クラウドインテグレーション事業部の小谷です。
2025年10月13日〜16日の4日間で開催される「Oracle AI World 2025」に現地参加しています。
最新情報を皆さんにお届けするために随時ブログをアップしていきますので、よろしければご覧ください。
今回ご紹介するセッションは、世界的な通信大手であるVodafoneが、オンプレミス環境から Oracle Cloud Infrastructure (OCI) への移行事例のご紹介となります。
セッション名:Oracle OCI Catalyst for Modernization & Re-Invention (Vodafone Success Story)
本記事では、Vodafoneがどのようにして常識を覆し、巨大プロジェクトを成功に導いたのか、その要点をレポートします。
成功の鍵は、3つの「逆転の発想」
セッションで語られたVodafoneの戦略には、多くの企業が参考にすべき重要なポイントがいくつもありました。中でも特に注目すべきは、以下の3点です。
1.定石破りの「データベース中心」アプローチ
通常、システムの近代化は、ユーザーが直接触れるアプリケーションから着手するのが定石です。しかしVodafoneが採用したのは、その真逆のアプローチでした。システム全体の中心にあり、多くのアプリケーションが依存するOracle Databaseから、先にクラウド環境へ移行したのです 。大元であるデータベース基盤を先に固めることで、その後のアプリケーション移行が驚くほどスムーズに進みました。
2.パブリックとオンプレの利点を両立する「ハイブリッド戦略」
Vodafoneは、パブリッククラウドの最新機能を自社のデータセンター内で利用できる「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」を導入しました 。これにより、パブリッククラウドの持つ「標準化されたサービス」というメリットと、オンプレミスの「低遅延・高セキュリティ」というメリットを両立。規制が厳しい市場の要件にも応えつつ、段階的で安全な移行を実現しました。
3.「移行しない」という積極的な選択
プロジェクトの過程で、Vodafoneは既存システムをすべて新しい環境へ移行するのではなく、「本当に必要か?」を徹底的に問い直しました。その結果は驚くべきもので、あるデータセンターではクリーンアップの過程で、実に60%ものシステムを移行せずに廃棄(decommission)することに成功しました。この大胆な「選択と集中」が、プロジェクト全体の効率化とコスト削減に大きく貢献しました。
プロジェクトの概要と驚くべき成果
長年のグローバル展開と多くの企業買収の結果、VodafoneのIT環境は極めて複雑化し、巨大な技術的負債を抱えていました。
この課題に対し、VodafoneはOCIを標準プラットフォームとして採用。前述のアプローチで、複雑に絡み合ったシステムを一つひとつ近代化していきました。
この戦略がもたらした成果は目覚ましいものがあります。
劇的な期間短縮
従来は7年かかると考えられていたSiebel CRM アプリケーション のアップグレードと移行プロジェクトが、OCIのクラウドネイティブ環境を活用することで、1年未満で完了しました。
パフォーマンス向上とコスト削減
あるCRMシステムでは、インフラの近代化によりリソース要件が10分の1に削減され、同時に大幅なパフォーマンス向上を実現しました。
運用安定性の向上
かつては毎週末のように障害対応の電話があった状態から、移行後は運用が劇的に安定し、コール数が大幅に減少しました。
ビジネスの俊敏性向上
インフラがOCIに標準化されたことで、「どのサーバーで動かすか」といった技術的な議論から解放されました。その結果、チームはビジネス価値の創出に集中できるようになり、ワークロードの移動なども迅速な経営判断で行えるようになりました。
まとめ
このVodafoneの事例で私が特に驚いたのが、「いかにして複雑な課題に立ち向かい、組織全体を変革したか」という、その戦略と実行力です。
- 常識を疑うアプローチの転換
- 不要なものを「捨てる」という意思決定
- ベンダーを単なる業者ではなく、対等なパートナーとして巻き込む関係構築力
特に、60%のシステムを移行せずに廃棄するのは私の経験上も中々難しい事だと思います。SpeakerのArmanさんも「非常に慎重に、関係各所とは調整して説き伏せた」と苦労を話されていたので相当大変だったと伺えます。
これらの要素は、技術選定以上にプロジェクトの成否を分ける重要なポイントであると考えます。
多くの企業が直面するレガシーシステムという課題に対し、Vodafoneの挑戦は「技術的負債は、正しいアプローチによって未来への資産に転換できる」という力強いメッセージを与えてくれます。自社のDX推進を考える上で、非常に示唆に富んだセッションでした。