DX開発事業部の前野佑宜です。
本記事はAWS re:Invent 2025の1日目に実施された、「Agentic AI’s new generation of Industry and Line of Business solutions (PEX202)」のセッションレポートです。
Agentic AI の業界別活用事例と、成功するための実践的なアプローチについて紹介されているセッションでした。以下に内容をまとめます。
概要
セッションでは、Agentic AI がどのように各業界で活用され、ビジネスを変革しているかが語られました。特に印象的だったのは、45% のコスト削減、60% の売上成長という具体的な成果です。
建設業での天候予測エージェント、空港でのオペレーション最適化、医療分野での早期がん検出など、多岐にわたる実例が紹介されました。
AI の進化:リアクティブからエージェンティックへ
セッションの冒頭でAI の進化について言及がありました。
AIはこの12ヶ月で大きく進化しました。以前のGenerative AIがプロンプトへのステートレスな応答(リアクティブ)にとどまっていたのに対し、現在のAgentic AIは、推論フレームワークと高度なメモリを活用し、人間のような複合的な分析とプロアクティブな意思決定を可能にしています。
進化の例: 富士山登山の問い合わせに対し、単なる天気情報だけでなく、「フィットネス記録」「適切なルート」「サプライヤー」「天候窓に合わせた引き返し時間」を複合的に考慮して応答する。

Agentic AI を支える4つの主要トレンド
Agentic AI の主要なトレンドが4つ紹介されました。
1. パワフルなマルチエージェントシステム
複数のエージェントが協調して動作するシステムです。それぞれのエージェントが専門的なタスクを担当し、全体として複雑な問題を解決します。
2. ハイパーパーソナライゼーション
顧客サービスやメディア消費など、顧客が関わるあらゆる場面で、これまでにないレベルのパーソナライゼーションを実現します。
3. 高度なメモリ
モデルが非常に洗練されたナレッジベースを開発し、過去の失敗や成功から学び、より良い予測と意思決定を行います。
4. ハイブリッドなヒューマンインタラクション
「Human in the Loop(人間をループに入れる)」という概念です。AI と人間の意思決定とワークフローの統合が重要になっているとのことです。
例えば、AI がある意思決定で90%や95%の成功率を達成したら、その決定は AI に任せ、人間は5%の例外ケースに集中する、といった進化的なアプローチです。

価値創造の3つの領域
AI がどこで価値を生み出しているかを3つの領域に分けて説明されました。
1. 職場の生産性

ドキュメントの生成、要約、コード生成など、よく知られた例です。しかし、職場の生産性はそれだけではないとのことです。
ビジネスワークフローの改善、ワークフローのステップ数を削減することが、Agentic AI の基本的な価値提案の中心になっています。
インシデント管理も重要な例です。AWS でも社内インフラの管理に AI を活用し、問題を自動的に検知して修復しているとのことです。
スマートサプライチェーン、需要予測、スマートプライシングなども、ビジネスワークフローに深く組み込まれた例として紹介されました。
2. イノベーションと研究
複雑な連合モデルによる深いデータ分析、高度なシミュレーション、予測医療など、研究分野は AI によって劇的に変革されたとのことです。
3. 業界特化型ユースケース
業界ごとに価値提案とユースケースがユニークな点が説明されました。
これまでの技術トランジションと異なり、AI はテクノロジーだけでなく、ビジネスワークフローやビジネストランスフォーメーションに深く組み込まれているとのことです。
統計的に、ビジネスラインに深く組み込まれたユースケースが最も成功しています。「AI で何か試してみよう」という実験的なプロジェクトよりも、明確なビジネス課題を解決するものの方が、ROI への移行が早い、とのことでした。

業界別、Agentic AIの具体的な活用事例
業界別の活用事例についても紹介がされました。本記事ではその一部をご紹介いたします。
建設業・製造業
Agentic AIは、特にプロセスが複雑で天候依存性の高い建設業で変革をもたらしています。
- 建設業の例: 天候エージェントが短期・中期・長期の天候予測を管理し、スケジューリングエージェントと動的に連携。コンクリート作業に必要な労働力、型枠、配送を調整し、複雑なプロジェクト管理のトレードオフ意思決定を可能にします。Agentic AIの「コンポーザブルな性質」により、必要に応じてエージェントを追加するだけで機能強化が可能です。
- 自動車/製造業の例: ナンバーワンのユースケースは予知保全(Predictive Maintenance)。AIが散在するデータを統合・分析し、何かが壊れる前に先回りして対応することで、エンジニアリング時間の約30%が費やされていたデータ探索の時間を削減し、運用コストを大幅に削減します。
メディア・エンターテインメント
制作計画からコンテンツ管理まで、エージェントが複雑な分析を統合します。
- 制作計画: ストーリーボードに基づき、エージェントがショットごとの制作予算とキャスティングのトレードオフ(市場人気やコスト)を分析し、販売戦略とオーバーレイさせて意思決定を支援。
- コンテンツ管理: エージェントがビデオ・オーディオストリームをリアルタイムで監視し、特定の市場に適さないプロファニティ(不適切な言葉)を検出・修正したり、プロダクトプレースメントが契約に沿っているかを分析したりします。
空港・公共サービス
JFK空港の例は、Agentic AIが顧客体験を劇的に改善した事例です。

- JFK T4の例: 大規模なエージェントネットワークが、セキュリティライン、TSAとClearの速度、荷物カートや車椅子の需要と場所をリアルタイムで制御・予測。ユーザーはアプリ経由で最適なルート案内を受け取り、必要なサービス(車椅子など)を担当者への電話なしに事前にスケジュールされるなど、空港体験が劇的に改善されました。
成功のための原則と、導入への道筋
ここまで、活用事例が紹介されていましたが、その一方で
Agentic AIプロジェクトの40%が2027年末までには無くなってしまうという現実があり、成功には「ビジネス課題から逆算する」マインドセットが必要だと強調されました。成功のための5つのフレームワークとして、以下が提唱されていました。

- ビジネス課題から逆算して考える
- データを差別化要因として使う
- 信頼を使って採用を推進する
- 最高の価格とパフォーマンスを求める
- マルチエージェントアーキテクチャで環境を強化する
その上で、導入への道筋としては以下が提唱されていました。
- 購入 (Buy): Amazon QなどのAgenticソリューションをすぐにデプロイ。
- 構築 (Build): Bedrockなどを活用し、業界特化型のカスタムエージェントを構築し、再利用やマネタイズを行う。
- パートナー (Partner): AIコンピテンシーを持つ専門家(コンサルティング/ISVパートナー)の専門知識を活用する。
また、AWS Marketplaceの活用も有効との説明がありました。

まとめ
セッションでは多くの具体的な顧客事例が紹介され、非常に興味深かったです。その一方で、失敗するプロジェクトもそれなりに多いという現実があるからこそ、AIエージェントはあくまでもビジネス課題解決のための手段として位置づけ、「小さくプロジェクトのサイクルを回していく」ことの重要性を強く感じました。