はじめに
この記事はGoogle Cloud Next 2025で公開されたセッション「Using AI to drive app quality across the SDLC」についてのセッションメモです。誤りなどがありましたら随時、修正していく予定です。
本セッションを理解するために必要な知識をおさらい
このセッションの内容を深く理解するためには、以下の分野に関する基本的な知識があると役立ちます。
1.ソフトウェア開発の基礎知識:
- 開発ライフサイクル: 要件定義、設計、実装(コーディング)、テスト、デプロイ、運用といった一連の流れ。
- プログラミング: 特にJava(バージョン8や21、LTS、ライブラリなど)やWebアプリケーション開発の基本的な概念。
- バージョン管理システム: GitやGitHubの基本的な使い方(リポジトリ、クローン、コミット、プルリクエストなど)。
- IDE(統合開発環境): VS Codeなどのコードエディタの役割。
- API: アプリケーション間で機能を連携させる仕組み。
- モダンな開発: マイクロサービス、レガシーシステム、技術的負債といった概念。
2.クラウドコンピューティング(特にGoogle Cloud)の基礎知識:
- クラウドの基本: IaaS, PaaS, SaaSといったサービスモデル、リージョンなどの概念。
- Google Cloudの主要サービス: Cloud Run(サーバーレス)、Cloud SQL(データベース)、基本的なインフラの概念。
- Infrastructure as Code (IaC): Terraformのようにコードでインフラを管理する考え方。
- クラウド運用: モニタリング、ロギング、トラブルシューティング、コスト最適化(FinOps)の重要性。
3.AI・機械学習の基礎知識:
- 大規模言語モデル (LLM): ChatGPTやGeminiのようなAIがどのようなものか、何ができるかの基本的な理解。
- 生成AI (Generative AI): テキスト、コード、画像などを生成するAIの概念。
- AIエージェント: 自律的にタスクを実行するAIという考え方。
4.開発プロセス・文化:
- DevOps/SRE: 開発と運用の連携、自動化、信頼性向上といった考え方。
- アジャイル: カンバンボードなどのツールの使われ方。
これらの知識が全くなくても、セッションで紹介されるツールのデモンストレーションを見れば、どのようなことができるかは理解できると思いますが、上記の背景知識があると、各機能の意義や開発現場における価値、そして将来的なインパクトをより深く理解できるようになります。特に、ソフトウェア開発の流れ、クラウドの基本、AIの基本について知っていると、よりスムーズに内容を追えるでしょう。
セッションの内容を要約するとつまり
Gemini搭載AI開発ツール群の発表
Google Cloud Next ’25で、開発ライフサイクル全体(コーディング、レビュー、インフラ、運用、新規開発)をAIで支援する新しいツール群(Gemini Code Assist, Cloud Hub, Cloud Assist, Firebase Studio等)が発表されました。
コーディングとレビューの革新
Gemini Code Assistは、IDE内でのコード生成・移行、ドキュメント自動作成に加え、チーム固有のベストプラクティスも考慮した高度なAIコードレビューをGitHub等で実現します。
インフラと運用のAI化
Cloud HubとGemini Cloud Assistは、アプリ中心のインフラ設計(Application Design Center連携)、デプロイ、監視、AIによる根本原因分析やコスト最適化を支援します。
迅速なアプリ開発環境
Firebase Studioは、自然言語の指示からAIがアプリのプロトタイプを生成し、コーディングまでシームレスに支援することで、フルスタックAIアプリ開発を加速させます。
AIと開発者の未来
デモンストレーションではツール連携による高速開発が示され、AIは強力な開発支援ツールである一方、最終的な価値創造には開発者の創造性や専門知識が不可欠であると強調されました。
セッションの内容(本編)
概要
本セッションでは、AI「Gemini」を核とした革新的な開発者向けツール群が発表され、会場を沸かせました。
これらのツールは、コーディングからインフラ構築、運用、さらには全く新しいアプリケーションの創出に至るまで、ソフトウェア開発のライフサイクル全体をAIが強力に支援することを目指しています。
本セッションでは発表された主要な開発ツールとその可能性を示すデモを紹介します。
開発ライフサイクル全域をカバーするAIアシスタント
セッションの中心となったのは、開発者の「頼れる相棒」となることを目指すAIツール群です。
これらは単一の機能を提供するのではなく、開発プロセス全体を有機的に連携させ、効率化と品質向上を両立させることを意図しています。
1.Gemini Code Assist: コーディングと思考を加速
IDE(統合開発環境)内で動作するGemini Code Assistは、単なるコード補完ツールではありません。
デモンストレーションでは、以下のような高度な機能が披露されました。
- ドキュメント連携: Google Docsに書かれた要件定義書をIDE内で直接要約・参照
- AIエージェントによる自動化:
- コードマイグレーション: 古いJava 8で書かれたレガシーアプリケーション「Simple BNB」のコードを、最新のJava 21へ自動で移行。移行プロセスはカンバンボードで視覚的に追跡されました
- ドキュメント自動生成・更新: コード変更に合わせて、関連ドキュメント(Wiki)を自動で更新。開発者はドキュメントに対して自然言語で質問し、関連コード箇所へのリンク付きで回答を得られます。
- GitHub連携:
- プルリクエスト(PR)の内容を自動で要約(時には詩的な表現も!)。
