最近セミナーを聴講していて登壇者の最後のスライドが「ご清聴ありがとうございました」や「THANK YOU」だったりする度に、心の中で苦笑してしまうcloudpack.media編集長の増田です。

(「ご静聴ありがとうございました」って大きく書かれた残念なスライドもお見かけしますね。確かに静かに聴いていましたけれども…)

最近はどこの会社でもエンジニアが不足しているせいか「弊社では人材を募集しています」っていうスライドで締める方もお見かけしますよね。もっとも重要な〆のスライドに、講演内容とは関係のないありがた迷惑なスライドを流してもったいない上に、そんなノリで応募が殺到したりするのカナー?っていつも疑問に思っています。

プレゼンするスピーカーの方は、聴講している人たちの共感を得たり、役立つ情報を提供したりするために全力を注ぎたいと考えていると思うのですが、人事から「採用のスライドもちょろっと入れておいてよ」って頼まれて仕方なく入れざるを得ないのかも。

先日『ビジネス+IT』様が、年間で60名以上の中途採用を実現したcloudpackの取り組みに興味をもってくださり、採用マーケティングをテーマにした取材を受けまして、
「圧倒的な知名度」がない企業は、就職エージェントを使わないほうがいい という記事になりました。

ビジネス+IT

「圧倒的に知名度がない」と自傷的かつ断定的にdisったキャッチーなタイトルだったおかげで、多方面からいろいろな反響をいただきました。これには編集部の狙いが大成功だったと言わざるを得まい(笑)

そこで、この記事に関連する弊社が行なっている「採用マーケティング」について、インタビューのときにお話しをしたけれど割愛された部分など、この場をお借りして少しだけ補足したいと思います。

なぜマーケティング部門が採用をやるのか?

実は社内からも「なんでオマエが採用やってるんだ」と真顔で言われることがあります。きっとその方に悪意はないと思うので、ぜんぜん大丈夫です(笑)

マーケティングを本業にしていない方のためにちょこっとご紹介すると、マーケティングの役割の一部に『新規の見込み顧客を顕在化させる』というのがあります。

新たな顧客となりうる『層』に対して、自社の商品やサービスの『認知』を形成して、利用を『検討』する機会を設けて、見込み顧客として顕在化したリード情報を営業チームに提供するというのが、いわゆるマーケティング活動と呼ばれるものです。

マーケティング担当者が、展示会出展やセミナー開催などをリード発掘のチャネルとして捉えるのはそのためです。最近では、インターネットをリード発掘の新たなチャネルとして機能させるためのデジタルマーケティングなどに注力する会社も増えています。

この『見込み顧客』を『採用候補者』に置き換えてみると、こんな感じです。

将来cloudpackの社員となりうる『層』に対して、cloudpackを知らない人もたくさんいるので『認知』を形成して、cloudpackへの転職を『検討』する機会を設けて、採用候補者として顕在化させる。

ホラ、ぜんぜん違和感ないでしょう? 広告宣伝ばかりじゃないマーケティングをやってる人なら違和感ないはずです。

採用で悩んでいる全国の人事のみなさん、自社のマーケティング部門に相談してみてはいかがでしょうか?

もともとマーケティングに携わる人は、経営と同じ目線で市場やニーズを俯瞰してみたり現場に降りてみたりと器用な人が多いですし、採用が企業経営の重要な柱であることはマーケティング担当者なら十分理解しているはずです。人事の方が、気軽に相談してみたらきっと力になってくれるんじゃないかな。

自社に有利な方に母集団を絞る

ところで、転職する可能性のあるITエンジニアって何人ぐらいいるのでしょうか。

かなり大雑把ですが、求人媒体が公表している登録人数からざっと割り出したら転職適齢期の人は国内に12,000人ぐらい。一方、ITエンジニア職の公開求人数を調べてみると、DODA、パーソル、リクルート、マイナビあたりで、重複する求人もあるでしょうがざっくり40,000件ぐらいありそうです。

なので、実質求人倍率は3.3倍程度だと仮定できます。現実には、非IT業界でも競争力の向上を掲げてエンジニアを採用する動きがあるので、IT人材の採用はさらに激化していくと考えるべきです。

とはいえ、この12,000人に適切な『認知』を形成するのは簡単ではありません。特にB2B企業がそれをやろうと思ったら莫大な広告費用がかかりますし、予算を獲得しようとした瞬間に躓くことになるかもしれません。

