2025年6月18日に行われた「FinOps X Day Tokyo」に参加し、クラウド支出の管理からテクノロジー投資の価値最大化へと進化する FinOps の重要性を改めて実感したので、イベントレポートの形にまとめたいと思います。

全体を通して印象的だった点は、FinOps が単なるツールやフレームワークに留まらず、組織文化としての変革を促すものであるという認識、日本政府(デジタル庁)における FinOps 概念の導入、トヨタ(Woven by Toyota)やリクルートのような企業における全社プロジェクトとしての導入事例、そして生成 AI 領域への FinOps の適用可能性、さらに日本企業における今後の普及の可能性でした。

FinOps とは

https://www.finops.org/introduction/what-is-finops/ より引用

FinOps is an operational framework and cultural practice which maximizes the business value of cloud and technology, enables timely data-driven decision making, and creates financial accountability through collaboration between engineering, finance, and business teams.

FinOps は、クラウドコストの管理を超えて、テクノロジー投資の価値を最大化するための組織的な取り組みです。単なるコスト削減ではなく、テクノロジーチームとビジネスチームが協力して、支出の透明性を高め、効率的に使う文化を作ることがポイントです。

クラウド利用が増える中で複雑化する請求や変動費の管理に対応し、リアルタイムでの可視化や共有された説明責任を重視。みんなでコストを理解し、改善を続けていく文化づくりが肝となっています。

今回のイベントでも、FinOps は単なるツールではなく、組織のカルチャー変革として捉えられていることが強調されていました。

FinOps は組織文化の変革

FinOps Foundation のエグゼクティブディレクターである J.R. Storment さんが強調するように、FinOps Foundation の活動は、クラウドの価値を管理する「人」の育成を中心に展開しています。


FinOps は単なるツールやフレームワークではなく、テクノロジーチームとビジネスチームが協力し、テクノロジー支出の価値を最大化することに焦点を当てた組織文化の変革を意味します。


HSBC の Natalie Daly さんも、FinOps の本質は「共有された説明責任、文化の変化、規律」にあると話していて、透明性の向上に不可欠であると強調していました。また、継続的な改善は FinOps の核であり、経営層から現場のエンジニアまで、全レベルでの反復的な取り組みが求められます。この文化変革には、エンジニアへのインセンティブ提供や成果の適切な評価が重要であることも話されました。

日本政府(デジタル庁)における FinOps の導入

今回のイベントでは、デジタル庁の楠木さんが登壇し、日本政府(デジタル庁)が正式に FinOps を導入したことが話題となりました。デジタル庁は、2020年に地方自治体のシステム標準化とクラウド移行を決定しましたが、移行コストの増大や人材不足という課題に直面しています。

これまでオンプレミス環境での運用が主流だった自治体システムにおいて、クラウド費用が想定以上に高騰している現状を共有、FinOps を通じてコストを可視化し、制御していく必要性を強調してました。

これは、これまでクラウドコスト管理が民間企業の問題として認識されがちだった中、公共部門においてもその重要性が高まっていることを明確に示す事例と言えます。

リクルートにおける全社プロジェクトとしての FinOps

リクルートの発表では、FinOps が単なるコスト削減活動ではなく、経営戦略とも結びついたトップダウンとボトムアップ両方を融合した全社的な取り組みとして大きな成果を生むことを話されてました。

「受益者負担の原則」を大前提とし、各事業部門が利用したクラウドコストを適切に負担する仕組みを構築。初期には固定費として請求されていた一部サービスを変動費ベースに再設計し、利用量に応じた請求を行うことで、利用者のコスト意識を高め、自律的な最適化を促しました。また、複雑なコストデータを一元的に収集・管理・加工するためのデータ基盤を構築(CUR と dbt を活用)し、信頼性の高いデータを提供。

これにより、利用者が自身の支出を可視化し、最適化サイクルを回す「分散型最適化」と、プラットフォーム側で全体の利用状況を監視し、非効率を改善する「集中型最適化」の両輪で成果を上げています。リクルートの事例は、FinOps が経営効率向上に貢献し、プロダクト利用者とプラットフォーム提供者が一体となって価値を最大化するモデルを示しています。

日本企業における FinOps 導入の現状と将来性

クラウド FinOps(日本語版)の著者たちによれば、日本における FinOps の普及はまだ初期段階。ガートナーのハイプサイクルでは「黎明期」に位置づけられており、実際に取り組みを始めている企業は10%程度に過ぎないと。

しかし、アメリカ市場が数年先行していることを踏まえると、FinOps は今後日本でもトレンドとなり、経営に不可欠な要素となることが予測されます。日本独自の課題としては、SIer との関係性や、グローバルと比較してボトムアップの文化が強い点が挙げられたのですが、日本での新たなコミュニティとなる FinOps Foundation Japan Chapter は、日本企業がグローバルな FinOps フレームワークを理解し、自社の文化や市場環境に合わせて実践できるよう、資料の日本語化やミートアップ開催を通じてコミュニティを盛り上げ、人材育成を推進してるそうです。

生成 AI を含む FinOps への概念適用

生成 AI の急速な普及は、新たなコスト管理の課題をもたらしていますが、FinOps の基本的な概念はここでも適用可能であることが強調してました。生成 AI のコストはクラウドのそれよりもはるかに速いペースで増加しており、新しい用語(トークン、推論、学習など)や予測不能なスループット、頻繁なモデルや料金体系の変更といった特有の課題があります。

しかし、FinOps は元々消費ベースの料金体系や複雑な請求データ、粒度の高い配分プロセスに対応するよう設計されており、これらの変化に適応する能力を持っています。AI における FinOps では、初期段階では最適化よりもコストの理解、可視化、配分が最優先事項となると分析さてました。

イベントに参加して

今回の「FinOps X Day Tokyo」を通じて、FinOps が単なるツールやフレームワークの類いではなく、クラウド・AI 時代の企業経営において不可欠な役割を果たすことを明確に理解できました。

まだ未熟な状態ではあるものの、今後日本での FinOps 文化の醸成と実践が加速していく予兆を感じることができました。このトレンドの周辺にもっと日本独自のノウハウや実例、そしてコミュニティ活動が盛んに行われることに期待したい思います。

いずれにしても、久々に FinOps という普段と異なる専門分野のイベントに参加させていただき、とても刺激的な体験になりました。来年グローバルイベントは San Diego で開催。ぜひ行きたい!