- コード品質、セキュリティ、そしてチーム固有のベストプラクティスに基づいてレビューを実施。デモでは、AIモデル利用時のセーフティ設定漏れを指摘しました。
- GitHubのコメント欄から「画像を1080pにリサイズして」といった自然言語での指示に基づき、Geminiが具体的な修正コードを提案・適用しました。
- 多様なツール連携
Atlassian、Snyk、DataStax、GitLabなど、既存の開発ワークフローで利用されているツールとの連携も組み込まれています。
2.Cloud Hub & Gemini Cloud Assist: アプリ中心のインフラ管理と運用
インフラ構築と運用管理の複雑さも、AIが解消します。
- Cloud Hub
Google Cloud上のリソースをアプリケーション中心のビューで統合管理する新しいダッシュボード。デプロイ状況、コスト、クウォータなどを一目で把握できます。
- Gemini Cloud Assist:
- インフラ設計支援: 自然言語で実現したいアプリケーションの概要を伝えると、Geminiがアーキテクチャ図とTerraformコードを生成
Application Design Center上で視覚的に編集・調整し、デプロイまで行えます。デモでは、マイクロサービスの追加も簡単な指示で行われました。
- トラブルシューティング
負荷テスト中に発生した429エラーに対し、Geminiはログ、設定、コード、Google Cloudのベストプラクティスなどを統合的に分析。根本原因(インスタンス数不足)の仮説と具体的な解決策(最大インスタンス数の変更)を迅速に提示しました。
- コスト最適化:
Cloud Hubと連携し、アプリケーションの利用状況(Cloud SQLの低利用率0.4%)を分析。過剰なリソース(32 vCPU/256GB RAMのインスタンス)を特定し、適切なサイズへの変更を提案しました。
3.Firebase Studio: アイデアを即座に形にするAI開発環境
新しいアイデアを迅速にプロトタイピングし、フルスタックアプリケーションを構築するための環境としてFirebase Studioが発表されました。
- プロンプトからのアプリ生成: 「レンタル物件の詳細を表示し、ハウスルールについて質問できるアプリ」といった簡単な指示から、AIがアプリの基本設計(ブループリント)とプロトタイプを自動生成。デザインガイドライン(画像ファイル)を読み込ませて、ブランドに合わせた調整も可能です
- AIオーケストレーション
Gen kitフレームワークを利用し、アプリ内でのAI機能(FAQ応答など)の実装を支援します
- シームレスな開発体験
プロトタイピングモードと、Gemini Code Assistが利用可能な本格的なコーディングモードを自由に行き来できます。
デモでは、モックデータを実際のAPIデータに置き換える作業もAIの支援を受けて行われました
デモンストレーション:AIと共に駆け抜ける開発プロセス
セッションでは、架空のレガシーアプリ「Simple BNB」を題材に、これらのツール群を連携させた開発プロセスが実演されました。
Java 8から21へのマイグレーション、画像から動画を生成する新機能の追加(コードレビューと修正含む)がありました。
Application Design CenterとGemini Cloud Assistによるインフラ構築、負荷テストでの障害対応、Cloud SQLのコスト最適化
そしてFirebase Studioによるゲスト向けFAQボットアプリの新規開発まで
従来であれば数週間から数ヶ月かかる可能性のある一連の作業が、驚くほどのスピードで進行しました。
開発者の未来:AIは魔法の杖か、それとも…
Googleは、これらのAIツールが開発者の生産性を飛躍的に向上させ、より創造的な作業に集中できるようにすると強調します。特に、Dora Reportで指摘された「AI導入によるデリバリー安定性の低下」といった課題に対し、コード品質やベストプラクティスを重視したAIレビュー機能などを通じて、「より多くのコード」だけでなく「より良いコード」を生み出すことを目指しています。
しかし、セッションの最後には、「AIはあくまでツールであり、本当の魔法は開発者の想像力、創造性、そして専門知識にある」というメッセージが改めて伝えられました。AIを使いこなし、より高度な問題解決や新しい価値創造に取り組むことが、これからの開発者に求められる姿なのかもしれません。
まとめ
Google Cloud Next ’25で発表されたGemini搭載の開発者ツール群は、AIがソフトウェア開発のあり方を根本から変えうる可能性を示しました。
コード生成、レビュー、インフラ管理、運用、アプリ開発の各段階でAIの支援を受けることで、開発者はより速く、より質の高いソフトウェアを提供できるようになるでしょう。
紹介されたツールの多くはプレビュー版として提供が開始されており、Google Developer Program Enterprise Tierを通じて包括的に利用することも可能です。未来の開発スタイルをいち早く体験してみてはいかがでしょうか。
感想
とても早いスピードで多くのサービスが紹介されて圧倒されましたが
同時に開発者としてワクワクするセッションでした。Speakerのみなさんもとても楽しく発表されており、「I love it」を連呼しているのが印象的でした。
本セッションで発表されたサービスは所属セッションでも大いに活用できるものなのでプレビュー中のものが多いですが、積極的に利用していきたいと思いました。
個人的に一番注目したサービスとしてはGemini Cloud AssistとGemini Code Assistです。Gemini Code Assistは他のセッションでもチェックしたので特に見ていきたいです。
Gemini Cloud Assistは私も使いますが、運用メンバーにも積極的に使ってもらおうと考えています。
セッションの中で申請のQRコードもいくつか出ていたので一つ一つ丁寧にみていきたいと思います。