JSR株式会社様(以下、JSR 様)とそのグループ企業である JNシステムパートナーズ株式会社様(以下、JNSP 様)は、原料の品質管理を中心とした取引先向け基幹システムの AWS マイグレーションに取り組みました。
システムの老朽化やセキュリティリスクの高まり、運用コストの増加、そしてレガシー環境の刷新が求められる中、これらの課題をどのように解決し、AWS へのマイグレーションを実現したのか。JSR 様および JNSP 様のご担当者とアイレット石田・武内に話を聞きました。



セキュリティリスクの高まりと運用コスト増加が課題に
—はじめに、JSR 様と JNSP 様の事業について簡単に教えてください。

JSR は化学を軸としたテクノロジーカンパニーです。グローバルトップレベルのシェアを持つ半導体材料を中心にディスプレイ材料、エッジコンピューティング関連材料などを提供するデジタルソリューション事業、最先端のサービスや製品でバイオ医薬品の開発・製造に貢献するライフサイエンス事業、ABS 樹脂などの高機能な樹脂製品取り扱う合成樹脂事業を展開しています。今回のプロジェクトで AWS 移行を進めたのは、デジタルソリューション事業における、サプライヤーや取引先企業様向けの品質管理の基幹システムです。

JSNP は JSR グループの IT 子会社として、基幹系や情報系システム、インフラ、IT セキュリティなどの ICT サービス全般を提供しています。今回のシステムも、JSR グループの業務を支える重要なシステムの一つでした。
—今回のプロジェクトの背景には、どのような課題があったのでしょうか?

基幹システムは JSR のプライベートクラウド上で運用していましたが、導入から7~8年が経過し、システムの経年劣化が進んでいました。特に懸念していたのは、セキュリティ面のリスクです。サイバー攻撃が高度化する中、既存の環境では将来的な脅威に十分対応できるとは言い切れませんでした。そのため、抜本的な刷新が必要だったのです。

特にセキュリティを維持するためのミドルウェアやソフトウェアのライフサイクル管理が課題になっていました。既存の環境はライフサイクルの終了が近づいており、セキュリティの維持が難しくなっていました。
—システム運用におけるコスト面の課題はありましたか?

はい。長い運用期間の中で、年間の保守費用が増加し続けていたことも大きな課題です。その中でもサーバーの維持管理費やライセンス費用の負担が大きかったため、これを削減できる方法を模索していました。

移行計画自体はかなり前から検討していましたよね。最初に話が出たのは4〜5年前だったと記憶しています。

そうですね。レガシーな環境を刷新するためには、一気にシステムを作り替えるか、段階的に移行するかの判断が求められます。しかし、システムの根幹に関わる部分が古すぎて、新環境に移行する際のコストや工数の試算が難しく、なかなか踏み切れませんでした。

加えて、移行に伴う取引先企業様への影響も考慮しなければなりませんでした。大規模な変更を加えると学習コストがかかり、双方にとって大きな負担となってしまいます。システム刷新による影響を最小限に抑えつつ、安全かつ円滑に移行するための最適解を探るのに時間がかかっていました。そのような状況の中で、以前からお付き合いのある AWS さんを介してアイレットさんをご紹介いただき、技術力に定評があることだけでなく、コスト面やスケジュール面で要望に沿ったものを提案いただけたことが決め手になりました。
老朽化した基幹システムの全貌が不透明な中、密なコミュニケーションを重ねながら設計を読み解き、最適な要件定義に落とし込む
—プロジェクトはどのように進めていったのでしょうか?

要件定義については、マイグレーションを実現したいという基本方針は最初からいただいておりましたが、それに加えて「現在できていないことも改善したい」というご要望もいただきました。そのため、一気にすべてを進めるのではなく、優先度を整理しながら段階的に取り組んでいく方針を提案しました。

まずはマイグレーションとセキュリティの向上に最優先で取り組み、改善したいポイントについては適切な順序で対応していくことになりました。また、システム自体が非常に古く、設計書が不足している部分もあったため、システムの全貌が見えない中で要件定義を固めなければならないことがボトルネックでした。

そうですね。一部の設計書が揃っていなかったため、既存のプログラムを解析しながらシステムを理解し、仕様を整理していく作業が必要でした。そこはJNSP 様のシステム担当者の方々にもご協力いただきながら、不透明な部分を一つずつ明らかにしていくようにしました。

密にコミュニケーションを取っていただいたことで、この難題をクリアすることができたと思います。難易度の高い移行だったと思うのですが、最終的にはそこをしっかりと乗り越えていただいたところに、技術力の高さを感じました。
—実際の作業で特に注力されたのは、どのような点でしょうか?

やはり、最優先事項はスケジュール通りにマイグレーションを完了させることとセキュリティの担保です。ただ、その中でも可能な範囲で改善に関する要望にもご対応いただきました。全てを一度に実装するのは難しいため、適切に取捨選択しながら進めることを意識していました。
—アイレットとして、スケジュール通りに進めるためにどのような工夫をしましたか?

