こんにちは。アイレット株式会社デザイン事業部の工藤です。
本日はフロントエンドに関しては閑話休題し、話題のweb3について調べました。
ただ、web3の概念が指し示す範囲は非常に広範であり、すべてをまとめることは不可能であるため、歴史的経緯から理解する点に主眼を置きました。その点ご容赦ください。

web3とは

Web3(ウェブスリー)とはWorld Wide Web誕生初期に理想とされた価値や情報の非中央集権化を新しいweb技術で実現しようとする運動または概念であり、その影響範囲はデバイス、データ保存、経済・金融面まで多岐にわたっている。
ブロックチェーンを活用した情報の管理や金融的価値の保存、スマートコントラクトを活用した契約、NFTを活用したアート作品の流通など、すでにweb3世界が実現している領域も多い一方でメタバースなどの領域では決定的なサービスやデバイスがまだ開発されていないこともあり、マスアダプションのタイミングなど未知な点が多い。

主要な概念

Web1 Web2.0 Web3
年表 1990年以降普及 2004年以降普及 2017年以降普及
デバイス PC モバイル モバイル, VR, ウェアラブルデバイス
データ保存 サーバ クラウド ブロックチェーン, IPFS
主な機能 webサイト閲覧, 検索, 電子メール ブログ, SNS, 動画, ライブ配信 NFT, Defi, メタバース
組織 企業, 財団 GAFAなどテック大企業 DAO, DA
経済・金融 従来型の経済・金融 従来型の経済・金融 仮想通貨・トークンによる経済, 匿名の金融取引

サイファーパンク宣言

1993年、コンピューター技術者のエリック・ヒューズがwebのセキュリティとプライバシー権をコード(暗号)の力で守り、社会を変革するという内容のサイファーパンク宣言を発表した。それまで暗号技術はもっぱら軍事や諜報に利用されるものだったため、それをworld wide webと同様に民主化するという発想は時代の要請だったと言える。同宣言には「開かれた社会でのプライバシーには匿名の取引システムが必要である(privacy in an open society requires anonymous transaction systems.)」と書かれており、当初から金融システムとの連携が模索されていた。これがweb3の原点である。

ビットコインとブロックチェーンの発明

2008年に発明され2009年に稼働したビットコイン(Bitcoin)によってついにサイファーパンクスの夢見た匿名の金融取引システムが実現する。ビットコインはサトシ・ナカモトによって発明された分散型のデジタル通貨であり、管理者や仲介者を必要とせず、P2P(Peer to Peer)で取引ができる。その取引はネットワークノードによって検証され、すべての取引履歴が分散型台帳ブロックチェーンに記録される。ブロックチェーンはブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する技術だ。

なぜビットコインに価値がつくのか

ビットコインの歴史はまだ始まったばかりであるため、本当に安全資産としての価値があるのかを疑問視する意見もある。しかし2009年の初流通時と本稿執筆時を比較するとその価値は実に700万倍にもなっている。
ビットコインに価値がつく理由には、以下の6つがあるとされている。

  1. 希少性: Bitcoinは、21,000,000 BTCという発行上限枚数が決まっており、希少性という価値がある。
  2. 耐久性: ネットワークを維持するコンピューターがある限り、紙幣や貴金属よりも強い耐久性がある。
  3. 分割性: 1BTCは小数点以下9位まで分割できるためさまざまな規模の取引ができる。
  4. 代替可能性: 1BTCは別の1BTCと等価であり、交換ができる。
  5. 可搬性: 1億円分の原油や金塊を持ち運ぶのはとても難しい。1億円分の紙幣なら少しはマシ。ビットコインやその他の仮想通貨はハードウェアウォレットに入れて簡単に持ち出すことができる。
  6. トラストレス: 中央管理者のいない分散型ネットワークであるため、いわば相互監視の仕組みを持ち恣意的なコード変更が不可能。

トラストレスとは、自動的・機械的・暗号学的に検証することで、中央集権的権威や人為的要素を廃して信頼性を担保しようとする仕組みまたは思想。
非中央集権=責任の主体が存在しない=無責任…ではなく、逆に非中央集権であることによって信頼の実現を目指しており、その思想は”Don’t Trust, Verify” という言葉に集約されている。

