NFTやブロックチェーン技術は、web上での画期的で開かれた暗号技術として期待されていますが、2022年現在においては仮想通貨取引やゲームやアートなど限られた分野でしか使われていないのが現状です。しかし、今後さまざまな形でわれわれの生活に浸透が進むことが予想されています。
金融や不動産の契約
金融商品の売買や不動産取引は複数のステークホルダーが関わり、絶対に間違いがあってはならない取引です。なおかつ来歴の可視化が重要であるがゆえに、署名・捺印による承認を複数回経る仕組みが採用されています。そのためデータの整合性を担保するために膨大なコストがかかっています。
このような大量の事務処理プロセスをブロックチェーンを仲介させることで来歴の可視化を容易にし、またスマートコントラクトを利用することで安全かつ自動的な契約締結が可能になる…といったユースケースが期待されています。
学位や資格や免許証などの証明書
大学での学位や単位の証明は、大学でもっとも頻繁に発生する文書手続きのひとつであるにもかかわらず、前述の不動産取引と同様に書面への押印による承認が必要なため、その効率化が検討されている領域です。
そこで、卒業証書を譲渡不能なNFT(Soulbound Token, SBT)化し、承認履歴とともにブロックチェーンに保存することが検討されています。
実例として千葉工業大学では2022年より学修歴証明書をNFTで発行していくことを発表しました。
ブロックチェーン上に保存された卒業証書を共有利用できる公開情報にすることで、卒業生がいつでも卒業証書を請求したり、企業の採用担当者がその卒業証書の真正性を確認できるようになります。
近年の日本では選挙のたびに立候補者の学歴詐称疑惑が取り沙汰されます。しかし、証明書型NFTの利用が進めばそのような心配は過去のものになっていくかもしれません。
サプライチェーン
製造業では、ひとつの製品の生産にも多くのサプライヤーが関わります。いわゆるトレーサビリティということになりますが、部品の受入検査や修理の際の部品所在確認のためにそれらひとつひとつの部品の来歴を詳細に記録しておく必要があり、またデータが改ざんされていないことや偽物でないことを証明する必要があります。ブロックチェーンの機能を使えばこうしたトレーサビリティ担保が楽になり、さらに公開情報として消費者側からも自由に閲覧できるようになるでしょう。これにより消費者保護にもつながることが期待されています。
コンサートなどのチケット
コンサート業界は長年チケットを不当に転売する転売屋やダフ屋の問題に頭を悩ませていました。これに対処するため日本では2019年よりチケット不当転売防止法が施行され、原則的に厳格な本人確認の元、転売や譲渡を一切認めない対策をしています。しかし、さまざまな事情でコンサートに行けなくなることはありますし、主催者側としてもそれによって空席が増えてしまうのは残念です。
そこで、チケットをNFT化してブロックチェーンに購入や譲渡の履歴を刻む方法が検討されています。
日本では屈指のチケット争奪戦が起きることで知られるジャニーズ事務所は、すでにブロックチェーン技術を活用した新しいチケット・入場システムの実証実験を行なっており、この分野でのマスアダプションの可能性はあると考えられます。
さらにはチケットNFTのスマートコントラクトに分配コントラクトを書き込むといった使い方も考えられます。ライブの収入をアーティスト30%、制作会社20%、ローディー15%、音響スタッフ8%、照明スタッフ5%、警備スタッフ4%…のように自動分配することも可能であり、透明性の高い興行が実現するかもしれません。
所感
2021年に一気に注目を集めたNFTですが、その活用範囲はSNSのアバター(PFP)やアート、ゲームなど限られた分野にとどまっています。
さらに、このところNFTの話題といえば、1枚のNFTアートが史上最高額の75億円で落札されるなどどうしても投機的取引に関するものが中心でした。
しかし実際のところNFTは上記で紹介したように、不動産、大学、サプライチェーン、コンサート…のような領域からゆっくりと確実に社会に浸透していく可能性が高いと考えられます。
エンジニアにとって幸いなことにCryptozombiesなどブロックチェーンの基礎から学べる教材が無料で手に入るいい時代です(私は先日苦労しながらLesson1の全6Chapterをクリアしました)。
NFTはまだ不確実性の高い分野ですが、今後の実用化とマスアダプションが期待される分野であり、今から学んでおくのもいいかもしれません。