そこで私たちは、いきなり『認知を形成する』ことを狙うのではなく、まずは『認知のあるところから攻める』という作戦を取りました。

あえてcloudpackを知っている人たちに母集団を絞ってしまうことで認知形成フェーズを省き、ウチへの転職を『検討する機会』を設けるところからスモールスタートしてしまおうと考えたわけです。

そんな発想から生まれたのが『虎はち会』というイベントです。

虎ノ門ヒルズで夜8時に会いましょう、という意味が込められたこのイベントは、最初から「中途採用向け会社説明会」として開催しています。

虎はち会

新卒の就活には会社説明会という機会があるのに、なぜ中途向けには存在しないんだろう?と、ふと気がついたのがきっかけでした。

だったらcloudpackがやったらいいよね! と企画を整理して、周囲を巻き込んでの開催計画を立てるのにかかった時間はわずか1.5日。時間をかけて企画を練るよりも先に、とにかく低予算で実行してみて、その結果から補正していく方が成果が得やすいだろうと考えました。

ノリノリで準備していた様子は、このあたりの記事でも触れられているとおりです。

『虎はち会』という、cloudpackへの転職を検討する機会に集まってくださった人たちは、ものの見事に真剣に「転職検討中」の方ばかりでした。開催2〜3回目の頃には、同業他社の興味を引いたのか、冷やかし参加も数名いましたが…。

ちゃんと集まる「仕組み」をつくる

『虎はち会』を何度か開催しているうちに、順調に選考に進む人、入社する人が増えていきました。

傍目には「うまいことやってるな」なんて思われていたようですが、そんなにうまい話なわけがありません。なぜならば、私たちは『認知』の向上につながる活動をスルーしたまま開催していたからです。

早晩『cloudpackを知っている人たち』をアテにした集客は、行き詰まるだろうと考えていました。

次に私たちが取った作戦は『虎はち会』に招待したい母集団のリストを強化するために、転職イベントの開催と広報活動の強化、そしてFacebook広告の活用でした。

開催した転職イベントは、『システムエンジニアのキャリアを考える座談会』です。

エンジニア座談会

オンプレミスのエンジニアが、クラウドの台頭で今後どういう風にキャリアを考えていったらいいのか?というテーマで、cloudpackで活躍しているオンプレミスSIer出身のエンジニアが自らの経験を語り尽くすという内容です。

全部のマイクをcloudpackが握ると内輪感がハンパなく出てしまうため、座談会のナビゲータに媒体の方にお願いしようと考えました。持ちつ持たれつもあるので広報のツテを辿って、TECH系媒体の編集部にコンタクトしてみました。ほとんどの媒体に門前払いされる中、週刊BCNさんだけが快く引き受けてくださいました。

当日は、週刊BCNの畔上編集長と谷畑編集委員の進行で、ビックリするほどテンポよくcloudpackメンバーからネタを引き出してくださり座談会を盛り上げることができました。

ここで集めた来場者リストは、Facebook広告を経由して100人ほどのリストになりました。

Facebook広告では、年齢の上限・下限を決めて、SI関連のお仕事をしていて、都内近郊に住んでいる、などの条件(本当はもっと細かく設定しています)から、座談会イベントの広告が表示されるようにセットしました。広告予算がふんだんにあるわけではないので、予算を超過しないよう1日あたりの上限額を定めて、開催の1ヶ月前から告知を開始して参加を促していました。

このときのFacebook広告の活用で得られたノウハウは、今も東京で開催される『虎はち会』だけではなく、大阪オフィスで開催される『梅はち会』、その後に拡大版として開催された『転職相談フェア・クラウド万博』などの集客にも役立てています。

開催後は、広報がプレスリリースやPRレポートなど形をいくつか変えながら、さまざまな媒体にアプローチしており、「ユニークな採用活動」として取材を獲得する成果をみせています。

貴重な母集団リストはcloudpack転職予備群として、虎はち会へのお誘いメールを送ったりしながら、採用希望者を誘導する仕組みのコアとなっています。

フィーが高額な就職エージェントを活用しなかったのも、これらの採用マーケティング活動がある一定の成果を見せていたという背景にあります。ビジネス+ITの記事タイトルにある『就職エージェントは使わないほうがいい』というのは、正しくは『エージェントを使わなくてもうまくやれた』でした(笑)

