Airを捨てて、自前のインフラではなく、他人のインフラを使ってSDDCを実現しようしているわけですね。
AWSは過渡期を攻略するシナリオを手にいれた
AWSは戦略的に、基幹システムを含めたすべてのシステムをAWS上にマイグレーションする「All-In」を目指しています。
今すぐにそうした動きが猛スピードで加速するという予測はありませんが、将来的にはどこかのタイミングでアプリケーションはクラウドネイティブに書き換わるでしょうから、いずれ「All-in」が実現する日はやってくることでしょう。
「All-In」が実現するまでの過渡期(5〜10年単位で有るのではないかと思いますが)として、当面はエンタープライズ用途で、オンプレミスとクラウドのハイブリッドのシナリオを持っているところがビジネスを成長させることでしょう。(Azureの伸びがそれを裏付けていますね)
VMwareとの提携は、過渡期における成長戦略の一環としてみればまったく違和感がありません。むしろAWSには、プラスの要素しか見つかりません。
視点が少し変わりますが、クラウドというのは「規模の経済」が働いていますので、サービスが突然に無くなることがあります。vCloud Airを筆頭に、ハードウェアベンダーが開始したクラウドが終了した例はいくつかあります。
淘汰が始まると「無くならないクラウド」が選ばれるようになります。そうなったときに4強となるのは、AWS・Microsoft・Google・IBMあたりでしょうか。
AWSとVMwareの協業ポイント
現時点で得られる『VMware Cloud on AWS』の概要を簡潔に記すと
- VMware環境の運用はVMwareが実施
- ライセンスもVMwareが提供
- AWSはベアメタルを提供する
- ハードウェアのプロビジョニングはAWSが実施
という役割分担になっています。
VMwareは、vSphereから下のレイヤーを運用をノウハウのあるAWSに委ねることで、ソフトウェアに注力できるようになります。さらに自らのハードウェアリソースの初期投資がいらないばかりか、原則、売り切れることがないAWSのリソースを自由に利用できるようになります。
「All-in」を目指すAWSにとっては、過渡期のハイブリッド環境を、AWSで構築するきっかけになります。「All-in」の最後の砦は、クリティカルミッションのエンタープライズ領域です。エンタープライズにおけるマジョリティはESXだったので、今回のVMwareとの協業を取っ掛かりとして、物理的な環境をAWSに「in」できるのは戦略的にも意義のあることです。
また、VMwareをリセールしている人たちに、AWSのコミュニティに入ってもらうきっかけにもなります。すでにvCloud Airでリセールの基礎がありますので、AWS的には大いに期待するところでしょう。
SIerは『VMware Cloud on AWS』をどう扱うか?
事業的には、中長期での本格的なクラウド対応が必要になります。『VMware Cloud on AWS』を利用するカスタマーから、Amazon RedshiftなどのAWS周辺の取り扱いを求められるからです。
とは言え、使い慣れたvCenterからAWSを使えるようになりますので、これまでのクラウド対応よりは、遥かにマシだという印象を持つSIerも多いはずです。
これまでならAWSでLinuxサーバーを建てようとすると、AWSベースの管理方法を習得する必要がありました。既存のVMwareベンダーならvCenterを使った管理方法を熟知しているので、これからはAWSでLinuxサーバーを建てるのではなく、VMwareの上にLinuxサーバーを建てる人がでてくるかもしれません。
そんな馬鹿なと思うのはクラウド専業ベンダーの発想です。SIerにしてみれば、意味のないオーバーヘッドは承知の上で、スキルシフト不要・運用方法を変えないという選択肢として、このやり方は成立するんじゃないかと想像しています。
『VMware Cloud on AWS』があることによって、綿密なキャパシティプランニングなどが不要になりますし、エンタープライズシステムが今まで以上にAWSに乗せやすくなるので、AWS移行はますます加速することでしょう。x86サーバー上でやってきたことをAWSの上でやればいいだけだからと、レガシーシステムをそのままAWSに移行する事例が増えるかもしれません。
SIerにとって深刻な問題
SIerにとってもっとも深刻な問題は『金物(カナモノ)』、いわゆるハードウェアのビジネスが消失してしまうことかもしれません。
売るハードウェアがなければ、ハードウェア保守のビジネスもなくなります。ベアメタルだとライセンスもベンダーから提供されてしまいますし、売上はSESだけになってしまう恐れがあります。
したがって『VMware Cloud on AWS』が使われるようになると、SIerに残された付加価値(=お金になるビジネス)は、『マネージドサービス』とその周辺になりそうです。ワンショットのシステム構築が中心のSIerにとっては、キツイ時代になるでしょう。
4強クラウド以外が淘汰されていくのと同様、SIerも『クラウド体質』な事業構造に変化できるところ以外は、淘汰されていくのかもしれません。それも思いの外、速いスピードで。
オンプレミスか?クラウドか?ハイブリッドか?という選択も、この瞬間にだけ通用するキーワードでしょうし、数年後にはハイブリッド環境もレガシーの部類に入るはずです。
決して後戻りすることなく前進し続けるのが、IT業界の宿命みたいなものですから、立ち止まったり足踏みした瞬間に取り残されていくのは今後も続くでしょう。同時に、前に進んでいるつもりでいても、いまの立ち位置がデスマーチかどうか?という視点を持ち続けるのはこれからの時代、案外大事なことかもしれませんね。
最後に、筆者の好きな言葉を(いろいろな意味を込めて)。
『雲の上はいつも晴れ』『There is always light behind the clouds』