イーサリアムとスマートコントラクトの発明

ビットコインが先鞭をつけたweb3の世界だが、金融だけでなくアートやゲームなどさまざまな応用が可能になったのはヴィタリック・ブテリンが2013年に開発し2017年以降爆発的に普及したイーサリアム(イーサリウム, Ethereum)の功績と言える。
イーサリアムが爆発的に普及した理由は、ビットコインにはないスマートコントラクトという発明にある。
スマートコントラクトはあらかじめプログラムされたルールにしたがって、ブロックチェーン上の取引などをトリガーとして自動的にプログラムを実行できる機能または概念であり、つまり人類史上はじめて発明された「プログラム可能なお金」と言える。
この大発明によって、仮想通貨・ブロックチェーンが金融的価値の等価交換だけではなく、DeFi(Decentralized Finance, 分散型金融)やNFTを利用したゲームやアートや会員証、さらには後述するDAOにおけるガバナンスなどさまざまな用途で利用できるようになった。

DAO

DAO(Decentralized Autonomous Organization / 分散型自律組織)意思決定に際して管理者や経営者を持たない自律的なグループ。NPOや同好会のような相互扶助の仕組みと株式会社のような意思決定と報酬発生の仕組みの両方の特徴を併せ持つ。スマートコントラクトを組織運営の中心に据え、NFTや、ガバナンストークンを活用することでメンバーの貢献に応じた報酬を自動的に発生させ分配できる。
DAOは株式会社に取って変わる存在になっていくのか、注目が集まっている。

NFT

イーサリアムの発明によって、ブロックチェーンにさまざまなデジタルデータを「乗せる」ことが可能になり、 NFT(Non-Fungible Token, 非代替性トークン)が生みだされた。これは文字通り「代替が不可能なトークン」という意味で、「1BTCは別の1BTCと等価であり、交換ができる」…というビットコインのような仮想通貨とは異なる性質を持つトークンだ。
NFTはブロックチェーン上に真正性と所有権を証明できることから、デジタルアートや音楽やゲームデータなど今までは無限にコピー可能でそれによって価値がつかなかったデジタルデータに希少価値をつけることができる技術として期待されている。
しかし、「NFTでデジタルデータのコピーを防ぐ」と言っても、NFTはいわばデジタル鑑定書の機能を持つという意味であって、コピーガード機能のようなものではない点に注意が必要だ。
また、NFTのスマートコントラクトには譲渡や販売を禁じるプログラムを書くこともできる。譲渡や販売を禁じられたNFTは SBT (ソウルバウンドトークン 、魂のトークン、Soulbound token) と呼ばれ、免許書や卒業証書やその他の証明書として普及していく可能性がある。

所感

Web3は広範で理解が難しい概念ながら、現在のweb2.0が本当に理想的なwebを実現しているのかという疑問点を明らかにしている点ですでに社会を変革しつつあると筆者は考えます。
現在のwebの弱点として、検索結果がフェイクニュースや広告で埋め尽くされるといったことが実際に起きている。また、2016年にはEUがGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)を制定するなど、テック大企業のプライバシー侵害に規制をかける動きも顕著になってきている。2021年にTwitter社がドナルド・トランプ米国元大統領のアカウントを凍結した件は賛否両論の論争を巻き起こした。さらに先述した通り、無限に複製可能なデジタルデータの価値が極限まで下がってしまうため、音楽サブスクリプションの普及によってかえって多くの音楽家が収入を確保できなくなる事態が生じるなど、本来人間の創造性を高めるべきテクノロジーによって逆に創造性が失われている悪影響も否めない。

その一方で、web3が理想とする分散型のシステムは、金融資産を入れる大切なウォレットも一人一人が管理するという仕組みであり、情報セキュリティ教育を受けていなければ詐欺やハッキングなど犯罪に巻き込まれる危険性が極めて高い。
そのため消費者保護の観点から国家や監査機関による規制が厳しくなる可能性もあるが、そうすると今度はweb3が理想とする独立性や非中央集権性が失われてしまうかもしれない。

このように現状では期待と課題の両方が大きいweb3ですが、筆者は現在のwebが内包する諸問題をさまざまな方向から解決する可能性に大きな期待を寄せています。

参考文献