「カッコイイ戦略」はいらない

ここまでの私たちの採用に対する取り組みを通じて、そろそろお気づきかと思いますが、私たちは特別にカッコイイことは何もやっていませんし、用意周到な戦略を練って遂行するようなこともやっていません。

ここまでお伝えした内容以外で私たちが行った取り組みと言えば、cloudpackというAWS界隈で通用するブランドを少しだけ『採用』に寄せたことや、『まい泉のカツサンド』を大真面目に虎はち会のアイコンとして活用したこと、そして求職者にとって必要な情報を片っ端から言語化したことぐらいでしょうか。

虎はち会を開催していて気がついたことに、求職者ニーズの多様化があります。転職先を決める基準が年収や会社の知名度ではなく、その会社の仕事にどんな意義があるのか、どんな人たちと働けるのか、さらに先でどんなキャリアアップが想定できるかなどを重視している方が多くなっている気がします。目の前の仕事よりも、ずっと先の先まで見ようとしている方が増えています。

こうした求職者のニーズにも、人事が介在しない虎はち会が応えられていますし、他の転職先候補との差別化にもなっていると考えています。

虎はち会も初回の開催からまもなく2年を迎え、開催も23回を数えるほどになり、新しい仲間もたくさん増えました。しかし、そんな状態であってもまだPDCAは回り続けていますし、改善は今も継続的に行われています。

御社にとって採用の課題は、『認知活動』でしょうか?『検討の機会』でしょうか?

そのあたりからマーケティングチームと人事が会話をしたら、新しいコラボレーションのきっかけが生まれるかもしれませんね。

求職者の期待が何かを考える

中途専用の会社説明会を設けたのも、求職者がどんな情報や機会を求めているのかを考えたのがきっかけでした。そもそも私自身がcloudpackでは転職組のひとりですし、自分がcloudpackに転職するときに感じていた不安などは、おそらく他の求職者にとっても同じだと思うのです。

虎はち会が、夜の8時に開催される理由は2つあります。

忙しくしているエンジニアが何とか仕事の折り合いをつけて参加できる時間帯であるということ、そして夜8時のオフィスの様子を見せるということ。

昨年に電通過労自死事件が明るみになって以来、「長時間労働」や「働き方改革」などをテーマにした記事があちらこちらで賑わうことになりました。

cloudpackの急成長ぶりは求職者もだいたい知っているので、勢いのある会社なら皆が遅くまで働いているんじゃないかと想像して、心配するのは当然です。

cloudpackでは裁量労働制で働く社員も多いですし、仕事をやりくりして夕方に行われている勉強会にホイホイ出かけていくメンバーもいます。チームによっても繁忙期は違いますし、一律に残業が「多い」「少ない」をお伝えしてもまったく意味がない。だったら正直に、夜8時のオフィスをリアルに見せてしまえ!と『虎はち会』ではオフィスツアーを盛り込んでいます。

リアルな働くオフィスを見せることで、cloudpackで働くイメージを膨らませてもらうこともできますし、夜8時の人の様子やオフィスの空気感を正しく感じてもらうことが、入社後のギャップを埋めることにもつながるんじゃないかと考えているわけです。

採用マーケティングと人事の境界線

ここまででお伝えしたのは、あくまでも選考の手前のフェーズ。いかに多くの採用候補者をcloudpackにお連れできるか?という話でしかありません。

では、マーケティングがどこまでの範囲をカバーするべきか。

ここまでそれなりの成果が得られているcloudpackですら、選考プロセスにおいても改善すべき課題が山ほどありますし、入社された方が強みを発揮できているかどうかまでレビューしたいところ。とはいえ、労務管理や人事評価にまでマーケティングが手を伸ばすのはさすがに筋違いでしょう。

採用マーケティングは、会社の利益に直接関わる活動であって間接業務ではないと考えています。なので、間接業務との境界線がマーケティングと人事の役割分担になるんじゃないか、というのが私の持論です。

この先、日本の労働人口は二度と増えないという現実に向き合いながら、売り手市場の中で求職者が何を求めているのかを考えたら、きっとあなたの会社でも採用活動に対する何らかの答えが見つかるはずです。

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