東京ビッグサイトで開催された、Google Cloud Next Tokyo 2025に参加してきましたので、セッションを一部ご紹介いたします。

セッション概要

タイトル:AI Agent で実現するメルカリの顧客エンゲージメント変革

スピーカー:鈴木かの子 氏(Google Cloud)、宮坂洋平 氏(株式会社メルカリ)

顧客体験の向上が企業成長の鍵です。Customer Engagement Suite は、散在する顧客データを統合し、AI の力を借りて顧客一人ひとりに最適なアプローチを可能にします。リアルタイムのパーソナライゼーション、AI エージェントによる効率的なサポート、そしてデータに基づいた戦略立案。これらを通じて、顧客とのエンゲージメントを深化させ、ビジネスの成長を加速させる方法をご紹介します。

「過去に反応するAI」から「未来に応答するAI」へ

現在は「生成AI」から高い推論能力を持つ「自律型AIエージェント」へと進化の過程にいます。従来はチャットボットのようにユーザーの入力に応じてテキスト・画像・動画を生成する役割が中心でしたが、今後は目標を与えるとAIが主導となって自律的にタスクを分割・計画・実行することが主流になっていきます。この進化は、「過去の膨大なデータを参照して反応する」受動的なものから、「未来の目標に向かって行動する」能動的なものへと質的に変化していることを意味しており、市場への影響力はますます大きくなっていくことでしょう。

このようにAIの期待が高まる中で、お客様の新たなニーズとして以下を挙げています。

カスタマーサービスの収益力強化

上記の状況を踏まえ、「プロアクティブにお客様一人ひとりに寄り添い自然な顧客体験をお届けする」のビジョンを掲げています。そして、このビジョンを支える柱として、①高度な個別最適化 ②能動的な働きかけ ③人間らしい対話 の3つをお話しされています。

パーソナライズは「コストがかかる部門」から「収益を生み出す部門」へと変化し、今やビジネス価値を高める重要な要素となっています。また、ヒューマンライクな会話を通して、コンシェルジュのような体験を提供することを意識しているそうです。

そこで、カスタマーサービスの収益力強化に向けて、以下の顧客対応フローの戦略を取ることで、パーソナライズされたリアルタイムなエンゲージメントを実現しています。AIを最初から導入するのではなく、段階的にAIを活用していく構造は顧客にとって受け入れやすい設計ですね。

Customer Engagement Suite

上記の戦略を実現したものが「Customer Engagement Suite」です。

顧客がセルフサービスで問題を解決できる「Conversational Agents」から、カスタマーサービス担当者の業務を支援する「Agent Assist」、そして会話データを分析し、サービスの継続的な改善に活かせる「Conversational Insights and Quality AI」まで、一貫したソリューションを提供しています。

これにより、お客様のお問い合わせ内容にマッチした最適な担当者も適用することが可能になり、顧客の問題解決までの時間を短縮できます。

実際にデモを見せていただきましたが、顧客との対話履歴が自動で要約される上に、AIがリアルタイムで最適な回答を提案するため、担当者は情報検索の手間から解放され、より正確かつ迅速な対応が可能になると感じました。

Customer Engagement Suite導入による影響が以下の通りです。CSAT(Customer Satisfaction Score)とは、顧客が商品やサービスに対してどれくらい満足しているかを数値で示す指標になります。単なるコスト削減や顧客満足度の向上ではなく、LTV(顧客生涯価値)やブランドロイヤリティを高める効果ももたらしています。

メルカリ様の導入事例

Customer Engagement Suiteの導入事例として、メルカリ様の事例が紹介されています。

月間利用者数が約2,300万人のメルカリ様は、お客様が困り事があった際にFAQの中から自身が欲しい情報を探し出すことへの負担が大きいことや、問題解決までに時間がかかりすぎることが課題となっていました。そこで、AIによる顧客体験に注力し、「世界中のお客様の問題を5分で解決する」というミッションを掲げています。

皆さんもあるサービスについて問い合わせたものの、返信が遅くてストレスを感じたご経験はないでしょうか。「Customer Engagement Suite」はまさにそのタイムラグという課題を解決してくれるサービスです。

導入に至った理由は以下の通りです。

新しい技術の導入において、技術的な理想だけでなく、実際の開発・運用プロセスにいかにスムーズに組み込めるかも重要な決定要因になりそうですね。

プロジェクトを進める上での障壁として、①Customer Engagement Suiteの理解 ②メルカリシステムの説明 を挙げています。Customer Engagement Suiteは日々進化していくため、過去のナレッジや事例が十分ではないことで、リリースが間に合わないかもしれないという問題が発生したそうです。そこで、双方が率直な意見を交わしながら密にコミュニケーションを重ねたことで、開発がよりスムーズに進みました。

初期フェーズで相互理解に時間を使うことが大事なポイントになるとのお話を受け、改めて、後工程での手戻りを防ぐためにも、十分な情報共有と認識合わせにより、双方の足並みを揃えることの重要性を再認識しました。

おわりに

本セッションでは、AIを単なるコスト削減ツールではなく、顧客エンゲージメントを高めるための戦略的ツールとして位置付け、カスタマーサービスの価値を大きく高めた点が印象的でした。

また、展示ブースでは「あるお題に対してブロックを組み立て、その作品からGeminiが創造性を評価してくれる体験」や、「手書きの絵をもとに動画を生成してくれるデモ」など、来場者の興味を引く仕掛けが多数展開されていました。中でも私自身が最も惹かれたのは、「AIバスケットボールコーチ」です。これは、3つのPixel 9の内蔵カメラを活用してシュートフォームを測定し、肘の位置・高さ・進入角度など5つの観点からフォームを分析してくれるものです。プロ選手のシュートフォームをプロンプトに投げることで、その内容を基に自身のフォームを評価してくれる仕組みになっており、AIが感覚を可視化し、誰もがプロ級のアドバイスを受けられる時代がやってきたことにワクワクしました。

直近では、世界水泳の大会でも「AIアクア」が選手のレース展開を予測するなど、競技の戦略や解説にAIが活用され始めています。今後ますます、スポーツをはじめとした様々な分野でAIが私達の体験をどう豊かにしてくれるのか。その可能性に、大きな期待が膨らみます。