全貌が不透明な中でスタートしたプロジェクトなので、想定外のことを想定内にするためのバッファを確保するようにしていました。実際にフタを開けてみると予想以上にデータ量が多かったり、予定していたツールが使えなかったりと想定外のケースが発生したので、その際は社内で一時的に人員を増やして対応し、スケジュールに遅れが出ないようにしました。遅延の兆しが見えた段階で、すぐにリカバリーできる体制を整えられたのは大きかったと思います。

アイレットさんには、プロジェクトの早い段階で「このスケジュールなら3日間は移行期間が必要です」といった提案をいただき、それをもとに社内スケジュールを調整しました。その結果、計画的に移行を進めることができたので、非常に助かりました。

海外の取引先企業様と一緒に UAT(ユーザー受け入れテスト)を進める中で、細かなバグは多少ありましたが、使用感や画面の構成が変わらなかったため、どの部分で問題が発生しているのかをすぐに特定しやすかったです。アイレットさんとも課題を共有しながら、一つひとつ確実に解決していくことができました。
運用コストを削減し、 稼働中のシステムの UI/UX を維持したスムーズな移行を実現。取引先への影響を最小限に
—移行後の変化や成果について教えてください。

運用コストの削減につながったことはもちろん、UI/UX を大きく変えずに移行できたことも、非常に大きな成果です。フロントエンドの変更を最小限に留めていただいたおかげで、移行後の混乱を防ぐことができました。

もし UI が大幅に変わっていたら、取引先から大量の問い合わせが発生していたと思います。取引先は一社だけでなく複数社にまたがるため、各社から個別に質問が寄せられると対応が追いつかなくなります。それが発生しなかったのは、非常に良かった点ですよね。

そうですね、裏側のシステムは大幅に刷新しましたが、フロントエンドはできるだけ従来のまま維持することを心がけました。

取引先企業様にとっても大きな支障なくマイグレーションできたのは、プロジェクトの成功を示すポイントの一つだと思います。
—実際にプロジェクトを振り返ってみて、アイレットの対応はいかがでしたか?

プロジェクト開始当初、JNSP にはクラウドの知見が十分にあるわけではありませんでした。しかし、アイレットさんがクラウドに関する知識を丁寧にレクチャーしながら進めてくださったおかげで、理解を深めながらプロジェクトに取り組むことができました。最初は「システムの環境が古いため、本当に移行できるのか?」という不安もあったのですが、進行するにつれてその不安が解消されていきました。技術力はもちろんのこと、きめ細かな対応が非常に期待以上でしたね。

システム戦略部の視点から見ると、移行後のシステムが安定稼働していることが素晴らしいと感じています。これまでにも数多くのプロジェクトを経験していますが、ここまでスムーズに進んだケースは珍しいです。当たり前のように安定して運用できているので、意識しないとなかなか気づきにくいポイントではありますが、実は非常に評価できるポイントだと思っています。

これまでのシステムでは「新しい機能を追加したい」と思っても、システムの環境的な制約が多いことから、ほぼ不可能だと考えられていました。だからこそ、今回の移行を通じて、将来的にシステムを拡張できる余地が生まれたのは大きな進歩です。今後の業務改善や新機能の追加を見据えた環境を提案・構築してくださったことが、本当にありがたいですね。

それから、積極的にご提案いただけたことがスムーズな進行に寄与しましたよね。例えば、画面の操作イメージを早い段階で提示していただけたことは助かりました。システムの内部構造までは理解できなくても、「こういう画面で、こう操作すればこの処理ができる」という具体的なイメージが持てたことで、意思決定がしやすくなりました。

そうですね。要件定義の段階では、文章だけでのやり取りでは認識のズレが生じやすいため、できるだけ視覚的なイメージを共有するように心がけていました。

認識のズレが生じたまま進めた結果、せっかく開発したのにやり直しが発生してスケジュールが大幅に遅れてしまうケースもあります。今回は、プロジェクトの初期段階から定期的な打ち合わせを重ね、しっかりとイメージを擦り合わせたことで、そういったトラブルを回避できたと感じています。
また、できるだけ選択肢を複数提示してくれるのも良かったですね。コミュニケーションがスムーズに取れて、スケジュール通りの移行が実現できたのは、その積極的な提案のおかげだと思います。
アイレットのクラウドに関する知見と提案型支援、そして3社の協力関係がプロジェクト成功の鍵
—最後に、今後アイレットに期待することについてお聞かせください。

AWS へのマイグレーションを検討しているシステムは他にもいくつかあります。今回のプロジェクトとは別の話になりますが、今後、そうした部分についても相談しながら進めていきたいですね。

今回はセキュリティ向上を最優先に移行を進めましたが、今後は使いやすさを向上させるための改修も進めていきたいと考えています。安定的な運用を維持しながら、さらなる改善を図っていきたいです。

今後も運用を続けていく中で、小さなバグが発生することもあるかもしれません。その際は引き続きサポートをお願いしたいですし、新機能の追加にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。

今後も新たな案件が発生してくると思いますので、引き続き、先端技術を取り入れた積極的な提案を期待しています。また、JSR グループ全体としてのコスト低減も重要な課題なので、より良いアイデアを一緒に考え、両社が Win-Win となるような関係を築いていければと思っています。

今回のプロジェクトでは、JSR 様、JNSP 様と密に連携しながら進めることができたことが、成功を左右する要因だったと感じています。特に、システムの詳細を一つひとつ確認しながら要件定義を固めていく過程で、皆様にご協力いただいたことにとても感謝しています。
また、マイグレーションを通じて将来的に拡張可能な基盤を整えられたことも大きな成果だと思っています。これからも皆様のニーズに柔軟に対応し、より使いやすいシステムにしていくためのご支援を続けていきたいと考えています。引き続き、よろしくお願いいたします!